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Re:KoboldSaga  作者: 空見鳥
23/33

錬成皇コイの失われた―――

やっとこさ次話投稿です

不明な点があるかと思われます

誤字脱字などもあると思われます

感想で短くでもよろしいので教えてください

大幅な変更はできませんが後書きで追加説明します

誤字脱字は直します

 翌日、魔法具店のクレルの部屋で目を覚ました。

 シホちゃんとの討論が終わった後、クレルに頼み寝かせてもらっていたのだが、ガイドはそのことを知らなかったらしい。

 なので、俺がトイレに行く際に歯を磨いていたガイドに会った時は驚いた顔をされた。

 その時のガイドの格好がクマさんのパジャマだったことに、俺は俺で驚いた。

 昨日の夜見せた鬼気迫る姿が夢幻だったのではと思えたのも仕方ないと思う。

 その後、寝ボケたクレルが起きてきてガイドに説明を要求されていた。

 そしてクレルがいろいろと言い訳を言ってくれたおかげで、ガイドも「なら、仕方ねぇな……」と納得したようだった。

 しかし、どんな言い訳を言ったのか。

 そのからガイドの俺を見る目が同情したような、守ってやらないと、という面倒な目になった。

 その上、両手を肩に置かれ――


「辛かったろ……。俺ぁできることは少ねえが、守ってやることくれぇできっからな……!」

「いや、あの――」

「良い……、良いんだ。何も言うんじゃねえ!」


 分かってっからよぉ、と何度も頷かれた。

 何故目頭を押さえるんだガイド。

 挙句の果てに力強く抱きしめられた。

 抗おうにも丸太のような腕の万力のような力には敵わなかった。

 肉体強化系のスキルを発動すれば突き放せただろうが、逆にガイドを殺しかねないのでやめておいた。

 されるがままの俺を最後に撫でて、クレルを呼んで朝食を全員で食べると告げた。

 本当に、クレルはどういう言い訳を言ったのだろう……。


 肉と野菜のバランスがほど良い朝食を食べ終え、ガイドとクレルが店の準備を始める。

 厄介になっている身なので俺も手伝った。

 ここでまた何故か、ガイドが泣いた。

 泣きながらのガイドに話しかけられたクレルは少し引け目を感じているのか、引きつった笑顔で応えていた。

 準備が恙無(つつが)く終わり、店を開いた。


 俺はしたい事があるので外に行くことをガイドに告げると、ガイドは目頭を押さえながら許可を出してくれた。

 クレルの言い訳がどんな話だったのかは分からないが、俺のためにガイドが泣いてくれていたことは分かる。ガイドは良い奴だ。

 その女性用の可愛い某有名ネズミーランドの主人公を彷彿とさせるネズミの布着ぐるみを着ていなければ、更に男前度が高かっただろうに。

 サイズが合っていないからなのか、それともガイドの筋肉搭載量が凄いのか。ピッチリしていた。

 そして何故かブラ。

 いや、あれはきっと胸筋サポート専用ブラジャーなのだろう。そう、信じよう……。


 さて、ガイドに許可を得た俺は今、とある場所を目指して歩いている。

 許可を得た後、俺はクレルに道を聞いていた。

 その道というのが、ロザリオの研究室だ。

 彼女は片付けを終え、直ぐにでも新しい研究室に行くと言っていた。

 なので、一日経った今はもうスラム街には居ないことだろう。

 また会おうと言っていたが新しい研究室の場所は聞いていない。

 分からないので会おうと思っても会えない状態だ。流石にシホちゃんでも知らない情報は知らないので聞いても話は進まない。

 だが、彼女は魔法具の天才で称号持ちだ。そして今いるこの店は魔法具店。

 そこで働いているクレルなら情報を掴んでいるのでは!?という考えから研究室の場所を聞いたのだった。

 俺の考えは正解。クレルはロザリオの研究室への道行きを教えてくれた。

 しかし、説明中嫌そうな顔をしていたのは何故だろう?

