邂逅2
とりあえず水は飲みたかったか、あるいは口を濯ぎたかったらしく水筒を開けてはいた、少しだけ空気が和んだ感があるしここはもう一押しと行きたいが急いても仕方がない、俺個人としては外せない用事の夕方の漁まではまだまだ時間があるし、漂着物拾いもこうなった以上は後日で構わない、ゆっくり腰を落ち着かせて事に当たるとしよう。
これ以上声を掛けても焦らせるばかりで逆に危ないという面も強いしな。
俺の無言と行動をどう受け取ったのかは解らないが、少なくとも武器を地面に突き刺すくらいはしてくれた、話しくらいはできそうだし互いに情報の擦り合わせは可能だろう。
さて先ずはこの場の状況と、俺の置かれた状況辺りから話すとして彼女の事情はその後でと言うのがベターだろう。
と言うか、祖父への連絡の時に話して貰うのが無駄がなくて良いな。
先ずは自己紹介から糸口を掴もうと口を開こうとした瞬間ガサガサと森の中を行く何かの音が聞こえた。
しかも狸ではないな、音の大きさや位置からそのサイズは最低でも大型犬くらいは有る。
咄嗟に斧を掴んで身構え、少女から目線を外して森を注視する、この状況だと少女よりは未見の何かの方が危険度も優先順位も高い、少女の方も俺の行動から何かを感じ取ったらしく竹杖を引き抜いて構えている気配があるが残念ながら視界の外だ。
ガサガサと音が鳴る中、緊張感が物凄く高まっている、この空気は少女と相対した時より物騒だな、何せ鬼でも蛇でもない何かがこの先に居るんだ。
「ねぇ何が居るのか心当たりが有ったりする? この辺りに詳しいんでしょ?」
そんな問いに対する答えは否だ、心当たりも無ければ地理に詳しい訳もない、どうにも勘違いの加速が激しいがそれを正すよりも状況の変容の方が早そうだ。
たた首を降って返答としたいのだがこちらを見ているか確信ももてず
「いや、全く」
そう短く返答するしかな。
「熊じゃない事だけを願ってくれ」
一言付け加える頃にはガサガサ音は更に大きく近くなる、さてマジで熊だったら二人して三途の川まで一直線でもおかしくはない。
せめて、せめて肉食獣でも小型で危険度の小さい物を望む、それなら対応できる余地が生まれるし、最低でも少女を逃がすくらいはできる。
逃げたところで、逃げ場はないのだが1日耐えれば、祖父に連絡さえできれば、余裕で助かる、その頃には俺はお腹の中なんだろうが。
目が見えた、キラリと光る二つの目はやや離れてはいるが間違いなく前に付いてるように見える。
これはマズイな、大型肉食獣の条件が揃ってしまった、まだ横に付いてるなら草食獣と安心できたんだがな。




