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「一般人です」

1日半遅れました・・・・・・ 予定を書いたらダメかも><

「一般人です」


 乗合馬車の受付で、ユーリは申し込んだ。


 乗合馬車は御者兼護衛数名(だいたい2〜3人ぐらい)と客8名(満員の場合)が乗るバスである。料金はひとり金貨2枚。高額だが、御者兼護衛も3日拘束になるから、人件費を考えればやむを得ない。個人で護衛を雇って旅をするよりは安いし、安全である。ただし、乗客が冒険者の場合、非常事態に護衛を手伝うという契約を結べば、料金が半額になる。


 ユーリはもちろん冒険者だが、実力はともかく、現実には昨日ギルドに登録したばかりの新人で、この世界では子どもにしか見えないというマイナス要素がある。

 ここはおとなしく一般人に徹して、冒険者と主張しないほうが目立たない。


 もちろん、彼女の場合、馬を購入して一人旅をするほうがお金はかからない。が、100年でこの世界がどう変わっているかわからないし、彼女自身も5年も経てばあれこれ忘れている。話し相手がいるほうが、情報が手に入ってお得なのである。このあたりの判断は経験のなせる業といえる。


「一人かい?」

「はい」

「あんたみたいな子どもが一人旅かい?」

 受付のおじさんはユーリの姿を上から下までジロジロと見た。


「あははは」

 もはや空笑いに近い愛想笑いである。


 彼女は自分を童顔だと思ったことはない。同年代の友人と見比べても、歳相応だと思っている。

 しかし。

 この世界ではどこまでも若く見られるらしい。

 19歳の現在でこうなら、前回勇者だったときはいくつに見られていたのか、考えただけで泣けてくる。


 ギルドカードを出すべきか、子どもと誤解されたままにしておくべきか。

 少し考えてギルドカードを出した。


「ん? ギルドカードを持ってるのか? って、えっ!?」


 おじさんは絶句した。叫ばなかったのは、客商売ゆえか。


「19歳? ホントに?」


 目をくりくりさせてユーリを見る。40歳代のおじさんがやってもかわいい仕草ではない。


「ギルドカードは嘘つかないでしょー?」

「・・・・・・そうだな。ギルドカードは悪用できないようにできてるもんな」


 昨日の支部長代理は説明してくれなかったが、ギルドカードは他人が使えないようになっている。拾ったり渡したりは問題ないのだが、偽装を意図して使おうとすると、カードが破損してしまうのである。


「そうそう。それに嘘つくなら、もうちょっとマシな嘘つきますよ」

「確かに」


 乗合馬車には子ども料金はないため、嘘をつく意味がないのだ。


「じゃあ、お嬢ちゃんが最後だから、乗ったら出発だよ」

「はーい」


 ユーリは馬車に乗り込んだ。






 馬車は狭くはなかったが、余計なものを置けるほどの広さでもなかった。両サイドに4人掛けの木製の長椅子があり、一番奥の御者寄りに野営に必要な荷物が置いてある。


 出入口に一番近いところにいた男が振り向いた。

 昨日ギルドで会った男、ゼン・ディールである。


 驚いたユーリだが、軽く会釈をして、彼の前を通り過ぎた。ゼンは何か言いたそうだったが、こちらには用事はない。無視して荷物寄りのスペースに座った。そこが最後に残っていた座席だった。


 昨日の今日で、まさかストーカーではあるまい。たまたま偶然一緒に王都に行くことになっただけだろう。


 そもそも彼女は自身の容姿にそこまでの魅力を感じない。

 仮にも年頃の女性なのだから、それなりに気を遣ってはいる。肩で綺麗に切りそろえられた茶髪もつやつやだし、化粧のメーカーやルージュの色にもこだわっている。バストは巨乳でも貧乳でもないから置いといて、太って見えないようにコーディネイトにも工夫しているし、食べ過ぎたときにはダイエットしたこともある。

 にもかかわらず、顔もスタイルも胸の大きさも、客観的に見ても十人並みなのだ。決して人が振り返るような美人ではない。美人ではないのだ・・・・・・。


 今まで何人か彼氏もいたし、いわゆる男女の関係を持つにまで至った相手もいたが、誰一人として容姿をほめてくれる人はいなかった。彼らはみな口をそろえたように「笑顔がいいね」「美人じゃないけど和む」と言う。


