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Re:KoboldSaga  作者: 空見鳥
22/33

ビーショック

い……一日で一万字は私にはキツかったようだ………。

予定では午後六時に次話投稿するつもりが、あれよあれよ書いているうちに午後十時半……。

遅々とした筆速なのでこんな時間になってしまった……。

でも、次話を次の日に投稿することは成功したぜ……!悔いなし!

 ギルド内でも上位に食い込む美女アイリスが倒れ、ギルドが騒がしくなったので俺はその隙をついて逃げ出した。

 正確には、その逃走はデュアルに暴露てしまい即終了となる所だったのだが、アイリスが倒れた理由をギルドリーダー――ギルドの最高責任者であるギルドマスターが認めた実力者が着くことのできるギルドの副マスターのような役職――の緑と黄色が特徴的な鎧を着た槍使いに問われてしまい、俺を追うことができなくなった。

 そのおかげで俺はたった一人で街をブラブラと散歩することができている。

 ギルドリーダー、マジ感謝。

 労働なんて糞食らえである。


 俺は先ず、まだ行ったことのない場所に進むことにした。

 とは言え、部外者立ち入り禁止の区域に入ることはできないので、行ける場所は限られているのだが。

 立ち入り禁止区域もクエストで入れるとデュアルが言っていたはずなので、いつかは行ってみたいもんだ。


「とりあえず観光区域の商業街を行ってみますか」


 そう決めて、商業街が何処にあるのかも分からずに勘を指針に進む。

 コボルトが街中を歩いているのはどうやら目立つらしく、すれ違う奴らの十人に九人は二度見をする。残りの一人はすれ違った後、親鳥を追う雛鳥のように後ろを着いてくる。

 奇妙な奴らだ。

 奇妙な、といえばこの街には多種多様な種族がいることが分かった。

 二本足で歩く者たちばかりなのだが、どう見ても変わっている。

 俺がよく知る前世にもいた人間や、ファンタジーなどに出てくることの多い獣人やドワーフなどを主に、二足歩行のワニに四本を腕に見たてているようにしか見えない二足歩行する巨大虫など、挙げればキリがない。

 ごく稀にだが、デカい鬼がいたり羽根の生えた空飛ぶ小人などもいた。たぶん鬼はオーガ、羽根つき小人はフェアリーだろう。

 そんな珍しい奴らでさえ、俺を二度見するのだから可笑しくて仕方ない。


 そうそう、人間の娘は外見で可愛い可愛くないを決めるのは何処の世界でも同じらしく、ただ歩いているだけだったのに可愛い〜と言って飴をくれた。

 時々男連れの娘が男をチラチラと見ながら俺のことを可愛いと言ったのには嫌な思い出を思い起こされた。

 目の前で、あの時と同じようにキスをしようとし出した奴らには制裁として、魅了と魅惑の同時併用で強制的に意識を俺の方へと向けさせて止めさせた。

 少し誤算だったのは、周りにいる他の者たちも異性同性問わず俺に釘付けにされたことだ。

 大衆の的に晒され、恥ずかしさに耐えられなくなりその場を逃げるように後にした。

 その時シホちゃんが笑っている気がした。


 とまあ、いろいろあって、やっとこさ商業街に出てこれた。

 魅了と魅惑をかけたのは失敗だったかと思いきや、俺をストーキングする奴に話しかけて道案内をしてもらったのでプラスマイナスゼロってことにしておこう。

 商業街は俺がの寝泊まりしている食事街とは違った活気を持っている。

 商業街も食事街も同じく観光区域なのだが、食事街は大抵の店が店内での食事なので店に入れば盛んにざわめいていたが、商業街は売れ売れ買え買えと言わんばかりのグイグイ商法なのもあいまって道が凄い活気に満ちている。

