遠-遠慮なければ近憂あり-
〇登場人物
五十嵐 宗一 大学生
十川 郁也 大学生
土谷 巧美 社会人
葉佩 九美 社会人
研究員 数名
窃盗犯
異星人
〇注意事項
登場する人物・名称・団体はすべてフィクションであり、実際のものとは一切関係ありません。
◆弘前大学 サークル棟
昼頃の日差し。
小屋間の茂みに多くのカバンが隠されている。これら全て盗品である。
怪人がその場所に歩み寄り中身を漁り始める。
十川「あのさぁ。」
後ろを振り向く怪人。そこにはベルトを巻き立っている十川の姿があった。
十川「……変身してまでちゃっちいことしてたって仕方ないでしょうに。」
怪人、十川を睨みつけ、焦っているのか憤っているのか身を震わせている。
十川、盗品の山を指さして、
十川「俺の財布もとい盗んだもん全部、返してもらうよ。」
千円札を入れたケースを取り出してベルトに差し込む。
十川「変身。」
(以下戦闘)
走って襲い掛かる怪人。
それをひょいと躱す十川。やれやれ、と
十川「ただ向かってくるだけじゃ。」
と振り返ると怪人姿がなく、いつの間にか後方に現れている。それに気付かない十川、背中にドロップキックを受ける。
十川「ぐあっ!」
飛ばされて倒れる。と、気が付けば上空から襲い掛かってくる怪人。身を転がすことで何とか躱す。
怪人、地面に激突するのかと思いきや、すり抜けていく。
十川「えっ!? ……うぐっ!!」
そして体の下から蹴り上げられる十川。
なんとか身を起こし態勢を立て直し辺りを見渡すと、建物の壁から姿を現す怪人。
十川「……本当、便利なこと。待てこのやろ!」
怪人を捕まえようと追いかける十川。しかし怪人は壁の中へと逃げる。
逃げ回りながら隙を突いて攻撃してくる怪人。十川、セコい攻撃の連続に頭に来て。
十川「いいー……加減にしろっ!」
後方に現れた怪人に鋭く回し蹴り。
首に直撃、苦しがっている怪人に歩み寄り、適当な突起を掴んで顔を寄せる十川。
十川「つーかまーえーた!!」
怪人怖気た様子で。
百円玉をベルトに入れる十川。チャリン、という小銭の音。光りだす¥。
その光の中で一撃。
(戦闘終了)
窃盗犯(元怪人)「ひ、ひいいぃいいい!!」
叫びながら、片足を引き摺り四つん這いで逃げだす窃盗犯。すり抜けられないことを忘れて壁に激突し硬直。
十川「あれ、ちょっとズレたかな……。」
変身を解除した十川、窃盗犯のベルトが半壊になっていることが気になったが一先ず置いておいて。
犯人を睨みつける。
十川「理由はどうあれ、立派な犯罪だよ。警察、行こうか?」
通報しようと携帯電話を取り出した所で、後ろから全力疾走してきた五十嵐に肩を叩かれる。
五十嵐「郁也郁也郁也!」
息も絶え絶えに三回。
振り向いて。
十川「なんだよ……。お前っ!! 何したんだよ。」
五十嵐「ベルト、貸して!」
十川「は?」
自分の都合しか考えていないんだろうな、と半ば呆れ顔で。
十川「お前……!」
語調を強めて早口で叱りつける。
十川「今、やっと取り返したんだぞお前の鞄!! 俺の財布が入ったお前の鞄!! 携帯何っ回かけても!」
五十嵐「うん。分かってるっ……。それは、ありがとう、ほんとに。」
十川「くそ呑気な……!」
依然荒い息を整えている無責任者。
怒りが湧いてくるが怒っていても仕方が無いので、
十川「今からこいつ警察に突き出すんだから、手伝ってよ。」
と犯人を指差す。
が、不思議そうな顔の五十嵐。
五十嵐「こいつ、って?」
十川「さっき俺が捕まえた、」
と犯人の方を見ると姿はなく。
慌てて辺りを見渡すと、半壊したベルトを持ち片足を引き摺って逃げている窃盗犯。
十川「あ!!」
振り向いた窃盗犯、十川と目が合う。
一瞬の間。
慌てて逃げ出す窃盗犯。
十川「おいこら! 待て!」
駆け出そうとするが、五十嵐に腕を引かれる。
十川「なんだよ!!」
苛立つ十川。
五十嵐「ベルト! ベルト貸してくれ!!」
十川「それどころじゃ」
しかし掴んだ腕を離さず、
五十嵐「頼む! 必要なんだこっちも!!」
十川の腕を掴んだまま勢いをつけて頭を下げる。
十川「……っ!!」
手早くベルトを外して、押し付けるように渡す。
五十嵐「サンキュ!」
受け取ってすぐに、犯人の男性とは反対の方向に走って行ってしまう五十嵐。
十川、自分勝手な五十嵐やら、逃げた犯人にイラつく。
左右を交互に見て、
古川「あーっ!! ……もう!!」
逃げた犯人を追いかけて走って行く古川。
◆弘前大学から土淵川への道路
五十嵐、走りながら腰にベルトを巻き付ける。
千円札の入ったケースを取り出して。
五十嵐「変身っ!!」
その声が響く。
