「専用ですよ?」
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「これ、あたし専用ですよ?」
ユーリはにっこりと微笑んだ。
かばんを売ってほしいと突然言い出したのは、今まで黙って頷いていただけの、家族連れっぽい3人組の男だった。この世界にありふれた金髪碧眼で、この世界で平均ぐらいの身長と体格の男である。顔立ちも声も平凡で目立つところが何もない。
そんな男が目の色を変えて、むしろギラギラと光らせて、ユーリのかばんを見つめている。
「君専用?」
「はい。でも、名前も名乗らずに商談を始める人に、売るものは持ってないですけどね」
痛烈な皮肉だった。
その場にいた誰もが予想外の反撃に息をのむ。座布団に夢中だった老婦人さえも。
静まり返り、馬車の車輪の音だけが響く。
男は馬鹿にされたと思ったのか、憤りで顔色を真っ赤に染めて、怒りを吐き出しそうとした、そのとき。
「プッ」
吹き出す音。続けて、笑い声が弾けた。
「あははははははは」
一瞬遅れて。
「この野郎! 何がおかしい!!」
男が怒鳴りながら立ち上がる。
「クスクス。あなたが迂闊すぎるのがおかしいのですよ。スヴェリ盗賊ギルドの次期ギルド長ともあろう人が、こんな小さなお嬢さん相手に言い負かされた、という事実がね。しかも、彼女が言ったのは交渉の初歩の初歩。そんなこともできない人が次期長とか。盗賊ギルドも先が見えましたね」
「!!!」
ローブの青年は今までの静けさが嘘のように、一気に毒を吐いた。フードを目深にかぶっているため、表情は見えないが、声が非常に楽しそうである。
盗賊ギルドとは、それなりの規模の街には必ずある、裏社会の取りまとめをする組織である。もともとは、盗賊たちが寄り集まって、どこの家にどんなお宝があるだの、どこの家はいつ留守になるだの、そういった情報を持ち寄って売り買いしていたのが大きくなり、いつの間にか裏社会全体を統率するようになったのだ。悪事は悪事なので褒められた組織ではないが、まとめる者がいないと街全体が荒れ放題になり、治安どころではないため、為政者からは必要悪とされている。
また、冒険者ギルドと違って、盗賊ギルドは街ごとがいわゆる縄張りであり、王都サニエとスヴェリの盗賊ギルドは全く別物である。スヴェリの盗賊ギルドで幹部だったからといって、サニエで同じ待遇は得られないのだ。
そのスヴェリ盗賊ギルドの次期ギルド長と暴露された男は、さらに激昂して、青年の襟首を掴み上げた。表に出してよい立場ではないので、指摘されて怒るのは当然だろう。
しかし。
ユーリは周囲をチラ見して、それとわからない程度に僅かに首をかしげた。
他の乗客たちが誰一人驚いていないのである。
100年の間に盗賊ギルドって後ろめたくない組織になったのかなー、それとも次期ギルド長が有名人なのかなー、と彼女は心の中で疑問符を浮かべた。
その間にも、男はそのまま青年を持ち上げていく。
成年男性を右腕一本で持ち上げるとはたいした腕力だとユーリが暢気に感心している間に、青年の腰は完全に椅子から離れてしまった。
その反動で、青年のフードが落ちる。
再び場の空気が固まった。
灰色のフードの下に隠れていたのは、超絶美形のイケメンフェイスだった。この世界では珍しい黒髪は、さらさらストレートで背中に流れるほど長く。アイスブルーの瞳は透き通るような透明感を持ち。唇は小さく、つややかな紅に染まり。顔のパーツはほぼ左右対称に綺麗に並んでいて。笑みを刻んだ顔は、色町の花より艶やかで。
「リドウェル・アルレイン・・・・・・?」
どうやら彼女と彼女以外では驚いているところが違うようだが、彼女は気にしなかった。
当事者だったはずが置いてきぼりになった彼女は、妖艶ってこういう人を言うのねー、と場違いな感想を抱きつつ、これ幸いと傍観に徹することにした。
「わかったら、その手を放していただけると嬉しいのですが? それとも燃やされたいのですか?」
