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Re:KoboldSaga  作者: 空見鳥
21/33

俺の周りに変人が……

間隔が空いてますが、応援よろしくお願いしますm(_ _)m

 やあ、みんな元気してる?俺は今金縛りing!

 目を開けると知らない天井があった、というわけでなく昨日見たのと同じ天井がある。

 少しでも安くするために東窓でなく、西窓の部屋を借りているので部屋の中はとても暗い。

 そんな暗い部屋に一つのベッドと俺作成のハンモックがあるのが俺とデュアルの住んでいる部屋の内装だ。

 俺はハンモックを使用して寝ている。

 今日はやけに嫌な予感がしたので、まだ深夜だろうに目を覚ましたのだ。

 すると何故か金縛りにあっていたわけだ。

 ハンモックの下に寝ているデュアルの寝言が聞こえてくる。どうやら俺が夢に出てきているようだ。ジュナサン、ジュナサンと俺を呼ぶ声が聞こえる。


「デュアルが何かしたわけではないのか」


 俺はてっきりデュアルが寝ボケて夜這いでも仕掛けに来たのかと思ってしまった。

 もし夜這いに来たのなら手厚く歓迎するつもりだ。取り敢えず、一発肝臓を抉るようなブローをいれてやる。

 まあ、そんなことを考えたところで今回はデュアルではないようなので行動に移すことはできないのだが。


 現状確認をしよう。

 シホちゃん起きてる〜?


 【おはようございますマスター。現状確認ならだいたいは完了しております。どうやら何者かによって縛り上げられたようですね。酸を生成すれば簡単に縄を解くことができますが、ここは敢えて相手の出方を見てはどうでしょう?マスターのお力ならこの程度の捕縛方法しかできない三下は敵にならないと予測されますので】


 どこか棘のある台詞を淡々と告げるシホちゃん。

 聞く人が聞けば魅了されるだろう美しいハスキーボイスでそう告げられると少し怖く感じる。なんというか丈の長いスカートを履いて、パーマを当てた茶髪のスケバンを想像してしまうのだ。


 話を戻すが、今俺に起こっている体の不自由は金縛りからくるものではなく、縄で縛られているらしい。

 確かに、それなら俺は簡単に抜け出すことができる。

 例えば、シホちゃんが先ほど告げたように酸を分泌するとか、【侵食腐敗】を使って縄を朽ちらせるとか、方法なんて植物の力を発揮すれば幾らでもある。

 だがそれを今行っても良いが、これからも同じようなことをされては寝覚めが悪いのは想像に難くない。

 そういうことを考えるならシホちゃんの言う通りにして、縛ったりなどしてきた犯人を見つけるのは大事なことだろう。

 まあ、宿を利用している側としては宿の経営者に抗議をしたいと言うのもある。プライバシーの安全は守ってもらわないと宿の意味がない。

 それにはやはり犯人を捕まえて突き出す方が証拠となって手っ取り早い。

 できれば謝罪金とか欲しい。


 そういえば、シホちゃんはいったい何時(いつ)現状を調べていたのだろう?

 俺が起きた時に即座に違和感を感じて調べたのだろうか?

 俺が起きてからものの数分でシホちゃんに問うたのに、返答があまりにも纏まり過ぎていた感がある。

 もしかして俺が寝ている間もシホちゃんは起きていらっしゃるのかしら?


 【脳は全て休む、ということはございませんので、脳を媒体として常時起動している私はマスターが寝ている間も起きております】


 だそうだ。

 起きていたなら犯人とか発見しなかったのだろうか?

 いや、俺が目を閉じていたので分からなかったとか、いろいろ理由があるのだろう。シホちゃんとて万能ではないのだ。

 それに犯人は直ぐ分かるだろうから気にすることはないな。


「んん〜……。ジュナサンダメだよ……あっ、そん……汚いよジュナサン………。あっあっ………ジュナ、ジュナサ〜〜〜〜ン……!」


 下からデュアルの寝言にしてはデカい声が聞こえてくる。

 いったいどんな夢を見ているのか。

 とりあえず俺に汚いことをさせているらしい。

 背中を嫌な汗が伝い、悪寒が俺を襲う。

 俺、本当にこいつとパートナー組んで良かったのだろうか……。不安になるな。


「……ル、…アル、んっ……デュアル〜〜〜♡」


 ん?何故だ、何処かで聞いたことのある声がデュアルを艶かしい声で呼んでいる。

 はぁはぁ、と荒い息遣いが聞こえてくる。

 さては声の主は犯人ではなかろうか?