被さって
○タイトル
『¥』
前半始まり
◆土淵川 寒沢から桔梗野に抜ける橋の下辺り
大学生のボランティアたちが川に降りて、大雨による増水で流れてきたゴミを片付けている。
その中で1人、泥に埋もれた自転車の、辛うじて覗かせているハンドルを引き抜こうとするも抜けず。
大学生1「うーん。」
大学生2「あー自転車?」
大学生1「そう、なんだけど、こりゃあちょっと……。」
そう言って再びトライするものの、ビクともせず。
大学生2「これは……頼んだほうが早いよ。」
大学生1「やっぱりだよなぁ。」
そう言って後ろを振り返る。
声を張り上げて、
大学生1「すんませーん! おねがいしまーす!」
バシャバシャと小川を駆け足で、変身した五十嵐が向かってくる
五十嵐「はーいはいはい」
ハンドルに手をかけ、容易く自転車を引き抜く。
大学生1、2「おぉー。よきかなよきかなー!」
2人とも拍手。
五十嵐、照れた様子。
大学生2「すげぇなぁ。それ本当にうちの(大学の)技術なの?」
大学生1「理工の先生のとこのなんだって? TV呼べばいいのになぁ。」
五十嵐「やー、まぁ。実験段階的なやつだしさ。こういうのもほら、データ取りってやつらしくて。」
大学生2「いいように使われてんだ」
大学生1「大変だね」
と、違う場所でまた、
大学生3「ごめーん! 遠藤君! こっちもおねがーい!」
五十嵐、手を上げて合図する。
五十嵐「じゃ、頑張りましょう!」
とガッツポーズ。
大学生1、2「おう!」
2人同時にガッツポーズ。
◆土淵川沿い 道路
犯人を追いかけていたが見つからず、五十嵐を追いかけてきた十川。通りかかってふと学生の声が聞こえ川を覗きこむ。
ゴミ拾いをしている変身した五十嵐の姿。
十川「あ!!」
呆れたように
十川「……あの野郎。」
ジワジワと怒りがこみ上げてくる十川。トサカにきて叫ぼうとしたその時。
十川「っ!」
頭痛とともにモスキート音のような高周波を感じる。
ゴミ拾い中の学生の何人かも悲鳴を上げている。
硬直して倒れる五十嵐。周囲の大学生が心配して駆け寄るが全く反応がない。
十川「お、おい!!」
十川、五十嵐の元へと駆け降りていく。
◆三鷹公園
缶コーヒー片手にベンチに座っている土谷。その隣に、葉佩がやってくる。
立ったまま簡単に敬礼の仕草をして、
葉佩「オッケーです。任務完了しました。」
土谷「うん、ご苦労さん。あとは彼の帰宅を待つだけだな。……これで、」
葉佩「七人ですね。 」
土谷「あ? ……あぁ、たしかにそうだね。君は正しいよ。」
葉佩「えっへへ。」
わざとらしくに照れている仕草の葉佩。それから少し間を開けて
覗きこむように土谷を見て
葉佩「……お昼食べました?」
呟くように一言ずつ漏らす土谷
土谷「ん、や? まだだよ。朝から忙しかったからねぇ。今日は。」
疲れたように遠くを見る土谷。コーヒーを一口飲んで、深呼吸。
葉佩しゃがんで見つめる。
葉佩「巧美さん。」
土谷「……。」
沈黙を感じ入るように葉佩、息を吸い込んで穏やかに口を開く。
葉佩「私をご飯に連れてって。」
無言の間。土谷の視線は虚ろであり、しかし葉佩を慈しんでいるようでもある。
しかし、返答はいつまでたっても無く。
葉佩「……巧美さん?」
はっとして、
土谷「あぁ、ごめん。寝てた。」
葉佩無言でうなだれる。
と土谷のポケットから携帯電話の着信音。
片手で謝る仕草をしながら電話にでる。
土谷「……はい土谷。……え。」
焦ったように立ち上がる土谷。それを見て葉佩、急いで公園を出る。(タクシーを拾うため。)
土谷「……そっか。」
疲れきったように話す土谷。
持っていた缶コーヒーがするりと手から抜け落ちる。
◆五十嵐の部屋
布団で寝ている五十嵐。
その横。充電スタンドに立てかけられている携帯。
着信音がなる。登録されていないため相手の名前は出ない。
暫くして止む。間を置かず2回目の着信。
そこでやっと反応し、ケータイに手を伸ばす五十嵐。
◆弘前大学 総合棟401号教室
葉佩の携帯から聞こえる電話の呼出音。
少し長く響いて応答。(五十嵐の方の音声は無しで。)
葉佩「もしもし。五十嵐宗一さん? 私、葉佩と申します。今起きました? うん、体調は大丈夫そうですか? そっかそうですか、なら良かった。それで、お願いしたい事があるのですが。うん、あぁー……、その時の話はこれから、と言うことで。今から弘前大学の総合教育棟の、401号室に来てもらえますか? ……いえ、授業ではなくてですね。」
話してる合間に自動で閉じられていくカーテン。暗くなった部屋にプロジェクターの明かりが青く灯る。
