俺の能力スッゲー
そんなバカなことがあって良いのだろうか。
確かにTSものは前世でお世話になったことはあるが、今の俺はコボルトというれっきとしたモンスターだ。
モンスター転生をしたら普通世界征服だとか魔王になるだとかするもんじゃないのか?
いや、俺はそういうのあまり興味ないんですけども、それでも主人公は普通男だろ。
しかも俺前世では男だったじゃないですか、え?何これ誰得?
「ん?どうしたんだいコボリス」
頭を抱えて悩む俺に違和感を感じたのかコボルトマザーが話しかけてくる。
俺はその声に反応して顔を上げ、泣きそうになりながら「なんでもない…」と答えた。
それをどう捉えたのか、コボルトマザーがため息をついた。
「なんでもないって何かあり気な顔して言うもんじゃないよ。どれ、レベルに何か不満があったのかい?なんだ、レベル3もあるじゃないか。産まれてから乳しか飲んでないにしては高い方だよ?何が気に食わないんだい」
まったく、と言って俺の方を見ながら何か違う物を視ているコボルトマザー。
何故レベルが分かったのだろう?コボレイくんしかり、他のコボルトベビー達のレベルなんて俺には分からないのに。
女であったことを苦悩しながら、そんな疑問が少し湧いた。
「!?
こりゃあ凄い。レベルにしては高い潜在能力じゃない。特に生命量、攻撃力、殲滅力が異常値だよ。ん?ああ、魔量と変換性がレベル相応だね、でも鍛えればガンガン上がるし大丈夫ね…。
スキルはー………。なんで賢狼をもってんだい?あー、なるほどね。それで潜在能力値を視て、魔量と変換性の低さに項垂れたってことかい」
フムフムと得心がいったようで、頷きながら「そりゃあこれだけ他が高かったらねぇ〜」と呟くコボルトマザー。ステータスまで視えているようだ。
完全に勘違いをしているが、まあコボルトマザーからしたら最初からコボリスはメスだったのだ。
それなのにメスであったことを悔やんでいるなど、想像もつかないだろう。
「大丈夫さねコボリス、魔量と変換性はレベル相応で低いわけじゃ…な……」
フォローを入れようとしていたコボルトマザーが、途中で言葉を失った。
それに首を傾げていると、驚愕した顔で俺の方を向き直すコボルトマザー。
どうしたと言うのだろうか。
「コ…コボリス、あんた潜在能力値視えたんだろ?じゃあスキルは確かめたかい?賢狼のスキル効果でスキル詳細を確かめれるんだけど」
「いや…」
頭を振ることで、否定する。
スキルなんて確かめている暇はなかったし、詳細をどうやって開くのかも分からないからな。
「そうかい、じゃあスキルの一番上にある"技能喰者"ってのに指を当てな」
oh…まんまVRものにありそうなメニューの触り方だな。この世界はゲームか何かで、俺は実験を受けているとかじゃないのか?なんとなーく、死んだ記憶はなきにしもあらずなんだが。
言われるままに技能喰者なるスキルをタップする。すると浮いている文字がまた滲みだし、新たな文字を形成していく。
「やったかい?そしたら後は読むだけさね」
読むだけだって、俺は見た目コボルトベビーなのだが…。
もしかしてスキル賢狼の見物には文字を読み書きできる付加要素があるのだろうか?
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スキル名:技能喰者
スキル説明
食べれば食べるほど強くなります。
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くぴ?
説明みじか!
名前の感じ的に何かもっとこう凄い説明文があっても良いような気がするんですけど…。
アレかな?自分の能力なんだから自分で調べろ的な。
「読んだね?そりゃあ驚くわね。まさか自分にこんな凄いスキルがあるなんてさ。
スキル"技能喰者"なんて聞いたこともないような名前だから調べたけど、とんでもないわ。まさか食べたモノの持つ特技や性能までも喰らい自分の能力と化すなんて、そんなの魂そのものを喰らっているようなものよ。
いったいどんな神の贈り物なのかしら」
自分で調べろフラグ叩き折られました。早かったな。それより、どうやら俺はソウルイーターらしいです。
って、どうやってそんなに知ったんだ!?俺が視ても一文だけで、他には何もなかったのに!