 デュアルを愛するが故に、デュアルのパートナーである俺に嫉妬して縛った。ということなら辻褄が合う気がする。

 なにも偶然俺が縛られている時にデュアルの行き過ぎ愛主義者(ストーカー)が俺たちの部屋に入ってくる、などということは無いだろう。

 十中八九このストーカーが俺を縛った犯人だろう。

 ストーカーとしての位は高いな。なんせ愛している者の家の合鍵でなく、寝泊まりしている宿の合鍵を作って入ってくるほどだ。

 しかもこいつ、ストーカーだけでなくヤンデレも入っている。声の近くから金属的な音が聞こえてくる。たぶん俺を殺すためのナイフか何かだろう。

 ヤバい、デュアルとパートナー組んで三日目にしてストーカーに刺殺されるかもしれない!

 どうしたら良いのシホちゃん!?


 【落ち着いてくださいマスター。縄をとりあえず腐らせ、解きましょう。そしてストーカーをブン殴ってしまいましょう】


 え!?ブン殴ってしまいましょうって、言葉遣いが荒くなってますよシホさん!

 それに相手はナイフ系の刃物を持っている可能性大ですよ!?

 危ないし、刺されたら痛いだろうし、その前に死んじゃうし!

 何かもっと危険性の無い案をお願いしますシホさん!


 【大丈夫ですマスター。マスターの回復力なら刺された程度では死にません。痛覚遮断を使用しますので痛みもございません。毒を散布しても良いのですが、その場合デュアルに被害が出るかもしれませんよ?】


 な……なるほど。

 確かに、変な夢を見ているのはけしからんが、健やかに寝ているデュアルを巻き込むのは可哀想かもしれない。

 ふむ、仕方ない。一つ刺されてやんよ!

 シホちゃん、絶対に痛覚遮断してね!傷とか残るのも無しだよ!?