 まあ、分からないことは分からないのだし置いておこう。


 俺は商業街を抜け、観光区域の中で最も中心に近い場所、層構築物街に出た。

 層構築物街はマンションのように高い家屋を何階層にも別けた建物が軒を連ねている。

 謂わば、異世界版高層ビル街だ。

 地球のそれと違った点は見た目、というより建てるための建材と建て方だろう。

 魔法があるからか、全て煉瓦造りだ。

 金をかけていることがよく分かる建築方法である。


 ここでこの街の構成を紹介しておくべきだろう。

 この街"グレイラビ"自体の外壁の形はデカい円だ。

 そして、街の中心に公爵家の豪華で要塞と言えそうな屋敷がある。

 その周りを公爵家の屋敷に比較すると敵わないまでも、豪商や金持ちの豪華な家々が並ぶ。

 その周りに小金持ちの家、一般家庭と輪状に軒を連ねる。

 これが所謂、住民区域だ。

 その住民区域と街の東西南北にある門を繋ぐ大通りを囲むように観光区域が存在する。

 観光区域は商業街や宿屋街、食事街などと言ったところで実は意味がない。

 何故なら、入り乱れているからだ。

 商業街の隣に宿屋街があったからと言って、その隣が食事街とは限らない。その隣はまた商業街かも知れないし、まだ行ったことはないが賭博街や色街などかも知れないからだ。

 凄いところでは、色街の隣に宿屋街があり、その隣にまた色街。次は賭博街で、またまた色街なんてこともあるらしい。

 娯楽の少ない国では娼婦館が多いと聞いたことがあるが、少しやり過ぎな感が否めない。

 そして、最後のスラム街だが、これは大通りとはかけ離れた活気の無い街の片隅にある。

 これについては理由を語ると長くなるので簡潔に言うと、何もない空き地を貧乏人たちが占拠したに過ぎない。

 それが大きくなったのがスラム街だ。

 これがこの街の全容である。

 基本的に、公爵家の屋敷に近いほど土地代が高くなり、街での権力も大きくなると言っても過言ではない。


 層構築物街は観光区域の中で最も中心に近い。

 つまりは、観光区域の中で最も権力がある金持ちの住宅街だ。

 そんな中にロザリオの研究室はあるらしい。

 まあ、彼女も称号持ちで凄いらしいし、クエストの報酬額を考えれば金持ちなのは一目瞭然だ。

 そして、ここに住んでいる者たちは一貫してロザリオと同じ程度の金持ちなのだ。

 そんな中にコボルトが一人。

 浮くなと云う方が難しいだろう。

 そして予想通り、俺は目立ってしまいお嬢様方に囲まれた。


「可愛いわ〜。ウチで飼いたいわ、パパ許してくれないかしら?」

「あ、抜け出し禁止よ!この子は私のパパに飼ってもらうんだからー!」

「父上に相談しなければ……。君は誰かにもう飼われているのだろ?ならば他のコボルトを飼いならすしかないだろうし……」

「ねねっ、あんた名前なんて言うのよ?ご主人様になるんだから教えなさいよ!」

「お退きなさい!コボリスちゃんはアタクシが今日からウチで飼うんざます!」

「ババアは引っ込んでなさい!」

「ぬわんですって!?親の脛を齧るしか能のない小娘風情が!ンキィーー!!」

「はっ!こちとら自分で奴隷商団束ねるやり手よババア!!」


 とまあ、勝手に飼う飼わないと叫んでいる。

 中には少しは常識的なことを口にしていた牡丹色の髪に着物のようなゆったりとした服を着たお嬢様もいたが、言動は一切一致しておらず後ろから俺の腹周りに腕を回して抱きついている。

 だんだん俺を巡っての言い争いが激しさを増してきている気がする。

 何故こんなにもコボルトがモテモテなのだろうか?

