命あっての物種
遅くなり申したm(_ _)m
今回は会話が多めです。
いろいろと試行錯誤しながらの投稿ですのでアドバイスなど貰えると嬉しいです。
ギルドにやって来たが、ここは本当にギルドなのか?
そう思ってしまうほどギルドがいつもと違う。
バカな話で盛り上がっている者達はおらず、ビール樽の早飲み対決をしているような奴らもいない。
あるのは痛いくらいの静けさと微動だにしない冒険者たち。
冒険者の顔は人それぞれで、絶望にくれる者や黙考する者、無表情で考えが分からない者や獣染みた顔でギルドマスターの登場を今か今かと待ち望んでいる者。笑っている者すらいる。
俺には彼らの考えが全て分かるということは無いが、見たところの印象は死に怯えている者は少ないようだ。
緊急クエストは死が寄り添う。
デュアルから聞いた話ではそんなイメージがあったが、よもや本当にケーキを食べて欲しいなどというクエストなのだろうか?
つまりケーキ争奪戦が始まる?
ふむ、もしそうであったならば俺を呼んだことは冒険者たちにとって悲報だな。
何故なら俺だけでケーキを食べ尽くしてやるのだから!
糖に囲われた世界に産まれ、糖に育てられ糖に彩られた人生。死ぬ直前、その糖を食えなかったことを俺は後悔している……。
何故なら、この世界には糖が少なすぎるため今だに食べることができていないから。
今思い返せばあり得ない……。
糖のない今までの食事は悪夢。そう、悪夢だ。
その悪夢を切り裂いてくれたシュガー草には感謝しか出てこない。
そして、悪夢より目覚めし地球より来たる俺は、もう惑わされない。
惑わされないイコール特大ケーキは俺だけの物!
……完璧だ。完璧すぎる等式だ。
全軍、我らの勝利は近いぞ!ウォォオオオオオ!!
「ジュナサン何だか楽しそうだね」
「当たり前だデュアル!俺の、俺たちの勝利は目前だ!」
「え?誰かと戦ってたの?」
愚かな。
デュアルよ、ケーキ争奪戦はもう始まっているのだ。
今、目線や雰囲気による静かなる凌ぎを削る戦いが行われているはずだ。いや、行われている!俺には分かる!
それが分からないデュアルは最早この戦いの敗者だな。
だが安心しろデュアル、俺がお前の屍の上を越えて行ってやるからな!
「あれ、なんで今僕に可哀想なものを見る目を送ったの?それとあまり他の人たちを睨んじゃダメだよ?」
デュアルが不思議そうに首を傾ける。
しかし俺にはお前をかまってやれるほどの余裕はない。今この時、無音のサバイバルで誰が生き残るかの局面なのだ。すまんが、デュアルは一人で指相撲でもしといてくれ。
それから幾らかの時間が過ぎ、俺がガラの悪そうなチンピラ風の冒険者と睨み合いをしている時、二階から赤桃鎧のギルドマスターが顔を出した。
「おー、全員集まってくれたようだな」
そう第一声を発するギルドマスターはフルフェイスの兜を被っているため表情が分からない。
しかし、その声には大きくないにも関わらずギルド全体によく届くほどの圧がある。
「今回、お前さんらに集まってもらった理由だが。知ってる奴は知ってるだろう。樹海クエストについてだ」
樹海クエスト?俺たちは聞いたことがない。デュアルも隣で疑問符を浮かべている。
だが、どうやら他の冒険者たちのほとんどが知っているようで覚えがあるらしい頷きを返している。
俺たちと同じように疑問符を浮かべている者もいるようだが、見たことがない顔なので最近やって来た流れの者なのだろう。
俺たちの反応を見たギルドマスターが言葉を繋ぐ。
「樹海クエスト、樹海の探索を要請したクエストのことだ。そして、クエストを受注した者たちのうち誰一人として帰還しなかったクエストでもある」
ギルドマスターは一枚の紙を取り出し、見えるように掲げる。
「これがその件のクエスト。見たことがある奴らの方が多いだろう」
それに頷く冒険者たち。
俺のモンスター特有の凄い視力にものを言わせて捉えれば、とんでもないクエスト内容が記載されているのが分かる。
