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学園部活動記録外伝

BUKATULE2000シリーズ THE マイナーゲーム研究会副部長

作者: 古木しお

 私は天瑞月学園高校の二年生であり、文化部ゲーム部連盟所属マイナーゲーム研究会の副部長という役職に就いている。

 マイナーゲーム研究会とは、新旧問わず埋もれてしまったゲームを発掘し、プレイ、そして毎月ゲーム部連盟が出す『月刊天瑞月ゲームス』の隔月でプレイしたゲームの紹介記事を書く。ただ、そ

れだけの部である。


 平日は狭い部室だが、両側の棚には新旧数多くのゲーム機とソフトが並んでいる。もっとも、綺麗に整頓されているわけでもなく、埃まで被ってすらいる。

 三年生の部長と時たま顔を出す一年生の倉戸間くんの三人で、各自持ち合わせたマイナーゲームを、私か倉戸間くんがプレイするだけ。部長は、それを見ているだけである。

 ただグダグダと放課後に見知らぬゲームをやるだけで、大事な青春を無駄にしているとも思えるが、私はこの学生生活に私なりに楽しんでおり、なにも不満はない。

 ただ、一つだけ気になっていることがある。


 それは部長のことなのだ。

 経緯を説明しよう。

 ある日、いつも通り部長に従って、十五年前の見知らぬアクションゲームをプレイしていた。部長は「一度プレイしているから攻略は任せとけ」と言い、ただひたすら私のプレイを眺め、私がミスをすると「ハッハッハッなんでそこで死ぬんだよ」と煽り、時には欠伸もしている。とにかく私が知る限り、自分でやっているところを見たことが無い。

 毎度のことなので特に気にもしなかったが、ある時、ふと考えた。”部長は本当にゲームをやっているのだろうか”――この考えが浮かんでしまってから、私は部長に対する疑念が離れなくなってしまった。しかし、この部活の今の状態は大変満足している。この疑念を追究しようとすれば、このマイナーゲーム研究会は崩壊するかもしれない。

 しかし、私の悪魔に憑りつかれた好奇心はそれを抑えきれなかった。


  1


 部長は、必ず中古ゲーム屋から掘り出し物のゲームを探し当ててくる。それは昔の隠れた名作であったり、全く聞いたこともないような謎に包まれた作品であったりする。

 彼の活動範囲的に考えると、雨川市内にある五つの中古ゲーム屋から探し出してくるのである。

 そして部長は「今日はこれをやってもらおうか! 一応俺が隅々までロケハンしているから、攻略は任せなさい」と言う。


 過去に部長が持ってきたホラーゲームをプレイしたとき、彼は意図的に私と倉間戸君が驚くように、あえて化け物が突然出てきてゲームオーバーになる地点へ誘導した。

 その時に発した言葉は、

「いやぁごめんごめん。ちょっと君らの絶叫が見たくてね!」

 だが、彼の攻略指示は曖昧なところが多い。

 とあるアドベンチャーゲームで、全くどこへ行けば良いのか分からない状態に陥ったとき、部長は「こりゃ、知らなかったなぁ。大発見じゃん! まぁとにかく基本に戻って探索だ探索」

 しっかりロケハンしたのではなかったのか。


 私も中古ゲーム屋によく立ち寄る。ある時、見たことが無いゲームをジャンクコーナーから発掘した。翌日、部室で部長に知らせた。

「ほぉ面白そうじゃん。今はまだやるやつが溜まってるし、じゃ後日やるとしますか」

 部長が持ってきたゲームは即日やるのに部員が持ってきたゲームは何故か決まって後回しにされる。


 後日、部長が私の持ってきたアクションゲームを「よし鳥駒君、その君のゲームやろうじゃないか!」

と、意気揚々と言い放った。申し遅れたが、鳥駒とは私の名字である。

 しかしいつもと同じく、私がプレイ、部長は攻略指示をするがほとんど見ているだけである。

 攻略指示をしていた部長曰く、

「なんかこのゲーム、見覚えあるなあ、と思ったら家のゲーム倉庫にしっかりあるわ!」

 だそうだ。このゲームに関してはよく知っているそうだ。


 そこでふと疑問に思ってそのアクションゲームを調べてみた。

 やはりマイナーとだけあってもゲームプレイ動画が存在した。

 そこで動画投稿サイトで、今までプレイさせられたゲームを片っ端から調べてみた。そしてハッキリした。部長の持ってくるゲームは、”必ずインターネット上にプレイ動画がある”のだ。

 そこで私は思った。「もしや、部長はプレイ動画を見てやった気分になっているのではないだろうか」と――


  2


 三連休に入った。そこである実験をしてみることにした。

 ネット上にプレイ動画及び攻略サイトのないゲームを部長に突き出してみよう、と。

 この実験の為には市内の中古ゲーム屋の置いてあるようなゲームではいけない。そこで私はプレイ動画も攻略サイトもないゲームのリストを作り、土曜日、わざわざ東京の中古ゲーム屋まで足を運んだ。ここならあるかもしれない、そう信じて。

