番外編7-1
1DKという一人暮らしなら十分な広さの部屋はこの半年以上を過ごした我が家で家賃は4万2千円共益費8千円と相場よりやや高いがその分真新しいし風呂トイレ別だ、まぁ妥当な所だろうな、
少々キッチンが手狭だが住めば都だ、慣れればどうという事は無いしありがたい事にガス式だからな、電気式は何度か使ったがどうにも慣れずやはり火を使う方が性に合っていると不動産屋に最大の注文として入れた項目がガスコンロ可だ、その次に値段と場所だな、その末に見付けた此処は会社までおおよそ30分、家賃共益費は希望よりややお高いが3千円程度ならどうとでもなる。
まぁギリギリ許容範囲ってのと他に紹介された物件がまともに管理されてないの丸わかりだったりしたからな、内見で部屋入ったらカップ麺や酒の空いた容器と大量の吸殻に若干焦げ付いたフローリングの有るような部屋とか誰が借りたいと思う、不動産屋のオッサン青ざめてたし帰りの車の中で『彼処に住むなら管理会社に言ってちゃんと清掃させますしそれで家賃等の上乗せはさせません、ですが個人としてお薦めは絶対にしません、と言うかその前に警察呼ばないとダメですから入居が先伸ばしになるばかりです、他の所にしましょう』とか言ったくらいだ。
特にその後は聞いていないが犯人が捕まったとは思わない、若者が溜まり場にしてたか同じマンションの住人が勝手に使ってたか、はたまたホームレスでも紛れ込んだか、吸殻のDNAに前歴無いなら迷宮入りだな。
仕事も慣れて久々に本格的な休みだ、これまでも休日は有ったが一人暮らしは初めてで無いにしても住む場所が変われば勝手も変わるからな、いろいろと足りない物を買いに行ったりだとか、後は大学時代からの常連の演劇グループの公演見に行ったりだとかで家に基本居ない事が多かった、部屋でゴロゴロなんて本当に久々だ。
積んでた本かDVDか、さて何から片付けるか、いや先に酒とツマミの用意かとか考えつつ、とりあえずチーズとサラミと氷と水とウィスキーを用意だ、後はグラス、個人的に気に入っている8オンスの飾り気のないグラスだがこのくらいの方が武骨で良い、今日はなんとなく女王の気分なため最近封を切ったばかりの12年を氷の上から注ぎ等割りで水もだ。
とりあえずDVDからだとかなり古い名作映画と呼ばれる物を再生する、内容は大戦中に実際に起こった捕虜収容所からの脱出劇だな、かなり忠実に作られているらしく上映時間もそれなりに長い。
じっくり見るには良いだろう、座椅子に体を預けつつ配給会社のロゴが出たところで玄関のチャイムに邪魔される、全く、これからだってのになんだ、良いところでなかっただけマシだが、最近何か通販で頼んだかと思い出しつつ玄関を開ける、これで宗教とか新聞の勧誘ならクソ食らえだ。
立っていたのは珍しくも望だ、荷物を抱えて居るところを見ると近くの繁華街でまたウィンドウショッピングに興じて珍しく買いすぎたって所かね、歩き疲れたし帰る前に喫茶店で休みたいが使いすぎたからそれも二の足、で近くに俺の新居が有ると思い出してって所だろう、コイツに限って夕飯の材料持ってきたから一緒に食べよう的なのは無いしな、と言うか車じゃ無いのかね? 多少疲れても車内で缶コーヒーでも飲んで休んでから家に帰れば良いのに。
いや、荷物を抱えているから車じゃないか、バスか電車か、まぁ珍客だがお茶や酒や水なら出せるし歓迎しよう。
「よいしょっと重いな、何買い込んだ」
荷物を受け取りつつ訪ねる、俺が手を差し出すのもその手に荷物渡すのも在学中に何度経験したのかね、もはやコレは慣れだ。
「服に靴に本に、まぁいろいろよ」
「ほー、とりあえず水とお茶と酒と何が良い、大した物は無いがそのくらいなら有る」
「お水で、後はお手洗い借りるわよ」
とりあえずトイレの扉を指し示しつつ荷物は部屋だな、ダイニングでも良いがテーブルに乗りそうにないしベットの上にでも置けば良い。
DVDは、まぁ今度で良いか、借りた物ならいざ知らず買った物だしな、版権切れだから安い買い物だ、しかも名作を20本程入ったセットを送料込み2500円ぽっきりだ、1本100円という破格で古くさいと言えば聞こえは悪いが映画史に残る名作が買えるのだからお得だろう。
DVDを取り出して棚に戻しつつ片付けてグラスに水を注いでおく、アウトドア用の小さい折り畳みテーブルなのだが意外といろいろ乗るんだよな、夜食とか食うのにちょうど良いし晩酌とかに重宝している。




