縁-袖振り合うも他生の縁-
〇登場人物
主人公 五十嵐 宗一 大学生
友人 十川 郁也 大学生
スーツ 土谷巧美 社会人、どこかの企業の社長(?)
部下 三木 スーツの部下
〇注意事項
登場する人物・名称・団体はすべてフィクションであり、実際のものとは一切関係ありません。
◆弘前大学 学生会館横 ATMの小屋の中
昼頃、晴天。
ATMの画面。残高が千円を切っている。
画面を見て呆然とする五十嵐。
五十嵐「……マジかよ。」
◆ATM 小屋横
(五十嵐と十川は、この日、カラオケに行くという約束を交わしていた。行く前に金を下ろしたい、という五十嵐の要望で、ATM横で待っている十川の姿。)
小屋から出て来る五十嵐、待っている十川の元へ。
ちらりと横目、五十嵐が戻ってきたのを見計らい
十川「じゃあ行こうか。」
と歩き出そうとする。しかし、五十嵐歩みを止め、勢いよく頭を下げる。
五十嵐「すまん!!」
十川、振り向く。苦笑いとも取れるような、嫌な予感がしている表情で。
五十嵐「……貸してください!!」
十川、やれやれと、呆れ返った顔になり
十川「この間のやつ、まだ返してもらってないんだけど。」
頭を下げたままの五十嵐。返答はなく。
はー、と溜息をつく十川。
十川「今日はあるって言ってたじゃん。」
五十嵐、ゆっくりと頭を上げつつ
五十嵐「多分、NHKに落とされたんだと思う。」
ますます呆れ返る十川。
十川「おめぇんとこテレビ映んねぇじゃん! 地デジ見れねぇだろ! ……契約すんなよ、もう。……じゃあ、」
貸してくれるのか、と思い期待に胸を膨らませる五十嵐。しかし。
十川「今日は中止。俺も貸せる分ないもん。」
五十嵐、すぐさま頭を下げて。
五十嵐「ほんとにすまん!」
残念に思う気持ちもあるが、笑って許して
十川「いいよ。お前の部屋行こう。」
二人、五十嵐の部屋に向けて歩き出す。
(以降、画面からハけるまでの会話。適当に。)
例)「でも今度、詫びで奢ってよ。」
「おう! あ、でも……せめて八割。」
「まぁ、それでいいよ。メロQね。」
「キンコンで!!」
「メロQ。」
「キンコンで!!」
◆五十嵐の部屋 扉前
に立っている部下、扉の前に小包を置いている。
暫く小包を見つめたのち、足早に立ち去る。
◆三岳公園 ベンチ
に、座っているスーツ。足元にはアタッシュケースが置かれている。
そこに、部下が来る。スーツの隣で止まり、立ったまま。
部下「済ませました。」
スーツ「それでは。」
立ち上がり、ケースの中身を見せようとするが、
部下「結構です。あなたは嘘をつきません。」
スーツ「そうですか。」
と言って、差し出す。
スーツ「ご苦労様でした。」
部下、受け取ってスーツとすれ違い、後ろに歩いていく。
と、立ち止まって。
(以後、背中合わせのままの会話。)
スーツ「へんしん、してくれると思いますか。」
部下「彼はしてくれます、必ず。」
昔を懐かしむように、視線を遠くに向ける。
部下「この八年間、一心不乱に進めてきた研究が、こんな形でしか実を結べないなんて何というか、皮肉なものです。私はただ、平凡に、快適に暮らせれば、それで良かった。」
スーツ「俺たちは限られた時間と限られた方法でしか、結局、生きていけません。だからこそ死ぬ前に、結果を残したい。この目で確かめたいのです。その第一歩を、あなたが志願してくれたおかげで踏み出せる。三木さん、あなたは私達の、いや、これからの人類においてパイオニアであり、誇りそのものになる。」
