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Re:KoboldSaga  作者: 空見鳥
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VSドライアド

 ドライアド、大樹精霊という一種の精霊の仲間。

 木の精霊であるドライアド達は一様に人間の見目麗しい女性の姿形をしており、気に入った男性達を虜にして栄養源とするとかしないとか。

 基本的には穏便な精霊で、栄養源が少なかった時以外は例外を除いて他種族を襲ったりしない。が、その例外というのが自らを脅かす存在である。

 木を伐採する木こりや森を開拓する農家はよく襲われるらしい。中には狂ったように他種族を殺しまくる堕ちた妖精などもいるそうな。


 そんなドライアドが(つや)らしく舌で唇を這った。

 その動作一つ一つに魅了や魅惑効果でもあるのか俺の目が離せなくなる。

 おかしい、今の俺は性別的にメスであるのに何故だ。


 【気を確かにしてくださいマスター。スキル魅了、魅惑、催眠耐性を同時併用します】


 シホちゃんのその声を聞くと同時にドライアドへの俺の思いが変化する。絶世の美女だと思っていたが、もう普通の美人くらいである。

 それでもけしからん双丘が俺の視線を固定化させようとするが、そこは自前の忍耐力を使って見ないようにする。


「ねえ聞きたいことがあるんだけど、良い?」


 ドライアドが谷間を強調しながらそう問うてくる。

 何を聞きたいのかは分からないが、答えるのはやぶさかではない。なのでその胸の強調を止めてくれないか、目の保養どころか毒である。

 俺が黙りながらも顔を背けないことを肯定と取ったのかドライアドが妖艶にふふふと笑った。


「君はコボルトよね?どうしてそんなに草ばかり食べているの?」

「ああ俺はコボルトだ。草ばかり食べている理由は教える気はないな」


 ドライアドの問いにそう答えるとドライアドは残念そうに「あらそう」と小さく声を発した。

 しかしそれが本題なのではないのだろう。思考するようにうーんと言いながらアゴにその小さな手を当てる。

 何か面倒ごとに巻き込まれるのは嫌なので俺としてはドライアドを眺めているだけで良いのだが。


「そうね、世間話なんてしてる暇はないようだし端的に聞こうかしら」


 そう言ってドライアドが両腕を仰々しく広げて下等生物を見る蔑みを孕んだ瞳で俺を見てくる。その態度は俺に対する侮辱そのものだ。そしてドライアドはそれを分かった上でやっているのだろう。

 先ほどまでの清楚なお姉さん的雰囲気は最早なく、今は降格を吊り上げて大きく見開いた瞳という恐ろしげな表情をしている。元が美人なだけにその顔はとても様になっている。

 ドライアドの本体である木がザワザワと葉音を鳴らす。風が吹いていないのに、だ。


「知能が足らず矮小なるコボルトに問う。ソナタがこの地の草花を喰い荒らしたかや?」


 瞬きを一切せずに俺を射抜くように観るドライアド。それはこの旧大草原の覇者か王のような威圧を感じる。

 その威圧のおかげで毛先がチリチリと粟立ち、足がガクガクと震える。

 本能が言っているのだ。こいつと殺り合っては勝てないと、コボルト風情が敵う相手じゃないと。


 俺としても殺気をこんなに出せるような化物と死合うなど絶対に嫌だ。

 俺は死なないように森に行かず大草原を喰らい続けていたのだ、何が哀しくて死に急ぐようなことをしなければならないのだ。

 逃げれるものなら今すぐにでも逃げたい、だがこのドライアドは俺が逃げようと背を向ければ背を襲うだろう。

 うん、どちらにせよ死ぬ?嫌だぁぁぁあぁあぁあぁああああああああああああああああ!!2度も死にたくないよママーーー!!!!


 【落ち着いてくださいマスター。まだ死んだと確定したわけではありません。気をしっかり保ってください】


 そう言うけどシホちゃん!高々産まれて一週間ちょっとのコボルトが何十年と生きてそうなドライアドに敵うと思うか?デカさ的にも生きてきた年数的にも大人と子供の差があるんですけども!?