その光に照らされている教室内。スクリーンの中心に葉佩。
葉佩「作戦会議です。」
◆プロジェクターの投影画面
●台詞全てoffで
何も写っていない画面(青ベタ)。
部下「それでは、説明に入らせて頂きます。」
パワーポイントの1枚目、弘前市上空の画像。
部下「こちらは今朝9時25分頃に撮影された写真です。この点に注目してください。」
空に黒点がある。
部下「拡大したものがこちらになります。」
2枚目の写真。ネジのように螺旋状の物体であることが分かる。
部下「そしてこの1時間後。」
3枚目の写真。それまで線状の物体は人型へと変わっている
葉佩「変化した?」
部下「断定し兼ねます。が少なくともこの物体にも先程と同じ文様があることが分かります。しかしこの写真が撮影された数秒後、」
4枚目の写真。腕に当たる部分が消失している。
部下「こちらの物体へ。この観測と同時刻、弘前市内全域に謎の高周波数が観測され、何人かの市民が体調不良で病院に運ばれています。」
葉佩「……何かしたってこと?」
葉佩の言葉にレスポンスはなく。
部下「そして現在、極微速ながらもこちらに接近している模様です。」
葉佩「到達までの予想時間は?」
部下「約37時間です。」
葉佩「それが微速? 寝る暇も無いじゃない。各方面への連絡は?」
部下「既に完了しております。……そして、」
スライド、また切り替わり。先程よりも大きく写っている写真へ。
部下「こちらが5分前に撮影したものになります。」
しばし無言の間があって。
部下「……以上です。」
葉佩「以上?」
怪訝そうな声を上げる葉佩。
葉佩「あと何も分かってないわけ? 天体観測のために馬鹿みたいな予算通してるんじゃないのよ。」
部下「私たちはこれ以上何も。」
葉佩「知らないわけないわよね。それとも、言えないっての?」
部下たち誰も答えず。無言ばかりが続く。
葉佩、控えめに唸って。それからため息。
葉佩「そういうことか。……何もかもが足らなさすぎるわね。……この事は、上も?」
部下「ですから……」
遮るように、
葉佩「そう……そうよね。分かりました。」
以降は独り言のような呟き。
葉佩「書類での指示通達、現状確認は部下からの報告のみ。……疑っちゃうわね、現場指揮官が聞いて呆れる。……私ですらただの駒じゃない。」
◆弘前大学 総合教育棟401号教室
明かりのつく教室内。
葉佩「という事で。」
席を立つ葉佩、手にはプリントを持っている。
葉佩「御覧頂いたこの落下物を迎撃していただきたのです。」
喋りながら教壇まで歩いてくる。そしてプリントをめくりながら、
葉佩「お配りしている資料の3ページ目を……。」
と、五十嵐の方を見て、
葉佩「……居眠り禁止!」
頬杖をついて寝ていた五十嵐、ビクッと起き上がる。急いで手元のプリントをめくって取り繕おうとしているが。
少し呆れたように、
葉佩「結構……。プリント止め、簡単に説明するから。さっきのどこまで聞いてました?」
五十嵐「えーと、その、ネジ巻き星人の腕が無くなった辺り? んで弘前が危ないとか何とか。」
葉佩「そこまで聞いてりゃいいわよ。」
と言って仕切りなおし。
葉佩「簡単に言いますと、現在地表に向けて接近中の、これを迎撃していただきたいわけです。」
後ろのスクリーンを指さして言うも、
五十嵐「……はぁ。」
ピンときていない五十嵐だが、尚も淡々と説明を続ける葉佩。
葉佩「落下予測地点は北緯40度36分28.93秒、東経140度27分49.7秒。住所にして、弘前市大字下白銀町一番地。詰まる所『鷹岡城』ね。ここで待ち伏せてもらいます。」
無表情の五十嵐。
葉佩「到達予想時刻は翌々日の午前3時頃、なのでそれまでは待機ですが私達と行動を共にしてもらいます。食事やお風呂は準備してありますのでご安心を。」
五十嵐「……。」
葉佩「もちろん、成功失敗にかかわらず報酬も用意してあります。そちらに関しては説明が終わり次第必要書類に記入をして頂くことになります。」
淡々と話す葉佩。対して一向に無表情の五十嵐。
葉佩「さて、ざっとこんなもんですね。ご質問ございます?」
五十嵐「……帰っていいすか?」
葉佩「あ、着替えならこちらで」
五十嵐「そうじゃなくて。」
と、葉佩の台詞を遮って続ける五十嵐。
五十嵐「言ってることは分かるけどやってることは全く理解できねぇ。俺が呼ばれた意味も全く。……そもそもあんたら何なんです?」
呆れながら捲し立てる五十嵐。葉佩、姿勢を正して。
葉佩「これは失礼。自己紹介が遅れました。」
と言って黒板に名前を書く。
葉佩「私は葉佩九美。役職は総務部部長兼、第一研究班班長付臨時秘書、兼、本作戦現場指揮官。以降宜しくお願い致します。」
