番外編8-1
買ってから四度目の車検を終えたがそろそろ買い替え時なんだよな、買った時点で10万キロ余裕で行ってたし、既に20万に乗る、最近エンジン音の調子もよろしくないしな、次回くらいでオーバーホールか買い替えか、買い替えが無難だが物入りなんだよな。
車輪が二つとは言え引っ越したし二人分の奨学金が痛い、俺と違って望は特待生待遇で無利子かつ学費の一部免除されてる、俺とは少し違うベクトルで借りた大部分を返却できたが二人してもう数年は払う必要が有る、ボーナスとかで車のローン払い終えたしある程度余裕はあるが結婚の二文字がどうにもチラつく、まだ同棲を初めて数ヶ月だが付き合ってからなら数年だからな、まぁ婚約は終えているし両親への挨拶も済ませている、後は金銭的な面や仕事面を片付ければ日取りを決めて婚姻届、本格的な結婚式は無理でもレンタルドレスと共にパーティーくらいはと考えるとこの愛車をもう少し乗り続けないとだな。
二人して狭い家に住んでいたため同棲となると手狭が酷く車輪が増えるしと2LDKというややお広い部屋に越して数ヶ月、新たな駐車場にも慣れたし帰ったら居たり家に居たら帰ってきたりが当たり前になっていた、しかし共に住んで思うのはやはり落ち着くというか無理がない。
多少の無茶とかは気にならず、互いにサポートしあえる、だからこそ結婚がチラつくのだろう。
「ただいま」
どうやら今日は望の方が一足早かったらしく玄関に仕事用のパンプスが置かれているしコートも有る、俺も俺で後ろ手に鍵を閉めてコートを脱ぎつつチェーンもだ、靴を揃えてコートを玄関先に安置、定位置と化した壁のフックとハンガーは互いの在宅を知らせる物の一つだ、まぁ仕事以外だとコートを着ない日も有るから絶対ではないが。
「お帰り、ところでこういう時のお約束って有ると思うけど、私それに一石投じたいのよね」
「うん? お約束っていうとあれか? 一石って何?」
頭がクエスチョンマークで一杯だな、まぁお約束は『ご飯、風呂、私』辺りだろう、地味に俺の方が職場に近いから大抵出迎える立場だったならな、今まで機会には恵まれなかった。
「お風呂入ってくるからご飯よろしく」
「それは新しいなおい」
スゴいな一石って言うか一岩だ、夕飯は元々俺の担当日だが斜め上で笑えてくる、と言うか私は無いのか私は。
「あぁ、それと今日会社休んで病院行ったら4ヶ月だって、頑張れーお父さん」
「は?」
風呂場に消えていく背中を目が追いつつ、晩飯何にするかな? とか考えてた思考が完全に停止する、言葉を完全に理解して把握して、とりあえず晩飯作るかと現実逃避して、オムライスが完成する頃になってようやく事態を飲み込んだ。
「ねぇ、ちょっとさっきのもう一回言って、いやほんと今ね、かなりテンパってる」
「やる事やってるからそりゃできるでしょ、って言うかテンパってるって割りにはサラダとインスタントだけどスープまで、とりあえずコレ食べたら婚姻届にサインと明日は朝イチで役所ね」
一岩って言うか隕石だろコレは、なんと言うか雰囲気とかもうちょっと有ったと思う、しかし、うん俺今ならどんなキツいデスマも乗りきれる気がする。