 確かにコボレイ君はとても可愛らしかったが、コボルトマザーなどは気持ち悪い部類に入るぞ?

 俺は今の大きさ的にコボルトマザーと同じくらいだろう。あれほどだとは思わないが、俺も俺で変わっているし俺には理解し難いものだ。


「それならば、コボリスに決めてもらうのはどうだろう?」

「え?」


 俺に抱きついて離れない牡丹髪のお嬢様が片手を挙げて発言した。

 その言葉は何故か勢いの強くなった言い争いの中において、よく響いた。

 その言葉に俺は腑抜けた声をあげる。

 全員の目が俺に集まり凝視する。


「それもそうね。貴女に決める権利を認めましょうコボリス?」

「コボリスちゃんはアタクシを選ぶわよね?」

「俺を選ぶことを許可するぞ!」

「え、なになに?コボリスが私のことをご主人様と認めるってこと?」

「コボリス、僕を選ぶことも選択肢に入っているからね」

「で、どうなのよ?」


 エメラルドグリーンの髪をサイドテールにした少女が最後に全員の考えを代表して聞いてくる。

 全員が全員、自分が選ばれることを疑っていない目をしている。

 なんでこうなったんだ……。

 俺はペットのように甘やかされるのは嬉しいが、主従関係を結ぶ気はないぞ。


「あれ〜?コボリス何してるの〜?」


 俺が困惑していると空から聞いたことのある間延びした声が聞こえてきた。

 その声に反応して俺とお嬢様たちが空を仰ぎ見る。

 そこには気球が三個の青い袋『生活道具パック』と一個の白い袋『携帯収納パック』を吊って浮いていた。

 そこから顔を出しているボブカットの少女。


「あ、ロザリオ!ちょっと助けてくれ!」

「え、どうしたの〜?まあいいけど〜」


 ロザリオがそう言って気球から飛び降りた。

 それを予想できなかったお嬢様たちが悲鳴をあげて俺から離れていく。

 俺はというと、同じく慌てていた。

 俺の予想ではロザリオが気球から縄を投げ落としてくれることになっていた。

 そのありきたりな予想虚しく、ロザリオの身投げ。慌てず冷静に対処できる奴は頭のキレが異常に良いか変態だ。

 俺はそのどちらでも無いようなのでただ突っ立てっているしかできなかった。


「ガフッ」


 俺の方を目掛けて飛び込んできたロザリオの腕が綺麗に喉を直撃したことで喉の奥の空気が漏れ出る。

 俺の細い体では勢いを吸収しきれず、慣性の法則だったかに従い後向きに倒れる。


「転換」


 耳元でロザリオが一言呟いたかと思えば、俺は気球の籠の縁に頭をぶつけた。


「ぬぅぅうぉぉぉおおおおおお!頭が割れるぅぅううぅうぅうぅううう!!」


 数瞬の間を置いて激痛が脳に伝達し、後頭部を押さえながら転がる。

 凄く痛い!どれくらい痛いかって例えるなら……もの凄く痛い!!