部下「だといいですね、土谷さん……。必ず、最後まで見届けてください。そしてこれからをどうか、導いてやってください。人の望みのままに。私は一足先に、向こうで待っています。」
スーツ「はい。任せてください。良い知らせは、必ず持っていきます。」
部下感慨深く。しばしの間。
部下「それじゃあ、行きますね。……退職願は、しっかりと受理をお願いします。」
歩き出す部下。スーツ、振り向いて。
スーツ「長く一緒にやってきて、常に苦楽を共にした。あなたには、本当に感謝しています。」
深々と礼。部下歩みを止めず、振り返らず。
部下「うん、こちらこそ。ありがとう。」
◆五十嵐のアパートへの道中
五十嵐、十川、話しながら歩いている。
その時、スーツの部下とすれ違う。
ふと気になって目で追う五十嵐。
部下は気に留める様子もなく、行ってしまう。
十川「なに? 知り合い?」
五十嵐「……いや、何でもない。」
◆五十嵐の部屋 扉前
に、置かれた小包。宛名欄には五十嵐の名前が書かれていて。
到着する二人。十川、先に小包を発見して
十川「お、何? 何買ったの?」
心当たりなど無いのだが、といった感じで
五十嵐「いや。なんだ? これ。」
見つめている二人。
小包のUP。
被さって
○タイトル
『¥』
『第一話』
前半始まり
◆五十嵐の部屋
ちゃぶ台を囲んで座っている二人。
真ん中に置かれた蓋の開いたダンボール箱、周りには緩衝材が散らばっている。
十川「……本当に覚えない?」
五十嵐「……全く。」
十川「全くないのに、開けちゃったの。」
五十嵐「こういうのって、クーリング・オフ効くよな?」
十川、箱の消印を確かめて
十川「今日来たもんだからまだ出来るね。でも送り主不明だと出来ないよね、クーリング・オフ。」
五十嵐、肩を落とす。
十川「……しかし、誰が送ってきたのかは別としても、どこで売ってるんだろうね、これ。」
その手に掴まれたベルト。仮面ライダーの変身ベルトと言ったゴツさ。金属で出来たバックルの部分には楕円の穴が空いており、それ以外は光沢のある合皮で出来ている。
二人、まじまじ眺めて、苦笑い。
十川「合わせ辛いよなぁ。」
五十嵐、宛先人の手がかりになるものはないかと、ダンボールの中を漁る、と、透明で長方形のケースを発見する。
ケースにはスリットがあって、覗いたり逆さにして振ってみる五十嵐。すると、折りたたまれた一枚の紙と千円札が出てくる。
五十嵐「お。」
十川「どうした?」
五十嵐「こんなの入ってて、手紙も出てきた。」
十川、それまで弄っていたベルトを置いて五十嵐の方に身を乗り出す。
十川「名前書いてる? 手紙?」
五十嵐「えっと、」
手紙を開く五十嵐。しかし、難しい顔で、
五十嵐「俺には読めないんだけど、なんだと思う?」
と、矢印と図のみが描かれた紙を十川の目の前に開いて見せる。ベルトに差し込むお金の金額に応じて、変身後のスーツの攻撃力、防御力が変化することを指したものであるが、この時点で二人が気付くはずもなく。
十川「どういう意味だろうコレ。」
五十嵐「それと合わせて、この千円札。」
十川「お札? 一緒に入ってたの?」
五十嵐「あぁ。」
十川「千円札とこの手紙……。」
と考えこむ十川を尻目に、五十嵐、背中から倒れ込んで溜息をつく。
不可解な小包みの謎も解けることなく、詰まった空気が流れる。
五十嵐「まぁさ、臨時収入ってことにして、カラオケ行こうぜ。」
千円札を財布にしまおうとする。
とその時、ベルトとケースと手紙代わる代わるに見詰めていた十川、閃いた。
十川「このベルトに、入れるんじゃないか? それ。」
と言って千円札を指す。
五十嵐、入れかけた千円札を渋々戻す。