クエストと冒険者の関係は依頼と引受人の関係だ。
依頼には当たり前のことだがそれを発注した依頼人がいる。
その依頼人とって依頼を受ける引受人がその依頼をこなせれるかどうか、それは重要なことだ。
それをギルドではランクを設けることによって測りやすくしている。
例えば、F級クエストと題されたクエストは基本的にF級冒険者以上の実力ないしランクの持ち主が受けるものだ。
これはクエスト発注するために発注金を払っている依頼人に対するギルドの配慮であり、クエストを受ける冒険者への警告である。
駆け出し冒険者のデュアルはH級冒険者なのでデュアルに置き換えて説明すると。
H級冒険者が最下級のI級クエストを受けることに関してはなんでもないが、A級を受けるとなると危険極まりない。
だが、デュアルなら死ぬ危険のあるクエストも最高級の@級冒険者が受けたなら危険は然程なのだ。
そのことをアホな脳筋冒険者にも分かるようにするためにやっている慈善事業のようなものだ。
しかし、それならばH級のデュアルがF級だったロザリオのクエストを受けれた理由はなんだ、と問われることだろう。
その答は単純明快、何もギルドではランク制限をやっているわけではないのだ。
警告はただの目安を示しているに過ぎないというわけだ。
それこそ依頼人が要求しない限りはあり得ない制限なのだ。
が、そこにはそのあり得ない制限がかかっている。
しかも、C級クエストにA級冒険者未満は受注不可という不可解な制限だ。
それに報酬額が高い。
これをC級のクエストとして考えれば前に見たクエストの中で1・2に入るだろう。A級だと考え見ても中の上といったところだ。況してや、探索クエストは簡単なクエストの代表格だとデュアルが言っていたのを覚えている。それを考慮すればあり得ない、は言い過ぎにしても想像に難い。
「――ッ、……凄いクエストだね」
デュアルが息を飲み、小さな声で感想を述べた。俺もその感想に賛同だ。
「凄いだろ?その凄さはこのギルドと馴染みのA級冒険者たちの折り紙付きだからな。誇っていいぞ?」
そう戯けるギルドマスター。
そんなことを言われても苦笑しか出ない。
「――で、こっからが本題だ。先にも述べたように、このクエストを受けた奴らが一人も帰ってこねー。途中からはA級冒険者のみしか受けられねーようにしたってのにな」
苦笑して肩をすぼめてみせるギルドマスター。
「だが、たった一人の冒険者が情報を持ち込んで来たんだ」
ん?何をほざいているのだろうかこのオッさんは?
さっき誰も帰って来なかったと自分で言っただろうに。
ボケがきたのか?見たところ五十代の中年のくせにボケたのか?若年性アルツハイマーか?
俺と同じように思ったのだろう冒険者が手を挙げて疑問する。
「ギルドマスター殿、すまないが私には貴方の申している意味が理解できないのだが。生存者が帰ってきた、ということでよろしいのか?」
「あ?あぁ……チゲーぞ。生還者はいない。これは先に言った通り変わらねー。そいつは帰還したわけじゃねーんだ。生きてはいるが、今も妖魔樹海で探索を続けている」
「なに?……それは一体どういうことなのだ?」
「使い魔、って知ってるよな?それにリンクして情報提供をしてくれたんだ」
「なるほど。すまない、話の腰を折ってしまった。許されよ」
「いや、良いんだ。皆も疑問があれば聞き流さずに聞いてくれ。そっちの方が説明が頭に入りやすいだろうからな」
ギルドマスターの説明に納得し頷く小綺麗な冒険者。
髪が薄い黄緑で肌が白く、マント付きの白銀鎧に整った目鼻立ちが加わって、どこか貴族然とした雰囲気がある。
とりあえず、イケメンなので爆ぜれば良いのに。
「今のところ無いようだな。なら話を続けさせてもらうぞ」
ギルドマスターが辺りを見回して一つ頷いて話を続ける。
「その情報提供をしてくれた冒険者というのが"緋色の勇者一行"、その勇者"緋双の乙女"だ」
オオオ、っと周りから声が漏れる。
そんなに有名なのだろうか?