 店は多種多様で、一つの分野の店が別れて売っているようだ。

 白い縦の前に白い剣を斜めに下げた紋が武器屋だろう。

 その武器屋をとっても、白い紋の横には大きく色鮮やかな紋が掲げられている。

 黄色い棒の先に紫の刃、茶色い先端が丸い棒に薄水色の膜、片刃の黒い剣と両刃の赤い大剣など様々だ。

 たぶん、最初のものが槍、次に杖で最後に剣だろう。

 俺は中でも奇妙な形をした紋の店に向かった。

 武器屋なのは白い紋から分かるが、赤と黄色と白と黒と青と緑の線が中心に向かって走っているのは何を指しているのだろう。

 それに他店は外に風呂敷を敷いて見本を見せているのに、この店はそれをしていない。


「い、いらっしゃいましぇーー!」


 ドアを押し開け店内に入ると、前世でよく見たメイド喫茶御用達のメイド服を着た十八歳くらいの男子(・・)がいた。

 男子の背丈は180センチメートルあるかないかってところだろう。

 身長の割に細い、髪色は碧く髪型は前髪を下ろしてそれ以外は全て後ろに持っていっている感じだ。

 柔和な顔をしているが、どう見ても男だ。

 いらっしゃいませ、も言えないほど恥ずかしいならその格好止めれば良いのに。


「と、当店をご利用いただき誠にありがとうございまする!当店は魔法具を扱う店ですので、魔素の行使は極力控えてもらいますことをお願い申し上げますです!ご理解とご教授をよろしくお願いします!」

「何言ってんだお前?」

「へぇ!?」


 慌てすぎで早口になっているから聞き取り辛いし、語尾が変わり過ぎだし、ご理解は良いがご教授されてどうするつもりだ。なんだ、今からお勉強タイムか?

 そういう思いをたった一言に収束して発言すると、柔和な顔を驚かせて変な声をあげるメイド服男子(ヘンタイ)

 ヘンタイが何を間違ったのか分かっていないらしくアタフタする。

 その際に、丈の凄く短いスカートがヒラヒラと舞う。

 ヒラヒラと舞っているのにパンツが見えないのは何故だ。

 このヘンタイ、もしかして伝説の"ハイテナイ"なのか?


「うるせぇぞクレル……、せっかくお前俺がヤル気を出したってーのに、何ざわついてんだぁ?」


 ヘンタイの後ろから声が聞こえてきた。

 酒枯れした声と口調から職人が出てきたのでは?と予想してみる。


「あ、師匠!す、すいません!開店以来初のお客様でドキドキしてしまい、声を無意識のうちに張ってしまったようです!申し訳ないです!」

「だからうるせぇって……。ん?ぁあ?お客ってのは何処にいんだよ?」

「え?あ、ここです師匠!」


 ヘンタイ改め、ヘンタイクレルが俺と酒枯れ職人との間にいたことに気づき退いた。


「――!?ホグワァ!!」


 そこには日に焼けたガッチリムッチリな筋肉ダルマのようなオヤジが立っていた。

 濃いめの顔は、肌とよく似合っており男前だ。

 貴婦人とかに一見モテそうだ。そのコスチュームさえどうにかすれば……。

 酒枯れ職人はどう見ても女性用の蜂コスプレをしていたのだ。

 その逞しい胸板を弾けんばかりのビキニが抑え、股の秘部を隠すためにパレオをしている。白い膝下まで届くブーツと、左肩から左腕全体を包む花柄のピンクのデカい手袋が肌との色の相性によって目立つ。背にはラブリーな丸い羽根があり、尻にはお馴染み蜜袋。白髪頭に映える二本の触覚。

 一言で言い表すなら、痛い。

 声と格好があまりにも不釣り合いだ。

 なんとなく入った店はヘンタイと痴漢の巣だった!