五十嵐「どういうことだよ。」
十川「だからさ、」
透明なケースをベルトのバックルのスリットに入れて見せ。
十川「このケース、ここに入れられるだろ、それで」
バックルの楕円の穴を指さして、
十川「千円札だったら、この穴から覗くものは、」
五十嵐「夏目漱石か。」
十川「野口英世な。」
すかさず突っ込む。
五十嵐「……それでどうなるんだよ。」
また倒れ込んで、溜息交じりに
五十嵐「ポーチにしても財布にしてもふざけ過ぎ、いくらなんだって」
まじまじと眺めて
五十嵐「ダサ過ぎる。」
十川「そう……なんだけどさ、」
五十嵐「カラオケ行こうよ、金入ったんだし。」
しかし目を輝かせ、ベルトを腰に巻きつけている十川。
五十嵐「ちょっと! 返品するんだから!」
十川「俺おもちゃ買ってもらえなくてさ、今でも少し憧れてんだよね。」
とベルトを着け終えた十川、ケースに千円札を入れて、
十川「こういう感じ、何か変身できそうじゃない?」
五十嵐「雰囲気はね。てか、なんでノッちゃってんの?」
十川「だから、やってみたかったんだよ。」
ケースを掲げて即興で考えた変身ポーズを取る。五十嵐苦笑。
そして十川、ベルトのスリットにケースを滑り込ませる。楕円の穴に、お札の透かしの部分がピタリとはまる、と同時に。
その穴から発生した光が十川の全身を包み込み、更に部屋からも漏れだしていく。同時にけたたましい音。
十秒もしないで光と音は収まるが、五十嵐、突然の閃光で目をやられ、すぐには開けられない。
と、そこに
十川「なんだこれぇぇぇえええええ!!!!」
興奮した叫び声が響く。
五十嵐の肩を何度も叩いて
十川「見て見てこれ!うわぁぁあああっはっはっはははは!!」
途中から笑い声に変わる十川の叫び。かなり興奮していて。
五十嵐、恐る恐る目を開けていくと、子供のころにテレビで見ていたようなスーパーヒーローの顔があって。
十川の声「これ、凄くない?」
少し間を開けて。
五十嵐「ちょっと待って、なんか、まだよく見えてない……。」
十川「ほらコレすげぇ! なんだこれ! 鏡ある? 鏡!」
興奮冷めやらず。居ても立っても居られない様子で。
五十嵐、目頭を押さえながら、トイレを指さして
五十嵐「……トイレの使って。」
十川、ドタバタとトイレまで歩いていく。
バタン、と締められるトイレの戸。その奥から笑い声やら驚いた声やら。
五十嵐、やっと視力が回復してきて。
五十嵐「郁也―。どうなったんだよ。」
とトイレから出てくる十川。
十川「見て!ほれ! コレ!」
と言って仁王立ち。
テレビでしか見たことのないような、“ヒーロー”といったその姿。
五十嵐、目が点に。しかしすぐに輝きを帯びていき。
五十嵐「なんだよそれ……!!」
●前半終わり
●後半始まり
◆五十嵐の部屋
ちゃぶ台に置かれたコップ。中には麦茶が注がれている。
飲んでいる五十嵐。
変身したままの十川。
両者、ちゃぶ台を挟んで向い合せに正座している。
しばし流れる沈黙。
五十嵐「……服着てる感じ? ……暑くねぇの?」
十川「スーツって感じじゃなくて、自分自身っていうか。」
五十嵐「裸?」
十川「パンツ一丁って感じ。」
五十嵐「微妙、……わかんねぇ。」
また沈黙。
五十嵐「お茶、飲める?」
十川「……イケると思う。」
と言ってコップを手に取る。しかし、軽く握っただけなのに割れてしまう。
驚く五十嵐。
十川「あぁ! ご、ごめん。」
と、慌てて片付けようとするが、
五十嵐「良いから良いから。」
と言って、破片を拾う。
膝に手を置いてしばし黙る十川(反省)
そして