 こんなの無理ゲーだ………。


 【マスターは普通のコボルトとは一線を画する化物です。貴方のスキル量は今や3桁もあるんですよ?それに貴方には私がついております。私が並列思考と加速思考を同時併用すれば良いバックアップになれますので逃げることくらいなら容易にできます。安心してください】


 お…おぉ……!シホちゃんが言うとなんだか本当にできそうな気がするから凄いな。よし、なら猛ダッシュで逃げよう今すぐ逃げようさあ逃げよう!!

 何故だか説得力がある言葉を聞いて俺は逃げ切る決意を固めた………のだが、それに待ったを掛ける声が聞こえてきた。


 【マスター逃げるのは最終手段といたしましょう。観察したところアレは幹よりも大きく地に根を張っている模様です。移動はまず無理でしょう、ならば少しは力試しをしてみましょうマスター。貴方の自信を取り戻すためにもアレは格好の獲物です】


 ホワイ?チョーッチナニイッテルノカワカンナイナーーHAHAHAHA。

 え、シホちゃん何を言ってるんですか……。あんなのと殺り合ったらダメだって、マジで死んじゃうよ。殺される殺される冗談抜きで殺される!

 触らぬ神に祟りなしって言うじゃんか、関わらない方が身のためなんだって!


 「脆弱なコボルト風情が……、いつまで私を待たせるつもり………?……もういい、ソナタが喰い荒らしていることは分かっているのだ。どちらにせよ殺すことに違いは…………ない!」


 え、えぇぇぇぇぇぇぇええ…………。なんか勝手にヒートアップしてらっしゃる〜。

 キィィィイイァァアァアァアアアアアア!!と木がどうやって発しているのか分からない叫びをあげて天を仰ぐドライアド。

 その雄叫びに周りの草花が同調するようにザザザッと近くの草花とその身を当てる。


 【相手は良い具合にその気になっているようですし、マスター頑張りましょうね】


 最終的にシホちゃんにそう言われ、逃げるにしてもシホちゃんのバックアップが無ければダメな状態なので引くに引けない状況となってしまった。

 はぁ…。とため息を吐こうとした瞬間、ゾワリと悪寒がしたので全力で後方に下がる。

 すると先ほどまで立っていた地面から根が飛び出していた。それも異常なまでに先端が尖った根が…。


 吐こうとしていた息が喉元で止まり、一拍おいて口からむせ返り放出される。

 汗の代わりに無意識のうちに身体中から蒸散で余計な水分が溢れる。

 スウゥ…と何かが全身を満たした。そのおかげでか息をしなくても良くなった。そして全身から溢れる力、研ぎ澄まされる感覚。

 もしかしたらシホちゃんのバックアップというのは全自動で無意識下のスキル使用のことなのかもしれない。


 心強い。できるならソレを逃げるためだけに使って欲しかったな……。

 今だ踏ん切りがつかず、そんなことをボヤいてしまう。

 その隙を狙ったかのように木の枝が伸びてきて俺を襲う。他にも刃状の木の葉が群鳥の如く一糸乱れぬ動きで俺の方に飛んできている。跳び退けば着地点に先ほどの針状の根が八つ裂きにしてくることだろう。


「それなら……!」


 俺は枝を避けるように飛んだ(・・・)