 【はいマスター。お任せください】


 シホちゃんの応答を聞き、俺はそれを信じて縄を解きにかかる。

 スキル侵食腐敗は俗に云う菌たちに命令して、対象を急激に腐らせたり朽ちさせたりする。

 今回は縄を対象とし、発動した。

 暗いが、首を起こしてなんとか胸の辺りにある縄を見ることができた。

 縄がみるみる色合い豊かな七色の綿のようなモノに包まれ、少し鼻につく臭いを撒き散らす。

 綿のように見えるカビ。それは五秒間隔で七色の胞子を飛ばす。その胞子が他のところには行かずに、また縄に付着して七色の綿となる。

 その行程を繰り返す毎に、視認できるほどの速さで縄が細くなっていく。

 今力を込めれば肉体強化系のスキルを使わずとも簡単に破れそうな気がする。しかし見ていて面白いので最後まで観察することにした。

 途端、それまで以上に胞子が飛んだかと思えば、縄は無くなっていた。

 どうやら最後に縄に見えていたのは繋ぎあったカビたちだったようだ。


 【縄の完全分解完了】


 シホちゃんが端的に告げた。

 その言葉には「もう解けたんだから早く刺されて来いよ」という意味が込められている気がする。

 このまま何もしなくても仕方ないので、その言葉に従うことにしよう。

 もう一度言うけど、シホちゃん絶対に――


 【分かっております。もう痛覚遮断と回復系スキルは全て発動しています。心配なさらずにストーカーを撃退しましょう】


 うっ……。シホちゃんってもしかしてSっ気があるかもしれない。

 そんなことを思いつつ、俺はハンモックから飛び出した。

 そして、ストーカーの前に無音で降りる。のが理想なのだが、現実はドスンと音が鳴った。


「はぁはぁ……、ふぇ?」


 少女だろう声の主(ストーカー)が目の前に物が落ちてきたことに、締まりのない声を発する。

 立っている俺より下から声が聞こえてきたので、俺より背が小さいか座っているのだろう。

 状況判断的に後者の可能性が高い。

 暗くて見えないので、なんとも言えない。どうにかしてくれシホちゃん。


 【器官覚醒を使用します】


 シホちゃんの声が脳に響くと同時に視界が鮮やかになってくる。

 光がないので色合いは今一だが、輪郭はよく分かる。

 うんうん、見えてきた見えてきた。

 細くて肌艶の良い足。

 年の割には主張をする胸部、それの主張を手伝うかのような細い首筋。

 肩から伸びた華奢な腕は片方が股へ、もう片方が服の中へと潜り込んでいる。

 乱れた服を見ないように顔へと視線を上げると、オレンジ髪の可愛らしい少女が目を見開いてポカンと口を開けている。

 レミアが壁に(もた)れながら座っていた。

 見えなきゃ良かった。


「な、なんであんたが落ちてくるのよ……?しっかりと縄で縛ってたのに!……クソ、あと少しだったのに………!」


 紳士な俺は何があと少しだったのかは追求しないでおく。

 ヨダレが口から垂れているぞとか、手の位置変だぞとか言わない。というか言えない。

 言ったらこの超行き過ぎ愛主義者(ヤンデレストーカー)に何されるか分かったもんじゃないからな。

 ホント、見えなきゃ良かった。

 ん?こっちは見えなくても何故かあっちは見えているのだから変わらないのか?


