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Re:KoboldSaga  作者: 空見鳥
32/33

グレイラビ防衛戦――1

本当はクリスマスイブに投稿したかった……orz

気がつけば土曜日

自分の遅々とした筆速を恨む今日この頃

 ギルドマスターが紹介した緋双の乙女とやらの演説から三十分くらい経った頃、今だに疎らに闇が佇む荒廃した大地に変化が訪れた。

 最初に気づいたのは錫杖を抱えた盲目の冒険者だった。


「――来た」


 小さな声で呟いた。

 俺もそれと時が経たずして気づいた。

 音が近づいてきている。初めは空耳かと間違えるほど微かな音だったが、段々と強くなり、地鳴りへとなっていった。


 なんでも、盲目の冒険者は目が見えない代わりに聴覚が発達した者らしく、その上、魔法具による聴覚補正まで受けているのでクエストを受けた冒険者たちのソナーの役割を果たしている。

 馴染みである盲目(ソナー)からの情報だ。信じられないわけない。それは冒険者たちに混乱を生じさせた。


「なに!?もう来たってのか!予測時刻よりも早えじゃねーかよ!」

「とうとう……か」

「本当なのか?間違っては――――いない、よな……」

「どうすんだ!どうすんだよー!?」

「落ち着け!誰か一人櫓に行って確認して来い。それ以外の奴らは今やってる迎撃準備を続けてろ!」

「「「お、応!」」」


 その混乱をギルドマスターが一喝し、即座に反応して指示を飛ばす。

 冒険者たちもそこは流石歴戦の猛者、といったところだな。各々我に返って焦りを感じつつも手際よく作業を進める。

 うん。いい調子だ。


 迎撃準備。

 それは要塞や城などに設けられている対攻城戦用兵器の使用準備のことだ。

 例を挙げてみよう。街壁の上に設置された超重量弩弓、所謂バリスタ。ファンタジー要素な物で、この世界特有だろう飛竜などに乗っている竜騎士による対空撃戦用に設置された貫雷刃とかいうデカい針柱など。

 兵器の種類は多岐に渡るが、普通、これは対国家またはそれに準ずる人類を基本とする(・・・・・・・・)集団を仮想敵としている。


 だが、グレイラビは異なった物を仮想敵として置いている。

 それは《モンスター》。この世界の住人で言うところの魔物だ。

 理由は……まあ、説明が面倒だから置いとくとしよう。

 兎に角、モンスターを仮想敵と置いたグレイラビの迎撃設備は樹海側に偏っており、今回、ギルドの作戦としてそれを活用することとなった。

 かく言う俺も今、その準備のために街壁の上にある砲台の横に先端が尖った砲弾を置いていくのを手伝っている。

 この砲弾も魔法具らしく、幾何学的紋様が描かれている。鳥のような形が側面に見受けられるが、意味は分からない。


「ギルドマスター!確かに魔物の群が接近していることが確認できたぞ!夥しい数の眼の点灯が見てとれた。ありゃー、一千やそこらじゃねーぞ!」


 櫓に確認を取りに行っていた冒険者が転がるように駆け込んで来て、街壁の上で指示を飛ばしているギルドマスターに告げる。

 それを聞き、渋い顔をするギルドマスター。


「むぅ……予想以上に魔物共の進行が早いな。予測は早めにしていたはず……誤差でも遅くはなろうとも早くはならねー。まさか仲間を助けず、猪突猛進しているのか?なら脅しは効かねーかもな……」

