メモリ
針で掻いたり。
刃を立てたり。
そうやって、一個、一個、覚えていく。
刻んでいく。
何を?
思い出を。
腕を。
涙を。
忘れないように。
忘れようとしたことを。
忘れないでいるように。
一時、覚えを無くしたとして。
不意に、刻みが、よみがえって。
外の景色を、見るのが嫌で。
中の、景色を、捨ててしまって。
もう、歩くのが嫌になる。
立ち止まったところに、染みを作って。
結局、その染みが、刻むことになるんだ。
何をしたって、刻み続けて、逃げられなかった。
そのあとは、今でも残っている。
見えるところにはない。
誰に、見せる気もない。
もしかしたら、見えない。
でも、治らない。
治る、なんて。
可笑しい言い方。
過去と、現在と、未来と。
自分の上に、今の自分が立っているのは、あらがえない事実。
だから、刻んだものも、きっと、認められない、けど、事実。