「おめぇ、今すっごく失礼なこと考えてねーか?」

「いえ、まったく!」


 その姿で凄まれるとある意味怖い。

 俺の言葉遣いが少し変わってしまったのも致し方ないことだと思う。


「ん、それなら良いんだ。人の趣味を笑うクズには俺ぁ物は売りたくないんでな。こっちとしては何も趣味を押しつけようとはしてねぇんだからな!」

「おお、さすが店長!よく分かってるー!」

「あたぼうよ!そもそも俺たちにゃ自由権というものが――」


 酒枯れ痴漢がヘンタイクレルの担ぎ上げに気分を良くしたようで、自分の主張を語り出した。

 それに上手い相槌をいれるヘンタイクレル。

 なんだか漫才を見ているような気がしてくる。

 とりあえず俺には関係ないことなので無視し、店内を見て回ることにする。

 ヘンタイクレルは先ほど、魔法具を扱う店と言っていた。

 魔法具、この世界にある魔法を道具に付与した物のこと。今ではなくてはならない、生活の基盤となっている。

 確か、それを創る天才が昨日会ったロザリオだったはずだ。

 彼女は今の所、この世界で唯一空間圧縮魔法を道具に付与することに成功した人間だ。

 元々、錬成術師と呼ばれる職種は魔法具を創る職業だ。

 錬成術師たちが食事も取らず、寝ずに研究を続けたおかげで夜の街は明るくなり、火を起こさずに熱を使った料理ができるようになったらしい。

 中でも三大発明とされる画期的な発明をした天才は、偉人として歴史に名を残すほどだ。

 ロザリオの発明も画期的なものである。もしかしたら彼女の名前が後世まで残るかもしれない。

 と、ロザリオ本人が語っていた。


 俺としても魔法具は凄い物だと認識している。

 そもそも世界の法則を複製して操る魔法という物自体が前世では考えられないほどの価値がある。

 魔素と呼ばれる大気に溶け馴染んでいる粒子に命令するだけで簡単に森羅万象を変えられるのだ。

 しかしそれには個人差があって、同程度の魔素量に命令しても干渉力(魔力と呼ばれる)によって変わる。

 その干渉力の差を無くすのが魔法具だ。

 一定の干渉力を保証された魔法具は、大量生産できる上変わらぬ安定的力を維持する。

 干渉力の弱い者でも魔素さえ供給すれば決められた現象だけしか変えられないと限定的であっても、森羅万象を変えれるのだから。

 そんな便利アイテムである魔法具を扱う店。

 今朝方、俺の腹を抉ったナイフを証拠隠滅のために食べると能力を手に入れることができたのを覚えている。

 ここで魔法具を買い溜めして、食べまくれば簡単に強くなれるはずだ。

 う〜〜んっ、ヨダレが止まらん!


 が、店内をウィンドウショッピングしたところで、どの魔法具がどのような能力を持っているのかが分からない。

 そういうのも、魔法具の説明がどこにも書かれていないのだ。

 俺にできることと言えば、壺口が長く下重心の壺に顔が描かれた遊び心溢れる一品の前で「ハックション!」とクシャミをする程度だ。

 まあ、中年太りの魔人は出てきてくれなかったが……。


「ん?どうしたの?もしかしてご主人様からお使いを頼まれてた?」

「俺にご主人様なんていねー」

「え、そうなの!?ごご、ごめんね!じゃあ普通に頭が良いんだね君」


 ヘンタイクレルが俺を使い魔か何かと勘違いしたらしく、失礼なことを言ってきたので訂正する。

 その言い方だとデュアルが俺のご主人様になってしまう。それだけは絶対あり得ない話である。

 それより、魔法具について聞くとしよう。


「この中で一番有用な魔法具はどれなんだ?」

「え?お使いじゃなかったんじゃないの?」

「俺が個人的に買うのはいけないのか?」

「ご、ごめん……なさい」


 俺の質問に質問で返すとは、こいつ本当に商人か?

 先ほどからけっこう失礼なこと振る舞いが多いぞ。

 あまり失礼過ぎると、こっちもこっちでそれ相応の対処をしなければならなくなるぞ。

 具体的に言うなら、モンスター化するぞ。

 苦情のモンスターとなるぞ、怖いんだぞ苦情モンスター。最近では社会問題となってるほどだ。

 コボルトという種族的にもモンスターな俺が苦情モンスターになってみろ、MONSTER×MONSTERだぞ。著作権的に凄く怖いぞ!


「えーっとね、なんだっけ……。……あっ、当店でのオススメ商品は――」


 何かを思い出す素振りを見せたかと思うと、移動し出したヘンタイクレル。

 そして、とある商品の前で止まった。


「こちらっ!第五階梯(ロア)等級魔法具、ししょ……じゃなくて当店のオーナーが創造した渾身の一作"空振の鐘馗"!触ることのできない幽鬼や呪いなどを殴り飛ばすことができる破邪武具です!

本当なら武器として他店で売るべきなのですが、当店のオーナーは気の早いお方。趣味をバカにした他店のオーナーたちには卸さないと言って聞かないので、魔法具として当店で扱っております!」


 最後の情報はたぶんヘンタイクレルの愚痴だな。

 言わなくとも良いだろう情報だ。苦労しているらしい。

 だが、お前も似たような格好をしていることは忘れるなよ?

