日記帳
ボクは今、スラム地区にいる。
ユウを探してくれたひとに連れられて。
ここは、“コロニー”にこんなに酷い場所があるのか、と思えるくらいに酷い。
そして、ボクに対する視線が痛い。
妬み、憎しみの混じった羨望の視線。
“王”がここへの立ち入りを禁じた理由もなんとなくだけどわかった。
「……やはりその格好では目立ってしまいますね」
セツさん――ユウを探してくれた人が言った。
「……ごめんなさい。ボク、服はこれが一番地味なんです……」
星にいたときの、ユウのお下がりのブラウスとスカート。
華美ではないけど、動きやすくて気持ちいい。
……これでも目立つほどに、ここは荒れていた。
「……まだ着かないの?」
あれから十分。羨望と憎しみを受けながら歩いていた。
「もうしばらくの辛抱です」
また十分くらい歩いて、あばら家……としか言い様のない家についた。
「汚いところですが、どうぞお入りください」
「それじゃ……お邪魔します……」
中は綺麗に掃除されていて、家具も机と椅子とベッドぐらいしかなかった。
ユウの姿はない。
「……これです。読んでみてください」
古ぼけた日記帳。受け取って開いてみる。
そこには、ボクの想像を越える内容が書かれていた。
【星歴2167年3月8日】
“コロニー”での生活が始まった。星に残して来てしまったアイは、どうしているだろうか……?
【星歴2167年4月1日】
誰もいない暮らしにも慣れてきた。寂しいけど、我慢するしかない……
【星歴2167年4月15日】
ここはいつでも夜。星の昼が懐かしい。
【星歴2169年3月24日】
友人の勧めでお見合いをした。正直どうでもよかったが、相手がわたしを気に入ったらしく、また会いたいと言われた。
【星歴2169年12月14日】
プロポーズされた。断るつもりだ。わたしが愛するのはアイだけ。もうわたしは生身の人を愛せない。
【星歴2182年3月15日】
“コロニー”の一大事だとか言われて、友人に半ば強引に結婚式に放りこまれた。何故わたしが結婚を……
【星歴2183年4月6日】
夫はわたしがアイのことを話しても嫌な顔をしない。夫曰く「君の中で一番になれなくとも、一緒にいられるだけで幸せ」だそう。変わった奴だな、と思う。
【星歴2183年6月8日】
妊娠が発覚した。子供にはわたしのようにならず、いい子に育ってほしい。
【星歴2184年1月12日】
子供が無事産まれた。女の子だ。名前は夫と決めた、「マナ」。漢字で真菜と書く。
「ユウ、結婚して、子供もいるんだ……」
ボクはユウが幸せなことを理解できた。そして毎日いろんなことを書いてた。
その続きを読む。
【星歴2200年3月3日】
マナに好きな人ができたらしい。マナには幸せになってほしい。
【星歴2207年11月25日】
マナの結婚式。これから幸せに暮らすだろう。できれば、わたしの夢も継いでほしい。
【星歴2216年8月4日】
孫が産まれた。男の子だ。
そして、ある日唐突に、終わっていた。
【星歴2248年3月4日】
わたしの孫が、将来的に行われる“地球浄化計画”の実行隊に志願したらしい。何十年とかかる、星を住めるようにする計画だ。アイに会うには、年をとりすぎてしまった。
これで、終わり……
「天笠優は……」
わかってる……けど理解したくない……
「すでに亡き人です」
セツの声が、残酷に告げた。