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Re:KoboldSaga  作者: 空見鳥
20/33

錬成術師は意外と凄い子

毎日更新を目指します〜

などとほざいておきながら一週間も更新できなかったことをお詫びしますm(_ _)m

これからは毎日更新でなく二・三日に一話のペースでやっていこうかと悩んでおります。

たぶんそうなると思うのでご理解とご協力のほどをよろしくお願いしますm(_ _)m

「早く〜。早くしてくれないと窒息してしまいます〜」


 マネキンの白い手がフリフリと左右に振られ、間延びした気の抜ける声がゴミの中から聞こえてくる。


「あーと……錬成術師さんですか?」

「そうそう、錬成術師さんです〜。早く引っ張ってくださ〜い」


 俺がどうしたものかと悩んでいると、デュアルが当然のように手を握り引っ張りだす。

 顔色を一切変えずに結構な力で引っ張ったらしく、間延びした声が「イタいイタ〜い」と痛みを伝える。言葉のわりに声にはどこか余裕が感じられる。


「んー、ジュナサンも手伝ってよ。意外と重いんだ」

「お…オッケー」

「重いとは失礼な〜。レディに向かって体重の話は禁句なんだぞ〜」


 デュアルに加勢を要求されて俺も引き上げに参加する。

 確かに重い。錬成術師の重さにゴミの山の重みが加わっているのだろう、予想以上に腰にくる重さだ。

 これを無表情で引き上げようとしていたデュアルをちょっと尊敬してしまう。


 【マスター、バックアップします】


 シホちゃんの声が脳内に響き、スライムやドライアドと闘った時のように全身に力が湧き上がる。見た目的には変化はない、だが内面は目覚ましい変化を起こしている。

 その証拠として先ほどまでビクともしなかったゴミの山が少し揺れ、マネキンもとい錬成術師の腕が肩口まで見えた。


「イタっ!イタいよ君たち〜!」


 周りのゴミごとではなく、錬成術師だけを引き上げているので顔とかがゴミに押されているのだろう。錬成術師の声が大きくなる。

 しかし俺とデュアルはそんなこと一切気にせずに勢いに乗れと言わんばかりに一気に引き上げた。


「あイタ〜〜い!」

「うぉ…!」

「わっ」


 誰に会いたいのか、スポンッと音がしそうなほど綺麗に錬成術師が引き抜けた。

 それまであった重い抵抗が急に無くなったことにより俺たちは尻もちを着き、反射的に声が漏れる。


「イタタタ……」


 目の前に首をさする15歳前後の少女。

 陶磁器のようというか、病気のように青白い肌に栗色のボブカットヘアーの美人というより可愛いが似合う。そんな少女だ。

 服装は赤と白が印象的な露出度の低いフード付きパーカーにダボっとしたパンツを履いている。首に赤を基調とした黒の線が走るヘッドホンのようなものを掛けている。

 なんというか、噂に聞いたような変人ではない気がする。登場シーンを除けば……。


「あなたが錬成術師さんですか?」

「はい、私が錬成術師です〜」

「クエストを受けたF級冒険者のデュアルです!クエスト内容はお部屋の片付けとなっていたんですが、お部屋はどこですか?」


 デュアルが失礼のないように敬語を使って問う。まあ、いつも敬語を使っているような喋り方だが。

 それに対して錬成術師の少女がゴミの塔をバックに両手を広げ、アゴでしゃくってゴミの塔を指しながら可愛らしい声で答える。


「これです〜!このガラクタの塔が私の全財産にして、現在住んでいるお部屋なんで〜す!」


 少女らしい可愛らしい笑顔が眩しいな……。


「うわ……」


 デュアルが思わず小さな嘆きの声を漏らした。その気持ち、分からなくはない。

 俺たちが受けたクエストの内容は錬成術師の部屋の片付けだ。そして錬成術師本人曰く、部屋はゴミの塔。いったいぜんたい何をどう片付けろと云うのだろうか……。

 しかも自分でガラクタと言っちゃってるし。


「さあ!お片付けしましょ〜」


 言葉の最後に音符でも付きそうな軽やかな話し方でクエストを始めようとする錬成術師。