そして一礼。
五十嵐「どこのって、大元が抜けてるけど?」
不審がる五十嵐に微笑みで返す葉佩。
五十嵐「……言えないわけ。」
葉佩「そしてこの方たちは第二研究班所属職員になります。……あ、」
思い出したように声を出し、部下たちの方を向いて、
葉佩「皆さん撤収。帰って観測を続けて下さい。進捗は五分おきにローカルで。緊急時連絡は直に私の携帯にお願い。それでは宜しく。」
言葉を受けて片付けを始める部下たち。
葉佩、五十嵐の方に向き直り、
葉佩「失礼しました。さて、あなたのことは存じています。五十嵐宗一さん。この大学の生徒で二回生。そして、」
自分のスーツの裾を上げて、腰に巻いたベルトを見せる。
葉佩「これ、持ってますね。」
五十嵐、驚く。
葉佩「あ、大丈夫ですよ。これ見本ですし。でも、少しは今の話に現実味を持って頂けたと思います。」
なだめるような口調の葉佩だが、
五十嵐「つまりあんたら、」
毛を逆立てるようにして語調を強めていく五十嵐。
五十嵐「知ってるってのか、全部。……俺らのことだけじゃなくて、それの力も、今までの」
葉佩「説明は、」
五十嵐の言葉を遮って、ゆっくりとなだめるようにして話す葉佩。
葉佩「今は時間がありませんので、後ほど、必ず。」
五十嵐「後ほど!?」
葉佩「そうじゃなきゃいけない理由がここにあるんです。説明は必ず致します。事が済み次第そちらに連絡を。」
部下の一人が五十嵐の机に一枚の名刺を置く。葉佩の名前と電話番号のみが簡潔に記載されている。
五十嵐、名刺を見つめる。
葉佩「さて、それではこれからですが」
葉佩の携帯が鳴る。取り出した画面には『五十嵐宗一くん』の表示。
電話にでる葉佩、それを見て電話をあてる五十嵐。
(ここから先は二人とも電話を耳に当てながら芝居して下さい)
ぶつかり合う視線。
葉佩「私の話、信じてもらえないんですね。」
五十嵐「真っ当な現実味も無しに信頼しろってのが無理だろ。いくらなんでも。」
葉佩「じゃあ死にますよ。この市も県も国も。」
五十嵐「それだって口だけだろ。証拠も何もないんじゃあ」
葉佩「例えあなたが信じなくても真実です。」
その眼はまっすぐに五十嵐を捉える。
葉佩「この危機を救えるのはあなただけなんです。」
葉佩の真剣さに内心圧倒され始めるも、五十嵐は無言のまま。
葉佩「五十嵐さんには救っていただきたいのです。それも弘前なんて範囲の問題じゃない。」
一呼吸あけて、
葉佩「この世界の行末です。」
五十嵐を見つめたまま。
葉佩「お願いです。信用してください。」
更に強く訴えかける葉佩の視線。
両者しばしの沈黙。
(電話ここまで)
五十嵐、視線をそらさぬまま電話を切る。
五十嵐「騙されてやるよ。」
ゆっくりと礼をして。
葉佩「ありがとうございます。それでは。」
消灯。再びプロジェクターの青い光りに包まれる教室内。
先ほどと同じ物体の近撮が映し出され、カウントダウン表示に切り替わる。
その真中に葉佩。
葉佩「私達に残された時間は、あと35時間……」
とその時、部下が飛び込んできて叫ぶ。
部下「来ます!!! 今来ますっ!!」
葉佩「……へ?」
目を丸くする葉佩。
前半終わり
後半始まり
◆新青森駅構内
新幹線が到着する。降りてくる人々、改札をくぐっていく。
一階の土産物屋にも人が多く。店員やら買い物客の声が入り混じる。
ホーム。電車を待っている会社員。
と、突如耳鳴りのような高周波。
◆新青森駅
上空から落下してくる人型の物体(以降異星人と表記)が駅を貫く。
建造物の残骸が辺りに散乱していく。
◆駅付近 ショッピングセンターの立体駐車場
新青森駅を貫いて立っている異星人が見える。
買い物客がただただ呆然と見つめている。
◆新青森駅
鳴き声もあげず暴れもせず。ゆっくりと動き出す異星人。
あたりを見渡して、地鳴りを轟かせながら弘前に向かって前進していく。
◆弘前市内 ビジネスホテルの一室
ベッドに横になっている土谷。
携帯のアラームが鳴り響き、起きる。画面にはスヌーズの表記。
ゆっくりと体を起こして携帯の画面を見る。
土谷「……寝坊したな。」
急いで立ち上がりテレビを付け、葉佩に電話をかける。
テレビには新青森駅の残骸が写っていたが、程なくして規制が入り通常の番組に変わる。
◆車中
葉佩、助手席で通話。
葉佩「現在国道7号線を青森方面へ移動中……わかりました。」
電話を切り、運転手に指示。
葉佩「あそこに停めてください。彼を降ろします。」
後部座席に座っている五十嵐。
五十嵐「は?」
葉佩「いいわね五十嵐くん、よく聞いてください。目標は現在弘前に向かって進行中。あなたはそれを迎え討って下さい。」