「……もしものために持って来ていて良かった」


 ブツブツ何か呟いているレミア。

 服に潜っていた左手を抜き出して、背中に回した。

 金属の音が聞こえた。まさか――


「あー……もう後味悪いな〜。でもあんたが悪いんだからね?縛っといたのに解いて、邪魔した挙句見たんだから。私、悪くないから……!」


 自分に言い聞かせるように最後を強く発し、隠していた左手を突き出したレミア。

 鈍い衝撃が俺の上体を揺らした。

 見れば鳩尾に小剣が刺さっていて、そこから血が溢れている。

 痛みはシホちゃんが痛覚遮断を発動してくれているおかげで無いが、ショックだった。

 先ほどからヤンデレだ、ストーカーだと言ってはいたが、レミアは俺と面識がある数少ない人間だ。

 それだけに、まさか本当に刺されるとは思いもしなかった。

 ショックで体から力が抜け、前倒れに上体が崩れる。

 そのおかげで奇しくもレミアに寄倒れかかる。それによって更に深く食い込む小剣を伝って俺の血がレミアの手を濡らした。


「あぁ……ぅ………!」


 何かを堪えるように声を漏らすレミア。

 ナイフを持つ手が小刻みに震えている。歯も噛み合わないのかカチカチと音を鳴らす。

 耳元で連続した謝罪の声が聞こえてくる。

 たぶん冷静になって、俺を殺したことが怖くなったのだろう。

 なんだか俺が悪いことをしたみたいな気持ちになってきた。刺されたのは俺なのに何故だ……。

 たぶん彼女も反省していることだろうし、ここは大人としての器のデカさを見せてやろう。

 そう思い立ち、催眠毒を生成して少しだけ再生滋養を混ぜ、爪を使って彼女の柔肌に注入した。

 シホちゃんに頼んで、俺を刺した辺りの記憶を失い眠るように調整した催眠毒の効果は即効性だったので、レミアは震えを止めて眠りに落ちた。


「ふー……。なんだかな〜、損な役回りだわ。ホント、後先考えない子供ほど厄介なもんはねーな」


 今も鳩尾に刺さっているナイフを抜きながらそう愚痴る。

 ナイフは抜けた時少しだけ血を吹き出したが、直ぐに穴が塞がっていったので問題ない。

 ナイフを握りながら寝てしまったので手を開かせ、ナイフは証拠隠滅のために食べた。


【熱伝導効率化を取得】

【鋭利な刃を取得】


 おお、まさか生き物以外でもスキルを喰えるとは思わなかった。

 これは良い発見をした。

 後で昨日錬成術師に貰った携帯収納も食べよう。空間圧縮機能が喰えると絶対重宝する。


 話が逸れた。

 俺の血を浴びて濡れてしまったのは手だけだったようなので、流血操作で血を拭って爪を通して体内に戻す。

 まだ少し湿っていたので風魔法で乾かしておく。

 次に乱れた服装を整える。

 これまた、全体的に湿っていたので乾かす。最も湿っていた場所を重点的に乾かしたが、何処がとかは紳士な俺は言わないでおく。

 左手も湿っていたから乾かした。

 口元から垂れていたヨダレは、何故か直ぐ近くに綺麗に畳んであった肌触りの良さ気な布で拭いておく。で、これも乾かした。

 最後に俺が爪を指した場所が傷になってないか確かめたが、先ず何処を指したのかすら分からなかったので良しとしよう。


「シホちゃん今何時?」


 【只今の時刻は午前4時11分です】


 俺の問いに淀みなく答えるシホちゃん。

 俺の体内時計はシホちゃんが管理しているので完璧だ。

 デュアルが起き出すにはまだ少しあるので、俺はレミアを受け付けの処に返しに行った。

 受け付けにはオッさんが転寝(うたたね)をしていた。たぶんアレはレミアの親父さんだろう。

 レミアと同じオレンジ色の髪をしていたが、某有名アニメ海洋生物さんに出てくる平らな波さんカットだったので笑えた。

 どうやったらあのハゲ親父からレミアのような美少女が産まれるのだろうか?お母さんに似まくったおかげなのだろうか?

 レミアママに対する期待が俺の中でうなぎ登りした。

 とりあえずレミアを受け付けに何故かあるベッドに寝かせ、俺はその場を後にした。

 そして今俺はハンモックに包まれ瞼を閉じた。



◇◇◇◇◇



 昨日より遅く起きたデュアルがハンモックを揺らしたので俺は目を開いた。


「ジュナサ〜ン、起きてー!良いクエストが取られちゃうよー!」


 デュアルがどんどん揺らす勢いを強くしていく。

 そのせいでハンモックが俺を落とすまじと包み込むので降りるに降りれなくなっていく。

 それでも起きろとデュアルが揺らす。

 ハンモックが対抗するように包み込む。

 揺らす。

 包み込む。

 揺らす。

 包み込む。

 揺らす。

 包み込……


「おぉぇぇえぇえぇぇえええ………」


 吐いた。それはもう豪快に吐いた。

 ハンモックに包み込まれたままの状態で吐いたので、吐瀉物が俺の顔やら首やらに引っかかる。

 しかもデュアルがまだ揺らすので混ぜ込まれた。


「うわっ!?だだだ、大丈夫ジュナサン!?」

「デュアル、お前……俺に何の恨みがあるんだ………」

「えぇ!?う、恨みなんて無いよ!??」


 ハンモックを濡らして、通過した吐瀉物(としゃぶつ)が垂れてきたのだろう。デュアルが慌てた声を上げる。

 恨みは無いそうだが、それにしては俺の被害はとんでもないことになっている。

 上半身のほとんどが吐瀉物塗(まみ)れになり、吐瀉物の付着してない所を探す方が困難なくらいだ。

 臭いしネチャネチャするし気持ち悪い。また吐きそうだ。


「あの、えと、僕はどうしたら良いかなジュナサン!?」

「あ、なに?あぁ……、じゃあとりあえずハンモックごと風呂場に連れてって………」

「わ、分かったよ!」


 力無く頼むとデュアルがアタフタしつつ風呂場まで連れて行ってくれた。

 臭いだろうに、「大丈夫だからねジュナサン、大丈夫だから」と、鼻を摘まむこともせずに励ましながら。

 うーん……。叱るに叱れないな………。


 風呂場に着いて、そのまま入れてもらう。

 この宿は全部屋シャワー室付きという高待遇な宿なのだが、デュアルが元から借りていたこの部屋だけはもっと高待遇のシャワーと湯船付きだった。

 たぶんレミアの図らいだろう。

 この時だけは彼女に感謝する。湯船は足を伸ばせるほどではないが、有難いものだ。今もこうしてお世話になっている。

 先ず、シャワーを全力で出して体中を浄める。この時、コボルトの毛は水を弾きやすい構造になっているため念入りに毛の奥まで水を浸透させる。

 口の中を洗い流すために湯を口に入れて(うがい)した後吐き出し、それをしながら風呂場に据え置かれている唯一の石鹸を泡立てて、やはり毛の奥まで浸透させるべく俺が洗うためだけにデュアルに買わせた専用のブラシを使って洗う。