 そんな彼女にデュアルが右手を挙げて質問を飛ばす。


「あのー、コレをどう片付けるんですか?僕が見たところ片付けるも片付けないも無い気がするんですが……」

「……」


 先ほどまで元気良く振舞っていた錬成術師の動きが止まった。顔が感情や正気を感じさせない能面のようなモノになり、それに反して目だけが大きく開かれ瞬きをしない。

 何も口にしていないのだが、何故か聞こえてくるような言葉。心や頭に話しかけている、という訳でもなく目が語っている。

『何を言っているんだこいつは』

『あぁ……またか、詰まらないな』

『何故こいつらは皆阿呆なのだ……』

『もうどうでも良いな』

『帰らせるか』

 何故俺がここまで読みとれたのかは分からんが、コレに似たようなことを考えていると確信できる。

 今デュアルが喋った言葉は誰もが思うような疑問のはずだ。それを阿呆と斬り捨てるなら、何か考えあってのことなのだろう。いったい彼女はどういう意図でこれをやっているのだろう……。


「あはっ、そうですね〜こんなの片付けるも何もないですよね〜。今考えたら私もそう思います〜。これはクエストに不備があったようでね〜、なのでこのクエストは終了ということでどうでしょ〜う?」


 両手を合わせてデュアルの意見に便乗する錬成術師。その顔は能面のモノから年相応の少女の笑顔に戻っている。どう考えても作り笑いである。

 先ほどの読みとれた考えはどうやら合っていたようだ。このまま帰ってしまえという考えがヒシヒシと伝わってくる。


「そうですね!クエストに不備があったのなら終わるべきですね!よし、じゃあジュナサン帰ろっか」


 とても嬉しそうに目をキラキラと輝かせ、俺の手を握って来た道を戻ろうとするデュアル。

 それを満面の笑みと軽い手振りで見送る錬成術師。


「ちょ、ちょっと待てデュアル!」


 このままでは何かイベントを逃しそうな気がするので、俺を抱えようとしだしたデュアルの顔を手で俺とは逆方向に押して止める。

 小さくグキっという鈍い音が鳴った気がしたがこの際だ放っておこう。

 首を摩りながらデュアルが『何故?』という顔を向けてくる。その疑問に対して俺は顔を近づけて小声で答える。


「バカかお前は!どう見たって何かあり気な雰囲気醸し出してるだろ!絶対何かイベントがあるのに、イベント発生を報せる(ビックリマーク)が頭の上にあるのに無視するとかゲームする上で有り得ないだろ!」

「え?え?げぇむ?イベンとハッセー?誰それ、僕知らないよジュナサン……。あとジュナサンの頭の上に(ビックリマーク)なんてないよー?」

「バカ!」


 とりあえずデュアルの頭を叩いておく。デュアルが更に疑問の色を濃くするが無視だ。

 ゲームを知らないとは無知な奴め。イベンって誰だ、ハッセーとか俺の前世にいた友人の渾名(あだな)じゃないか!


 【マスターが生きていた世界と今生きている世界はまったくの別物ですので知らぬことも仕方がないかと思われます。あと渾名の話は必要ないです】


 シホちゃんが俺の心の愚痴に適確なツッコミを入れる。ちょっとした閑話を必要性で切り捨てるとかシホちゃん怖い。

 しかしそうか、確かにこの世界は魔法があるようだしファンタジーには事欠かないのだろうからあるはず無いわけだ。それに技術的にも足らなさそうな気がするし……。


 まあその辺はどうでもいいか。今重要なのはいったいどうすればこのイベントをクリアすることができるかだ。

 今だに笑顔でこちらに手を振っている錬成術師を見れど何も分からない。なので周りを確認してみることにする。

 ……………

 ………

 …

 俺たちにとってのゴミ、彼女にとってのガラクタの塔しかない。もっと詳細を言えば確かに家とか草とかいろいろとあるのだが、それらは彼女には関係していないだろうから無視だ。

 ゴミの塔もといガラクタの塔……か。

 ん?ガラクタって漢字あったよな。えーと……我楽多、だったかな?我の楽しみ多きことって意味か?漢字的に。

 我の楽しみ……我の……。あ!そうか、俺たちにとってのゴミの塔は彼女にとって宝物だということか!