五十嵐「迎え討つったって。こっからは歩いていけって言うんですか。」
葉佩「いえ。」
頭の後ろで手を組んで。
葉佩「待機よ。まだ私達には術がないから。」
五十嵐「ベルトも金もあるじゃないすか。」
葉佩「そうじゃないから届けてもらうわけ。力であって、希望でもある、」
葉佩の言葉が区切れる。
五十嵐「……何です?」
葉佩「何か、よ。」
と、車が大釈迦に着く。
葉佩「それじゃあ、ここで。」
渋々降りる五十嵐。
◆大釈迦 道の途中
葉佩、パワーウィンドウを下げて
葉佩「五十嵐くん、成功を祈ります。応援してるからね。」
空元気を振りかざす葉佩。さも可愛げありそうにウィンク。
無反応の五十嵐。閉まりかけの窓に投げかける。
五十嵐「……あんたら逃げるのか?」
答えはなく、車は行ってしまう。
人影がなく静かな道の駅に一人立ち尽くす五十嵐。
ふと、携帯を取り出す。
◆弘前市内
とある町内を歩いている十川。
と、携帯のバイブレーションがなる。五十嵐からの着信である。
十川「あぁ五十嵐。さっきは誘い断って悪かったね。何の話だったの?」
◆大釈迦 道の途中
話している五十嵐。
五十嵐「世界を救う作戦会議。」
十川「……もっかい寝たら?」
五十嵐「嘘じゃなくて。……ベルトのこと知ってる奴らに呼び出された。」
驚く十川。
十川「マジで!? ちゃんと話きいたんだろ?」
五十嵐「いや、それは後でって。今は世界を救わなきゃならないから。」
一旦携帯を耳から話して見つめてしまう十川。こいつは本当に五十嵐なのか、倒れたショックでおかしくなったんじゃないか等と色んな疑念が過る。
が、意を決する思いで語りかける。
十川「……こんな時になんだけど、なんでゴミ拾いにベルト使ったの?」
五十嵐、それは、と言いかけて言い淀む。
十川「怒んないからさ。理由。」
促されて渋々言葉を口にする。
五十嵐「粗大ゴミとか埋まってたら使えるじゃん。自転車とか。」
十川「実際そうだったしね。……見てたから。」
五十嵐「あ、あぁ。」
十川の言葉に観念したような溜息が少しだけ交じる。
十川「そういうの、間違ってないと思うよ。」
何を言われているのか直ぐには理解できず、五十嵐は言葉を出せない。
十川「お前はさ、たったゴミ拾いでも、その為に、一生懸命にベルト使えるじゃん。凄いと思うんだよ、正直。だって俺はやんない……、得体の知れないからこそ極力使いたくない。」
五十嵐「うん。」
説教のような十川の弱音でもあるような言葉を、五十嵐はただ聞くしか無かった。
そうは思っても、と十川は続ける。
十川「結局は殴り合いのために使ってる。」
五十嵐「でも、相手がベルト使うから。」
とフォローするも十川は、
十川「仕方ないんだろう。けど仕方なくても、結果として使っちゃってんだよ。」
五十嵐は何も言えなくなった。ベルトは共有してどちらかが使えば良いと思っていたはずなのに、様々な理由をつけて十川を戦わせてしまっていた。
それがこんなにも十川に重荷になっているとは思いもよらなかったのだ。
仲の良い友人であるが故、お互いに隠す所も当然ある。五十嵐の失敗は気付こうとしなかったことだった。
十川「その事を間違ってるとは思わないんだ。」
しかし、十川はそうはっきりと言い切った。
十川「こっから先もそうだよ。そうやって使って、使っていくしかないんだろう。でも正解じゃないとは思うってだけなんだ。」
五十嵐「正解とか不正解とか」
あるのかよ。そう言おうとして十川が割り込む。
十川「それは分かんないから、使ってく中で見つけるしか無いんだ。それは、特に五十嵐がさ。」
五十嵐「俺が?」
十川「うん。……てか、そもそもお前に送られてきたもんだしね。」
五十嵐「あ、はい。」
十川「っと。」
犯人の姿を見かけて声を潜める。
十川「それじゃ、細かい話は後でしようよ。だから地球でも人類でも守ってきてくださいよ。」
五十嵐「……すまん。」
言い終わる頃には電話が切れていて。
◆大釈迦 道の途中
携帯をしまう五十嵐。
と、地鳴りが響き山の陰からゆっくりと巨大な人影が見える。
五十嵐、息を呑む。
五十嵐「嘘じゃないのか……!」
ゆっくりと進行してくる異星人。
釘付けになっている五十嵐の後方に一台の車が到着し土谷が降りてくる。
土谷「大きすぎる頼み事で、誠に申し訳ないな。」
五十嵐、一度視線を土谷に向けるが、また異星人に戻して。
五十嵐「こっちこそご心配おかけしてます。頼りないでしょう。俺じゃあ。」
土谷「いや、五十嵐くんじゃなきゃ出来ないことだからな。心配はしていないよ。責任者の土谷巧美だ。」
