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はじまりはじまり


どうも、鈴野宗一郎という者です。

この作品は「ついムシャクシャして書いた。反省はしていない」という作品ですので、更新はそんなに早くないです(具体的には1~2週間)。

元々文才もあるわけじゃないので…


気長に見てもらえたら嬉しいです。では、どうぞ!

新世界―――僕はこの世界をそう呼んでいる。

なぜ新世界なのか。それは僕がこの世界の前に住んでいた世界、旧世界とでも言っておこう。その旧世界で僕はとことん絶望し、死んだからだ。


死んだ先で待っていたのは、真っ白な空間だった。

そしてそこで聞かされたのは「神の実験に付き合え」という最高神様とやらの命令。

正直僕は、旧世界には何の未練もなく、かといって天国や地獄なんて曖昧で不確かなものに希望も沸いておらず、その命令を大人しく受けた。


ある程度知識を教えられ、そして飛ばされたのがこの新世界。ここは僕にとっての天国のように感じた。

さっきまで曖昧で不確かなものだと思っていた天国ものが、新世界という形で現れたのだ。

ここには僕を苦しめていた邪魔なモノなど―――何もなかったから。


一人でのんきに旅をして、お腹が空いたら食べられそうな野草や動物を狩って焼いたりして食べる。

日が沈んだら寝て、昇れば起きる。

当然僕を襲う怪物などもいた。人間もいた。でも僕にはそんなもの関係がなかった。だから全て殺した。

戦い、最初は苦戦しつつも勝ってきた。どうやらこの新世界では僕の力は旧世界での数倍に膨れ上がっているらしく、最初は殺すことに躊躇いがあったが後に慣れるようになり、今では全く苦にならなくなってしまっている。


そんな旅が半年ほど続いたある日…つまり今日。

僕は突然の雨にやられ、偶々見つけた洞窟で雨宿りをしていた。


「まったく…服がびしょびしょだよ。運悪いなぁ…ほんと、僕の名前って名前負けしてるよね」


多樹本たきもと 幸汰こうた。それが僕の名前。

この字から分かると思うけど、「多い」と「幸せ」っていう字を使ってる。それなのに、僕自身生まれつき不幸に見舞われることが多かった。


仲が良かったはずの両親は僕が生まれて数年で離婚し、父親側に付く事になった僕はそこで暴力を受けていた。

殴る、蹴るに留まらず、靴下にパチンコ玉を詰めた物で傷が残らないように叩かれてた。

一応中学校までは育てていてはくれたけれど、まともな服装を着る事も出来ず、汚れて臭い制服を着て行ってた。

当然そこで起こるものは、虐め以外の何物でもない。そう、至極当然のこと。

人間は周りと外れた異端なモノは目の仇にしたがるから。

無視から始まり、物を隠す、靴に画鋲、挙句の果てには複数人での放課後リンチだ。


これらは全て、僕の身に起こった不幸でも比較的大きなもの。でもこれ以上に不幸な事があったんだけど…まあそれはいずれ。


とにかく、この世界でも僕の不幸スキルは旧世界ほどではないものの作用しているみたいだ。

いい例がこの突然の雨。これは僕がこの新世界に来てから20回を超えて起こっている。


「この調子じゃ、しばらく止みそうにないなぁ…」


どうしようか、と思っていると、ふと、この洞窟が結構長く続いているみたいだということに気づいた。ちょうどいいや、暇だしこの洞窟を探検をしよう。前の洞窟で偶然見つけた光る石で照らしていけば進めるだろう。


