表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

霊魔編 5

 私立天司あまのつかさ学園初等部。昼休みの教室にて。

 フレイラ、圭四郎、御影、留奈の4人は、窓際の御影の席に集まり、何やら雑談中だ。


「今度の日曜日、みんなで圭四郎の家に行こうぜ!」


 鼻頭に絆創膏を貼った御影が話を切り出した。


「け……圭四郎の家に、皆でかね……?」


 フレイラは聞き直した。


「フレイラは、途中で帰ったから知らないと思うけど、あの仔犬ね、圭ちゃんが飼う事になったの」


 留奈は、昨日の経緯を説明した。

 御影と留奈の家では、動物を飼う事を許してもらえなかった為、結局は圭四郎の家で飼う事になったのだ。


「そ……それじゃあ、私も圭四郎の家にお邪魔するという事かね!?」


「だから、そう言ってんじゃん!」


「け……圭四郎の家族にも会うのだな!?」


「そうだよ。でも、気を付けろよ、フレイラ。圭四郎の姉ちゃん、美人だけど怖いぜ!」


 御影は脅かす様に言った。


「みー君ったら、そんな事言ったらダメだよ!」


 留奈は、御影をたしなめた。


(圭四郎の姉は、怖いのか……?)


 フレイラは、圭四郎に目を向け、生唾を飲み込んだ。


 ・

 ・

 ・


 放課後。私立天司あまのつかさ学園高等部正門前。

 校門前に立つ赤毛の少女は、帰宅の途に就く生徒達の目を引いた。


「あの子、可愛い!」


「お人形さんみたい~!」


「あの制服、ウチの初等部だよな?」


 普段から仏頂面で憎まれ口を叩くフレイラも、黙っていると可愛らしく見えるのだから不思議だ。


「フレイラじゃないか!どうした、こんな所で?」


 丁度、水月が通り掛かった。


「ローザなら、生徒会室だぞ。呼んで来ようか?」


「い……いや、私は水月を待っていたのだよ」


 フレイラは、はにかみながら顔を下に向けた。

 フレイラの態度から事情を察した水月は、彼女を近所のファミリーレストランへ連れて行き、そこで話を聞く事にした。


 ・

 ・

 ・


 普段フレイラは、屋敷の執事役でもあるリュートの手料理を食している為、外食などは滅多にしない。勿論、ファミリーレストランへも入った事がない。


「今日は、私のおごりだ。好きな物を頼んでいいぞ」


「ほ……本当に、この中の何を頼んでも良いのかね!?」


 フレイラはメニューを広げ、その彩りの多さに目移りした。

 結局、フレイラはフルーツパフェ、水月はブレンドコーヒーをそれぞれ注文した。


「……それで、話というのは何だ?」


 フレイラがローザにではなく、水月に相談事を持ち掛けたのには、何か特別な理由があるはずだと水月は考えを巡らせた。


(退魔僧……、輪光宗についてか?それとも……?)


 しばらくの間、フレイラは俯きながら口篭っていたが、やがて顔を上げた。何故か、フレイラは赤面していた。


「に……日本では、その……友人宅へ招待を受けた時のしきたり等はあるのかね?」


「……しきたり?」


 水月は拍子抜けした。フレイラの相談に対して身構えていた自分に対し、思わず吹き出してしまうほどであった。


「な……何がおかしいのかね?私は、真剣に相談しているのだよ!」


 フレイラは、仏頂面でパフェを頬張った。


「コホン……失礼した。しきたりか……。昔ならともかく、現代では特に無いな」


 水月は、今まで日本について興味を示した事のないフレイラから、『しきたり』について尋ねられるとは思ってもいなかったのだ。


「しかし、最初が肝心であろう?彼には、凶暴な姉がいるというしね……」


「凶暴な姉か……。それは難儀だな……って、『彼』なのか!?お前は、『彼氏』の家に招待されたというのか!?」


 水月は驚愕した。あのフレイラが、彼氏の家へ招かれたというのだ。しかも、凶暴な姉がいるともいう。


「か……『彼氏』ではないよ、水月。ただの『男友達』だよ」


 フレイラの顔が見る見る内に紅潮していく。

 以前、ローザがフレイラに友人が出来ない事を心配していたが、それも取り越し苦労であったという事か。


「水月……。やはり、何か手土産が必要かね?」


「そうだな……。その難儀な姉対策としてなら有効だろうな」


 そして、水月はコーヒーを一口啜った。


「そうだ、甘い物だ!どら屋の羊羹とどらやきがお勧めだぞ!」


 ちなみに、これは水月の好みだ。


「……そうなのかい?」


「ああ、間違いない!それを嫌いな姉は、まずいない!」


 水月は、自らの好みをゴリ押しした。


「そうか……。ありがとう、水月。参考になったよ!」


 そう言って、フレイラは残りのパフェを一気に平らげ、意気揚々とファミリーレストランを後にした。


(……フレイラ、頑張れ!彼氏の凶暴な小姑に負けるな!)


