1話
〈目標が消えた〉
成績トップで経済学部に合格したものの、その後のことなんて考えていなかった。"受験は人生のゴールじゃない"なんて、高校教師がよく言うセリフを身を持って体験中。
「良いじゃん、勉強してるんだから」
最近の口癖を口走ると、法学部に所属している佐藤がキレた。
「そうやって勉強しかしてこなかったから、今の現象があるんだろうが!目標を持たない人間は堕落して、その才能までいつか枯らしてしまうんだぞ!?」
「だってー…やりたい事が見つからないんだよ?お母さん」
「誰がお母さんだ!」
〈お家が消えた〉
「あ!田中君」
たまたま外出先で一緒になった田中と鈴木が歩いていると、1人の女の子が駆け寄ってきた。
「久しぶり、鈴木。元気だったか?」
「うん…ちょっとね。実は、家がなくなっちゃったの」
「は!?」
隣で話を聞いていた佐藤は、思わず口を挟んでしまった。女の子は佐藤の疑問に答えるように付け加える。
「この前大雨で川の氾濫があったでしょ?」
「…ああ」
佐藤は先日ニュースで観た近所の川の様子を思い出す。しかし、この時期になるとよくあることだし、まさかあれで家が流されるなんて…
「あれで家が全部流れちゃって…建てたばっかだったんだけど」
「新築!?」
「あ、でも大丈夫。過去の話だし!」
「いや、これは無視できない過去だろ!」
「もう新しい家建てたから!」
「はやっ!」
「良かったらうち来る?」
「え…」
「何?佐藤、鈴木の家に興味あんの?」
「いやむしろお前はねーのかよ!?」
行ってみたら、彼女の家はダンボールでてきていました。物事は見かけで判断できない物だと痛感した一日でした。