「穴があったら入りたい…いや、これは意味が違うか」


僕は奥まで歩いていくことにした。でも僕はこのとき気づかなかった。

この洞窟には入り口に『封印された地 同族以外入るべからず』と読めない文字で書かれていたことに、そして…


これが、僕にとっての『不幸な幸せ』を招く事になる決断ということに…




  ☆




「…なんだこれ?」


洞窟の奥へと向かった先には、ただとてつもなく大きな壁があるだけで、他に目立ったものはなかった。

引き返そうか、とも思ったけれども、この洞窟には明らかに不自然な人工物であるこの巨大な壁が気になった。


「この向こうにはお宝があったりして…」


と言っても、いくら僕の力が強くなっているとはいえ、こんな壁を壊せるほど怪力ではない。

その壁に右手を伸ばし、触れる。


「ひらけゴマ!…なんちゃって」


そんなんで開けば苦労しないよね…と思っていたら、ギギギ…とゆっくり横に開き始める壁、いや扉。

本当に開いちゃったよ…こんなセキュリティでいいの?


開いた扉から奥へと進む。そこからは今までの洞窟のように岩で固められた通路ではなく、明らかに整備された石の通路があった。


「少なくとも、こういった物があるって事はこの世界にも人間がいるんだな」


きょろきょろと見回しながら進んでいくと、広い部屋に出た。床には魔方陣?とでも言うような何かが描かれており、それに合わせて数本の松明が立てられている。まるで何かの儀式場のようなその部屋の中央に大きな水晶があった。それに近づいて見てみる。


「女の、子?」


黒い髪に黒い目。肌は白い。そんな十歳前後のような女の子が水晶に閉じ込められているような形でそこにいた。目を閉じているとこから、眠っているもしくは意識を失っているのか…どちらにせよこちらから意思を伝える事は難しそうだ。


「どうしてこんなとこに、こんなものが…うわぁ!?」


そのまま水晶に触れる。するといきなり水晶が光りだして砕けてしまい、中にいた女の子はそのまま倒れてしまった。


「い、いったいどうしたっていうんだ?」

 

すると、ぴくぴくと指先が動き、閉じられていたその女の子の瞼が開く。目を、覚ましたのか。


「…ん…ここは…?」


「ええっと、君、大丈夫?」


そういえば、この世界に来て初めて誰かに向けて喋った気がする。日本語で通じるのか?


「…ん」


軽くうなずくようにそう答える女の子。そして僕の姿を見て、疑問でも沸いたかのように首を傾げながらこちらを見つめてくる。言葉が伝わったのは助かったけど、正直反応に困る…


「…あなた、だれ?」


「僕は、多樹本幸汰。幸汰って呼んでくれていいよ。君は?」


「…ノワール・ミスフォート・ドラゴン」


ど、ドラゴン…?なんだかごつごつした名前だなぁ、ていうか女の子につける名前じゃないよね。見た目黒髪黒目の純日本人かと思ったけど、この新世界について神様からある程度の予備知識は聞いていたから、別にこういった名前でも新世界の中では当たり前なのかもしれない。でも、ドラゴンはねぇ…?


「…これが種族名」


「あ、それ種族の名前なんだね。それなら…いや、だとしてもやっぱりごつごつ感は否めないね」


「…私の名前はノワール・デスゲル・シン・ボーレット・ア・プレミシアス・フォン―――」


「君の名前はそんな長いの!?」


「…父様が縁起の良い名前をたくさん付けてくれた」


まさかの異世界でリアル寿限無さん発見。僕も幸せになれるように名前を付けられたけどさすがにその発想には至らなかったよ。一体どんな意味なんだろう。この世界の言葉ならともかく、さすがに龍同士で使う言葉は分からないからなぁ…


「ええっと…あー、呼びづらいから、『ノア』でいい?」


ノワールから呼びやすくするために最初のほうの文字からノア、と。方舟のような名前になってしまったけれど、悪くは無いセンスだ…と思ってる。


「…分かった。私はノア」


どうやら分かってくれたみたいだ。ノアは無表情ながらこちらをじっと見つめてくる。旧世界ではこうした女の子に対する免疫は無かったから、ノアが何を言いたいのか僕には分からなかった。


