表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

月での目覚め

目覚めたら、見たことのない場所だった。

空気、物、音、何もかも知らない。

無機質な部屋。たくさんの機械。

星にはなかった、異質な場所。

ボクは何故ここにいるの?

キミはいない。

キミはどこにいるの?

目の前にあった画面が明るくなる。知らない誰かが映る。

「おはよう、“人造少女”」

男のような声。キミ――ユウじゃない。

ユウは女の子だ。

「あなたは誰ですか?」

ボクは聞いた。

「その言葉を、君に返そう。“人造少女”、君の名は?」

……ボクは答えられない。

名前なんて、もうないんだ。

「名前はありません」

謎の“男”は、少し考えた。そしてこう言った。

「ないはずはないが……まあいい。では、君の型番は?」

ボクの番号はずっと覚えてる。いや、“忘れられないようにできている”って言ったほうが正しい。

「T-01-793です」

だからそのまま答えた。

「そうか。では、君の質問に答えよう。私はこのドームの“王”だ」

ドーム?王?

「ちょっと待ってください。ボクには理解できません。説明してくれませんか?」

ここがどこなのかすらわからないのに、「このドーム」も何もあったもんじゃない。

「うむ、それもそうか。説明を忘れていた。まず、君は月面にある安全ドームの一つ、“コロニー”にいる」

安全ドーム“コロニー”か。

脳内の地理情報に追加する。

真っ白な地図に、点。

「“コロニー”の中心地、“グラスタワー”地上57階層、“人造人類研究室”第七号室が君のいる部屋だ」

さっきの“コロニー”を中心に円を描く。中心が“グラスタワー”。その中の“人造人類研究室”……

一瞬でここまで終わらせる。

「そして私は“コロニー”を治める“王”だ」

……わからない。いや、意味はわかってる。けど何故“王”なのかがわからない。

「他に何か、質問は?」

ボクはユウのことを聞こうかと思った。でもやめた。

本当に忘れられていたら嫌だ。なら知らないほうがいい。

「……ありません」

「そうか。では、少し昔の話をしよう。君の“所有者”は“アマガサユウ”だったか?」

“アマガサユウ”。キミの名前。

「はい。ユウを知ってるんですか?」

「直接的な繋がりはない。登録番号から見出だした君の“所有者”が“アマガサユウ”ならば君の名は“アイ”だ」

アイ――それが、ボクの名前だったんだ。

“王”は今後の話を始めた。

「今後、君は基本的に“コロニー”で生活してもらう。いくつかの決まりを守り、それ以外は自由に過ごせばいい。“グラスタワー”に部屋を用意した」

なんということだ。ボクを無償で直した上にこれは……いまいち“王”が何を考えているのかわからない。

「決まり、とは?」

決まりの話は横道に反れたりして、無駄に長くなってしまった。

まとめると、「一部の禁止区域に立ち入ってはいけない」「無許可で“コロニー”の外に出たり、“コロニー”の外壁を傷つけてはいけない」「犯罪行為をしてはいけない」ということらしい。

“グラスタワー”の部屋はここなのか、と聞いてみた。

ここに住むのはいくらなんでも……なあ。

「君の部屋は別に用意してある。第52階層の4号室だ」

一度自分の目で見たいと言うと、画面が暗くなった。

通信が切れたようだ。

早速、ボクの部屋を見に行こう。


第52階層の4号室。

可愛い家具に彩られた部屋。

ベッドは赤いチェックの掛け布団がかかっていて、ふかふかしてそう。ピンクのミニテーブルとハートの座布団。

この部屋の前の住人が置いていったのか、冷蔵庫やクローゼットもある。

ユウがここに住むとなったら大喜びしそう。ユウは可愛いものが大好きだったから。

無機質な部屋だと思っていたから拍子抜けだ。

ぐるりと見渡したとき、ドアが開いて女の人が入ってきた。

「アイ様、お部屋は気に入られましたか?」

「あ……はい。あなたは誰ですか?」

「わたくしはこの“グラスタワー”の職員です。アイ様のお世話を申し付かりました」

ボクの世話って、“グラスタワー”の職員に言うほどのことなのかな?

「ボク、この部屋に住むことになりました。よろしくお願いいたします」

「はい。なんでもお申し付けください」

「あの……ボクの世話って、具体的にどんなことを……?」

「1ヶ月に一度の定期メンテナンス、“グラスタワー”内外の案内、その他アイ様のお命じになったことを」

要するに、専属メイドってことなのかな?

昔、星にもメイドを雇っている家はあった。

ただしそれはごく一部で、とてつもなくお金持ちのすることだった。

ユウの家はそんなにお金持ちじゃなかったから、前にメイドを雇っている家に行ったとき、びっくりしたことを思い出した。

「最初に、名前を聞いていいですか?不便なので」

「“モエギユカリ”と申します。ユカリとお呼びください」

“モエギユカリ”の顔と声を覚える。お世話になる人だから。

「ユカリさん、よろしくお願いいたします」


こうして、ボクの新しい生活が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