戻らぬ時、還らぬもの
「……」
ユウはとっくの昔に死んじゃってた。
あの時ユウが言っていた「悲しい」の意味を、こんなに経ってから理解するなんて……
「アイ……様……?」
ユカリは心配してくれてる。
「あっち行っててよ……!」
でも、ボクは冷たく追い払う。
ユカリに悪いなと思っても、そうするしかできない。
あれから三日経っていた。
セツさんのところからどう帰ったか覚えてない。
涙のないボクは泣くこともできず、拗ねたように引きこもった。
人間の命は、限りがある。そして短い。
知らない間に二百五十年が経っていたのだ。
生前のユウを知ってる人は一人もいない。
独り。
ボクは、それをようやく理解できた。
ユウも昔、「仲間なんて誰もいないんだ、あの場所。毎日独りだよ」って言ってた。
……でも、ユウの時とはわけが違う。
何が悪いわけじゃない。遅すぎたんだ。
だから……これからどうしよう?
引きこもり五日目。
とうとう“王”に呼び出された。
「……君はなぜ呼び出されたかわかっているかね?」
「お説教ですか?でもボクも言いたいことがあります」
「聞くだけは聞こう」
「なぜ、最初にユウの話をしたときに教えてくれなかったんですか?」
「……」
ボクはさらに言葉をぶつける。
「ボクたち、“You-Ai-loid”が持ち主にどれだけ深い感情を持つか知ってたんでしょう!?」
「話したところで納得はすまい。ならば自ら確かめるまで待つのみだ」
「ボクの感情を利用して、弄んだってことですか!?」
「それが目的だったからな」
はあ!?
「君は予想以上のデータをはじき出してくれた。感謝している」
……ボクは椅子を乱暴に蹴飛ばして立ち上がった。
“王”がなんか言ってるけど、聞こえない。
そのまま飛び出していった。
“グラスタワー”地上第115階層。
“屋上”と言える場所に、ボクはいた。
部屋に帰ってユカリさんに聞いたら、すべて話してくれた。“王”や最高幹部たちに口止めされていたらしい。
これは“機械の人である“You-Ai-loid”が持ち主のいない世界でどう過ごし、どんな感情を表し、何をしようとするか”の実験で、ボクは実験台の一人だったこと。
ユカリさんはそのための監視役の一人だったこと。
そして、ボクは一番個性のある行動をし、今後も一番期待されていること。
それを聞いて、決めた。
小さいけど、“王”への反抗だ。
手紙を書いて、セツさんに届けてもらうように頼んだ。
そしてボクは今、ここにいる。
ユカリさん、ゴメンネ……
ふわり、と体が浮く感覚。
「ユウ、会いにイクね……」
ボクは、投げ棄てた。
体を。自分を。
“グラスタワー”の上から。
投げ棄てた。