十川「……もっかい見てくる。」
五十嵐「おう。」
十川、トイレへ行く。
五十嵐、十川が戻ってくるまで独り言。(思いついたこと、適当に。)
・「力、制御できねぇのか、こりゃ危ねぇな。」
・「しかし、コレ、誰が送ってきたんだろう。ちゃんと名前と住所まで書いて。しっかりした悪戯だよなぁ。」
・「あ、あれってちゃんと解けるのかな。」
と、トイレの扉が開いて、変身の解けた十川が出てくる。
十川「……解けちゃった。」
ばつの悪い顔で棒立ちの十川。
それから三十分ほど時間が経っている。ベルトの能力を調べたためである。
十川「まとめると、」
ちゃぶ台の上には小銭や紙幣が散乱し、その上に手紙が置かれている。その横にベルト、ケース。
十川「このベルトは仮面ライダー的な、変身アイテムだ。という事で、」
ケースを持ち上げて
十川「このケースにお金を入れることで変身出来て、」
手紙を指さして、
十川「その能力は入れた金額に応じて変わるみたいだ、という事だね。」
五十嵐「能力ったって、色が変わっただけだったけど。」
十川「変身してる長さも違ったね。一応、解除はここのボタンで出来るみたいだけど。」
と、ベルトに付いているボタンを押して見せる。
五十嵐「千円なら十分ってとこだけど、それより安くなると短くなっていくな。」
十川「それにケース無しでも、お金無しでも、身に着けないままでも何もおきませんでした。」
五十嵐「どっちも無きゃダメってことだよな。んで、最大の問題点が、」
十川、一円をケースに入れて、ベルトに差し込む。一瞬だけ光って、姿は変わらない。
五十嵐「入れたお金は戻ってこないってことだ。」
ケースを外して逆さにしたり、振ったり、指で探ってみるが、金は消えたのか、どこにも見当たらず。
二人、顔を見合わせて。
十川「……千五百と今の一円。」
五十嵐「俺は百十一円、使った。」
十川「同封されてた千円もね。」
二人仰向けに倒れ込んで
十川「結局、誰が送ってきたのか分からないままだね。」
五十嵐「それが分かればなぁ。」
十川「俺、考えてたんだけどさ、」
五十嵐「ん?」
十川「ヒーロー番組の流れで行くと、これ使って戦う羽目になるよね?」
五十嵐「それは……、」
考え込みそうになって一瞬沈黙するも、
五十嵐「やってみたいけど……、やりたく……ないよな。」
十川「そうだねぇ。」
とその時、五十嵐の携帯が鳴る。
五十嵐「あ、すまん。電話だわ。」
そう言って、電話に出る。
五十嵐「もしもし。……はい、五十嵐です。……ベルトですか? えぇ、ありますが。……すいません、もう一度お願いします。」
紙とペンを持ってくる。
メモを取りながら。
五十嵐「……教育棟の、中庭ですね。ええ分かりました。今から向かいます。」
と言って電話を切る五十嵐。
十川「どうしたの? バイト?」
五十嵐「ううん、学務。ベルトを持ってきて欲しいって。」
十川「学務が?」
五十嵐「うん。おっさんの声だったけど、名前までは。」
十川「今から行くんでしょ?」
話しながら準備をして
五十嵐「あ、あぁ。教育学部の中庭だって。」
十川「俺も行くよ。一応、俺が最初に使っちゃったんだし。」
心配を他所に、呑気そうにベルトを箱に戻す五十嵐。
五十嵐「送り間違いで呼び出すわけないけどなぁ、学祭で使うのかな、これ。」
十川、五十嵐の様子に呆れながら、
十川「いいから、はやく行こう。行けばとにかく、わかるだろうから。」
と、部屋から先に出る。
五十嵐「あ、ちょっと待てって。」
急いで靴を履く五十嵐。と、ふとちゃぶ台の上の割れたコップを見つめて、つぶやく。