といって名刺ではなく、缶コーヒーを差し出す。
受け取って、少しの間。
五十嵐「……負けたらどうなるんです?」
土谷「それは想像に任せる。」
五十嵐、無言。息を吸い込む。
土谷「ま、それを飲んだら気楽にやってくれ。負けなきゃいいんだ。……と、そうそう。」
と内ポケットから封筒を取り出し、差し出す。
土谷「これで頼む。」
五十嵐、受け取る。開封すると中には二千円札が入っている。それを見つめている五十嵐。
土谷、指を立てながら。
土谷「変身時間は三分間。」
面食らったように土谷を見る五十嵐。
五十嵐「短いですね。」
土谷「よくある時間だよ。知らないのか? 意外と長いのさ。」
五十嵐、深呼吸。ゆっくりと長く息を吐いて。
五十嵐「これ、ありがとうございます。」
と、持っていた缶コーヒーを足元に置く。
五十嵐「終わってから頂きます。」
土谷、笑って。
土谷「ああ。」
目を閉じて深呼吸する五十嵐。そして開かれた眼光鋭く、巨人に向けられる。
片手には二千円札が握られていて。
五十嵐「じゃあ……!」
ゆっくりと歩き出す五十嵐。段々と駆け足になっていく。
土谷は異星人に向かっていく背中を見送りながら、タバコを取り出す。
◆大釈迦 田園
異星人がゆっくりと歩いていく。その度に地鳴りと大きな揺れがある。
ふと走ってくる五十嵐が視界に入り動きを止める。
彼の手には二千円札の入ったケースが握られている。
異星人を睨みつけ気合の咆哮。
五十嵐「おおおおおおおおおおお!」
そして叫ぶ。
五十嵐「変ッッッ身ッッ!!!」
入札。
光出す体、段々と大きくなって巨人に向かう。
巨人頭部、光を反射していく。
光が巨人を押し倒していく。山に倒れ込む巨人。のしかかっている五十嵐の後ろ姿。光が収まっていき変身した後ろ姿が見えていく。
頭部のツノで攻撃する巨人。五十嵐、それをかわして飛び退け、距離を取って退治する。
田園に立つ五十嵐。この時になって初めて、異星人は巨大化した¥の全身が捉える。
五十嵐「っしゃあ!!」
声を上げ走って飛びかかるも、身を転がして避けられる。
異星人、立ち上がり両腕に当たるトゲ状の部分を捩りを解くようにして五本の指の形状に変化させた。
握って開いて手を馴らす。
五十嵐向き直り、姿勢を正してファイティングポーズ。
異星人もファイティングポーズを取る。両者一斉に駆け出して取っ組み合う。
異星人の手を振り払って懐に潜り込む五十嵐。そこに膝が入る。左手で両腕を抑えながら右手で膝を払う。
巨人の顔を見上げ、額をぶつけて睨み合う2体。
◆弘前市内 とある場所
壁際に窃盗犯を追い詰めた十川。息を切らして。
十川「もういい加減、諦めようよ。」
窃盗犯「そう簡単に捕まったら、このベルトを買った意味が」
薄ら笑いを浮かべながら十川を見つめていた視線が左右にブレる。
窃盗犯「……あんた、1人じゃないのかよ……! 卑怯だこんなの!」
十川「え?」
十川の両側を通ってスーツ姿が歩いていき、窃盗犯を押さえつける。叫んでいるがなす術無く連行されていく。
唖然として見ているだけの十川。
その後方から声がかかる。
葉佩「十川くん! あとはこっちに任せて!」
十川「え? あんた一体」
十川の言葉を遮って、車の中から呼び込む葉佩。
葉佩「早く乗って! 行くわよ、五十嵐くんのところ!!」
◆大釈迦 田園
ボンネットには五十嵐の置いていった缶コーヒーが置かれている。
車に寄りかかり五十嵐と異星人の戦いを見上げている土谷。
諦観とも楽観とも取れるような表情で、ただただ戦いを見つめている。
ゆっくりとタバコに火をつける土谷。五十嵐と異星人が戦うシルエットに煙草の煙が被り、風に揺らいで流されていく。
視線も表情もそのままで、彼は口を開いた。
土谷「“銀河には、2000億もの星々が存在し、その幾つかには生命があり、宇宙に進出する技術を持った文明もあるのかもしれない。もしも、その中の1つでもゴールデンレコードを理解できるのなら、我々のメッセージは届くだろう。”」
吐き出した煙草の煙が風に流される。
土谷「……君は何を予習してきたんだ? 英語? ウェールズ語? 呉語? ……魔笛は聞いたか? ベートーヴェンは詰まらなかっただろう。ジョニー・B・グッドも嫌いじゃないがね、私としてはビートルズを聞いて欲しかった、残念だよ。」
呟きも風に流される。ゆっくりとタバコを吸って吐き、いつか、とまた口を開く。
土谷「“いつか我々は現状直面している課題を解決し、銀河文明の一員となることが出来るだろう。このレコードは来るべき日のため、我々の希望、決意、友好が、この畏怖すべき宇宙に向かって示されているのだ。”」
