心配
「儂はもう聞くこともないが奏さんは何か言いたい事はあるかな? ないならもう切るが」
やや時間をおいて俺の無言の意図を正確に察知したあたりまだまだ衰えはないらしい。
「怪我も病気もしてないでしょうね? 何よりちゃんとご飯食べてるの?」
やはりと言うべきか、心配はかなり掛けているらしい、親孝行とは真逆の事してるみたいなものだしな、犯罪を犯してないだけマシかもしれないが命を進んで危険に晒してるんだから質の悪さは同質とは言わないが近くはある。
「大丈夫、怪我も病気もしてないし、魚ばっかだけどちゃんと食べてるし、最近はタンポポとかも見つけたし今日コーヒーの仕込みをしたから明後日くらいには飲めるようになる、そのくらいの余裕は持ててるよ」
情報の羅列としか言えないような説明だが効果は有ったらしく。
「そう、なら良かった」
万感を込めた、そんな一言だった。
なんだろう、今さらながら罪悪感に押し潰されそうなんだが、雨の日より心にくる。
まだぶん殴られた方が楽かもしれない、たった一言なのに非常に重い、それこそ此処に来る理由となった祖父の一言以上の重さが有る。
「うん」
これ以外に言いようがない、どう返しても駄目な気がして生返事しか出てこない。
「健太、あまり無茶はするなよ」
親父・・・・・・居たんだな、名前すら出てないからまだ仕事中と思ってたんだが、これはもう影が薄いとかじゃなくて存在を自ら消してるとしか思えない。
もう少し自己主張しても良いと思う、まぁ本人の意思な訳だし、親父なりの処世術みたいなものなんだろう。
「ああ、解ってる無理も無茶も多少はするけど無謀はしない」
「なら良い、くれぐれも怪我と病気に気を付けろ、そこじゃあ医者に診てもらいたくてもすぐには無理なんだから」
「解った気を付ける、ありがとう」
心配ばかり掛けていて申し訳ない限りだが謝るのも違う、謝るくらいならそもそもサバイバル生活なんかしないで就活を続けていれば良かった、それこそ親父に頼み込んで口利きして貰うこともできた。
反省はするし猛省してるけど謝るとしたら全てが終わった後だ、だから今は感謝しよう。
「じゃあ、そろそろ切るから」
そう告げて少し待ち、反応が薄い事を確認して電話を切る、何か言ってくれたほうが良いのだが『ああ』とか『うん』とかで良いから一言有れば切りやすいのに。
さて、電話の電池残量は69%、そろそろ充電を考えないとだな、とりあえず明日になるが。
今は電源だけ切っておこう、さぁそろそろ寝るとして明日は薪の残りの運びこみだな。