 それを俺たちは何も知らずにゴミと断定した、それも高報酬に釣られてクエストを受けたくせに。錬成術師本人としては高額を払わなければならない上に宝物をゴミと云われたのだ、怒る理由としては理にかなっている。

 思いつくや俺は即座にデュアルに告げた。


「デュアル!お前彼女に謝れ!お前がゴミと捉えたアレは彼女にとって宝物だったんだ!今なら間に合うかもしれん、謝れ!」

「え?なになに?どういうこと!?」

「いいから謝れ!」


 俺の言葉を上手く理解できなかったらしく困惑するデュアルを有無を言わせずに尻を蹴って謝らせに行く。

 今分かっていれば良いのは『謝らなければならない』ということだけだ。


「あ、あの……錬成術師さん!」


 先ほど嬉しそうに帰ろうとしていたデュアルが困惑顔で戻ってきたので不思議そうな顔をする錬成術師。小首を傾げる様が自然体ながらも演技をしているように見えてしまう。

 たぶん彼の脳の許容量を超えたのだろう。頭から白い煙のようなものが幻視できる。漫画やアニメでありそうなグルグルとした目をしながら彼は錬成術師に頭を下げた。


「えっと……その、なんというか……。ごめんなさい!なんかごめんなさい!」

「……え?あ、うん。い、イイよ〜?」

「ありがとうございます!」


 デュアルの投げやりな謝罪に戸惑いながら許す錬成術師。何をごめんか言ってないのに許すとは、案外錬成術師もアホな子なのかもしれない。


「よし、じゃあ片付けするか!」

「え!?コボルトが喋った〜!?」

「コボルトじゃないよジュナサンだよ。って、え?片付けするの?え?」


 俺が話を進めようと言葉を発すると、錬成術師が間抜けな声で驚き、それを正すデュアルが謝ったくせに片付けすることに疑問を持つ。

 なんだこの話の進まなさは……。



◇◇◇◇◇



 俺は目の前にある拳くらいの大きさの玉を手で掴む。

 それの見た目は某有名漫画竜の宝珠に出てくる7つ集めると竜が現れて願い事を1つか3つ叶えてくれる宝珠に似ており、色は透明だが玉の中には星の代わりに刻印がある。

 刻印の形は10個の丸と丸が輪上に繋がっている感じで何かあり気だ。


「おーい、これはどれに入れれば良いんだー?」

「だから〜。コボリスさっき教えたよね〜?大きな声を出さなくても伝達結界装置の範囲内なら伝えたい人に届くって〜。逆に大声を出すと耳が痛くなることも教えたよね〜?」


 俺が判断を仰ぐと錬成術師の少し苛ついた声が耳元で聞こえる。

 まあ文句なんかは全て無視だ。人の癖はそう簡単には直らないのだから勘弁してくれ。


「で?どれに入れれば良いんだ?」

「あ、えっと〜。それは封魔の真珠、確か第四階梯(モア)級の法具だから〜。んーと、秘密道具パックに入れといて〜」

「あいよっ」


 どうやらコレは竜の宝珠ではなく某有名アニメお手軽収納魔物の収納球だったようだ。

 俺は言われるがまま錬成術師が用意した赤色の腰巾着(こしぎんちゃく)、錬成術師曰く秘密道具パックの口に玉を入れた。


 錬成術師はガラクタを収納して片付けをする予定だったらしい。

 錬成術師が片付けをするにあたって用意した物はそれぞれ色の異なった3つの腰巾着と高さ45センチメートル横幅60センチメートル縦幅50センチメートルの宝箱(幅は全て目分量)だった。

 腰巾着は赤・青・白の三色で、大きさは青>赤>白といった感じだ。

 赤の巾着は先ほど述べたとおり秘密道具パック、主にピンチを救うアイテムや必要性が謎な道具を入れる。青の巾着は生活道具パック、主に生活必需品や救急治療用のアイテムを入れる。白の巾着は携帯収納パック、何かいりそうな物を入れる。

 宝箱は入りきらない物を入れるための物らしい。

 全て錬成術師の研究の成果たる『空間圧縮』を搭載したファンタジーによくある見かけ以上に物が入る巾着になっているらしい。

 