小声でデュアルに聞いてみよう。
「そんなに緋色の勇者一行って有名なのか?」
「え?あー、どちらかというとパーティーよりもリーダーの二つ名が有名なんだよ」
「二つ名?緋双の乙女のことか?」
「そう、『戦略を血の雨で染めた緋双の乙女』ってフレーズでね。二十歳に満たない年齢で@級冒険者と成って、第八階梯にまで到達した双剣の腕、武勇伝は両の手じゃおさまらない。その美貌と実績から女の子たちの憧れなんだって」
へー、それは凄いな。
二十歳までに冒険者たちの頂点である@級に成るとは恐ろしいな。
まあ、第八階梯に到達したと言われてもロザリオやガイドのようにそれより上の奴がいるから何とも思わないが。
美人なのか。会ってみたいな。
俺がそんなことを考えている中もギルドマスターが説明を続ける。
「――――などが報告されている。つまり、オークの群と他の魔物の群の波状侵攻が予想されるわけだ。これはギルド側の予測だが、オークの主であろう巨大オークは災害指定個体としてのランクは第二階梯、十分に脅威だ」
話をよく聞いていなかったので理解が追いつかない。
だが、オークの群がやって来ているらしいことが耳に入った。
それと共に体が無意識のうちに震え出し、とある映像が思い起こされる。
くすんだピンクの体色をした所々に傷のある巨大なオーク。手には直剣を持ち、軽々とゴブリンを薙いでいく。その怒れた双眸と俺の両目が合う。視界が背後に向き、逃げたと同時に背後から轟く咆哮。頬を掠めて木を穿つ石。
歯が噛み合わずにカチカチと雑音を奏でる。毛の全てが粟立ち、嫌な汗が噴き出る。
何故だか寒い。
何故だかこの場を今すぐにでも後にしたい気持ちに駆られる。
息苦しい。
「……?ジュナサン?」
デュアルが顔を覗き込んでくる。
その顔にオークの黒い影が重なって見えた。
ガタッ
驚いて飛びずさった。
「?」
「――――で、ん?……どうした?」
いきなり音を立てたことで周りの視線が集まる。まだ説明をしていたギルドマスターが話を止めてこっちに問いを発する。
「あ、すいませんマスター!なんでもないです!」
「おお、そうか。なら良い。ああ、話を戻すが――――」
俺がどう言ったものか戸惑っているとデュアルが代わりに返事をしてくれた。
返事を聞いたギルドマスターが話を続ける。
「どうしたのジュナサン?何かあった?」
デュアルが俺の手を取りながら聞いてくる。それになんでもないと返事をする。
すると、スッと横に居た角刈りの厳つい冒険者が短めの毛皮のコートを着せてくれた。
「何があったかは知らん。だが寒そうなのでな。それしかないが、無いよりはマシだろうから着ておくと良い」
「あ、ありがとう」
その冒険者の装備は急所のみをプレートで鎧うという感じの装備なので寒いだろうに、とても良い奴だ。
デュアルも感謝の言葉を告げる。
「気にするな。それよりも内側に吊っているボトルを取ってくれ」
言われるままにコートのめくり、吊られたボトルを取って渡す。
円形に筒がついたような形のボトル、イメージ的にはレミー・マルタンに似た形をしたそれ。入っているのはやはり酒だろう。
それのキャップを取り、ラッパ飲みする冒険者。
いろいろと男前である。
「――――さて、説明は終えた。これがクエスト『グレイラビ防衛戦』だ。何か質問がある奴は今のうち聞いておけ」
どうやらギルドマスターの説明が終わったようだ。
周りの冒険者たちが近くの奴と小声で話し合うのが聞こえる。
そんな中、一人の冒険者が立ち上がり質問をする。
「ギルドマスターよ、簡潔に問う。そのクエストは本当に緊急クエストか?」
その質問に思い当たるものがあるのか幾人かの冒険者が同意の頷きをみせる。
質問をした冒険者の見てくれを一言で表すなら『丸っこい』だ。何も体型が、というわけではない。その衣装が丸っこいのだ。
ダボっとしたズボンと長靴が合体したような物を履き、上半身を完全に覆うポケットの多い一繋ぎの防護服、顔に纏っているフードにはガスマスクとゴーグルが縫い付けられている。全体的に『森の人』といった感じだ。
声が細かったので女性かもしれない。
彼女の問にギルドマスターが一つ頷き続きを促す。
「私が露店商に聞いた話では、なんでも領主の触れは出ていないそうじゃないか。領主の触れによって緊急クエストの存在は必ず領民に伝えられるはず、なのにソレがないという。もう一度問う、本当に緊急クエストか?」
集まった冒険者たち全員がザワつき始める。
もし、彼女の言っていることが本当ならばこの招集は何のために行われたのだろう?