 まあ、その話は置いといて。

 どうやらこの魔法具もとい破邪武具は凄い性能のようだ。

 呪いを殴り飛ばす、という表現は可笑しい気がするが、呪いを解呪することができるということだろう。

 食べることができるなら凄い能力を手に入れれそうだ。

 欲しいなー。その思いを込めてヘンタイクレルをチラチラと見つめる。


「欲しいなら買いましょう!開店以来初の来客サービスとして、三割引きいたします!」

「でも、お高いでしょう?」

「チッチッチ。ほんの5万Cでけっこうですよお客さん!」


 何言ってんだこいつ……。

 俺は知っているぞ、5万Cが全然安くないことを。

 確か、350Cが成人の一日に使う平均的金額だ。それの11倍以上に相当する錬成術師のクエストの報酬額は4000C。

 つまり錬成術師のクエストの報酬額があれば、十一日間は暮らせる計算だ。

 その報酬額の12.5倍の値段がするということは、この魔法具を買う金があれば百三十七日間は暮らせるわけだ。少なくとも!

 地球は一年が三百六十五日あった。この世界がどれだけかは分からんが、地球なら四ヶ月以上暮らせるのだ。

 四ヶ月で使う成人の平均的金額は、月々15万円くらいだとして60万円!

 能力は欲しいが、高過ぎる。


 【解呪ならマスターの手持ちスキル浄化で容易にできます】


 あ、能力も要らなくなりました。


「さあ、お手に取ってみてください!」

「あ、買わないから良いです」

「えぇ!?」


 他に何か良いのは無いのだろうか?

 他に良い物を探すのでヘンタイクレルに説明を頼むと伝えると、とても喜ばれた。

 喜び過ぎて、「お客様大感謝セールで、半額にしちゃう!」と言い出した。

 客である俺は願っても無いことだが、店は潰れたりしないのだろうか?

 オーナーと呼んでいた酒枯れが何も言わないので、たぶん良いんだろう。


 その後、いろいろな魔法具の説明を聞いた。

 撃退用魔法具で一番印象的だったのは黄色い玉としか言えない野球ボール並みの大きさの臭染玉。臭いを染み込ませる玉らしい。主に嗅覚の鋭いモンスターや猛獣たちの嗅覚をダメにするための物らしく、近くに寄っただけでとても臭かった。

 生活用魔法具で一番印象的だったのは白濁色の鍋のズボラ鍋。名前の通り、ズボラな性格をした人にうってつけの鍋で、適当に具材を入れるだけで美味しい鍋料理ができあがる。一人暮らしには持ってこいだ。

