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「襲撃だっ!!」

自己紹介を喋らそうと思ったけれども、1話で終わりそうにないので割愛します。。。

「襲撃だっ!!」


 御者台からハンスの大声が轟いたのは、夕方もうそろそろ今日の夜営地に着くかという頃だった。


 声とほぼ同時に、ライト、ゼン・ディール、老夫婦、次期盗賊ギルド長、その息子の順に馬車から飛び降りていった。

 若干遅れて馬車が止まる。


「シールド!」

 灰色ローブの超絶美形毒舌魔法使いの声で、馬車を包む結界が形成される。結界を確認して、青年もまた馬車を降りていった。


 残った女2人のうち、スヴェリの現盗賊ギルド長の娘であり、次期長の妻であるアイラ・バランカは、馬車から降りてすぐのところに立ち、静かに戦闘を見つめている。表面上は夫と息子を信じて落ち着いているが、やはり心配なのだろう、握り合わせた両手が僅かに震えている。

 アイラは、色彩的にはこの世界によくいる金髪碧眼で、身長はユーリと同じくらいの、美人というよりかわいい女性である。にっこり微笑まれると花が咲いたようにふんわりと暖かい気持ちになる、らしい。というのは彼女の愛しの旦那様のセリフだが、実際ユーリから見てもかわいらしく、とても30歳には見えない。そんな彼女のほうから惚れたのだというから、やはり恋愛に王道はない。


 そんなアイラの背後を、ユーリは音もなくすり抜け、どこの隠密かと言わんばかりの身軽さで、身体を丸くして馬車の屋根に飛び乗った。184レベルの身体能力は伊達ではない。


 屋根の上から戦場を見て、ユーリは目をしばたいた。

 襲ってきたのはオーガとグレイウルフという魔物のようだ。もともとほとんどの魔物は街道沿いを襲わないのだが、なるほどこれが異常事態ということなのだろう。

 その魔物の数は瞬く間に減っていく。

 魔物のレベルとしては30前後で、そう強くはない。が、レベルは低くとも数が多ければ馬鹿にはできない。最初の数はわからないが、倒れている数を考えると50体ぐらいの団体だったはずだ。

 しかし、彼ら即席の護衛パーティは危なげなく殲滅していた。


 ゼンがオーガ数体を大剣で一気になぎ払った。その腕力、技量ともにさすがのAランク冒険者である。見たまま『大剣使い』という二つ名を持っているらしい。

 その横で老人が隙を見て槍を突く。その鋭く正確な突きは引退したとは思えない。老人はダグ・トルンストという名前で、10年ほど前までは現役冒険者だったそうだ。

 だが、もっと驚いたことに、ダグの妻であるキリエ・トルンストは、素手でオーガ2体を相手にして一歩も引かないどころか押している。あの上品そうな老婦人が体術の使い手とは全くの予想外だった。

 老夫婦はともにAランクで、強いペアとして有名だったそうで、二つ名もあるらしいが教えてもらえなかった。

 ちなみに、昼前にした自己紹介と、そのときの他の乗客のツッコミによる情報である。


 一方で、ガルド・バランカとその息子ケイン・バランカは素早い動きでグレイウルフを押さえている。

 ガルドは元冒険者で、Bランク時代にアイラに見初められて結婚したため、それ以降冒険者ランクは上げていないらしい。片手剣を用いて、狼のスピードについていっている。

 息子のケインは短剣使いで、小柄なだけあって、かなりすばしっこい。口調はぶっきらぼうで偉そうだが、それに見合う実力はあるようだ。ダメージは受けているが、12歳でこれだけ動けるならば将来は有望だろう。外見のほうも父親に似ず、かわいらしい顔立ちで、数年後にモテ期到来が予想される。


 彼らを援護するように、的確に魔法が飛ぶ。

 リドウェル・アルレインはゼンと同じAランク冒険者で、『氷炎の魔術師』という二つ名持ちの魔法使いだそうだ。その二つ名どおり、炎の玉と氷の矢が砲弾のように飛んでいく。雨のように魔法を降らしながら、味方には一発も当てないあたり、さすがのAランクである。