「どうか、した?」


「…あなたは龍王族?それとも、人間族?」


この新世界には主に三つの種族に分かれている。一つは、人間やエルフ、ドワーフなど人型の種族である『人間族』。もう一つは魔物、アンデット、鬼などの体内に魔力を含んでいる種族の『魔族』。この二つが新世界の中での生物の大半を占めている。

人間族も魔族も、それぞれ細かく分類するとさらにいろいろな種類がある。簡単にいえば「動物」という大きな括りの中に○○科○○目のような分類がされているということだ。それだけこの世界での二種族の占める割合はとてつもなく大きなものになるということ。


けれども、この人間族と魔族以外にどうしても無視できない種族が存在する。

この二つよりも数は圧倒的に少ない。しかしその種族が持つ力は他の二種族を大きく上回る。


神としても崇められる存在…それが第三の種族、龍王族だ。


龍王族を分類するとその種類の数はなんとぴったり百種類。これだけ聞けばとても多く感じるかもしれないが、その数は一種類につきほんの数体らしい。なんでも龍王族自体ほぼ不老長寿で、その命を絶つには同じ龍王族の力でしか不可能なんだとか。それもただ龍王族が龍王族を殺すのではなく、自分の命を犠牲にした上でやっと相手にも死を与えるという。凄い、なんて言葉じゃ表現できないような種族。それが龍王族だ。


そんな存在が僕だって?…そんなわけないじゃないか。


「僕は人間だ。それ以上でもそれ以下でもない」


「…そう。でもそれはおかしい」


「おかしい?なんで?」


「…この場所には私と同じ魔力を持っていなければ入れない」


「同じ、魔力?」


僕がそう聞くと、ノアはこくんと頷く。僕に魔力なんてあったのか?ということは、ひょっとして僕はこの新世界では魔族という括りなのかもしれない。人間族は魔力を持ってないらしいからね。


「じゃあ僕は魔族だ、うん」


「…あなたの発している気配やオーラは、魔族の持つそれではない」


「へ?じゃあ僕は魔族でもないってこと?」


「…私に聞かれても、困る」


人間族でも魔族でもない…なら僕は龍王族?そんなばかな。確かに龍王族には様々な姿に自分の体を変えるという能力が備わっているらしいけど…


「…もちろん、龍王族でもない…と思う」


「思う、って…曖昧だなぁ…」


「…私にも分からない。人間族でも魔族でも、ましてや龍王族でもない…あなたは、何者?」


「ん~、それじゃあ一応人間族ということにしておこうかな。この姿に一番近いしね」


これはやはり僕が旧世界、つまり異世界から来たということだからなのかも。


「あ、そういえばノアは何族なの?」


「………」


僕がそう聞くとノアは黙ってしまった。あれ?何か聞いちゃいけないことだったのかな?顎に手を当てて考え込むような仕草をするノアは、無表情のまま黙っている。


「言いたくなかったら言わなくてもいいよ。僕も結局言ってないようなものだし」


「…いい。教える」


「そっか、ありがとね」


ついノアの頭をなでなでとしてしまった。ちょうどなでやすい位置にあるんだよね、この頭。なんだか妹をなでていた時を思い出すなぁ…あの頃はまだ、家族が一緒だった。父さんも母さんも、妹の美幸も…そして僕も。皆が笑って過ごしていた。


「……?」


なぜなでられているのか分からないせいなのか、幸汰がいきなり難しい顔をしだしたのが気になったせいなのか、ノアは首を傾げていた。


「なんでもないよ、気にしないで。それで?」


「…私は龍王族」


やっぱりか。ノワール・ミスフォート・ドラゴンなんていう種族名だ、その可能性は大いに考えていた。でもどうしてこんなところに。あの様子からして住処というわけじゃないだろう。どちらかといえば、あそこに閉じ込められていたような感じだ。まああまり根掘り葉掘り聞いても嫌な思いをするだけかもしれない。聞かないで黙っておこう。