 そして三度、満遍なく洗い終わると湯船に浸かった。


「おぉふぅ……」


 湯船の温度は43度と高めにしているので、とても気持ち良く、口から無意識に声が漏れる。

 地球では日本人とローマ人だけが愛用していた湯を貯めた水槽に浸り癒すという湯船。

 この世界の住人もあまり利用しないそうだが、王侯貴族の別荘地や活火山の周りでは温泉があるそうなので、いつかファンタジー温泉に浸かってみたいものだ。


 数十分後、デュアルが忙しなく俺を心配して呼ぶので、気持ち良く浸かり続けることができずに上がった。

 二分毎に「ジュナサン大丈夫?」と聞いてくるのだ。

 心配してくれるのは嬉しいが、もう少しゆっくりしたかった。

 そうそう、デュアルが昨日パートナー条件『風呂に入らせて』を『一緒にお風呂に入る』に変えていたが、二人で浸かるには湯船が狭いので昨日の夜俺が追い出した。

 デュアルはその狭さを恥ずかしがりつつも喜んでいたが、何処をとは言わないが勃てていたので気持ち悪かった。

 中性的で可愛い顔をしていても男なのだと思った瞬間だ。

 生理現象なので致し方ない面もあるが、それの向き先が自分だと思うと身の毛がよだつ。

 男の娘は二次元が良いと心底思ったね。

 閑話休題。


「ジュナサン、どのクエストが良い?」


 デュアルが俺に質問をしてくる。

 今俺たちは昨日来たギルドのクエスト板の前にいる。

 しかし昨日とは少し違う。

 二人でクエスト板の前にいる、という構図は同じなのだが、デュアルが俺の脇に腕を回し抱きかかえているのだ。

 何故か、それは――


「なあ、俺はさっきから言ってるだろ。今日はクエスト受けずに家でゴロゴロしようって」


 そう、俺はクエストを受ける気がないのだ。

 なんせ俺たちは働かなくても暮らせるだけの貯蓄があるのだ。

 災害指定個体モンスターの何だったか、土地喰らい?の討伐ないし撃退クエストの前金として、二人でも二ヶ月は遊んで暮らせるだけの金がある。その上昨日の錬成術師のクエストでまた溜まったのだ。

 それだけあればもう十分だろう。

 何が楽しくて労働なんぞしなければならないのだ。

 面倒この上なし!

 という考えをデュアルに熱く二分ほど語るも、デュアルのヤル気は無くならず、どちらかというともっとヤル気になってしまった。

 デュアルはマゾっ気があるようだ。俺からしたらただの自虐だ。


「ダメだよジュナサン!若いうちからそんなことしてたら老後が心配されるよ!」


 なんで俺より精神年齢の低い君が俺より老後のことを考えてるの!?俺びっくり!

 あー止めろよ。振り回すな。また吐くぞ。


「老後は老後に考えるんだよ」

「無計画!僕の予想ではジュナサンが老後を憂いて働いてくれると思ったのに、まさかの無計画!」

「あー煩いぞデュアル、耳元で叫ぶな〜」

「あ、ごめんねジュナサン!」

「だから煩いって……」


 そんなやり取りをして、かれこれ一時間はクエスト板の前にいる。

 すると昨日と同じように話しかけられた。


「あれ?デュアル君じゃない。何してるのそんな所で?」


 が、話しかけてきたのはギルドマスターではなかった。

 まあ、あんなド派手なオッさんでもギルドマスターだ。忙しいのに毎日話しかけてくるはずがないな。

 今回話しかけてきたのは長くて薄い茶髪を編み込んで後頭部で団子にし、へそピアスをした露出度の高い俗に言うビキニアーマーの美女だ。

 紅のビキニアーマーの上から黒いロングコートを羽織っているので、より一層ビキニアーマーが目立つようになっている。

 お姉さんと呼ぶに相応しい容姿だ。俺は見逃さなかった、首筋の良い感じのとこにホクロがあったことを!

 落ち着いた声で話しかけてきているが、目線を合わせるために前屈みになっているので谷間が強調されて目の保養にな……じゃなくて目のやり場に困る。

 まったく、けしからんオパーイだ。

 これではデュアルがまた勃たせてしまうじゃないか。

 重要なことなのでもう一度言っておこう。まったく、けしからんオパーイだ。


「あ、アイリスさん!こんにちは!」

「こんにちはデュアル君」


 デュアルの大きな挨拶に対しても、落ち着いて返すけしからんオパ……改め、アイリス。


「今僕たちはクエストを受けようとしてます!」

「待てデュアル、嘘を()くんじゃない。今俺たちはクエストを受ける受けないでもめていたんだろうが」


 デュアルが嘘を吐いたので訂正をいれる。

 まったく、油断も隙も無い奴だ。


「あらあら。ということはデュアル君がクエストを受けると言い、コボリスちゃんが受けたくないと言ってるのね〜?」

「はい!でも、コボリスじゃなくてジュナサンです!」

「いや、コボリスで合ってんよ?」


 またデュアルが俺の名前を変化させようとしだした。

 デュアルよ、お前の中ではジュナサンで良いが、他では普通にコボリスだからな。

 コボリスって名前は親に名付けられた物なんだから変えられては困るんだ、主に人間としての思考的に。

 って、あれ?なんでアイリスは俺の名前を知ってるんだ?自己紹介なんかしてないぞ?