「何してるのコボリス〜?狭いんだからあまり暴れないでよ〜」

「誰のせいだと思ってるんだ……」

「え〜?助けてあげたのに私のせいにするの〜?なめてるのかな〜」


 そう言って俺の頬を抓るロザリオ。

 皮が伸びるだけなので痛くはないが、息がしづらいよロザリオ……。


「で〜?下で何か喚いている娘達は知り合いなの〜?いったいいつからレズビアンになったの〜?」

「いや、レズビアンて貴女……」


 下を指差しながらロザリオが聞いてくる。

 しかし、俺は彼女たちとは初対面なわけで、それに俺は身体はメスでも中身は男なわけで……。

 俺は籠の縁から顔を出し、下にいるお嬢様たちに向けて声を張った。


「俺は用事があるからまたなー!」


 その言葉を聞いたお嬢様のほとんどが気に食わないらしく文句を叫ぶが、一部のお嬢様――俺に抱きついていたお嬢様などが何かを察したように頷いていた。

 何故だろう。その頷きに何か嫌な予感を感じた。

 少し遠くの物影に昨日道案内をしてくれたストーキングマン達が見えたので手を振っておく。

 気のいい奴らだったので味方にしておいて損はないだろう。……たぶん。

 そんな俺を見てどう思ったのか、ロザリオが溜息混じりに呟いた。


「コボリス〜、天然なのか計算なのかは分かりにくいけど罪な奴ね〜。やり過ぎは危険よ〜?」

「ん?味方は多いに越したことはないだろう?」


 先が思いやられるわ、と額に手を当て宝箱の上に腰を下ろすロザリオ。

 見ると宝箱は大きさは同じだが、他にも二つある。

 なので俺もロザリオに倣い宝箱に腰を下ろした。


「何勝手に座ってるのよ〜」

「ケチくさいこと言うなよ」


 これくらいは許してくれても良いだろう。

 俺は敢えてロザリオのネチネチとした文句を難聴スキルを使用することで聞き流し、本題に入る。


「それよりもだロザリオ。今から研究室に帰るところだよな?」

「まあ、そのつもりかな〜。何〜?私に何か用事でもあったの〜?」

「まあな、これは専門家に聞かないと分からないから。良かったよお前が居てくれて」


 そう言うと少し赤みを増した顔で胸を張るロザリオ。


「ま、まあね〜。私はこう見えても錬成術のことに関しては少なからず詳しいつもりだし〜。錬成術に関しての質問や疑問なら大船に乗ったつもりでいてもらっても構わないかな〜」

「おう、頼りにしてるからなロザリオ!」


 その後、研究室に着くまでの間ロザリオは俺に錬成術について語った。

 そして、今俺たちが乗っている気球――ロザリオ曰く魔法船が浮き、進路をどうやって決めているかなどの原理を語りまくった。

 なんでも、錬成術というのは魔法を使った科学のような物らしい。

 行き過ぎた科学は魔法と同じと聞いたことがあるが、魔法を誰でも使える魔法具にしようとすると科学と同じ物になるようだ。

 錬成術を習う者達の中には価値の高い金や金剛石(ダイヤモンド)、ファンタジー鉱石のヒヒイロカネやアダマンタイトなどを作ろうと考えるうつけ者もいるらしい。

 そいつらは自らを錬鉱術師と名乗っているらしく、どこの世界にも似たような奴がいるのだなと思わずにいられなかった。

 気球の原理についてをまとめよう。

 元素魔法と呼ばれる基本魔法を石に刻み(魔法石と呼ばれる)、その魔法を行使することで動力源としているらしい。

 浮く原理は熱気球のソレとなんら変わりは無かった、ただ元素魔法の火魔法を刻んだ魔法石によって熱を生じさせているので火事の問題はないそうだ。

 進路を変える原理、というよりも方法は元素魔法の風魔法を刻んだ魔法石で気流を操作しているからだそうな。

 あまりファンタジーな原理はその説明には無く、ちょっと魔法石が便利だなぁっと思った程度だった。



◇◇◇◇◇



 研究室に着いた。

 俺の聞きたいことを聞く前にロザリオの荷物を研究室に運び入れるのを手伝う。

 二ヶ月は研究室に籠るつもりだったらしく、一気に買い貯めたそうな。

 それでもロザリオが作製した魔法具『空間圧縮機能つき収納具』の恩賜のおかげで軽く場所取らないで沢山入る。

 ロザリオ本人曰く――


「こんなのまだまだよ〜。空間圧縮だけだと中に入っている物は普通に時間経過によって腐ってしまうもの〜。だから今は干し肉とか乾物系しか食べ物入れられないのよ〜。欲を言えば時魔法を使用して時間停止させたり〜、時間経過を遅延させたり〜。最低でも寒冷魔法を使った冷蔵化を目標にしてるのよ〜?」