 そして、水月もコーヒーを飲み干し、店を出た。


「帰ったら、圭四郎に稽古をつけてやるか……」


 水月は、意気揚々と帰宅の途に就いた。


 ・

 ・

 ・


 日曜日。午前9時。浄霊寺。

 朝の勤行と圭四郎との稽古を終えた水月は、境内を掃いていた。


「99、100っと!」


 黒羽御影が、100段ある石段を軽快に駆け上って来た。


「ハァハァ……98……、99……って、あれ!?」


 御影の後に続いて九条留奈も、息を切らせながら石段を上って来た。


「留奈、どこかで数え間違っただろ!?ここの石段は100段あるんだよ!」


「おかしいなぁ……」


 水月は、2人のやり取りを微笑ましく眺めていた。


「2人共、相変わらず元気が良いな!圭四郎なら母家の方にいるぞ!」


 水月は母家を指差した。


 御影と留奈は、後ろを振り向き、石段の段下を見下ろした。


「ほら、早く来いよ」


「いや、しかし……」


「大丈夫だよ。怖くないからね」


 御影と留奈の他に、もう一人の友人・フレイラも来ているのだが、なかなか石段を上りきろうとしない。


「「いーから、ホラ!」」


 御影と留奈は、フレイラの両腕を掴み、無理矢理に境内へ引っ張り上げた。


「お……お初にお目に掛かります!わ……私、圭四郎さんの友人をさせて頂いております、フレアデス=フォン=ミハエリアと申します!ふ……ふつつか者ですが、よろしくお願い致しますぅーー!!」


 声が裏返っている。

 フレイラは、顔を地面に向けたまま、手土産の入った紙袋を差し出した。


「……お前、フレイラか?」


「……はい?」


 フレイラは、恐る恐る顔を上げた。


「……水月……か?」


 しばしの沈黙が2人を包み込んだ。そして、お互いに唖然とした……。


「この間の相談話……。お前の友達とは、圭四郎の事だったのか?」


「まさか……圭四郎の凶暴な姉というのは、水月の事だったのか?」


 その瞬間、水月は御影を睨み付けた。


「コイツに、ロクでもない事を吹き込んだのは、お前かぁ~?御影ぇ!」


「ひっ……!」


 ・

 ・

 ・


「それにしても、驚いたなぁ~。水月さんとフレイラが、顔見知りだったなんてね~」


 水月とは、GSTの同僚であるとは言えないフレイラは、留奈達に対して姉のローザと水月が友達同士である事を話した。


「高等部のローザさんて言ったら、『エンジェル・スマイル』の生徒会会長さんでしょう?憧れるわ~」


(エンジェル・スマイル……?)


 まさか、自分の姉が、その様な呼び名で呼ばれていた事を思いもしなかったフレイラは、首を傾げた。


「みんなー、こっちだよー!」


 圭四郎が、母家の玄関先から3人に手を振っている。

 軒先には犬小屋が見える。


「御影……。また、怪我でもしたの?」


「ほっとけ!」


 御影は、半ベソをかきながら頭を押さえた。


「へぇ~、立派な犬小屋だね。圭ちゃんが作ったの?」


 留奈は、腰の高さまである赤い屋根の犬小屋を見回した。

 犬小屋は祖父の舟越が作り、圭四郎が色付けをしたのだ。


「ところで、犬はどこだ?」


 御影が尋ねた。


「今は寝てるよ」


 圭四郎は、3人を裏の縁側へ連れて行った。

 縁側の日だまりに、白い仔犬が座布団の上で寝息を立てていた。


「「「可愛いなぁ~」」」


 3人は口を揃えた。

 フレイラは、人差し指で仔犬の鼻先をそっと触れた。仔犬の鼻がピクピクと動く。

 留奈は、仔犬を両手でゆっくりと持ち上げ、揺り篭の様に揺らした。


「起こさない様にやさしくな」


 御影は、まるで父親の心境だ。


「圭ちゃん、この子の名前は?」


「まだ決めてないよ」


「俺は断然『シロ』か『チビ』だな!」


 御影の意見に、他の3人は顔を曇らせた。


「そんなの在り来りだよ~。私だったら、『すばる』とか『やまと』かな~?」


 留奈の意見も、すぐに却下された。


「フレイラは、どんな名前が良いと思う?」


 圭四郎は、フレイラに尋ねた。


「わ……私は、……『ミカエル』……などはどうかと……」


「『ミカエル』かぁ!なんか、カッコイイなぁ!」


 御影は、気に入った様だ。


「確か、天使様の名前だよね?」


 留奈が尋ねた。


「我がミハエリア家の守護熾天使の名だよ!」


 フレイラは、胸を叩いて自慢げに言った。


「それじゃあ、『ミカエル』で決まりだね?」


 かくして、仔犬の名は、満場一致で『ミカエル』に決まった。


「よろしくね、ミカエル」


 留奈とフレイラは、ミカエルの名を呼びながら仔犬の頭を優しく撫でた。

 そして、4人は時間を忘れて仔犬と戯れた……。


 ・

 ・

 ・


「圭四郎、俺達そろそろ帰るぞ」


 気が付くと、日は傾き始めていた。


「また明日、学校でね。圭ちゃん!」


 留奈は、笑顔で圭四郎に手を振った。


「き……今日は、楽しかったよ。け……圭四郎、私の代わりにミカエルの世話を頼んだよ」


 今日のフレイラは、心の底から楽しんだのだ。恐らく、同年代の友人と時間を忘れるほど遊んだ初めての経験であろう。


「いつでも、ミカエルに会いに来て良いからね。フレイラ!」


 この圭四郎の一言で、今までフレイラの心を締め付けていたたがが、ようやく外れた。

 フレイラにも、心を許せる『友』が出来たのだ。

 そう思った瞬間、フレイラの瞳から一筋の涙が流れ落ちて来た。


「フ……フレイラ、どうしたの?」


 突然のフレイラの涙に、圭四郎は動揺した。


「圭四郎、君は本当に良い奴だね。君ならば、私の守護ナイト……いや、何でもないよ」


 そう言って、フレイラは圭四郎の頬を撫で、御影達と浄霊寺を後にした。


(ナイト……?)


 圭四郎は、フレイラが言いかけた言葉が、なぜか気になった。

 一方、水月は茶の間で一人、どら屋の羊羹とどらやきを頬張っていた。


(フレイラ、有り難く頂くぞ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