「ふうん、そうなんだ」


「…驚かないの」


「う~ん、だいたい予想できてたしね。種族名聞いたときに」


「…………そう」


あれ?なんだかショック受けてる…隠さなくちゃいけなかったのかな?話すのに悩んでたみたいだし。


「強いて言えば、どうして人の姿なの?ってことくらいかな」


「…龍王族はみんな出来る」


へ~、ここら辺は神様からの知識にも無かったから少し驚いたよ。


「…でも私の種族は他の龍王族とは、違う」


「え?そうなの?」


「…生まれつき、神のご加護を受けられない」


話を聞くと、ノワール・ミスフォート・ドラゴン以外龍王族は生まれつき神から加護を受け、それにより強大な力を得る。しかし、ノアの種族はその加護が無いらしく持っている力自体は龍王族の中でも高位の物にもかかわらず、加護が無いと言われて迫害されていたらしい。


「でも、それだけで他の種族に目をつけられるようなものなの?」


「…神の加護は絶対。それが無い私と私の父親は周りから『疫病神』と呼ばれた」


「疫病神、ね…」


懐かしいフレーズだ。小学校の頃そんなあだ名がついてたっけ。その名のせいであちこちからあること無いこと吹き込まれた奴らが次第に俺を避け始めた。確かに僕は不幸だ。でもだからどうしろっていうのやら。


「…私の身を案じた父様は私をここに閉じ込めて、私の肉体時間を止めた後に姿を消した。『いつか迎えにくる』と言っていた、でもあれから数百年経ったみたいだから、もう…」


「そっか。君も、『不幸』だったんだね」


「…君、も?」


「うん。僕はもともと運が悪くてね。道を歩けば石に躓き電柱にぶつかり、車にはねられ、それに巻き込まれるからって家や学校でもずっと避けられてたんだよね…だから疫病神と呼ばれた君の気持ち、少しは分かるよ」


高校はバイトで稼いだ自分のお金で通っていたから両親とは疎遠になっていたし、学校でも徹底的に人と関わるのを避けていたからもう恨む事すらしなくなってしまったけれど。人って恨み続けているとその内どうでもよくなってくるんだね。好きの反対は嫌いなんかじゃない。思っていることはどうであれ、嫌いと言う感情はその人に対する気持ちのベクトルは好きと同じだ。


好きの反対は…無関心。

その人に何の感情も抱かなくなることだ。好意も敵意も…自分の中にあるその人の存在を…

…何もかもを消してしまうことだ。


「…そう」


「君はこれからどうするの?僕が勝手に君の事を起こしちゃったみたいだけど、もう一度同じ状態にすることは僕には出来ないし…」


「…付いて行く」


「………へ?」


この子、今なんて言ったの?『ついtake』?『つい持って行く』?そんな大○ルー語みたいに言わないでよ。だって僕は…


「ちょ、ちょっと待ってよ!僕はとっても不運なんだよ?それに巻き込まれてノアまで酷い目にあっちゃうかもしれないんだよ?」


「…私は疫病神。そのくらい平気」


「い、いや、でも…」


「…やっぱりコウタも私と、疫病神と一緒は、いや…?」


あからさまに沈んだ顔をするノア。そう言われてもなぁ…今まで人と関わるのを極端に避けてきたせいで、こういうとき、どうしたらいいのか皆目見当もつかない。


でも…それでも、僕は目の前で俯いているのノアを放っておく事は出来なかった。


同情、共感、下心…いくつか理由は思いついたけれど、すぐにどれにも当てはまらないことに気づく。

あえて言うなら…そう、『予感』だ。

ノアと一緒なら、何かが起こる…ひょっとしたら前の世界では掴めなかった幸せを得ることができるのかもしれない。


「………ノア」


「…?」


僕はゆっくりと息を吸い、ノアに向けて言う。旧世界での僕では絶対に言わないような言葉を。

心のどこかで既に諦めてしまっていた事を、この新世界でもう一度、目指してみせる。







「僕と、不幸な僕と一緒に…『幸せ』にならないかい?」







僕とノア。二人で目指す『幸せ』への道はここから始まる。






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