スラム街の住民の目力
俺が昨日から住んでいる街"グレイラビ"は大きく四つの区域で別けられるらしい。
一つめ、この街を統轄している貴族の住む御屋敷。この街は結構大きな街で、統轄している貴族も地位が高いらしく公爵という地位を獲得している。
二つめ、住民区域。これは貴族の御屋敷の周りに作られている住民専用の区域らしく、冒険者や商団のような町の住民ではない者たちは立ち入ってはならない場所らしい。無闇に立ち入ると罰金や刑罰の対象となるそうな。
三つめ、露天商や飲食街、宿屋や娼館などの商業区域。これは住民も住民でない者も立ち入ることができる区域で、まんま観光地的な場所だ。
そして最後の四つめ、貧困層と呼ばれる人々が暮らすスラム街区域。この区域は通称"廃兎"と呼ばれ、世界的にも知名度の高いグレイラビの汚点と言われているらしい。
俺たちはそんな汚点に今来ている。
中世ヨーロッパ風なレンガ造りの街並みを見せていた商業区域とは異なり、周りを見渡せば幾つもの木造りの家々が崩れまいと支え合っている。
家の上に新しい家を造り乗せ、道路であれ橋の下であれ隙間があるなら家を造れと言わんばかりにミッチリと家で埋め尽くされている。木の根の洞にさえ、何処から持ってきたのかドアが置かれている。ドアが着けられているのではなく、置かれている。
「凄いな……」
無意識に出た言葉。それをどう捉えたのか、住民から睨まれた。
「ジュナサン、錬成術師の家はこっちだよ〜」
デュアルがヒョイヒョイと慣れ親しんだ迷路を行くように進みながら俺を呼ぶ。
待てデュアル、なんでそんなにこの迷路のような道を簡単に進めるんだ……。というか周りの子供達の視線がお前を見ている時だけ憧憬の熱を持っている気がするんだが…………。
「どうしたのジュナサン?僕としてはチャチャっと終わらしてジュナサンを抱き枕にお昼寝したいんだけどー」
「んー……いや、まあいい」
「?」
俺はデュアルの進んだ道を後を追う形で進んだ。
デュアルが屋根の上を進めば、俺も屋根の上を進む。デュアルが家と家の隙間を潜れば、俺も潜った。
何故だ住民達よ……、何故俺を更に強く睨むんだ………。スラム街の掟に俺だけ反してるとでも言うのだろうか。
◇◇◇◇◇
「デュアルさんやデュアルさんや、ちょっと良いかの?」
「なんだいジュナサン!」
「本当にここで合っとるのかね?」
俺たちの目の前にはゴミがある。
ゴミ、と云っても生ゴミなんかじゃない。壊れた人形や割れたガラス、穴の空いたタンスなどから崩れた家など多岐に渡った、所謂粗大ゴミや娯楽玩具のゴミなどだ。
それらのゴミが堆く山のように積み上げられたゴミの塔が目の前にある。
さすがに如何に変人と言おうとコレを部屋とは言わない気がする……。
「えー僕を疑うのジュナサーン?」
「いやね、疑うもクソもさすがにコレは……ねぇ?」
俺の言わんとすることを理解してくれ、デュアルくん!
そんな俺の思いはデュアルには届くことはなかったらしく、デュアルは持っていた地図の紙を俺の方に突きつけてくる。
「でもねジュナサン?ここにほら、ちゃんと住所と地図が書いてあるんだよ!しかもイメージ画を付けてくれるという親切心!」
「あ、本当だ〜。地図をくれたギルドマスター良い人だね、懇切丁寧にゴミの塔みたいって字まで書いてあるー」
そこにはとても分かり易い一本道の地図とギルドマスターが描いたであろう酷似したゴミの塔の絵に補足説明まで書いてあった。
ジーザス!
「でしょ!?だから言ったんだよジュナサン、絶対やめた方が良いって〜!」
「ななな、何を言うか少年!こんなものは想定の範囲内に決まっているだろうが!」
そうだ、こんなものは想定の範囲内だ。何も驚くことはないぞ俺。
しかし見れば見るほど妙な塔だ。何故これほどまでにゴミが積み上げられているのだろう?ここはスラム街なのだから盗まれたりしそうなものだが……。意外とそういうのは無いのだろうか?
「それより早くクエストを終わらしてしまおうよジュナサン」
「あ、ああ……そうだな、早く終わらせようか」
心底気怠げに座り込んでそう言うデュアル。
そうだな、とっとと終わらせようか。
「ごめんくださーい!ここに錬成術師さんがいらっしゃると聞いて来ましたー!部屋の片付けのクエストを受けた者ですが、錬成術師さんいらっしゃいますかー?」
「はいはーい、ここにいるから引っ張って〜」
俺の呼び声にマネキンが応えた。
「ええ!?マネキンが喋った!?」