五十嵐「変身、ねぇ。」
◆教育学部棟 中庭
外灯の元に立っている部下。その足元には開かれたアタッシュケースが置かれている。
到着する二人。箱を持ったまま近づこうとする五十嵐を静止する十川。距離を離して立つ。
男の足元のアタッシュケースの中身は、影で隠れて確認できない。
部下「五十嵐君は。」
五十嵐、手を挙げて、
五十嵐「俺です。」
部下、怪訝そうに。
部下「隣りの君は?」
十川「友人の十川です。一応、これに関係したもので。」
その一言で納得した様子の部下。
十川「学務が、変な場所に呼び出すんですね。」
部下「違う。学務には伝言を頼んだだけで、私はこの学校とは無関係だ。」
二人、何が何だか分からない。
部下、その沈黙を破るように声を強めて、
部下「本題に入ろう。いきなり呼び出して済まなかった。そして、」
五十嵐の持っているダンボール箱を指して、
部下「それを押しつけて済まない。」
疑問を解消したい五十嵐、声を張って。
五十嵐「何なんですか! これは。」
部下「試して……みたのだろう?」
二人、動揺を隠しきれず。それを見て部下、怪しい笑みを浮かべ、
部下「結構。私が応えるよりも過ぎるほどに明確。それが何なのか、自分で確かめたのなら分かっただろう?」
五十嵐「……そんなの答えになりませんよ!」
わけの分からなさにいら立つ五十嵐。
しかし、男、説明せず。
部下「そして、」
足元のアタッシュケースから、同じベルトを取り出す。
部下「私も持っている……!」
そう言って腰に巻きつける。
二人驚きの表情。
十川「まさか。」
部下「まさか、ね。難しくはないよ。バックルを狙えばいい。それで終わる。死にはしない、だから全力で、壊せばいい。」
更に長方形のケースを取り出す。ケースにはすでに紙(お金ではなく、怪人に変身するための特別なもの)がセットされている。それとも専用のケースだろうか。
二人とも突然のことにその場を動けず。ただ唖然と、目の前の男がベルトを身につけるのを見ていた。
部下「あとは……そうそう、忘れていた。私の名前は三木だ。よろしく。」
五十嵐、はっとして
五十嵐「三木、三木って……。」
しかしその様子を気に留める事も無く、
部下「それじゃあ……行こうか。」
ベルトにケースを差し込む使いの男。光に包まれていく。
そして光から現れる怪人。ゆっくりと歩みを速めてこちらに近づいてくる。
十川「逃げろ……逃げろ五十嵐!!」
怪人の蹴りが当たる、という所で間一髪、二人、左右に跳んだ。
衝撃で更に飛ばされ転げる二人。衝撃波か、後方のベンチが真っ二つに割れ、残骸が飛び散る。
(戦闘シーンは適当に。ここには思いつくだけ書きます。)
二人、そのまま走って逃げ回るが、何度も蹴られそうになったり、殴られそうになる。
五十嵐、部下の持っていたアタッシュケースを拾い上げて防御に使おうとするが、貫通され冷や汗。
十川「五十嵐!! ベルト使って!! 変身しろぉ!!」
逃げることに必死になっていてベルトを忘れていた五十嵐。走りながらベルトを腰に巻きつけ、ケースを握りしめて敵に向き直る。
部下、攻撃の手を休めて、五十嵐の姿を見つめる。
五十嵐「おい、やってやる、俺が!!」
と五十嵐、財布を取り出そうとしてポケットを漁るが、見当たらず。
五十嵐「……財布忘れた。」
十川「冗談止めてよ……。」
すかさずツッコむ十川。
呆れたように五十嵐を襲う怪人。逃げまどいながら、五十嵐、ベルトを外して、
五十嵐「郁也っ!! 頼むっ!!」
と、ベルトを放り投げる。
十川、受け取って、腰に巻き、ケースに千円札を差し込む。