「どーすんだ、指示を出してくれ」

「意味をなさねーのと時間のかかるヤツは止めて、他のに人員を割いたほうが良くねーか?」

「おお……そうだな。バリスタと貫雷刃、鼠爆弾の準備を担当してた奴らは中止だ!飛爆砲と土竜爆弾、それと主砲の準備に回れ!時間との勝負だ。気合い入れてけ!」

「「「応!」」」


 ギルドマスターの指示に従い、横でバリスタの準備をしていた冒険者たちが俺の準備を補佐しに回って来る。

 みんな眉間にしわを寄せつつも、何故か口の端を吊り上げている。それは何かに堪えているかのような顔だ。

 死地に向かうのが当たり前の冒険者でも怖いものなのだろう。


 そうそう、デュアルは今、街壁の中で地雷型魔法具の準備をしている。

 なんでも、その魔法具が上手く作動するかどうかが生命線となるらしい。

 どんだけだよ。と言いたいな。

 そんなに凄い火力のある兵器があるならどうして領主たちは街を捨てたのだろう。

 分からないな。


「グラディス、数はおそらく二千と少し。音の響きからして軽い魔物共の群だと思う。たぶん鳥系と小型種だろうな」

「足の速い魔物共の群か。それなら迎撃兵器だけでどうにかなるな。しかし、想像はしてたが、二千……か。こっちは数十人しかいないってのに」

「それが現実だ。戦力としては申し分ないのだし、愚痴ったところで好転はせん」

「まあな」


 盲目の冒険者とギルドマスターが何か話し込んでいる。

 作戦でも考えているのだろうか?往々にして厳しい顔をしている。


「――――――――――――――!!!!」


 轟音となったモンスターたちの嘶きが耳を刺す。

 あまりの音の大きさに咄嗟に耳を手で覆うも耳鳴りが残る。とてもうるさい。

 それに対して即座に反応した冒険者たち全員が街の外、大草原の方へと顔を向ける。


「おいおい……速いっても、速過ぎだろ……」


 そう口にしたのは誰だったか。それが誰の言葉であれ、その言葉は見た者たち全員の気持ちを代弁していた。

 それもそのはず、何十キロも離れているだろうはずのモンスターたちが最早目の前に迫っていたのだ。

 砂塵が舞い、地鳴りが意識せずとも分かるほど短時間で大きくなっていく。

 陽が充分に上がったのか、差し込める陽の光がモンスターの群を照らし出す。

 数えるのも億劫だと感じさせるほどのモンスターの群。それは一心不乱にこちらへとやって来ている。


「グレイラビ支局組合員冒険者全員に告ぐ!」


 ギルドマスターが固まった空気を裂くように吼えた。


「クエスト『グレイラビ防衛戦』の撃退対象をギルドマスターが目認した!これより撃退へと移る」


 一息吐き、周りにいる冒険者たちを睨み見るギルドマスター。そして、一気に空気を吸い込み、静かに言葉を紡ぐ。


「総員準備は整ったな?兜の紐は締めたか?命を賭ける得物に敬意の口づけは?星神に誓いの禊を胸に、一握りの毒袋を咥え、右手に祝盃、左手には友の目を握り謳え!」

「星神の加護は常に我らにあり!戦場を我らは駆ける。故に、星神の加護は常に我らにあり!」


 ギルドマスターのよく分からん啖呵に何故かギルドマスターの秘書らしいオッさんが続いて叫んだ。

 それを聞いた冒険者たちが渋い苦笑を返す。

 なんなんだ?この何かを連帯しているために流れる変な空気は。知らない俺は居心地が悪いことこの上ないぞ。


「ハハ、ギルドマスターこんな時まで冗談は止めてくれや。長ったらしい教会の戦歌を述べる余裕があるならさっさと指示を出してくれ」

「……んー、だーな」


 冒険者に指摘され、ギルドマスターは肩を竦めて苦笑を返した。


「――うし!野郎共!気張っていくぞ!」

「「「応!」」」

「伝令!下の奴らに指示を飛ばしに行ってこい!手始めに土竜爆弾を発破してやれって伝えろ!」

「任せろ!」


 ギルドマスターの指示を受けてチェーンアーマーの冒険者が階段に向かって走っていった。





 始まりは閃光と爆音、そして地震に似た揺れだった。

 それは地球でいうなら地雷による物だと推測される。その被害を受けただろう掘り返された大地と、その上に無造作に転がっている焼け焦げたモンスターの死骸。

 死臭が漂う。

 だが、それでも進行を止めないモンスターの群。その眼には死兵や狂信者のような濁った色はなく、ただ生き残ることのみを求めた渇望者のそれが映えている。

 しかし、その色も直ぐに光を失う。

 モンスターたちが進行する先々で待ち構えていたかのように地面が爆ぜた。さも、生にもがくモンスターを嘲笑うかのように。

 幾何もの鳴動が轟き、幾何もの生命が爆炎に呑まれた。

 そうやって、いとも容易く第一の波は撃退ではなく殲滅して終えた。


「とんでもなかったな……」

「……う、うん。僕も凄いと思います……」

「デュアル、敬語になってるぞ」

「あ……うん」


 俺とデュアルは砲身の横に胡座をかいて遠くを見ながら感想を語りあった。

 何が死ぬかもしれない、だ。

 圧倒的、なんて言葉を初めて思い描いたぞ。

 逆に生きるために逃げて来たモンスターたちが可哀想に思ったわ!