これはもう少し話の展開を待たねばならないだろう。
「ふむ、で?エルミー、お前は確実性のない追求はしない奴だ。お前の中の答を聞こう」
「分かっている……か。それでも尚、私の答を聞こうというのなら答えよう。これを見ろ」
そう言って一枚の紙を懐から取り出して掲げる。
「この紙は領主の触れだ。ここにはこう書かれている。『樹海にて脅威を観測。疲弊した領軍ではこれに太刀打ちは不可と予測。グレイラビ住民には直ちに避難準備をされたし。明日の明朝、東門より街を避難する』。分かるか、この触れには何処にも緊急クエストを示唆する一文がない!」
声を張り上げる彼女もといエルミーは紙を近くの冒険者に渡し、回して見せるように言う。
回ってきた紙を見た冒険者たちからまたザワつきが起こる。それは広がっていき、ギルド全体がザワついていく。
「ああ、その通りだ」
ギルドマスターは素直に肯定した。
その悪びれた様子のない態度にエルミーが目を丸くする。
「な……み、認めるのか?」
「認めるも何も、俺は元から一度も緊急クエストとは言ってねーだろ」
確かに、俺が聞いていた説明の中に『緊急クエスト』という言葉は無かった。
だが、それは詭弁だろ。
確かに一度も言ってはいないが、状況がそれを伝えているのだから。
例えば、今回俺がギルドにやって来たのも緊急クエストの時の招集の仕方で集められたのだ。それは他の冒険者も同じであろうし、もし違ったとしたなら始めの全体的に重苦しい空気はどうしたというのか説明がつかない。
その考えをエルミーも同じように思ったのかは分からないが、
「き、詭弁だ!そんな詭弁が通じると思うのか!?」
と反論した。
だがギルドマスターは落ち着いて言葉を返す。
「詭弁じゃねーよ、これは事実だろ?俺は確かに一度も言ってねー。違うか?」
「うっ……」
「まあまあ、そんなに噛みつくな。それより、その情報をよく持っていたなエルミー。さすがA級冒険者だ。お前のおかげで話を進めやすくなった、褒めてやる」
そう言って徐に横にあるテーブルに置いていたらしい紙を見せる。
その紙はクエスト用紙の三倍くらいの大きさがあり、書かれている内容は――
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
A級クエスト【グレイラビ防衛戦】
クエスト類別:ギルドクエスト
内容:グレイラビに迫る脅威の討伐ないし撃退
報酬額:20,000C
報酬手当:ギルドマスターが飯を奢る!
受付期限:明日の明朝
____________________
「これがクエスト用紙だ。類別はギルドクエスト、報酬手当で俺自らが飯を奢る」
ん?見間違いか?
目に埃が入ってないか確認。入ってない。
報酬額が2万と書かれている気がするのだが……気のせいか?
「報酬額は20,000Cかよ、ショボいなオイ」
何処かでそんな声が聞こえた。
何を言っているのだろうか、2万はとんでもない額だろうが!
2千で驚いたのに桁が増えるとは、凄いな。という俺の考えに泥を塗るつもりか!