 だいたいの魔法具の説明を聞き終わった頃、店のカウンターの奥から金属と金属が打ち合う音が聞こえた。

 何事だと思い、ヘンタイクレルに問う。


「ああ、もうそんな時間なんだね〜。アレは師匠が魔法具を作っている音だよ。見学でもしていく?たぶん面白い物が見れると思うよコボリス」


 説明を聞くうちに堅苦しさとモンスターに対しての下に見る感じが抜けたヘンタイクレルが、聞いておきながら問答無用で手を引っ張って奥へと連れて行く。

 俺ももう見慣れたのでヘンタイを取ろう。

 クレルに連れられてカウンターの横にあるドアを通る。

 ドアを開けた先には急に階段になっており、急な段差に少し足を滑らせかけた。

 それをクレルがやすやすと支えてくれ、「ちょっと段差大きいから気をつけてね」と微笑みながらアドバイスし、俺が転がらないようリードしてくれた。

 何こいつ男前。だが、大人としての俺の自尊心が現状を打破せよと告げる。

 俺はそのお告げに従い、階段を蹴って空中で体を回転させながら階下に着地した。


「おお、コボリスやるね〜」

「子供扱いしないでもらおう」


 クレルの賛辞に右手を挙げ答えつつ、ドヤ顔をする。

 実際は足がジーンとしているのだが、そこは我慢だ。

 クレルが普通に降りてくるのを待ち、重厚なドアを押し開けた。

 すると、先ほどまで聞こえていた音が二倍以上に跳ね上がる。

 思わず耳を塞いでしまうほどだ。

 そこは防音壁を使用した広い部屋で、壁や棚に様々な道具が散乱としている。

 その中で、唯一整理されている棚があった。


「あれは?」

「ん?ああ、あれは失敗作だから気にしなくても良いよ」


 そう言って足場のない床を下に落ちている道具ごと踏んで奥に進んでいくクレル。

 失敗作と言う割には綺麗に置かれているし、床や他の棚にある道具はその失敗作よりももっと適当に扱われている気がするのだが。

 いろいろと疑問に思うところがあるが、それは後で聞くことにしようと考えクレルの後を追う。

 なお、俺はできるだけ踏まないようジャンプしながら進んだ。


「ちょっと下がってて」


 クレルが手を俺の方へと向けてそう言った。

 拒否する意味もないので言われた通りに下がる。

 クレルが何かを呟いたかと思うと、壁が盛り上がり武器屋を指す白い紋と同じ形になり、一気に凹んみ平らな壁にもどったかと思うと縦に割れ左右に開いた。


「ここからは他言無用だよコボリス?君だから特別に見せるんだ。師匠がそれを許したから……」


 そう言われ、クレルに手を引かれて壁の向こうへと入る。

 そこはとても眩しい。

 灯りをつけているわけではなく、炉の焔と金属と金属が打ち合う火花で照らされていた。

 その光を全身に浴びながら、俺たちが入って来たことは気づいてすらいない様子で、一定のリズムで槌を振るい続ける一人の巨漢。

 ここからではその後ろ姿しか見えないが、鬼気迫るものを感じさせる。

 巨漢の格好は変わらず蜂コスプレだが、そんなものを茶化す気にもなれない気迫が溢れている。

 巨漢の周りには石板が幾つも転がっている。目を凝らせば、そこには文字や図のような物が載っていることが分かった。

 槌で打ち続けながら、左腕を覆うデカい手袋(もどき)に顔を突っ込む。目線はそれでも打っている鉱石だけを見ている。

 手袋擬から顔を出した巨漢。口には何かを咥えている。

 とても綺麗で透き通るような蒼い水晶と赤黒い鉱石。

 それを咥えながら槌を振るい続ける。

 コォーーーンっと最後に音を響かせ、槌を置く。

 が、まだ終わっていない。

 次に手に取ったのは長さ30センチほどの杖らしき物。尖っていない方は何かを嵌め込めそうな形をしている。

 そこに咥えていた蒼い水晶を嵌め込んだ。

 そして、尖った側で先ほどまで打っていた鉱石を削り出した。

 いや、それは見間違いだ。削っているのではなく、注入している。

 杖に嵌め込んでいた水晶がどんどん小さくなっていき、冷めず輝く鉱石の表面を杖の先がなぞると蒼い線が走っていることから、俺はそう予想した。

 その蒼い線が紡ぎ、図のような紋様のような形を作っていく。その図には見覚えがある。先ほど確認した石板に(えが)かれたソレと酷似していたのだ。いや、同じ物を描こうとしているのだろう。