錬成術師曰くこの世の何処を探しても空間圧縮機能のついた収納袋は自分の作製したやつしかないらしい。錬成術師の言葉が本当ならば彼女は新しい発明をした天才子女となるわけだ。

 凄い人間と出会ってしまったようだ。成功報酬にその袋を付け足してやくれないだろうか。


 そんなことを考えていると腹の虫が盛大に鳴いた。

 空を見上げれば中天の南側に眩しい光の塊、太陽が浮いている。片付け作業を開始してからけっこうな時間が経っている。

 日射病などは今の太陽の傾きからしてあまり心配する必要はないが、時が経てば腹が減るのは自然現象だ。

 俺はデュアルと錬成術師に昼食休憩を提案することにした。


「おーい、そろそろ昼飯にしないかー?」

「あ、良いねジュナサーン!僕もちょうどお腹が減ってきたところだったんだー!」


 俺の提案に賛成意見を大声で話すデュアル。伝達結界とやらのおかげなのか、とんでもない声量だ。


「だから〜、大声で話すんじゃないコボリスとデュアル〜!」

「あ、ごめーん!」

「だから〜〜!!」

「で、錬成術師は腹減ってないのか?」


 俺の疑問の声に錬成術師が何か応える前に、グゥーっと錬成術師の腹の虫が応えた。

 吹き出しそうになるのを我慢しつつ俺は「オーケー、分かった」と腹の虫に応える。錬成術師が恥ずかしさで悶えている様が目に浮かぶようだ。


「さて、それじゃあいったい誰が買い出しに行くかだが……」

「え?言い出しっぺのジュナサンが行くんじゃないの?」

「なに寝言ほざいてんだデュアル。こういうのに言い出しっぺも何も無いんだよ、みんな食いたかったんだからな!」

「えーそれは違うと思いまーす!」

「はいはい、黙らっしゃい」


 俺の案にケチをつけるデュアルを軽くあしらい錬成術師の意見を聞くことにする。


「錬成術師、買い出しに行かせる奴を選ぶ方法なにかないか?」

「え?買い出しなんて要らないよ〜?だって宝箱の中にご飯は入ってるも〜ん」

「なんと!お前用意良過ぎだろ!」



◇◇◇◇◇



 錬成術師が用意していた昼飯を俺たちに振る舞い昼食終了。

 昼飯に出てきたのは俺が知らないモンスターの肉だった。モンスターの名前はグレーターコツァルトと云うらしく、デュアルが描いて見せてくれた絵はまんま鶏冠(とさか)のない鶏だった。

 上位種のコツァルトーラと云うモンスターの絵も描いてもらったのだが、こちらまんま鶏だった。ただ、灰色の尾羽として描かれていたグレーターコツァルトと違いコツァルトーラは極彩色の尾羽を持っているらしい。

 話が逸れたが、このグレーターコツァルトの肉は美味かった。日本で食った鶏の肉と遜色ない――いや、こちらの方が皮が美味しかった。

 料理の仕方もあるのだろうが、味付けは日本の方が優っていると思うので肉の質が高いのは十中八九間違いないだろう。

 焼き鳥にしてタレを塗れば最高だろうな……。


「んん……。腰が痛いよジュナサーン」


 腰に手をやり背を反らしながらデュアルが弱音を吐いた。

 俺にその情報を与えてなんになると云うのだろうか……。

 とはいえ、確かに俺も腰や首が痛くなってきている。先ほどから小まめにシホちゃん頼んでスキルの【再生滋養】などのバックアップをしてもらっている状況だ。

 辺りを見渡せば天を貫けと言わんばかりの威容を放っていたガラクタの塔は、子供たちが砂場で作るような山くらいの大きさになっている。その周りに十数個ほどある何の目的の下に作られたのか分からないガラクタたち。

 だんだん少なくなってはきている。と云うかもうちょっとで終わるだろう。

 西の空が少し赤みを帯び始めている。

 昼飯からけっこうな時間が過ぎ、やっとここまできたのだ。最後くらい頑張って弱音を吐かないようにしろよデュアル……。


 【再生滋養を発動しますかマスター?】


 あ、お願いします。


「デュアル〜。あと少しだから頑張って〜」


 錬成術師がデュアルを励ます。

 今は三方に散って片付けしていた俺たちも肉眼で確認できるほど近くまで来ている。だから見えたのだが、デュアルを応援する彼女は応援しながら何か飲んでいた。

 アレは絶対この世界にある回復薬とかだろ。

 つまり俺たちの中で唯一回復できていないのはデュアルになるわけだ。頑張れデュアル、負けるなデュアル!


