ほぎゃーー!(産声です)
ーーー痛い
ーーー痛っ、え?
ーーー痛い痛い痛い!
「ホッギャーーーーー!!(いったーーーーー!!)」
痛いと叫ぼうとした俺は、何故かただの雄叫びになったことに対して首を傾げた。
ほぎゃーー!などと叫ぶつもりは無かったのに何故叫んだのだろうか、と悩んでいると腹から盛大な音が聞こえてきたのでとりあえずその事は置いといて塩ラーメンでも作ろうと目を開けて起き上がる。
少しばかりの違和感、いやとんでもない違和感を覚えた。
体を起こす時に何か腕が短く感じた。それだけではなく加えれた力は弱く、のに対して軽い体が浮く。
それら些細と呼ぶには少々逸脱した違和感をまとめあげハッキリと違っていると伝える視界。
まず最初に視界を焼く強い太陽の光が目に飛び込んできた。
それを食い止めるために起き上がるために体を支えるのに使っていた両腕の片方、右腕を持ち上げる。その右腕の異様。
その異様な腕では遮れなかったが故に視認する壮大と言えるだろう緑豊かな樹々。
それら全てが伝える情報の結果、俺は何が何だか分からなくなってしまった。
「グゥ?キュルゥ…ク?グル!?(え?えっと…え?え!?)」
雄大な大自然の威容を眺めてフリーズしていた頭が数秒の後に再起動し、しかし受け入れることのできない夢のようなそれを疑問を叩きつけることで否定する。
その時に口から漏れた言葉が尚更困惑を煽る。
とりあえず現状確認をしようと思い至った俺は、周りを要チェックする。
もしかしたら、なんて淡い期待を抱いていたがやはり今いるこの場所は森、それも樹海と呼べるレベルのとんでなく深い森のようだ。
次に確認したのは先ほどの異様な右腕。
一目で分かる人とは異なった腕は、サラサラとした肌触りの良さそうな茶色い毛で覆われている。それは右腕だけでなく全身が同じく覆われている。
腕の形は双方ともに人のそれと瓜二つだ。
右腕の先、右手は指が5本あるのだが、手首の辺りにももう1本あり肉球まであるという異形だ。俺は知らないが、それはパンダの手にとても似ていた。
足の形は犬や狼などのイヌ科の動物のそれに似ている。だが太さは断然こちらの方が太い。
足の指は4本が地面に触れており、1本が手と同じように足首の近くにある。
ほとんどつま先立ち状態なのだが、何故かバランスは取れているし疲れもしないことに首を傾げる。
尻に何かがあることを感じとった俺は見つめていた右手を尻にやる。
そこには尾があった。それもとてもフワフワな尾が。
それは狼のように地面に向かってダラリと垂れているが、意識して上にあげようと思えば案外簡単にピンと上がった。
どうやら俺はコボルトに転生したようだ。
それならいっそのことドラゴンとかの方が良かったな…。まあ何を言っても変わらないけどさ。
体の異常はだいたいこんなもんか…。
人はあまりに突飛な出来事に遭遇した場合それをただただ堰の壊れたダムように情報を集め続けることを俺は他人事のように理解した。
じゃあ今度は周りの異常かな?
そう心の中で呟くと辺りを見渡す。
先程も少しだけだが見ていたが、もう一度しっかりと確認してみると自然の迫力を感じる。
大きく地面から迫り出した根や、日本では見かけたことがない程の太く逞しい幹。そして一本一本の樹々がとても高い。
木には年輪と呼ばれるものがあり、幹を切った時に側面に見える輪の数で何年生きていたのかが分かる。確認はしなかった俺だが、少なくとも100年は超えているだろうなと予測した。その予測は大きく外れ、実のところこの場の樹々で一番若い樹でさえ580年は生きているのだが、俺が知る由もない。
そんな古木の幹に這う蔦、岩や幹に付着している苔、多くの葉の隙間を掻い潜って地を照らす木漏れ日が何とも言えない芸術を作り出している。
「ほぎゃー……(ほえぇー……)」
間抜けな声が口から漏れた。
少しの間そうやって大自然を見つめて呆然としていた俺に近づく影があったことを俺はまだ知らない。
ほぎゃーー!
その言葉が世界を救う?
さあ、貴方も一緒に
ほぎゃーーーー!!