「あら?気づいちゃった?コボリスちゃんやっぱり頭良いわね〜。普通のコボルトみたいな低級モンスターなら名前を変えられても違和感なんか感じないのに感じたり、分からないように認識阻害を使用したのに分かっちゃったり!ん〜〜♪コボリスちゃん、貴女最高よ〜〜!!」


 だんだん熱がこもりだした言葉遣いで俺のことを褒めるアイリス。

 頬を赤らめて小指を唇にやる姿は、先ほどまでのお姉さん的な雰囲気とは少し路線が違う感じがする。

 同じお姉さん系なのだが、最初の方を落ち着いた面倒見の良いお姉さんだとすると、今のアイリスは年下愛好主義者(ショタコン)の魔性の女って感じだ。

 たぶんこれが彼女の真の姿なのだろう。なんとなく雰囲気が安定している感じがする。


「あら、褒めてくれてありがとう♪でもちょっと違うわ、私は年下愛好主義者じゃなくて可愛いものが大好きなお姉さんよ♪」

「自分でお姉さんとか言うなよ……。あと、なんで俺の心の声に反応できてるんだ?」

「ん〜〜?聞きたい?ねえ、聞きたい〜?答えは〜、なんと読――」

「そりゃあジュナサン、アイリスさんは読心術を扱うからだよ!アイリスさんは"覚呪印"っていう呪印を肩に刻んでいて、その呪印の効力によって読心術を習得したんだ!アイリスさんには二つ名があってね!"先――」

「"先撃の桜閃"って呼ばれているわ!」


 俺の質問に答えるのを焦らしたため、堪えられなかったっぽいデュアルに言葉を取られたアイリス。

 二つ名だけでも死守せんと、聞いてもないのに声を張る姿には魔性の女というより負けず嫌いな女という感じがする。

 どうやら彼女は多面性のようだ。

 時々、自分を自分で演じる人間が陥る多重人格の劣化版のようなもので、分かり易く言うならキャラの安定しない奴だ。

 けっこう可哀想な部類の子だ。

 なので哀れみの目で見つめることにしよう。


「あ……、やめようコボリスちゃん?勝手に人のことを決めつけて哀れむのはやめよう?お姉さん気づいちゃうわよ?」

「うん、うん……」


 お姉さん(・・・・)の言葉を心にまで届くように、頷きながら聞く。

 何故だか視界がボヤけてしまうよ……。


「もう止めて〜〜!そんな思いで私を見ないで〜〜〜!」

「あ、危ないアイリスさん!」


 はぁあん、と艶やかな声をあげて後ろに向かって倒れた。

 危ないなどと言っておきながら俺を抱きしめ続けて助けに行かないデュアルは少し冷たいと思う。

 右手を額に当てながら気絶する器用なアイリス。

 ビキニアーマーなので生脚が公衆の面前で晒される。

 話すとだんだんボロが出たアイリスだが、こうして見るとやはり妖艶さがある。

 ギルドにいる男勢の目が釘付けになるのも致し方ない。

 これはデュアルもそうだろう、そう思いデュアルの方を見やると目が合った。

 目が合ったことに気づき、デュアルが照れる。

 デュアル、何故お前は目の前の艶かしい肢体に目もくれず俺を凝視しているのだ。

 更に何故、コボルトである俺と風呂に入って勃ったお前のアレは、無反応なのだ。

 そして何しに来たアイリス!

 今日はまだ昼も過ぎてないのに考えさせられることが多い気がする。

主人公「先生、俺……悩んでるんです」


作者「ん?どうした、先生に言ってごらん?」


主人公「平凡な日常を求めているはずなんですが……、周りに変人が寄ってきます」


作者「はっはっは、先生が良いことを教えてあげよう」


主人公「アドバイスですか?」


作者「まあ、似たようなもんだ」


主人公「お願いします!」


作者「まだまだ変人増えるよ?」

    ――だ変人増えるよ?――

       ――増えるよ?――

         ――るよ?――

          ――よ?――←エコー


主人公「ウソん……」

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