……………ん?待てよ?
確か、前の時の緊急クエストは前金が50万だったか?
何故だろう。そう考えてみると安く感じてしまう……。
「緊急クエストでないなら私は此処を去らせてもらう。ギルドマスター殿、貴方には恩があったが、今の貴方は私には狂ってしまったようにしか見えないのでね」
そう言って去っていく五人パーティーの冒険者。そのリーダーと思しき人物は、ギルドマスターに質問をしていた貴族然としたイケメンだった。
「ああ、受けないという者は出て行ってもらって構わない。それを止める手段はあっても、使用する資格は今の俺には無いことを自覚している」
そう言って出て行くイケメンを止めようとしないギルドマスター。
その言葉に他の冒険者たちも立ち上がって出口に歩いていく。
そんな中、一人の冒険者が立ち上がり吠えた。
「俺はそのクエストを受けるぞ!前の緊急クエストよりは確かに安いが、2万も大金なことには変わらないからな!」
隣にいた心優しい男前の冒険者だった。
彼に続くように幾人もの冒険者たちが立ち上がる。
「そうさな!アッシらには守らにゃーいかん物がある!」
「それにはお金がかかりますからね」
「金が貰えるなら文句は無い。ただし、払えないなどとは言わせないぞグラディス屋!」
冒険者ゆえか、その格好は全員統一性はないが、唯一、首から下げるY字のネックレスは全員が持っている。
教会関連の何かだろうか?
粗野なイメージがある冒険者たちが敬虔な一教徒であるとは予想だにしなかった。
「そうか、すまんな。お前らは孤児院があるからなー。報酬手当で孤児院のガキ共連れてきていいぞ」
「その言葉、忘れるなよオッちゃん」
孤児院……?教会運営の孤児院なのか?
ということは、今立っている冒険者たちは孤児院から独り立ちした冒険者たちか。育ての孤児院を冒険者になった今でも恩返ししている、といったところだろう。
「俺らの血盟"獅子の剣"もやってやんよ。オヤジにはいろいろと恩があるかんな。なあ、野郎共!」
「おお!」
「当たり前だろ!」
「面倒……と言いたいとこだが、リーダーの方針に従うのが血盟の基本掟だしな」
そう言うのは首の周りを赤毛で覆った鎧で揃えた一画の冒険者たち。
最初に声を発したリーダーらしき冒険者は獅子に似せた面を被っている。
何だろう。暑苦しい。そしてむさ苦しい。
他にもまちまちだが冒険者たちが受注する旨を各々ギルドマスターに伝えていく中、俺は俺の手を握りしめているデュアルに目を向けた。
俺の本心としては怖い。
オークは俺の中でその名を聞いただけで拒絶反応が出るほど恐ろしい化物となっている。
それはそうだろう。
誰が好き好んで自らの命を奪おうとした張本人ないし似通った奴に会おうと思うだろうか?
もし、復讐者となることでそのような行動をとる者が居たとしても、それはそれであり、俺は違う。
トラウマ、というものがこの世にはある。俺にとってオークはそれなのだ。
しかし、これは俺の問題であってデュアルには関係ない。
もしもデュアルが受けると言うのなら俺は協力する。
パートナーとして。
俺のことを信頼してくれているデュアルに俺が信用しないわけにはいかないからな。
まあ、デュアルの使用武器は弓だ。後方支援なら危険も少ないだろう。回復役は任せろ!
「ジュナサン、出ようか」
沈んだ聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声が耳に届いた。
俺はそれに確認をとる。
「いいのか?」
「うん、住民が逃げれるんだから……あの人達も逃げれるはずだし。それに、ジュナサンとの約束で危険なことはしないって言ってるもね」
苦笑してみせるデュアル。
あの人達、というフレーズが何かのフラグな気がしないではないが、デュアルが良いのなら良いか。
俺としても少しでも危険のあることはしたくないしな。
俺たちは連れ立ってその場を後にした。
何故か最後に目が合ったギルドマスターが少し安堵したような苦笑を漏らしたのが見えた。