 結果は大当たりであった。最初に入った店で隠れに隠れまくったゲームソフト『夕暮れとんでるアドベンチャー』というアクションアドベンチャーゲームを探し出した。元々出荷数量も少ないこのゲームは中古であってもなかなかのお値段であった。しかし、これはマイナーの中のマイナーともいえるゲームで、ネっとでも全く情報が載っていない。


 私はその日即刻、地元に帰り、まずは一通りエンディングまでプレイしてみる。総プレイ時間は十五時間。マァマァな出来。

だがここからが大事なのである。

 早速、画面録画キャプチャーを使い、ゲームをまた最初からプレイする。

 そして、オープニングからエンディングまでプレイをした。さすがに二周目はキツかった。

 次に、この録画されたプレイ動画全九つに分けて編集するが、ここでさりげなくこのゲームの重要なシーンをカットしたりもう滅茶苦茶に編集し、ゲームプレイ動画というよりはMAD動画に近いだろう。

 次に動画投稿サイトにアカウントを作り、ハンドルネーム「ピスバド」とした。私の名字である鳥駒を英語にして略しただけである。

 九つに分けたプレイ動画をエンコードし、動画を投稿する。気づけばもう火曜の二時。3連休が終わってしまった……。

 しかしこれで第一段階が終了した。


  3


 火曜の放課後、早速部室にいる部長に「面白そうなゲーム発掘したんですよ!」と寝不足でふらつきながらも迫真の演技をしてみせた。

「ほぉ~。それでそのタイトルは?」

「『夕暮れとんでるアドベンチャー』というやつです」

「あぁ! あれね! じゃあ今度やろうじゃないか」

「では明日持ってきますね」

 作戦は成功。明日が楽しみだ。


  4


 放課後。今日は部長より早く部室に来てしまった。

「お待たせ!」

 突然大声でやってきた部長の眼は真赤であった。

「では、やりましょうか」

「ああ。このゲームもやっぱりうちのゲーム倉庫にあってな! バッチリ確認したぜ」

 そんなわけがあるものか。恐らく市内中の中古ゲーム屋を周ったのだろうがマイナー過ぎてこんな地方都市にはあるはずがない。彼は間違いなく、私の投稿した”穴だらけのプレイ動画”を見ていたに違いない。

「部長、やりますか?」

「いやいや、ここはこのゲーム発見してくれた君がやるべきだろう」

 どういうなのであろうか。それはひとまず置いておいて、ゲームをつける。


プレイを開始してから一時間と数十分が経った。

 二度もやっているせいで初めてプレイするような動きをするのが難しかった。

「なぁ……このゲーム、本当に『夕暮れとんでるアドベンチャー』か? 俺の持ってるやつとなんか違う気がするんだが……」

「何を言うんですか。正真正銘の”夕とん”ですよ」

「こんな展開あったかなぁ…・?」

「部長の記憶違いじゃないんですかね」

「そうかなぁ……?」

 案の定、戸惑っている。私はネタばらしをしたくてウズウズしていた。

「ゲーム持ってるけど、一応プレイ動画で確認したんだけどさぁ、何かいろいろ違うんだよなぁ」と部長が呟く。

「部長、このゲームどこで買ったか覚えてます?」

「うーん、どこだったかなぁ……たぶん駅前のとこだった・・・・・・はず」

 私は笑いを堪えるのに必死であった。

「部長、私はこのゲーム、東京の古ゲーム屋で買ったんすよ」

「……ほぉ。わざわざ東京まで」

「だってこのゲーム、幻のような存在だったんですから。この近辺じゃ絶対手に入らないと思ってわざわざ東京まで行って買って来たんですよ」

「……………」

「先輩、本当にこのゲームここら辺で買いました? あとちゃんとプレイしましたか?」

「……………」

「実はですね。このゲームのプレイ動画上げたの、僕なんですよ」

「……えっ?」

「しかも、かなり編集を加えて実際のゲームとは結構変わっちゃってます」

「……つまりいうところ、駒鳥は俺をハメようとしたわけだったり?」

「いえいえ! ちょっとした悪戯心です。先輩が本当にゲームをプレイしてるのかちょっと怪しく思っちゃって――」

 そこで部長は部室から目にもとまらぬ勢いで飛び出してしまった。


  5


あれから二か月は経つが、部長は一向に部室に顔を見せない。校内は広い。更に人も多い。全く見かけないのだ。部長はいったいどうしてしまったのだろう。これは私の責任であるとも重く捉えている。私の悪なる好奇心のせいだ。全て部長の虚構と私の悪戯心から出来た取り返しのつかない物事である。


部長、今もマイナーゲーム研究会は部長をお待ちしております。


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