表情は変わらず、声だけが冷ややかになり、明らかな脅しを口にする青年。スヴェリの次期ギルド長は慌ててその手を放した。
青年は、あらわになった顔を再び隠すことはせず、落ち着いて襟元を整えた。
「僕は本当のことを指摘しただけですよ? これぐらいのこと、いいかげんに受け流す度量を持ったらどうですか? ガルド・バランカ」
どちらが年上かというセリフである。
男は青年を睨みつけたが、もはや暴力を振るおうとはしなかった。
そうして、男が己の不手際を認めることもなく、青年が己の攻撃的な言葉の数々を謝罪することもなく。出発して1時間も経っていない馬車の中に、何度目かの沈黙が落ちた。
膠着状態を打開したのは、もちろんユーリではない。
彼女は重い空気が好きなわけではないが、人間関係がわかっていない現状で口を出すほど空気が読めない人間ではない。さすがに彼らが少なくとも顔見知りであることには気づいている。
「それで、お嬢さん。そのかばんがお嬢さん専用というのはどういうことなのかの?」
だが、どこの世界にも自分の興味を最優先する人間はいるらしい。空気を読まない老人の問いにユーリは苦笑しながら説明する。
「このかばん、魔力感知がかかってるんです。んー、固有魔力識別魔法って言うのかなー? とにかく、あたしの魔力を識別して、他の人じゃ使えないようになってるんですよね」
方法はどうあれ、空気は変わったようだ。全員の興味のあることで意識をそらしたとも言う。
「そんなことができるのか!?」
「ああ、なるほど」
驚いたのはゼンで、納得したのは美形青年である。
「んーと、探知魔法ってわかります?」
「あれだろ? 魔物とか索敵するときに使うやつ」
「そうそう。あれ、魔物が持ってる魔力を感知することで索敵してるんです。でもそれだと仲間が持ってる魔力だって同じ魔力ですよね。敵だと思ったのが仲間だったら困りますから、仲間の魔力は識別できるようにするんです。それを応用して、かばん自体があたしを識別できるような魔法がかかってるんですよ」
その説明は彼の頭を余計混乱させたらしい。
「ゼン、王族しか開けられない扉を想像したらいいですよ」
美形青年が説明を付け足してくれた言葉に、ゼンはようやく納得した。
「結局、そのかばん、どんだけ魔法がかかってるの?」
ずうずうしく訊いたのは少年だ。
「空間拡張、時間停止、固有魔力識別の3つを固定化したみたい?」
固定化とは魔法具を作成するときの必須魔法である。
どんな魔法でも一定時間を過ぎれば効果が切れる。それでは魔法具にならない。そのため、かけた魔法を永続させるために固定化という魔法を使う。もちろん消費魔力もそれなりに大きい。ちなみに無機物しか対象にできない。
「げっ! 時空魔法を2つもかよ!?」
少年が露骨に驚いた。
「魔力がどれだけ必要になるのか、考えただけで気が遠くなりますね・・・・・・」
美形青年が遠い目をする。
「ますます欲しくなったぜ・・・・・・。けど、個人識別ができるんじゃあなぁ・・・・・・」
次期ギルド長ががっくりと肩を落とす。
「お嬢ちゃん、それ、どこから手に入れたか、訊いてもいいかな?」
今まで黙っていたハンスが口を出す。
その瞬間、全員がこちらを見た。
「んー。以前パーティを組んでたときの仲間の魔法使いが作ってくれたんですよ。人嫌いのエルフで。今どうしているのかなー」
もちろん、勇者パーティの一員になるべく王都に呼ばれているはずのフェイのことである。
同じかばんを作れと頼まれても、彼が作らないことは容易に想像できるので、誤魔化してみた。
人嫌いのエルフ、と聞いた時点で、全員が残念そうな顔をする。
「で、そろそろ自己紹介をお願いしてもいいですか? 3日も一緒なんだし」
ユーリは人懐っこい笑みを浮かべた。
ありがとうございました。
王都どころか自己紹介すらできなかった・・・・・・
今回16日ギリギリになってしまいました。。。
次回の更新予定は選挙の日!・・・か、その次の日で><