 信じていた通りシホちゃんが鞘翅(しょうし)を生成してくれた。そのおかげで俺は根の脅威からとりあえず逃げのびる。

 初の鞘翅を使った飛行になるが、それもシホちゃんのバックアップのおかげで難なく思い通りに飛べている。


「羽虫の特性を持っている?ソナタはコボルトではないのか?…いや、亜種……か」


 俺の鞘翅を見てドライアドが何かを納得したような素振りを見せる。

 あまり興味はないので無視し、俺の方からも死なないためにも攻撃をする。とは言え接近戦は怖いので遠距離攻撃をしよう。

 そう考えているとシホちゃんが最適化した攻撃方法を構成する。蒸散に麻痺毒と普通の毒を掛け合わせて作ったヤバい物を使用して、相手の神経を蝕む攻撃だ。

 濁った緑のような色合いの霧が辺りを充満する。


「ふふふふ…ぁはははははははははっ!そのような物は息をするソナタ達にしか効かんぞ低脳者め!!」


 そう高らかに笑うドライアドは、初めて見た時の妖艶さなど皆無の姿だ。

 それに俺を色仕掛けで虜にするつもりはないらしく、人の上半身を(かたど)っていたソレはもうほとんど木が盛り上がっただけのようになっていて醜い。

 口調も何か悪役風なものになっており、最早正真正銘の化物である。


 【低脳呼ばわりするとは許せません】


 シホちゃんが怒っている。

 そりゃそうだろう、俺の考えに合わせて最適化したバックアップをしているのに低脳と言われるのは変である。


 【マスターを愚弄するとは良い度胸です腐りぞこないの老木風情が。目に物を見せてやりましょう】


 ってそこかい!

 そうシホちゃんに突っ込んでいる間にドライアドが木の葉を操り竜巻状にして俺を囲んだ。驚いていると葉と葉の隙間から鋭利な枝が伸びてくる。

 それをギリギリ躱す。

 ヤバいことになった。飛んでいる俺を中心に包むように刃状の葉がミキサーのように周り逃げられなくし、その見えない死角から致死率の高い枝で攻撃してくることで精神力・体力共に削られていく。


 厄介だな……。

 そう思ったのも束の間、先ほど蒸散していた劇毒の代わりにもっとヤバそうな赤黒い液体が全身から総計15本の線となって周りを吹き飛ばす。

 それはとんでもない水圧で押し出された俺の血をベースに作られた毒だった。それには先ほどの劇毒に加え、酸と侵食腐敗更に生気吸収魔力吸収なども使用されたモノ。

 15本の血線は血流操作によって巧みに操られ、周りで回転している木の葉を撃ち抜き溶かし腐らせ塵芥へと変えていく。


 俺の視界を邪魔していた木の葉が無くなり、ドライアドを直視する。所々腐り溶けているのでコイツも食らっていたようだ。

 まだなんとか顔らしき形状を保っており、目であろうクボミが闇だけを映す。オォォ……と低い呻き声のような音を口らしき穴から発するソレは木の精霊(ドライアド)というよりは木の妖魔(トゥレント)という感じを受ける。


 【賢狼を使用しますね】


 シホちゃんが俺のちょっとした困惑を感じ取りご丁寧に調べてくれるらしい。

 ただ視界に文字が滲み出てくるのは戦闘中は邪魔な気がすーーー


 【レベル127、名前一世樹妖精(ハンドレッドドライアド)

ビギナーズ大草原の老木に精霊が宿った物。ビギナーズ大草原の護り手。ドライアドとしての歳は若いので少々短気であり、理性を保つのが下手で本能が暴走しやすいので取り扱いには注意が必要】


 おお、シホちゃんが読み上げてくれるとは思わなかった。シホちゃんの声は心地よいハスキーボイスなので耳が幸せだ。

 しかしどうやらこのドライアドはドライアドとしては若い部類に入るらしい。それにこれは憶測だが、今このドライアドは暴走状態になっているのではないだろうか。本能が剥き出しだから人の形をとれなくなっている、と考えると今の護り手らしからぬ醜悪な姿に得心がいく。