土谷は、異星人と対面してからずっと頭に巣食っていた言葉をやっと全て吐き出し、独り言のように話しかけた。
土谷「直面する課題は何一つ解消されないが、君にはどうでもいい事だな。それよりも、この星に生きる人類という文明を覚えてくれればそれで良い。これからの一歩は、果てしなく大きいんだ。」
言葉を一度区切って、大きく息を吸う土谷。それまで向けていた目つきとは一変、何か覚悟をしたように鋭くなって巨人たちに向ける。
土谷「さて五十嵐さん。置き土産の課題は目の前の事実を以て結論と致しましょう。正に十分効果を発揮した、つまりこれから先の期待も無くなった。だから私の好きなようにさせて頂きます。既に託したものと共に。」
タバコを捨て、踏みにじって消す。
と、そこに葉佩たちの乗った車が到着する。
葉佩「遅くなりました。」
土谷「んや、丁度なタイミングだよ。」
と、十川、車から降りてくるなり眉間にシワを寄せたまま巨人たちへ駆け寄ろうとする。
土谷「おいおいあんまり近寄ると」
十川「……何でだ。」
振り返り、
十川「あんた責任者だろう!!! 何で見てるだけなんだよ!!!」
その後方で五十嵐の形勢は不利になっていた。
異星人に蹴られ、背中から倒れこむ。
腕を二股の槍状に変化させて五十嵐の両腕を挟んで抑えこむ。そして頭部の二本角を捩って一本のツノとし頭突き。
あわや右目に刺さるかという所で、間一髪で避け、右目の端を掠らせながらも反撃の頭突きをする五十嵐。
異星人がよろめいた所に蹴りをいれて一度距離を取り、姿勢を直して近づき二股の付け根の部分を掴んで競り合った。
その姿を見て握りしめた拳を一瞬だけ緩め、また握り直す十川。
十川「勝てるんだろうね……勝てるからやらせてんでしょ!?」
土谷「……そればかりは結果次第だな。」
十川は憤慨する。
十川「ふっっざけんな!! ベルト作ったんだろ!? なのに五十嵐にあんな事させといて!! 自分は命かけずに他人の命アテにして!!」
近寄り、胸ぐらをつかむ十川。土谷動じる様子はなく
土谷「大方はお察しの通り。だがこれは五十嵐くんにしか出来ないことだ。五十嵐くんだから出来る事なんだよ。」
十川「違うだろ。俺にだって出来たことだ! その気になりゃ、あんただって!」
土谷「可能性は常に取捨選択だよ。その上に現状がある……が、出来ることが何も無いなら俺はここにはいないよ。あるから君を待ってたんだ。」
十川「はぁ?」
葉佩「つまり、あなたの決断が五十嵐くんを助ける事になるんです。」
といい、一枚の書類を掲げる葉佩。
土谷「さて十川くん。君が可能性を選ぶなら、あの書類にサインを。」
両腕を捕まれたまま投げられ蹴られの異星人だったが、再び二股の付け根を掴まれた際に二本の触手を縒り、一本の槍状に変化させる。
取っ組み合いからの勢いのまま、五十嵐の両手に槍が貫通していく。悲鳴を上げるがそれでも倒れず、辛うじて持ちこたえ睨むように視線を向ける。
そのシルエットを背景に、十川は土谷の胸ぐらを掴んだまま。
様々なベクトルの憤りを孕んで、睨みつける十川。
感情の有無が読み取れないような深い瞳で、見つめ返す土谷。
舌打と同時に手を離して。
十川「寄越してくれ!!」
葉佩の元へ駆け寄って書類を奪い、サインを殴り書く。
そして土谷の元へ行き、目の前に突きつける。
十川「終わらせろ!! 今すぐに!!」
土谷、受け取る。
十川、五十嵐の方を向いて叫ぶ。
十川「やるぞ! 五十嵐!! さっさとケリつけちまえ!!」
五十嵐、手に刺さった槍を折り、距離をとる。
異星人、折られた箇所が徐々に修復し、手の形状に。
土谷、葉佩に合図。葉佩、小さな箱のふたを開け、中のボタンを押す。
五十嵐の身体が徐々に赤く光りだす。手の傷口から滴る液体は蒸発して、傷口からは炎が燃え盛り、刺さった槍に燃え移って火柱となっていく。
両手から炎を巻き上げる五十嵐、走り、右手でパンチ。異星人も同時に左拳を繰り出す。が、ぶつかり合うことも無く異星人の拳は一瞬で灰燼となっていく。
うろたえる様に距離を取る異星人。体制立て直し、槍状にした右腕を振り下ろすが、回し蹴りでへし折られる。
両腕失い立ち尽くす異星人。その一瞬の隙。
五十嵐、思い切り力を溜め、両掌で腹部に一撃。
衝撃も何も無いように静まり返る。しかし、五十嵐の掌からは徐々に炎は溢れて渦となり、異星人を飲みこんで行く。
その場で持ちこたえようとするも堪えきれずに、段々と地面を滑りだす巨人。そして業火の中、跡形もなく消えていく。
両掌を突き出したままの姿で夕陽の中に立っている五十嵐のシルエット。
それを見つめている十川と葉佩。