 彼らを避けて馬車のほうに走ってくるグレイウルフもいるが、御者兼護衛の片割れであるライトが華麗な剣捌きで倒している。剣の動きが型どおりで綺麗なところを見ると、元騎士だろうか。


 ハンスが御者台に座ったまま「俺、することねーや」と呟いたを聞いて、ユーリは思わず「同感」と応じてしまった。幸いにして誰にも聞こえなかったようだが。


 ユーリが見たところによると、ゼンとリドウェル、そしてダグ、キリエ夫妻は『限界突破者』のようだ。ガルドは90レベル前後、ライトが70レベル前後、ケインが30レベルあたりといったところか。『観察眼』を使っていないので正確なところはわからない。知る必要もなさそうなので使う気もない。


 一般人から見ると『限界突破者』ばかりだと驚くかもしれないが、実はこの世界、『限界突破者』は多くもないが少なくもない。ある程度の才能と努力で、誰でもとは言わないが、『限界』を突破できるのである。『限界』は100レベルで、冒険者で言えばAランクとBランクの境目とも言われている。


 言わずもがなであるが、勇者パーティは『限界突破者』または『限界突破者予備軍』が最低条件である。もっとも今回は選抜大会なので運の要素も多分にあるが。


 そうして、ユーリが見学しているうちに、魔物はすべて倒され、戦闘は終了した。






 魔物の血がさらなる魔物を呼ぶことを恐れて、馬車はすぐに出発した。数十分で夜営地に着く。その間にアイラがケインの傷を魔法で治していく。驚いたことに、彼女は回復魔法の使い手らしい。


 この世界の回復魔法は『神の癒し』と呼ばれ、生まれたときから技能を持っている人にしか使えない。使える者は『神の祝福を受けし者』という称号を持っているため、『祝福持ち』と呼ばれる。ほとんどの『祝福持ち』は、生まれたときに神殿が引き取るため、神官として育つ。もちろん子どもを神殿に渡したくないという親もいるが、この世界では神への信仰が根付いているため、悩んだ挙句に神殿に差し出す親は多い。アイラのように市井で育った『祝福持ち』は稀だろう。

 もちろん、ユーリも回復魔法は使えない。勇者は万能ではないのだ。


 夜営地には小屋があった。

 街道を往復している馬車のために、だいたい3等分した地点の2ヶ所に小屋を建てたそうだ。もちろん国も領主も了解済である。とはいえ、宿屋のようにベッドがあるわけではなく、ただ雑魚寝ができるというだけの場所で、毛布やマントに包まって眠るのだが。その毛布等は各自持参である。何も置かない理由は、下手に宿屋にしてしまうと盗賊たちがアジトにしてしまうからで、そのため灯りの魔法具さえ置いていない。


 夜は小屋の外で火をたき、御者兼護衛の2人が交代で火の番をすることになっている。冒険者も乗客なので、夜の見張り番は免除されているのだ。


 ライトとハンスが着々と火の準備を行っている間に、彼らも夕食の準備をした。食事は馬車代に含まれていないので各自で用意したものを食べる。ほとんどの場合、かばんや袋から出すだけのパンや干し肉などである。


 ユーリのかばんには実は結構な量の調理済料理が入っている。だが、いくら時間停止の魔法がかかっているからといって100年前のものを食べたいかというと食べたくない。食べられるかというなら食べられるに決まっている。かつての仲間が魔法をかけたかばんの効力を疑ったことはない。1ヶ月が100年になったところで腐ったりしないはずだ。それでも食べたくないと思ってしまうのは彼女が飽食の時代を生きる日本人だからかもしれない。もしもスラム育ちならば迷わず食べただろう。

 ゆえに、彼女も同行者たちと同じく店売りのパンと干し肉を食べる。幸い、ハンスが人数分のスープを用意してくれるらしいので、多少の彩りは添えられそうだ。

 ちなみに、水は筒型の魔法具を全員が持っている。水を出す魔法が固定化されていて、ふたを開けると水が際限なく出てくるようになっている。こちらは時空魔法ほど珍しいものではなく、旅の必需品として、安くはないが普通に売られている。