十川「答えろ!! 死なないんだよな!?」
部下、十川に向き直り、頷く。
十川「信じるからな。」
そしてケースを差し込んで。
十川「変身っ!!!」
叫ぶと同時に光り出す。光のまま走って怪人に向かっていく。
十川「うわぁぁあああああああ!!」
怪人を殴り倒して止まる。その時には変身が完了していて。
◆教育学部棟 三階廊下
の窓から中庭を覗いているスーツ。
二人が戦っている様子を見ている。
◆教育学部棟 中庭
しばし戦闘。
戦いに巻き込まれないように陰に隠れていた五十嵐、気が付けば身を乗り出して応援していて。
一心不乱に戦闘をする十川。段々と息が上がってくる。
それを見計らったか、怪人の攻撃が激しくなり、劣勢。
五十嵐、何かできないか、と自分の鞄の中を漁る。百円玉を発見して。
怪人、動けなくなった十川にとどめを刺さんと、距離を取っている。
五十嵐「郁也!! これで行け!!」
百円玉を投げる五十嵐。
十川、ふら付きながらも何とか受け取る。
怪人走ってくる。
そこに十川、左手でパンチ。
身を逸らして避ける怪人。
怪人の視線、十川の右手に向けられている。その手、ベルトに宛がわれていて。
チャリンというコインが落ちて行く音。光り出す。
右の拳で渾身の一撃を繰り出す怪人。
十川、素早く前に踏み込む。怪人の拳を左頬と肩に掠らせながらも、右の拳を怪人のベルトに叩きつける。
一瞬の間の後、バキンという破壊音。
変身が解除される部下。
部下「……若い、なぁ。」
息も絶え絶えに、
部下「……あとは、よろしく、頼みます…………。」
そして倒れこむ。
その声は聞こえたか聞こえなかったか。
変身が解除され、隣に倒れ込む十川。
駆け寄ってくる五十嵐。
五十嵐「大丈夫か!おい!郁也!」
十川「大丈夫、大丈夫。それよりも救急車、呼んであげて。死んでない、はずなんだから。」
五十嵐「お、おう!」
壊れたバックルが地面に散らばっている。見つめる十川。
十川の視界、次第にぼやけていって。
◆教育学部棟 三階廊下
スーツ、満足気に事の終始を見届けると、携帯電話を取り出す。
歩きながら。
スーツ「もしもし、土谷です。……あぁ、今しがた終わった所だよ、レディ。五十嵐さんは? ……そうか、眼が覚めたら伝えてくれ。『及第点』とね。それで、次なんだけど、……流石、仕事早いね。今からそっち行くから詳しく頼むよ。……分かってる、きっちりしてるからその辺は。じゃあ……え? ……なに、心配すること無いさ。学生だってそのくらいの金はある。だから大丈夫。この世の平和を守るには、出費が嵩むもんなのさ。」
そして、暗闇の中に消えていく後ろ姿。
●暗転
○テロップ
『一週間後』
◆大学会館 ATM横
に並ぶ机。そのひとつに五十嵐と十川が座っている。
(以降好きなタイミングで缶コーヒーを飲みながら、会話。)
十川「あの人、まだ眠ったまんまなの?」
五十嵐「うん。なんつーかさ、本当に眠ったまんまらしいんだよ。」
十川、理解に苦しむ様子。
五十嵐「つまりさ、普通に寝てるのと一緒。つつけば反応もあるし、鼻つまめば唸るし、寝返りもうつとか。……たまに寝言も言うらしい。」
十川「夢も見てんの?」
五十嵐「さあな。んで、知らない間にトイレにも立つらしいんだけど、それだけなんだって。」
十川「それだけ? 十分過ぎない?」
五十嵐「だからさ、食事も取らないし、会話もしないんだと。睡眠とトイレだけ。だから事情聴取しようとも、話しにならないんだって。寝ちゃうから。」
十川「後遺症……? なんて言うんだろ、そういうの。」
五十嵐「さあ、警察もお手上げだってさ。」