「はぐぅあっ!こ……腰が………」


 デュアルが前屈みの態勢で止まり腰に片手をやりながらもう片方の手を前に伸ばす。

 初めて聞いた。グキッなんて音を人が鳴らすとは。


「どうしたのデュアル〜?」

「ぎっくり腰だろ」

「い……痛い。痛いよジュナサン〜〜!」


 デュアルが俺の方へと手を伸ばしてくるが、俺と錬成術師は口だけ動かして片付けを続ける。

 横目でチラ見してみると涙目になったデュアルがまだ俺に手を伸ばしている。

 仕方ないな。シホちゃんどうにかできる?


 【問題ありませんマスター。薬膳生成を使えばどうと云うこともございません】


 シホちゃんから頼もしい返事をいただき、デュアルに近づく。

 デュアルが目を潤ませながら満面の笑みを俺の方に向けてくる。それを見て苦笑しつつ、デュアルの顔の前に手を伸ばす。


「ほら、これ食えば治るだろうよ」


 手のひらの上に赤い丸薬ができる。

 なんだろう。見た感じ某有名忍者漫画に出てきたチャクラを一時的に倍増させる秘薬に見える。

 これ、本当に食べて良いやつなのだろうか?


「ありがとうジュナサ〜ン!」


 デュアルがとても嬉しそうに手に取り、なんの疑いもなく食べた。

 するとどうだろう。デュアルの体がビクンと少し跳ねた。

 あぁ……ぁ、と小さく呻き声をあげるデュアル。やはり何か危ない薬だったのだろうか。


「うぅっっひょぉぉぉぉお!さすがジュナサンジュナジュナサン!腰の痛みが食べた途端消失(ロスト)されましたですハーイ!しかも何これ……。わ、湧き上がる……、腹底から力が湧き上がってきますぅ〜〜〜!!うぅっっひょぉぉぉぉお!!ありがとうジュナサン!」


 突然跳び上がったかと思えば、変なテンションで小躍りしながらお礼を言ってくるデュアル。

 口調が狂っていると云うか、キャラが崩壊している気がする。大丈夫かコレ?


 【この際ですので再生滋養に器官覚醒を加えてみました。予測通り身体中の一時的強化ができた模様です。副作用の気分高揚は想定の範囲内ですので構いません】


 oh……。シホちゃんがデュアルを被験体に実験をしたようだ。

 しかもテンションが可笑しくなるのは想定していたとか怖いな。

 もうソレって覚醒剤って言えるんじゃね?大丈夫?危なくない?


 【問題ありませんマスター。マスターに使用する場合はしっかりと調整いたしますので適度に気分が高揚する程度で抑えます】


 論点がズレてますよシホさん……。

 まあ、シホちゃんがしっかりとした計算の下行った行為なのだろうから心配しなくても大丈夫だろう。


「さあさあ!どんどん片付けていこうかー!」


 気分が高揚した上器官覚醒で身体中が力漲っているデュアルが高いテンションのまま叫びながら片していく。

 伝達結界は今も発動しているのでとんでもなく煩い。

 それに片付ける速度は声に比例せず、錬成術師に聞きながらなので遅いままだ。


「煩いわよデュアル〜!」


 あまり迫力のない口調で錬成術師がデュアルを叱るもデュアルは叫び続ける。

 錬成術師が怒ってデュアルの方へと走っていく。そしてデュアルに向かって飛び蹴りをかます。

 デュアルが鼻血を噴き出しながら倒れた。

 器官覚醒のおかげか異常に血が溢れる。

 それを見て錬成術師が慌てながらハンカチーフを鼻に詰め込む。

 あと少しで終わると云うのに作業が一行に進まない。何してるんだ俺らは……。



◇◇◇◇◇



 日が沈み、スラム街だからか街灯が無いおかげで辺りが闇に包まれている中に小さな光。

 錬成術師の秘密道具ナンバー1"闇を斬り裂き(マジック)私を光が包む(ライト)"が俺たちの周りを照らす。

 大仰な名前の割にヘボいルビ、ヘボい光だ。


「終わったな」

「終わったね」


 俺たちはやっと片付けを終えた。

 本当ならもっと早く終わるはずだったのだが、錬成術師が途中からいきなり『そういえば宝箱の中に適当に入れたのが残ってた〜』などと言いだし、ゴサーっと宝箱から物を出し始めたのだ。