俺が驚いた顔をコボルトマザーに向けると、コボルトマザーも驚いた顔を俺に向けていた。
「……ふ、ふふふふふ、ふっはっはっはっはっはっ!いやいやコボリス、あんたが産まれてから退屈しないね。まさか子供に自分のスキルを喰われていたとは思いもしなかったけど、あんたなら許せちまうよ。
それに喰った方法が、授乳だってんだから面白いさね。数時間も乳を吸うし、吸うのが上手いからとんだスケベェを産んじまったと思ってたが、ありゃ本能がスキルを使用していたからとは…ぷっはっはっはっはっ!」
そう言って腹を抱えながら笑い転げるコボルトマザー。何が笑点をついたのか分からないが、これ以上ここにいると動き回っているコボルトマザーに殺されそうなのでコボレイくんの所に避難することにした。
コボルトマザーが爆笑、もとい絶賛するくらいなのだから凄いスキルを俺が持っているのは分かったが、メスであることは何も解決してない。
これから俺はコボルト生をメスとして生きていかねばならないのだ。
生きるための術であろうスキルも大切だが、メスであることと向き合うことが一番大切だと思う。
またそうやって頭を悩まさながらコボレイくんの所まで来ると、コボレイくんを筆頭にコボルトベビー達がワサワサと詰め寄ってきた。
少し後退りながら、どうしたのかと問う。
「ワンワォーン!(二本足で立ってるスゲー!)」
「ワフワフアォオォオン!(言葉話してるわ凄い凄い!)」
「クゥーーン?(さっき何してたん?)」
「ハフッ!ハフハフッ!(お姉様っ!お姉様お姉様っ!)」
「ハァハフ…ハァハァ…ハフ〜(良いなお姉様…可愛いなぁ…お姉様〜)」
「ハフウォン!(お姉様親衛隊!)」
oh……。
ただ今聖徳太子気分を満喫しております。昔の人は偉かった……。
お姉様呼ばわりはやめてほしいな、まだメスの自分を受け入れられないから。
少し後退りながら口の端をヒクヒクさせているとバッと飛び込む影。
「グルルゥ…ガウッ!(お前ら…困ってるだろ!)」
そう吠えるのはコボレイくんだった。
俺のためにしてくれているのだろうが俺としてはやめてほしいな、仔犬が唸り声をあげているのはあまり好きくないんだ。
まあお礼は言っておこう。
「ありがとコボレイくん」
「フォンフォォオォン(いやこれくらい当たり前だよ)」
そう言ってクネクネとした遺伝を感じさせる腰の動きを披露するコボレイくん。
照れているのだと分かるのだが顔が赤いかどうか毛で分からないので、見た目的にいろいろと台無しである。
俺の冷ややかな目線に気づかず、腰を動かし続けているコボレイくんを押し退けてコボルトベビーがやって来た。
「フンフン、キュゥクルル〜?(なあなあ、適性みんでええん?)」
どこか関西弁風に捉えてしまう鳴き声をあげるコボルトベビー。たしか彼女の名前はコボルナだったはずだ。
コボルナちゃんの意見はもっともだった、それに俺も自分の魔力適性は知っておきたい。
なので左手に力を込める。その時に漏れ出たほんの少しの魔力に葉が反応して、ピィィィイイイイイイイイっと甲高い音がして葉の先端が崩れ落ちた。
本当に読んで字の如く葉の先端が崩れ落ちたのだ。
「キャン!(うっさ!)」
他のコボルトベビー達もキャンキャンとうるさいコールをしてきたが、一番近かったコボルナちゃんが一番大きな声で文句を言った。
たしかにうるさかったが、だからって俺をそんな目で睨まないでほしい。
「今の音はコボリスがやったの?」
「え、まあ…たぶん」
笑泣きしていたコボルトマザーが腹を抑えながら、そう聞いてきた。
その問いに無難な返答をする俺、そして目を更に輝かせるコボルトマザー。
「あっはっはっはっはっ!
凄いなコボリスは!なんでそんなに強いんだい!ぷはっ、ダメ…も、ムリ……あっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
あんたが何に対して笑いを得ているのか俺には分からないです。
というか、さっきのは強いのか?
「強いよ。まあ、マスターレベルにならなきゃ声を拡大させる程度で終わるけどね。
さっきのは音魔法。音ってのは早い話が物や空気が揺れて起こる物だからね。マスタークラスの音魔法士は、さっきの葉のように振動させた物を崩すことができんだよ」
へー、超振動ブレードとかと同じような物か?俺はそういうのは詳しくないんだ。
しかし、マスタークラスってなんだ。また分からん言葉が出てきたよ。
「私とあんたとじゃ生きてる年数が違うだろ?だから双方の力には差が生じ、経験だって私の方が積んでる。
こういうのは他のことにも言えるんだよ。
魔法使いも魔法を使い続けてれば魔量が多くなるし、魔法で敵を倒せば魔法のコツってのを掴んでくるんだ。
そういうのを練度って言うんだけど、その辺は置いとこうかね。
練度ってのは個人個人で差があって、上手い奴がいれば下手な奴だっているもんだ。
その練度に適当にレベルのようなものをエルフどもが当てがってクラスと名称した。
使い勝手が良いってんで他の奴らも同じように言い出したのさ。
クラスは十段階。第一階梯コイ、第二階梯ビギナ、第三階梯ルーク、第四階梯モア、第五階梯ロア、第六階梯ダハーカ、第七階梯ゼブル、第八階梯アイオン、第九階梯オディス、第10階梯ラクリミリア。
全て名前に選ばれている言葉は偉大な魔法使いの名前だよ。マスタークラスと呼ばれるのは第七階梯ゼブル以上の階梯の奴らよ」
俺は今魔法使いのクラスでいうと第一階梯コイだよな。
遠いな……。
「まあコボリスはスキルに物を言わせて、喰いまくれば階梯なんて簡単に上がるだろうけどね」
oh……。
設定無視とか随分チートな能力を手に入れてしまっていたようだ。
設定補足の小話
主人公「階梯の名前には魔法使いの名前が使われているけど、他の職業とかのクラスもこのまま使うんだよな?」
マザー「ええそうよ。名付けたのが魔法使いの蠱毒だと言われるエルフ達で、元は自分達だけで使うつもりだったから」
主人公「それを他の職業である剣士とか冒険者とかが同じように使いだしただけってことか」
マザー「そういうことっ。でも、これは練度の話であって、剣士達には剣士達の位があるのよ。騎士とかね」
主人公「うわ〜、めんどくせぇ〜」
マザー「仕方ないわよ。世界には実力はあるのに位が着いて来ない人がいるのだから」
主人公「賄賂とかで役職を買うってことか、きも〜い」
マザー「ていうか、どうしてそんなに人間社会のこと知ってるの?」
主人公「……」
マザー「……」
主人公「……じ、次話をお楽しみに〜」