十川「もしかして、それって三木って人も?」
五十嵐「そうみたい。昨日も病院行ったけど、眠ったままだった。」
十川「なんか、微妙に悪い事した感じがする。」
五十嵐「三木さんと、がめついおっさんとで二回戦ったけど、二回とも襲ってきたのはあっちなんだから、正当防衛、悪気感じる必要はないだろ。犯罪もしてないんだし。」
十川「変身しなきゃ勝てなかったし、か。」
五十嵐「そうそう。」
腑に落ちない十川だが。
それはそれとして、という風に。
十川「……にしても。」
と頭の後ろで腕を組んで。
十川「都度都度、金がかかるのは痛い。」
五十嵐「慣れれば千円以内でイケるよな。」
脳天気そうな五十嵐に、嫌味っぽく
十川「百円のアシストありがとう。」
五十嵐「良いってことよ。」
得意げな仕草で受け流される。
十川「あのなぁ……。いい加減お前も戦えってのよ。」
五十嵐「それはほら、小遣い入ったら出来るようになるからさ。な。」
十川「……それっていつだっけ?」
五十嵐「二十一日。」
十川「今日じゃん。」
五十嵐「そうだった!」
と、その時大勢の悲鳴。
二人を横切って逃げていく人々。
顔を見合わせる五十嵐と十川。
十川「金下ろしてすぐ来いよ!」
オウム返しに、
五十嵐「金下ろしてすぐに行く!」
そして別の方向に走りだす二人。
机の上には空き缶が二つ残されている。
ここで止め。それをバックにテロップ。
『今回の出費
ベルト機能実験のため 千六百十二円
初回戦闘 千百円
第二回戦闘 六百円
第三回戦闘 五百円
計 三千八百十二円 也』
『続く』
○ED
『¥』
『第一話』
『縁-袖振り合うも多生の縁-』
○次回予告 (葉佩の声で)
名も知らぬ敵が二人に告げたものは何だったのか。
初めての戦いは終わり、振り返る間もなく次なる戦いへと飲み込まれる二人。
『消費』という力の使い道を知らぬまま、五十嵐は迷走し、十川は追い込まれていく。
そして迎えた次なる敵は、人類から過去の因縁を孕み、更なる力を以て宇宙より飛来した。
砕け散る新青森駅舎。血飛沫舞う大釈迦の田園。そして未来は一人の男に託される。
人々のため、自らのため、未来を透かして変身せよ! ¥!
第二話『遠-遠慮なければ近憂あり-』
ご期待ください
(第一話・終)
お読み頂きありがとうございました。
本編の事は、本編で解決しておりますので、蛇足は致しません。
文庫本なんかですと、私は、後書きから読んでしまう邪道でして。
そりゃあ、本編の後に書いてあるものですから、俗に言う「ネタバレ」が目に触れてしまう事も有りますが、そういうのを見て、しかし見ていぬ振りしながら小説を楽しむという外道がツボに来るわけでございます。
さて、私は小心者でございますから仲間はずれというものが怖くなってしまいます。
同じ趣向の方などいるものでしょうか。
その中で更にこの後書きをお読みになっている方などいるものでしょうか。
恐らく天然物のホワイトアスパラが成るくらいの確率でいらっしゃるのかもしれません。それはたまに、まれに、と呼ばれます。
しかし、可能性は捨てられませんから、まだ見ぬ同類を信じたくなるのでございます。。
ちなみに、私は普通のグリーンアスパラの方がおいしいと思っています。
最後になりますが、このような稚拙な文にも関わらず、懲りずに助言下さった友人方々に深くお礼申しあげます。
お読みいただいた皆様には、厚かましいお願いではありますが、支援、批判問わず、ご感想頂けますと今後の励みとなり、嬉しく思います。
それでは完結まで、何卒、宜しくお願い致します。