木に話しかけられた
すみません。今回は山場などございません。
ですが次話は話が進みます。
太陽が東の空を照らし始める。
朝冷えの風が湿った草原の草花を揺らす。
朝日の到来に鶏のような歩行型の鳥が鳴き声をあげる。
その鳴き声を聞き、元草原であった砂漠の片隅にある穴から俺はヒョコッと顔を出した。
辺りを見渡し外敵がいないかどうかの確認をする。
「うん、今日も変わらず良き朝を迎えれたな!」
そう言うや足に力を込めて穴から飛び出る。
この穴は昨日寝る前に作成したもので、所謂寝床のようなものである。あまり活用はしないだろうが、こういうのは気分の問題なので作っといたのだ。
寝心地としては下の中といったところか。とりあえず寝ている間に口の中に虫が入ってくるのはいただけないな。
日差しの眩しさに少し目を細める。
穴の中で寝ていると少しは落ち着いて寝れるが、穴から出た時の光量の変化が気になる。とはいえ文句を言っても何も変わらないのだが。
いつも通り欠伸と伸びを同時にすませ、草を食べに行くことにする。
【おはようございますマスター】
思考補助のシホちゃんが朝の挨拶をしてくるので適当に返答する。
彼女(スキルに性別は無いだろうが声が女性系なので)は3日前にパッシブスキルとなっており、それからというもの挨拶を欠かさない。彼女曰く挨拶をする度に嬉しく思えるらしい。
【正確には思惟補助ですが】
とまあ、ちょいちょい揚げ足を取ってくるが基本的にそういうのは嫌いではないので良し。
彼女は俺が知らない間にもいろいろと補助をしているらしく、スキルの使用を簡略化していたり疑問に思ったことなどを回答してくれたりする。
例えば、今の草原の砂漠化は?という質問にはーーー
【マスターが初めて訪れた時の草原を1としますと、ただ今の砂漠化は十分の七ほどです】
といった感じで分かりやすく答えてくれる。
俺の頑張りの成果はたった7日程度で、この広大な大草原を草原レベルにまで砂漠化させてしまったようだ。罪な男である。
まあ俺には関係ないし、砂漠化をどうにかするのは人間とかに任せとけば良いだろう。いや俺知能の低いモンスターなんで、砂漠化とか一々気にしたりしませんとも。
【まあ、マスターは草原などなくとも岩を摂食していれば生きていけますからね】
え?俺は草原無くなったら岩を喰べないとダメなの?
俺としては普通に肉とか喰ってれば良いと思うんだけど……。
【でしたらマスターはまたオークとの命懸けの鬼ごっこをしたい、ということでしょうか?】
あ…したくないですはい……。
そうか、小動物を喰っていけばいつかは小動物が減り、そのせいで腹を空かしたオークなどのモンスターが俺のような下位モンスターを狙い出すのか。
そうなるとあの悪夢の再現か………。
うん、人間には頑張って砂漠化を食い止めてもらおう。
【他人任せですね】
そりゃそうだ。
こういうのは団体で取り組むべき問題なんですよ。一個人たる俺にいったい何ができるんだって話ですからね。
とはいえ大草原を喰うのは止めないから、あまりその取り組みは成果を実らせないだろうけど。
「さて、今日も元気良く朝食を食べるとしますかな」
そう言って俺はバクバク草原となった旧大草原を砂漠化ていく。
うんうん、最近は新しいスキルが増えないが強化はされているので何の不満もない。
やはり草ウメ〜〜!
◇◇◇◇◇
草原をハムハムバクバクしていると前に見たような木があった。
木の種類が同じとかではなく、大きさが前に見た雷が落ちて燃えていた大木に似ているのだ。
旧大草原には数本だけだが木が点々と生えており、周りが草花なだけあってとても目立つ。その中でも前のと今回のは際立ってデカい。
近くで見上げるとまた圧巻で、とても強く逞しい偉大さを感じる。
だからと言って、その程度のことで俺は食事を止めたりはしない。普段なら「大きいな〜」などと声には漏らせど、草を喰いながら桜の花見気分で見ている程度だろう。
そう、普段なら。
今回は少々事情が違う。
何が違うかと言われると、木に話しかけられたのだ。最初俺はただの空耳だと思い無視して草を頬張っていたが、木は無視できないほどの声量を持って俺を呼んだ。
木に呼ばれるという摩訶不思議な体験に驚きつつも振り返るとそこには人がいた。
いや、正確には人の女性の上半身が木から裸体のまま生え出ていた。申し訳程度の枝葉が胸の双丘の先端を隠している。
それは俺が知り得るファンタジー知識的には『ドライアド』と呼ばれる物のはずだ。