 きっと、何度も何度も複写したのだろう。石板を見て確かめるなんていう行為を一切せず、迷いなく描いていく。

 蒼い水晶はまだ少し残っているが、そのままその杖は放り投げる。そして同じ大きさの同じ形をした杖を手に取り、赤黒い鉱石を嵌め込む。

 すると、蒼い水晶の時と同じように線を描いていく。だが、その描く速度はどう見ても蒼い水晶の時より遅々としたものだった。

 先ほどまで迷いなく描いていたのに対し、手が小刻みに震えている。まるで失敗をすると親に怒られるので、どうしたら良いのか分からず怯えている子供ようだ。


「……頑張れ師匠………頑張れ」


 隣で小さく応援を呟き続けるクレル。

 二人の緊張の具合から、この行程がとても難しい物なのだと分かる。

 そして、その難しさからまだ一度も成功したことがないだろうことが分かる。

 場の空気にあてられ、俺まで緊張してしまい手に汗を握る。

 何時間経ったのか、と思ってしまうほど緊張していたらしい。実際には俺たちが入って来てからまだ三十分とも経っていないはずだ。

 最後の一線を描き終わった巨漢。

 俺は安堵の息を吐きそうになった。が、横でクレルが泣いていたので吐くのを止めた。

 その泣き方は成功を喜ぶ泣き方ではなかったから。ただただ正座の状態で俯きながら、スカートの布を握り締めて静かに泣いていた。

 巨漢――いや、酒枯れ職人は手元にある失敗作を見つめながら切なげに溜息を吐いただけ。


「……ん?おぉ、なんだおめぇら居たのか」


 恥ずいところ見られちまったな、と言って頭をかきむしる酒枯れ職人。

 その顔は焔の熱さと緊張からくる脂汗でテカっていて、所々火傷が見える。

 髪なんか熱で縮れてしまっているし、髭は生えていないのではなく毛根が焼けて生えてこないようだ。

 何年槌を振ればあれだけ太い腕になるのだろう。何十年槌を振るい続ければ左右の腕の太さに差ができるのだろう。

 俺は最初、肌が黒いのは日焼けだと思っていた。だがそれは否だ。日焼けではなく、火焼けだ。

 前世において、働いたら負けだなんだと言っていた俺だが、その姿には働く男の格好良さを感じずいられなかった。


「おっ、お疲れ……ヒック、さまです師匠……!」

「クレル、おめぇは毎回泣くんじゃねぇよ。大丈夫だ、俺ぁ鍛治士の天才だぜ?明日にゃこんなもん作っちまえるようになってる」

「はい……。はい………」

「ったく、泣き虫め」


 泣きたいのは酒枯れ職人の方だろうに、クレルが慰められてどうするのやら。

 まあ、クレルと酒枯れ職人との間には俺の想像の及びもつかぬことがあるのだろう。

 だから、俺はクレルの背をそっと撫でてやった。


「おめぇ、良い奴だな」

「この程度のことで良い奴とか止めてくれ、むず痒くなる」

「名、なんていった?」

「コボリスだ。それ以外は何もない」

「そうか、コボリスか。クレルのことよろしく頼むな」


 そう言って立ち上がり、失敗作を拾わずに俺たちが来た方へと酒枯れ職人は歩いていく。


「あんたの名前は?」

「あ?俺の名はガイド=ジェムザールだ」


 名前を言い切ると同時に壁が閉じた。

 酒枯れ職人改めガイドが居なくなったのを察知でもしたのか、炉の焔が一度揺らめき消えた。

 まだ泣いていたクレルが立ち上がり、涙を拭きながらガイドが置いていった失敗作を拾い抱きしめて、また泣いた。

 クレルちょっと泣き過ぎである。

 炉の光が失くなり、換気口から射す月光だけでは視界の光量が心許ないのでシホちゃん器官覚醒を発動してもらう。

 そしてまだ泣いているクレルが泣き止むまで暇なので、辺りを観察することにした。

 と言っても、ここにはあまり物が置いてない。

 壁掛けに槌や嵌め込み杖がぶら下げられていたり、作業着のような物があったりする程度だ。

 あとは大中小の炉がある。大サイズの炉が一つ、中サイズの炉が二つ、小サイズが五つだ。

 炉の中には炭がなく、オレンジと赤の混じり合ったような色をした鉱石がある。

 この鉱石を喰べればもしかしたら焔を発生させれるようになるかも知れないが、弁償代とか払わされるだろうから喰わないことにする。

 いろいろ観察したが、置かれている物が少ないので直ぐに終わってしまった。

 クレルはまだ啜り泣いているので暇だ。

 なので、放置されている石板を盗み見する。

 本当なら秘伝の〜、一族の長男しか見る権利が〜〜などという貴重な物なのだろう。だが、こんなとこに置き去りにしたガイドが悪い。暇人に好奇心を刺激する物をこれ見よがしに放置したりなんかしたからいけないのだ。

 そうやって俺は悪くない論を心の中で述べた後、十一枚ある石板の一枚を読んだ。


 ………………。

 …………。

 ……。

 もう一枚を手に取り読む。


 …………………………。

 …………………。

 …………。

 ……。

 もう一枚……。

 …………。

 もう一枚………。

 ……もう一枚。

 もう一枚、もう一枚、まだまだ……。


 全部読み終わる頃にはクレルも泣き止んでおり、俺が何をしているのか分からずジッと俺を見ていた。

 当の俺はというと、並列思考と思考加速に器官覚醒、そこに祝福スキル大空の賢者の智慧まで使用してシホちゃんと討論をしていた。

 討論、と言っても可能性の潰しあいだ。

 双方が思いついた可能性を双方が潰していくことで、何をするべきかを知るのだ。

 脳が焼き切れるほどの負荷をかけても、痛覚遮断によって痛みはないし、回復系スキルを全発動しているので焼き切れたところから修復している。

 普通ならこんな危ないことはしないだろう。俺だってしたくない。

 だが、何故かやらねばならない気がした。そして、この問題を救えるのは俺だけだと思ったのだ。


 シホちゃんとの討論は現実時間としては、ほんの数分だった。

 だが、それは思考加速を行っていたからで、脳内時間は何十時間とかかった。

 そのおかげで俺がしなければならないことが分かった。

 今日はいろいろと疲れたので、寝ようと思う。

 明日から頑張らなければな。

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