土谷は背を向け、タバコに火を付ける。
◆どこかの自販機前
数時間後、夜。
ガコン、と取りだし口に缶が落ちてくる。手を伸ばす十川。
路駐している車の運転席には葉佩。自動販売機で飲み物を買い、十川が乗り込んでくる。後部座席には気を失った五十嵐が横たわる。
葉佩に缶コーヒーを差し出す十川。
葉佩「ごめん。私、缶は得意じゃないのよ。」
十川、そのコーヒーを開け自分で飲む。
車を走らせる葉佩。
しばらく沈黙した車内。
十川「……何も言わないんですね。」
葉佩「私も、何も知らないのよ。資料を渡されてその通りにしただけ。仕事だもの。」
十川「人類を救う仕事なんですか?」
葉佩「今回だけはね。」
十川「他人が戦ってるのを見てるだけだったのも、仕事ですか。」
葉佩「あのさ、どうしようもないっしょ。予想時刻より一日半も前倒し。計画は9割9分キャンセル、立て直す暇もなし。……でも、私だって信頼してたのよ、根拠無いけど。きっと何とかしてくれるってね。君たちなら。」
根拠は分からないが、葉佩の声は明るい。
十川「……結果論じゃないですかそんなの。」
葉佩は笑うだけで言葉はない。
十川「……1つ、教えてもらっても?」
葉佩「いいよ。1つだけ。知ってることならね。」
十川「このベルト、あなた達が作ってるんですか。」
葉佩「……うちの会社で作ったものには変わりないけど、コンセプトも、製造工程も私は知らない。でも、あんな怪物とも戦える。その為の力が備わっているってことは少なくとも、この事態も想定内ってことなんでしょうね。私にも、得体が知れないわ。」
十川「なんで俺たちが戦わなきゃなんないんですか。」
葉佩「1つだけでしょ? 続きの話はまた今度に。五十嵐くんには連絡先教えてるから。」
車、五十嵐のアパートの前に着く。
十川「その約束、信じていいんですか?」
葉佩「私も大人よ? 慣れてるわ。」
降りる十川。五十嵐を担いで座席から降ろす。
葉佩「今回の報酬の明細は明日届けます。あとこれは、十川君に。」
十川「なんです?」
葉佩「契約書。」
十川「……ご丁寧にどうも。」
葉佩「それじゃ、五十嵐君にもよろしく言っといて。」
十川「ああ。伝えておきますよ、また会おうって言ってたって。」
葉佩、車を走らせる。
そのライトが見えなくなるまで見つめ、十川、緊張を解く。
十川「本当、散々な一日だったよ。……おっと。」
五十嵐を落としそうになりあわてて立て直す。そして部屋まで歩きながら、
十川「ほら、五十嵐、そろそろ起きろ! おい! もう……。」
と、路上に横たわらせて、鍵を開けようと部屋まで行く十川。
◆五十嵐の部屋 玄関
アタッシュケースのアップ。
『十川 郁也 様』の宛名。
それを見つめる十川。
十川「これって……。」
○暗転
黒字に白抜文字。
『戦闘費用 千円
百円
二千円
課外活動費用 三千円
計 六千百円
引 贈与金額 二千円
締 四千百円』
『続く』
●次回予告
書面一枚で交わされた運命は、その男の人生を決した。
翻弄され、苦悩し、それでも立ち向かっていくその手には
遂にただ一つの大きな力が託される。
人々に背を向け、自らが盾となる時、彼は口にする。
「変身」と。
第三話『炎―煙炎天に漲る―』
ご期待下さい。
(第二話・終)
お読み頂きありがとうございました。
本編の事は、本編で解決しておりますので、蛇足は致しません。
ですが、一つ謝罪させてください。
劇中で崩壊する施設や町村の選出には、悪意は一切ございません。
強いて挙げさせて頂くとすれば、情景描写にこれ程秀でたものは無いという理由です。
同名の施設・町村には何度も足を運び、利用し、空気を吸いました。その場所が好きであるからこそ「お遊び」の場として使わせて頂いたのでございます。
そのような場所がある事を幸福に思うとともに、管理者、また地域住民には、心より感謝致します。
謝罪というのは、もし、プラモデルや3Dデータなどで自由に弄れる機会があるとすれば、しかしながら私は、この妄想の再現を抑える事は出来ないのだろうという事です。まるでプールに飛び込む小学生の時分のように、はしゃいでしまうでしょう。恥ずかしい事ではありますが。
深くお詫び申し上げますとともに、関係者様には、是非とも、お声かけさせて致します。共に童心に戻ってみませんか。
最後になりますが、このような稚拙な文にも関わらず、懲りずに助言下さった友人方々に深くお礼申しあげます。
お読みいただいた皆様には、厚かましいお願いではありますが、支援、批判問わず、ご感想頂けますと今後の励みとなり、嬉しく思います。
それでは完結まで、何卒、宜しくお願い致します。