 まあ今の私の技術力だと空間圧縮に他の魔法を足すのは厳しいんだけどね〜、と最後に戯けて見せた。

 しかし話を聞いてみれば二つの魔法を刻むのはできるらしい。

 つまり、ロザリオが初となる空間圧縮魔法を刻んだ魔法具にどうやったら別の魔法を重複させて刻めるか分からないだけだそうだ。

 うん、ロザリオは普通に凄い。


「で〜?デュアルもいないしどうしたの〜?何か私に聞きたいことがあるみたいなことを魔法船の中で言ってたけど〜」


 全ての荷物を研究室に運び入れ終わるとロザリオが椅子と丸い机を用意して、本題に入るように促してきた。

 俺もできるだけ早く切り出したかったのでありがたい。

 ロザリオが生活道具パックから取り出したコップと急須――ささっと熱と水の魔法を刻んだ魔法具――を机の上に置くのを視認しながら話をする。


「ちょっとした事情で、魔法具店の厄介になっているんだけど、そこの店長が昨日作った魔法具が少し気になってな。とは言っても俺は魔法具に関しては素人だからさ、称号持ちのロザリオを頼ろうと思って」


 俺が短く簡潔に説明する間に茶葉を急須に入れるロザリオ。

 茶葉は少し茶色かったので、紅茶だろう。

 急須の蓋に片手をやり、空いた手で急須をコップに傾ける。

 外見もあいまって、思春期の少女が礼儀を気にした所作に見えてしまう。

 淹れ終わった褐色の紅茶を見て一つ頷いた後、俺の方へとコップを寄越す。

 そして今度は生活道具パックから小瓶を出した。

 砂糖よ、と簡潔に伝えた後ロザリオはそれを入れずにコップに唇をつけ紅茶を嚥下した。

 そして一息吐いた後、怒ってますと言わんばかりの顔を作るロザリオ。


「先ず一言ね〜。コボリスが何をしたいのかはなんとなく分かったけど〜、それって不躾だよ〜?私も魔法具を創る錬成術師だから〜ってわけじゃないけど〜、人にはそれぞれ侵されたくない自分だけの問題や世界があるんだから〜、優しさだとか〜良かれと思って〜とかそういう自己満足な行動は慎むべきだよ〜。まあ、君がそれでもと言うなら断らないけどね〜」

「あ……、はい………」


 何を言われるのかと思いきや、説教をされた。

 間延びした声は叱られている時の怖さなんかはないが、その言っている言葉の意味を理解すると自己嫌悪になりそうなほど適確だ。

 全くもってその通りだ。

 何かを頼まれたわけでもないのに勝手に解決しようとしている。

 ガイドの背中を押してやりたいから、クレルの涙を拭ってやりたいから。そんなのは俺の独り善がりでしかない。その通りだ。

 ガイドの想いも知らなければ、クレルが泣く理由も分からない。

 ただ、そこに居合わせただけで、解決できそうな気がしただけで赤の他人がどうこうしても良いのだろうか。

 ここに来て、ロザリオに指摘されるまで気づきもしなかった。

 前世で俺が就職に悩んでいた時、心配した親が就職先の求人を持ってきた時、俺は勝手に決めつけられた気がして怒ったのを思い出した。

 俺はそれと同じ、いやそれ以上に最低なことをしているのではないだろうか。


 本当に良いのだろうか?


 その思いが頭の中を支配していく。

 止めるなら今だろう。

 たぶん俺がそれでもやると言えばロザリオは言葉の通り快く手伝ってくれるだろう。

 しかし、それであの魔法具を創ったとして、それは本当にガイドが創った(・・・)と言えるのだろうか。

 それはガイドの誇りを傷つけるのではなかろうか。

 ぬー、分からない。頭が痛くなってきた。


 【これは予想ですが、マスターがここでやらなければガイドは死んでもあの魔法具を創ることはできないと思われます。あれは重要な部分が欠落しているので、ガイド死後クレルが如何に努力すれど欠落部分を修正しなければ創れないでしょう。その欠落を修正できるのはマスターの知識しかない、と僭越ながら申し上げます】


 てことはシホちゃん的にやるべきだと思うんだよね?