 先ほどの戦闘の疲れもあってか、各自黙々と食事をとる。初日の夕食はどんちゃん騒ぎになることもなく、静かに幕を閉じた。


 食事が終わり、日が暮れれば、旅の途中で娯楽があるわけがなく、各自就寝となる。中には剣の素振りをはじめた者もいたが、ユーリは疲れていたのですぐに寝ることにした。

 自分で戦ったわけではないが、馬車移動だけでも慣れていない身体にはつらい。

 小屋の壁を背もたれにして目を閉じた。すぐに眠りに落ちた。






 ふっと意識が浮上する。

 どれくらい眠っていたのか。間違いなく深い眠りにあったはずなのに、何事かがユーリの警戒に引っかかった。


 危険を察知したときの、彼女の反応は非常に早い。寝ていようが、寛いでいようが、一瞬にして戦闘態勢になれるほどに。

 その警戒心のおかげで、どんなに危険な異世界に跳んでも生き残ってきたわけだが、この世界ではハイスペックすぎる身体能力があるため、さらに敏感に反応できる。


 いつの間にか体育座りで膝を抱え、その膝の上に額をつけて寝ていた彼女は、姿勢を変えずに慎重に周囲を探った。かなり近いところに人の気配がする。

 そのまま、無詠唱で探知魔法を放った。ゼンとリドウェルは馬車で眠っているようだ。同じ小屋内にいるのは老夫婦と盗賊ギルドの3人組。その中で、彼女の眠りを邪魔したのは。


「・・・・・・おじさん、まだ諦めてなかったんだ?」

 ユーリは囁くような声で言い、顔を上げた。


 相手はギクリと動きを止めた。その手は明らかに、彼女のかばんに向かっている。


「いいかげん諦めようよ。これ、あたし専用って言ったよー?」


「そ、そんなの、見ただけじゃわからねぇだろ!」

 ガルド・バランカは小声で威圧するという器用なことをした。

 だが、もちろんユーリには全く効果がない。


 ユーリは微笑んだ。


「だからといって、あなたがそれを確認する必要はないよね? だって、これはあたしの所有物だもの」


 月明かりの青白い光に照らされた彼女の笑顔に、男は息を呑んだ。


 ガルドには、彼女がまるで別人に見えた。ここにいるのは馬車で座布団を自慢していた無害な女ではない。もっと危険な何か。そう、まるで触れたら切れそうな何か。手を出せば、ただでは済まないのは自分のほうかもしれない。

 そう思いながらも、高価な魔法具への誘惑を断ち切れない彼は、奪うためにさらに手を伸ばす。

「そんなことはどうでもいい」


 その瞬間。


 銀色の光が走った。


「どうでもよくないでしょ」


 ユーリは腰からナイフを抜き、ガルドの眼球に突き刺さる手前で止めていた。


 その動きは、男には見えなかったらしく、いきなり目前に現れたナイフに驚いて動きを止めた。しかも、あわや刺さるかという距離。それは彼女の技量の高さを明確に示している。


 月明かりに静かに光る銀色の煌きが、存在感を主張していた。


「まだ諦めない?」


「・・・・・・いや」


 さすがに彼我の能力差を理解したと思われる男の様子に、ユーリはあっさりと刃を引いた。


「おじさん、わかってると思うけど、二度目はないよ」


「あ、ああ」


 ガルドはカクカクと首を縦に振る。多少彼の顔が引きつっているように見えるが、彼女の気にするところではない。


「じゃあ、おじさん、今度は朝まで起こさないでね」


 ユーリは言いたいことだけ言うと、チラリと視界の隅の老夫婦を見遣った。

 会話は小声で、できるだけ物音を立てないようにはしたものの、歴戦のつわものである彼らが起きていないとは思えない。にもかかわらず、全く反応しないのならば黙認するということなのだろう。彼らが我関せずの態度ならば、こちらもスルーするに限る。


 彼女は自分に都合のよいように解釈して、再び壁にもたれ目を閉じた。







ありがとうございました。説明多くてすみません。


なんかシリアスちっくなのはユーリが動かないからかなぁ。・・・まぁたまにはいいか(ぇ

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