邂逅
星を見上げながらコクリとコーヒーを啜る、なんというか価千金の状況としか言えない、こんなの金でなんとかできるような物ではない。
いや、曾祖父がこの島を買ったからこその光景だから間接的に金で買った事になるのか? リゾート開発のためだったらしいし、もしかしたらこの夜空を売りにするためだったかもしれないな。
まぁ既に亡くなった人だしその意図までは解らない、何せ買った翌日に逝ったらしいからその計画の全容は故人の頭の中だけで祖父もリゾート開発のための土地が欲しがっていたのを知っていただけらしいし。
まぁ真実は遥か昔の故人の頭の中、豪華絢爛な建物と遊園地にマリンスポーツのリゾート地だった可能性もあるしそちらの方が集客も良さそうだ。
どちらにしても終わった事となる、祖父は開発とかする気はないらしいし親父も俺も全く興味がない、やるとしたら遥か未来に生まれるだろう天運持ちの子孫だな。
実際、曾祖父の前の平成の天運持ち、土地の運用に秀でた彼は月と火星の土地を俺たちに残しているがまだ利用はできていない、だがこれから先にテラフォーミングが行われる日が来たら間違いなく大財産となる。
まぁそれも遥か未来、俺の寿命が終わる頃にようやく終わりが見えるような壮大な計画となるだろう。
間違いなく一つ言えることがあるとしたら俺はほぼ関わりあいにならないという点だな、あるとしたら勤めた会社が一枚噛んでたくらいだろう。
まぁそれもまた未来の話だ、少なくとも七ヶ月目が終わるまでは確定しない、まだ半年近くあるのだ、捕らぬタヌキにも程がある。
十二分に楽しんで来月も可能ならまたやろうと決め、真っ暗な中を歩いて帰る。
その途中、もう少しで拠点と池、旧拠点を結ぶ丁字路という所でガサガサと木々が揺れた。
なにかが居る、それもかなり近い。
念のために腰のホルスターから斧を抜いて身構える。
またガサガサと足元近くで音がする、位置的に風とかじゃなさそうだし、先程より少し近い、聞こえてきた位置からサイズ的には小鳥か狸だろう。
ガサガサ音はさらに近付き、俺としても気配を殺して音のする方向を睨み、襲いかかられた時のイメージを固める。
ほんの数秒後、ヒョコッと小さな動物が藪の中から顔を出した、間違いなく狸だな、それもそこそこ育った奴だ。
向こうも向こうで俺を認識したらしく、藪の中に体を残したままジッとこちらを見ている。
なんだろう、天体観測をしている時とは違う意味で時間が止まっている、なにかした方が良いかとは思うのだが、下手に動いて噛みつかれても困るしな。
裏山に住んでた奴らなら勝手に何処かへ行ってくれるのだがな、こいつがこの島で生まれたと仮定してだが人間とか初めて見る世代でもおかしくはない、とりあえず出方を待つしかないな。