 本当、初めのフリはなんだったんだ?なんとなく緊迫した空気があった気がするんだけど。

 詐欺にあった気分だ。


 今は休憩中だ。

 第一の波は何事もなく、これといって何かをしたわけではないのだが、休憩している。

 ギルドマスター曰く、意識してなくとも緊張はしている。それを少しでもほぐす事でクエストの成功率を上げれる、らしい。

 本当かどうかは判断し辛いが……まあ、なきにしもあらずといったところだな。


「あとどれくらいで第二波来るんだろうね」

「さあな……。とりあえず、数時間くらいは来ないんじゃないか?」

「だよね。なら今のうちにご飯でも食べに行かない?ほら、マスターも言ってたでしょ?緊張は今のうちにほぐしとかないと此処ぞって時に踏ん張れないって!」

「んー、腹が減っては戦はできぬって言うしな。……まあ、第一波があんな感じだっただけに俺が戦うことはない気がするけどな」

「あはは。確かに、あんなの見たら危機感とか感じなよねー」


 そう言って微笑むデュアル。

 全くもってその通りだと言いたい。

 まあ、そのおかげで俺はあまり緊張してないのだから良いのだけど。どうせ第二波も第一波と同じですぐ片付くだろう。という考えがある。

 それに今回、俺たちが最も警戒しなければならないのは草食モンスターの群ではない。それを追ってやって来る狩人共だ。


 オーク共がやって来ているんだよな。

 あのとんでない化物が群を成してやって来る。ヤバイ、追いかけ回されてる草食モンスターたちが凄く同情する。

 俺もオークに追いかけ回されたのが記憶に新しいから気持ちが凄く分かる。アレは泣ける。

 そして逃げた先ではさっきの地雷地獄だ。

 前門の迎撃兵器に後門のオーク。どっちに転んでも圧倒的蹂躙が待ってる。

 マジで可哀想だわ。

 まあ、殺さないと残った俺たちにも蹂躙が待ってるわけで、それを乗り越えても疲弊したところにオークだろ?

 絶対死ねる。

 そんなことにはなりたくないので、草食モンスターは殺します。

 せめてもの弔いとしてこの防衛戦が終わったらクレルに頼んで美味しい料理にしてもらおう。


「それで、どうするの?食べに行く?」

「ああ、そうだな。食えるうちに食っとかないとな」

「うん。じゃあ食堂に行こっか」



 食堂にデュアルを共だってやって来た。

 食堂と云っても外壁内側にある通常時は門番などの駐屯舎である小屋を使った簡易の食堂だ。なので、飯を食べるスペースは何かあった時のために、外壁から近い道路や外壁の中または上だ。

 その上、住人のほとんどが避難をしているため飯を作っているのは鎧を着たゴツい冒険者だ。

 唯一の救いは意外と冒険者の料理レパートリーが多いことか。


 俺たちは食堂で飯を貰うため、スープの入った大鍋を混ぜている妙に派手な恰好のオッさんに話しかける。

 オッさん、人の趣味であり最近そういった変……もといユニークな恰好の人間を日常的に見ているが、髑髏の鎧は飯に合わんよ……。いや、ゲームとかでよく冒険者が着ている鎧の感じだし、これが普通なのか?分からん。


「すいませーん。ご飯をよそってくださーい」

「ん?おお、良いぞ。何が食いたい?材料はあまりあるから何でも言えや。作ってやるよ坊主」

「ん?言ってすぐ作ってくれるのか?」

「ああ、材料があれば作ってやるぞ」

「マジかよ。それって捌きが遅くなるんじゃないか?」

「大丈夫だ。どうせ数分で出来ちまう。それに他の奴らの大半がもう頼みに来て済ませちまってる。まだ食ってねーのはお前らを含めて数えるほどだ。安心して食いたい料理を言えや」


 そう言って髑髏オッさんは味見のためかオタマにすくったスープに口をつける。


「うん、美味い。さすが俺だ」


 美味いらしい。髑髏オッさんが自画自賛した。

 そこにデュアルが俺の肩を叩いて呼ぶ。


「見てジュナサン。あのスープに使ってるお鍋、高価な魔法鍋だよ!他にも高価な魔法具ばかりだよ!」

「おっ、よく分かったな坊主。そう、こりゃ俺たちみたいな冒険者じゃ一生かかっても買えないような魔法具だ。そんで、この中でも一番高価な代物はこいつ。魔法具師ガイドその人が回路を描いた傑作にして、弟子の料理職人級の腕を持つクレルが愛用していた『包み揚げの油筒』だ!」

「……ん?」


 髑髏オッさんがとても嬉しそう且つ誇らしそうにポットのような物を指し示し、膝をついて下からポットを手でキラキラさせる。

 しかし、俺はそれよりも今、見知った人物の名前が出たことに驚いている。それもツーセットで出てきたぞ。

 デュアルの方に目をやればデュアルも驚いたらしい。

 俺が思わず疑問声を漏らしたことに髑髏オッさんは気づく様子もなく、言葉を続ける。


「これはな坊主!この蓋を開けて中にある金網に揚げたい食材を入れ、蓋をしてほんの五分!それだけで包み込むように気化した油がパパッと揚げてくれるんだぜ!しかも熱を食材の中にギュッと浸透!それと同時に旨み成分を逃がさない!」


 うるさいな。


「わあ〜!なんだか聞いてるだけでヨダレが出ちゃいますね!」


 そうか?