 まあ若い若くないは今は関係ないし置いとくとしよう。


 話を戻そう。

 ドライアドが何かをしようとしているのか、枝を天に向ける。だがその何かを待ってやるほど俺は優しくないので一気に終わらそうとシホちゃんに用意してもらう。

 仄かに桃色に染まった白い霞がドライアドの周りを覆う。

 それは俺が作った花粉。

 ドライアドがそれに気づくが、もう何をしようと遅い。


 閃光が辺りを照らす。

 次いで轟音。

 最後に風圧の壁が迫り全てを吹き飛ばす。

 それは大爆発だ。


 俺が起こした大爆発、それは粉塵爆発と呼ばれる前世の知識にもあった物だ。

 なんでも極微小な粉が空気中に舞っていると燃焼時の酸素燃焼率が激しいらしい。

 それを俺は大量に花粉を飛ばすことで起こしたのだ。しかもスキル効果で爆発力を高められている。

 今の俺の気持ちを言葉にするなら「芸術は爆発だ」である。それか「最高にハイってヤツだぜ!」。


 轟々と立ち込める黒煙の中には酸素を求めた炎達によって体内(木内?)を蹂躙されて炭化したドライアドだった物が残っていることだろう。

 俺の方にも閃光と轟音と爆風がきて少しばかりヒヤッとしたのだ。直撃したドライアドはさすがに生きてはいないだろう。

 そう俺は油断していた。その油断をついて煙の奥から奴の根が迫ってきた。

 慌てて避けようとするも仕損じて捕まってしまう。


「く…!?」


 油断していたことへの後悔と捕まった時に根が腹を突き破ってきた時の痛みとで苦痛の声が漏れる。

 黒煙が風に押しやられてドライアドが見える。やはり粉塵爆発で焦げているし所々赤い炎が燃え上がっている。

 それでも生きているとは植物恐るべし。


 【マスター生命力を吸い取られています。マスター生命力を吸い取られています。マスター生命力を吸い取られています。マスター生命力を吸い取られています。マスター生命力を吸い取られています。マスター生命力を吸い取られています。マスター生命力を吸い取られています。マスター生命力をーーーーーー】


 いきなりシホちゃんが大声を上げたので驚いた。と同時に同じフレーズを繰り返していることに疑問がわく。

 焦りながらシホちゃんにどうしたのか尋ねるもフレーズを繰り返すだけで返答らしい返答はない。

 もしかしたら生命力を吸い取られることでシホちゃんにも異常が発生したのかもしれない。


「クソ……!」


 激情が溢れて口から漏れ出る。

 だんだん全身から何かが突き刺さった根に吸い取られている感覚は分かるので、俺も同じように根を伝って吸い取り返す。

 生気吸収を含んでいる俺の周囲を漂わせていた自身の血液を血流操作で体内に戻して生命力を補い、気怠かった身体に力が戻るのを意識して確認する。


 確認と同時に生気吸収と技能喰者を同時併用しようと試みるも、ぶっつけ本番で簡単にできるはずがない。

 なので並列思考を先ず発動して加速思考を発動させる。そして加速した並列思考を使って生気吸収と技能喰者を分担して発動する。

 それで同時併用もどきを作り出し、一気に生命力を喰らい返す。


 後は俺とドライアドとの根性勝負である。

 基本的に逃げるが勝ち思考な俺に根性なんてものは存在しないのだが、この時の俺は何故か酔ってでもいたかのように体が熱くなっていて、逃げるという考えが抜け切っていた。

 ただ勝ちたい、こいつを殺して喰いたい。そんな考えだけが脳内を占めていた。

 俺の中にも弱者(コボルト)としての這い上がりたいという気持ちがあったのだと思った。




 生命力の喰い合いをして如何程の時が経ったのか……。

 気づけば西の空に綺麗な満月が浮いていた。この世界の月は地球のソレよりも1.5倍くらい大きく純白色をしていて、薄い雲がかかると月光に照らされてドレスを着ているように見える。

 俺はその美しい満月を見上げながら地面に立っている。目の前には生命力を食い尽くされて細く枯れた大草原の護り手。

 俺は辛くもハンドレッドドライアドに勝ったのだった。

 この偉大なる大草原の護り手に対して、せめてもの礼儀としてその身を喰らおう。


 【精霊王澍の祝福を取得】

 【森林親を取得】

 【森林魔法を取得】

 【護り手の心得を取得】

 【孤独の精神を取得】


 大草原の護り手は孤独だったのか。

 そんなことを思った。

サービスを持ってこなかったのは場違いな気がしたからでーす^^;



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