 【はい。私としての考えになるのですが、結果を残せず散る誇りなど無意味かと。結果を打ち出した後、誇りというものは付いてくるのではないでしょうか】


 おお、つまりは試合に負けて勝負に勝つより、試合に勝ったから勝負に勝ったと思え的なことですか!?


 【少々異なりますが、まあそれで良いでしょう】


「ということで、やる!」

「……?えぇーと〜、まあやるんだね〜?嫌われるかもしれないのにやる……、うんうん青春だね〜。私〜、そういうの嫌いじゃないよ〜!」


 そう言って右手を挙げて青春万歳と言い出した。

 なんということでしょう。俺の反応を楽しむためにわざと言っただけで、元から面白そうなのでヤル気満々だったらしい。

 それにしては核心を突いてきた気がするが……。

 ロザリオ……恐ろしい子!


 紅茶を飲み終わり、ロザリオがどういう物なのか聞いてきた。

 なので俺は最初に借りてきた失敗作を見せた。


「何この金板〜?」

「これが俺が厄介になってる魔法具店の店長が創った魔法具の失敗作だ。何か分からないか?」

「このままを見せられて分からないか、と聞かれてもね〜。うーん……」


 そう言ってジックリと観察しだしたロザリオ。

 なんとなく濁していた割に、気がつくところがあるようで時々納得の声を出している。


「手に取ってみても良いよね〜?」


 そう言い終わる前に手に取り調べ出す。

 頼んでいる側として何も言えないのだが、質問したなら応答を待ってから行動しろよと思わずにいられない。

 裏側や側面まで観察していくロザリオ。

 何かを口の中でブツブツと発している。何か手掛かりでも発見したのだろうか?


「何か分かったのか?」

「なんとなくだけどね〜。使っている技法と方則は分かったんだけど〜、繋ぎ方があまりにも不可思議〜。でも〜、これがいったい何の魔法具かは分かったよ〜」

「お、おぉ……。本当か」


 これがもし、本当なら俺とシホちゃんが高速思考の中で討論した結果のほとんどを言い当ててしまう。

 さすが錬成術の天才。俺たちは秘伝の創り方みたいなのを見て行き着いた物を現物の、それも失敗作を見ただけで辿り着くとは。

 あれ?これ、俺のいる意味なくね?


 【マスターが居なければ天才(ロザリオ)はこれを知れませんでした。それにマスターの知識で似たものがあったのでそれを確かめ応用する為、彼女に会いに来たのです。その知識はマスターしか知り得ないのですから居る意味はございます。気を確かにマスター】


 シホちゃんが俺をフォローしてくれる。

 ありがとうシホちゃん、ちょっとショックを受けていたようだ。立ち直れた、大丈夫。

 そうだ、俺の知識にあるアレをこの世界にトレースするために俺は天才を頼ったんだ。

 俺は魔法具を創るなんてできないけど、この世界にない知識を持っている。それをトレースしてもらうためにロザリオに会いに来たんだ。

 うん、大丈夫。俺の役目はちゃんとある。


「えっとね〜、先ずこれは第一階梯に銘記された伝説の大魔術師にして〜、錬成皇"コイ=マギノ=マターナ"が編み出したコイ錬技と呼ばれる技法を用いてるの〜。これは高難度の技法なんだけど〜、魔法具の完成度が高くなることで有名な技法〜。