「そうだろそうだろ!これがな、ホンッッットーー…………に、美味いんだ!!」

「凄くためましたね!男前は何やっても様になるなー。そんなに美味しいなら食べてみたいなー」

「んー……しゃーねーな!そんなに言われちゃ仕方ねー!ただで作ってやるよ!男前だから!」

「やった!太っ腹〜♪」

「そうだろそうだろ〜!フハハハハハハ!」


 そうご機嫌に笑う髑髏オッさんは食材を取りに奥へと行く。

 何だったんだ?何故デュアルはあんなにも持ち上げたんだろう。聞くか。


「なんで持ち上げたんだ?」

「え?ああ、安くするためだよ。この食堂、ギルドの許可を得てあの人が今日かぎり経営してるんだ。だから意外と高いんだよねー」

「へー。ちゃんと考えがあったんだ」

「当たり前だよ!ジュナサンとの老後を考えるとこの程度のことで出費なんて出せないよ!まあ、まさか無料になるとは思わなかったけど……」


 困ったように苦笑いするデュアル。なんとも強かな奴である。

 それよりも、髑髏オッさんはたぶんガイドとクレルのファンなのだろう。

 見た感じ料理好きか。ということはクレルの腕に憧憬の念を持っているわけだ。

 そういえば、あんな感じやつクレルも持ってたな。お下がりか?いや、たぶん旧型だから売ったやつだろうな。


 髑髏オッさんはとても脂差しの良い肉を取り出し、デカい包丁で切っていっている。

 高級そうな肉だな。食材があまってるからって、そんな良い感じの肉を無料で食わせてくれるのか。

 このオッさん、良いオッさんだぞ。

 宣伝ついでにガイドとクレルを紹介するか?

 うん。良い奴だと思うし、紹介してやろう。きっと喜ぶだろうし。

 つくづく思う。俺の知り合いは有名人が多いな。


 それから、髑髏オッさんは肉を手のひら大に切って粉をふり、ポット魔法具に入れた。

 そして待つこと五分程度。

 髑髏オッさんはポットの蓋を開け、皿の上にポロポロっと転がしていく。

 いい具合に揚げられたビフカツっぽい物が見受けられる。いい匂いが漂ってきた。


「ほら、できたぞ坊主たち。油が付着してるからこの紙で包みな」

「ありがとう!いただきます!」

「おう。気にすんな!」

「ありがとうオッさん。お礼の代わりといっちゃなんだが、オッさんにガイドとクレルを紹介することを約束するわ」

「ん?おお」


 俺の言葉を信じてないのかオッさんがアホ面で返事を返してくる。

 まあ、いいんだけど。



 俺とデュアルが管轄の砲台の横でビフカツを食べていると、そこにギルドマスターがやって来た。

 初めて見た時と同じく、赤桃鎧を着込んだギルドマスターの背後には秘書役のこれまたむさ苦しいオッさんが侍っている。

 秘書役の主武器は見たところぶっとい棒、もとい棍だと予想できる。だが、ギルドマスターの主武器はなんなのだろう?何も持ってないように見える。こう見えて、まさかの魔法職なのか?


「お、いたいた。デュアルとコボリス、お前らは援護を重点的に頼むことになるぞ」


 軽く手を上げてそう言うギルドマスター。

 顔を合わせていきなりの言葉がそれか、と言いたいが仕方ない状況なので口をつぐむ。

 代わりにデュアルが立ち上がって頭を下げた。


「マスター、お疲れ様です!それをわざわざマスターが伝えに来た、ということは第二波は第一波のようにはいかない。ということですよね?」

「ああ、その通りだ。察しが良くて助かる」

「……第二波の予想のほどは?」

「それはこいつが詳しく説明してくれる。頼んだ」


 そう言われて、背後にいた秘書役は頭を軽く下げた後、目を閉じて言葉を発する。


「はい、任されました。第二波予想被害の報告と情報共有を述べます。先ずは第二波の衝突予想時刻ですが、残り四刻半ほどと予想されます。第一波の早期衝突も考慮して、最短の上を告げていますので悪しからず」


 ああ、第一波の予想よりも早く来たことをちゃんと学んでいるのか。それで四時間半ということは、実際の予想は五時間くらいなのか?