 そのおかげで数がまた増え、泣く泣く片付けたのだ。

 あの時は一瞬殺意が湧いたものだ……。


「2人ともありがとうね〜。コレでようやく私も研究所に引っ越しができるよ〜。はい、クエスト用紙にはもうサインしてあるからギルドに持って行けば晴れてクエスト終了だよ〜」


 最初デュアルが渡していたクエスト用紙を差し出してくる錬成術師。

 それをデュアルが受け取り、サインの確認をしようと見やると目を見開かせた。


「え……?報酬額が増えてるんだけど………」

「あ、それ〜?それは〜、2人の今日の頑張りとコボリスという人語を解する面白いコボルトへの私からの想いだよ〜。気楽に受け取ってくれて良いんだよ〜」


 報酬額が増えているらしい理由に俺が入っているのに少し驚いた。

 人語を解するコボルトは面白いのだろうか?

 錬成術師の笑いのツボが俺には分からない。

 

「そ・の・か・わ・り〜」


 錬成術師が俺たちの中で一番背が高いので、少し前屈みになり視線を俺たちに合わせて微笑む。

 その笑顔はデュアルと俺を帰らせようとしていた時の作り笑いとは違って年齢にあった少女らしい可愛いものだ。


「これからも仲良くやろ〜?君たちだけなんだよ〜、あの塔を見て片付けをしてくれたのは〜。まあ、最初デュアルの反応は他と一緒だったけどね〜」


 デュアルを見ながら少し悪い笑顔を作る錬成術師。


「ごめんよロザリオちゃん」

「んふふ〜、良いよ謝ってくれたしね〜」


 自分より歳上だろうロザリオに臆すことなくちゃん付けするデュアル。

 それに対して悪戯(イタズラ)が成功した時の子供のような笑みを見せるロザリオ。

 って、あれ?ロザリオ?

 ロザリオって錬成術師のことか?


「ロザリオって誰のことだ?」


 ロザリオという聞いたことのない名前に対して質問する。

 するとどうだろう。

 デュアルが困ったような笑みをこちらに向け、錬成術師がたった1日だけの付き合いだけで分かるようになった怒っている時の顔をこちらに向ける。


「ジュナサン忘れちゃったの?ロザリオはれ―――」

「デュアル少し黙ってて〜。これは私とコボリスの問題よ〜?」

「あ、はい……」


 デュアルが何か言おうとしていたのを錬成術師が止める。

 口角が上がっているのに目が笑っていない笑顔でこっちを見る錬成術師。どこか迫力を感じさせる。


「コボリスのためだけ(・・)に自己紹介をもう一度(・・・・)するわね〜?私の名前はロザリオ=マター=ノゥレッジコクーン。これでも称号持ちの錬成術師なんです〜」

「称号持ち?何それ」

「称号持ちっていうのは二つ名みたいなもので〜、実力が国や組合(ギルド)に認められた者だけが手に入れることができるの〜」

「凄いの?」

「そりゃあ凄いよ〜!どうだ、参ったか〜」


 そう言って無い胸を張る錬成術師もといロザリオ。

 へー、二つ名か。今一つ凄さが分からんな。


「僕もいつかは称号を手に入れるんだ!称号持ちは後世まで脈々と語られるほどの偉人だからね!」

「そんな、偉人だなんて照れるな〜」


 デュアルが拳を握り熱く夢を語り、それを聞いてロザリオが照れた。

 俺としては二つ名なんてどうでも良いし、後世のことなど興味ないので聞き流す。

 その後俺たちは少しの間談笑して、俺とデュアルがギルドが閉まる午後10時の門限があるので別れた。

 別れる時に餞別として携帯収納パックをくれた。

 さすが偉人、太っ腹である。欲しかったんだよねコレ。

誤字脱字がございましたら教えてください

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