そして〜、方則だけどこれは加算数乗方則を使ってるわ〜。これは他者に真似できにくくするためによく使われる難儀な方則よ〜。

それで〜、これは"封魔凝縮滅殺"の魔法具ね〜。中難度の封印魔法に上難度の物質凝縮魔法の重複刻印ね〜。魔法具に封印した後物質凝縮で魔法具を視認できないレベルにまで小さくしてこの世から忘れ去らせる強力な魔法具〜。

難易度としては私が創った空間圧縮刻印の魔法具よりもずっと高いわ〜。こんなの創った奴は頭がどっか飛んでる本物の天才ね〜。私これを創ったであろう人物に心当たりあるわ〜」

「え、本当に!?」

「ええ〜、異常なまでの完成度だもの〜。この失敗作は繋ぎ方が可笑しいけど〜、どう考えても元の作品はできあがってるから〜。錬成皇コイの失われた創方、遺物(アーティファクト)ね〜」


 アーティファクト……ときたか。

 しかしだいたい合ってる。俺とシホちゃんが討論したら専門知識がなくてもだいたい合うのか、凄いな……。特にシホちゃん。

 加算数乗方則とかは全く意味が分からないので飛ばすとして、後はその繋ぎ方(?)だ。

 これはもう、日本にお住まいの高校生以上の学力を持っている人間ならだいたいは思いつくだろう。

 これまで全然触れなかった図が、見た目とても似ているから。

 回路図、という物を知っているだろうか。電気の回路を表した図のことである。

 確か中学の頃には習っているはずだ。

 長さの異なった平行線が電源マーク、丸とバツを合わせたような物が電球マーク。それらを繋ぐ直角を愛していますと言わんばかりの角張った直線。

 他にもいろいろと加わってくるが、だいたいがこの二つを使っていたことを俺は覚えている。

 形やマークは変わっているが、それにとても似ていたのだ。

 シホちゃんが裏打ちを取るために魔法具を見させてもらっていた時に確認していたのを引き出し、なんとなく合っていることを確かめた。

 魔法具は持ち主ないし魔石から魔素を吸収し、それを全体に送る最初の点がある。それを電源に代入した。

 次にいろいろな形をした線が全体を覆うように走るが、結構な数の丸やそれ以外の形をした点――魔法具によって形は変わるらしいが、一つの魔法具に使用されている形は同一――を電球に代入した。

 すると、歪な回路図ができたのだ。

 それはこの魔法具も同じだ。

 そして見ていくと、変な点がある。

 それはこうもグチャグチャと交差させたりしていたので紛れてしまった物。だが、回路図としては致命的な物。シホちゃんのバックアップなしには俺も分からなくなっていた物だ。

 そこをこう直せば良い。

 というのを所々ボカしながらロザリオに説明して、どうすればそうなるのか教えてもらう。


「それなら――」


 スラスラと書き換えていくロザリオ。

 どこか納得のいかなさそうな顔をしている。

 しかし、自分で書き換えているうちに得心がいったようで「あ、そっか〜!」と少し驚いた顔をした。


「よく専門知識もなくあんなことに気づいたわね〜。人語を解するほど頭が良い、という認識だったけど〜、もしかしてコボリスは錬成皇コイの生まれ変わりなの〜?」

「いやいや、そんなことねーよ」


 どこか本気めいた顔でこちらを見つめてくるロザリオ。

 気恥ずかしいので流すことにする。

 ほとんどシホちゃんの恩賜あってのことだし、それに何故かこの書き方が回路図を彷彿とさせたおかげなのだ。

 俺はあまり役にたっていない。


 【マスターの知識あればこその結果です。自信をお持ちください】


 フォローを入れてくれるシホちゃんマジ良い子。


 この後、しっかりとした紙にロザリオが書き換えた回路図もとい魔法術印を清書してもらい、紅茶のお代わりと茶菓子を腹に納めてガイドたちの魔法具店に戻った。

 ロザリオにまた今度魔法具を一緒に創ろうと誘われた。断る理由もないので了承しておいた。

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