 どちらにせよ、四時間は後か。意外と長いな。


「次に、予想魔物量です。これは緋双の乙女からの情報提供によるもので、その数は凡そ五万弱。第一波は約二千、単純計算で二十五倍以上です。この数から予測して、迎撃兵器のみでの殲滅は不可能でしょう」

「え?あんなに凄いのにか?」

「ええ、あんなに凄いのに、です。確かに迎撃兵器は火力があり、小型魔物程度なら二千などという数の殲滅は造作もない。しかし、それは小型魔物ゆえ。第二波の主要となる魔物は中型であり、中には大型のものも見受けられるそうです。グレイラビは仮想敵を元から魔物として迎撃兵器を設置してはいましたが、兵器自体の元は対群衆人類殲滅兵器。越えられない壁というものがあるのは致し方ない」


 そう声に温度を乗せず語る秘書役。

 なる……ほど。ぐうの音も出ないとはこのことか。

 それでか。あれほど容易く第一波を屠るほどの兵器を持ってしても、領主が財の全てを投げ打ってまで住人全ての避難をさせたのは。

 あれ?これ、勝てるのか?


「そういった部分を考慮し、予測した結果を述べます。迎撃兵器の火力が尽き、止まらず進む中型魔物群によってグレイラビの外壁は崩され、家屋にして七十世帯が踏み潰され、冒険者に死傷者が出つつも第二波の完全撃退が成功するでしょう」

「――と、いうわけだ」

「というわけだ、じゃねーだろオッさん。どうすんだよ」

「そんなのは決まってらー。その予測を踏み倒すだけだろう!」


 拳を強く握り、語尾に力を込めるギルドマスター。返事が脳筋すぎる。

 踏み倒すと云うのは簡単だ。ただ口にすればいいのだから。それを実現するとなると至難を極める。

 今の話を聞くに、第一波を乗り越えれたのは奇跡に近い。

 何故なら、第一波が小型モンスターかどうか、その中に耐久力の高い魔物がいないかどうか、直進でなく避ける可能性だってあったはずだ。

 この中のどれか一つでも異なっていたなら、第一波は今も俺たちを襲っていることだろう。

 俺の知識だけの話だからこの世界は違うのかもしれないが、モンスターや魔物などと呼ばれる生命体は大概が生命力の強靭な種だ。そうでなければコボルトなどは猿に似た犬、もしくは犬に似た猿というカテゴリーの動物と呼称するはずだ。

 あれらがモンスターと銘打たれる理由は動物とカテゴライズするには逸脱し過ぎているからなのだ。

 そうしたモンスターを侮るなどあり得ない。例え魔法職だとしても死ぬぞ。

 というか、長年冒険者をしているだろうギルドマスターがそれを分かっていないはずがないのだが……どういうことだ?


「ギルドマスター、あまりお戯れなさらないでください。コボルトが訝しんだ目をしていますよ」

「コボルトじゃないです!ジュナサンです!」

「ん?おお、すまねーすまねー。お粗末な返答だったな。ちゃんと計画があるから安心しろや」


 そう快活に笑うギルドマスター。

 信用できない。怪しい。


「本当なのか?」

「おう!あったりめーだろ!なあ?」

「計画などという立派なものではありませんがね。私が考案し、それをギルドが支え、冒険者ならではの活力でゴリ押ししてみせますよ」

「ゴリ押しって……」

「コボルトじゃなくてジュナサンなんですー!」


 とんでもないことを言っているのを自覚しているのか?この秘書役は。

 あ、この目は自覚してますね。自覚した上で、どこか自信を得ている。どこから湧くんだろうね、その自信。

 あとデュアルがうるさい。俺はどちらかというとコボルトの方は合ってるぞ。ジュナサンは全くのハズレだ。


「そうですか。ジュナサンですね。分かりました」

「はい!」


 あ、分かっちゃったらしいです……。

 秘書役が認めた時のデュアルの笑顔が凄い。仲間を手に入れた時のボッチの目をしてる。

作者「クリぼっちだった空見鳥です。こんにちは」

コボリス「はい、クリぼっちだったくせに投稿が遅かった空見鳥さん、こんにちは」

作者「ぐはっ……」


作者がコボリスの毒舌の前に倒れた

コボリスは作者の頭に足を乗せ勝鬨の遠吠えを上げるのだった


オチなし!

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