早急に
「墨巣麻里です、神奈川の相輪大学四年生です」
あぁ、神奈川の人だったのか、まぁ俺も岐阜県民とは教えていないが。
「相輪の墨巣さんって言うと陸上の強化指定選手で今は肺炎の予後治療中の娘だね、前に竹中さんの脚を見たときに会っているんだけど覚えているかな?」
そう告げたのは親父だった、まぁ親父はスポーツドクターで専門は脚の治療だ、もし本当に墨巣さんが陸上選手なら知り合いでもおかしくはないかもしれないな。
「えっと竹中さんの脚を見たって事はフットマスターの高田先生ですか?」
そんな墨巣さんの疑問に親父は肯定で答える、まぁ一部じゃ脚に関しては神の手とか言われているらしいし異名の一つや二つ持っていても驚かないが、フットマスターとか呼ばれてるんだな親父。
そのまま状態の確認とかしているが、さて空気がさらに穏和になったようだし、そろそろ重要問題の解決に舵を切るとしようか、そうしないと親父とお袋と墨巣さんの問答で電話の充電がなくなってしまう。
「えっとそろそろ墨巣さんがなんでどうやってこの島に流れ着いたかを聞きたいんだけど良いかな?」
話に割り込む形で打ち切って転換する、俺としてもなんであそこまでの警戒心を持たれているのか気になるし急いでも救助は今晩遅くになる、その間に彼女の地雷を踏み抜いてより強い警戒心を持たれでもしたら助けたくても助ける事はできないし力の貸しようがなくなってしまう。
初対面の人物に警戒するのは理解できるが、あそこまでの警戒心を持つとなると男性恐怖症かもしくは直近で誰かに襲われたかしか考えられない、となると対応も変わってくるのだ、動くのは俺じゃなくて祖父だけど。
「ふむ、まぁ急ぎ足では有るが事によっては急いだ方が良いか、申し訳ないが話してくれるかね?」
そう祖父も同乗する、先程からずっとカタカタとキーボードを叩いていたから色々と準備はしていたらしいが、やはり話を聞かない事には対応にも限界が有る。
まぁ客船か何かから事故で落ちたとか、その辺りだろうし、見た感じ怪我はないらしいからそこまで急を要することもないだろう。
時間もすでに2時間くらいは経っていて夕方の漁までのリミットが近付いてもいるし、時間を掛けていられないという面もあるが。
しかしマズイな、今晩の夕食は二人分となるしこちらの磯ではかなりキツい、焼き干しを全て使うくらいじゃないと量的には厳しい物がある。
それを考えるとこの間の大漁はこれを含めての物だったんじゃないかと自分の幸運に感謝してしまう。
感謝したところであまり意味はないだろうし、何より幸運ありきの考えはどうかとも思うのだが助かってはいるしな、少なくとも今日食うに困らないんだ良しとしよう。