 おまけに今はすっぴんで、服もこの世界で一般的な生地の水色のシャツと黒色のズボン、コーヒーブラウンのコートに厚手のレザーブーツといった旅装束だ。(結局レザーアーマーはやめた。主に暑い、蒸れる、という理由で)


 つまり、「もしかしたらあたしのことを?(ポッ)」とかいう、お花畑なことを考える自意識過剰な頭を、彼女は今も昔も持っていないのだ。


 ましてや、ゼンの場合、曲解のしようもなく、ユーリは彼を脅したのである。普通に考えて、色恋沙汰に発展するわけがない。もしも、この現状でユーリに惚れたというならば、彼女にはそんな特殊な性癖はないので、お断りである。


 3日あるから、そのうち話すこともあるだろう、なくてもいいけどー、とユーリは心の中で呟いて、ゼン以外に意識を向けた。


 ゼンの隣は30歳ぐらいの夫婦と12歳ぐらいの少年の家族連れっぽい3人組で、男、少年、女の順に並んでいる。ゼンの向かいには20歳過ぎと思われるローブ姿の青年がおり、その隣に老夫婦らしき2人組が座っている。ユーリの隣は老婦人である。


 外見は荒事には縁がなさそうな人たちばかりだったが、ユーリには全員がそれなりに腕に覚えがあるように思えた。

 『観察眼』を使ったわけではないのではっきりとはわからない。


 楽ができてよさそうかなー、と思ったとき、御者の二人が挨拶に現れた。


 背の高いがっしり体型で精悍な顔つきの黒髪の男がライト、細身のすばしっこそうな金髪のイケメン優男がハンスと名乗った。


 「彼女が乗ったら出発」は嘘ではなく、その場にハンスを残して、ライトは御者席に座り、馬車はすぐに動き出した。


 街道はそれなりに整備されているが、平成日本のようにアスファルトで舗装されているわけではない。当然乗り心地は良くない。ガタゴト揺れるし、お尻は痛くなる。


 ユーリはかばんの中から座布団を取り出して敷いた。この座布団は前回の旅でも使った骨董品である。


 ふと、視線を感じて、顔を向ける。


 その場にいた全員が彼女を見ていた。


「えーと? 何か?」

 ユーリはきょとんとした。


「それはなあに?」

 隣の席の上品そうな老婦人が、座布団を指して問う。


「これですか? 座布団です」

「ザブトン?」

「んと、お尻の下に敷く、クッションのようなもの、ですかねー」

「そんなものがあるの?」

「あたしの故郷にはありますねー。馬車の揺れが苦手なので自分で作ったんですよー」

 にっこりと微笑んだ。薄い黄色地に緑色の小花が散っている柄の座布団は、この世界では滅多に見ない色合いで、ユーリのお気に入りである。


「そうなの? あるとないじゃ随分違う?」

「違いますねー。ちょっと使ってみます?」

「あら、いいの?」

「ちょっとだけですよー」


「それより、それを入れていた入れ物のほうが知りたいぜ」


 女性同士のありふれた会話に割り込む猛者がいた。


 座布団を老婦人に渡してから、声のほうを見れば、少年の年齢の割には鋭い視線がかばんに向けられている。


「かばんが何か?」

 ユーリは首をかしげた。


「どう見ても、そのザブトン?とかのほうがかばんよりでかいだろ。おかしいじゃねぇか」

 声変わり前特有の甲高い少年の声に、隣の父親らしき人が頷く。反対側の女性は座布団に興味があるらしくうらやましそうに老婦人を見ていた。

 ちらりと周囲を見回せば、ゼンもローブの青年も老人もハンスもかばんに興味津々のようだ。


「そりゃ空間拡張の魔法がかかってますから」

 でなければ、鎧だの剣だの入るわけがない。

 そんなに珍しいのかなー、と首をかしげた。


 魔法具には大きく分けて二種類ある。

 自分の魔力を流す必要があるものと、ないものである。用はスイッチがあるかないかで考えればいい。

 前者は魔剣のような武器、コンロやオーブン、水道やシャワーなどがある。後者はエンチャントのかかった防具、冷蔵庫や冷凍庫などがある。

 この世界では、魔力を貯めておく石などは見つかっていないし、開発もされていないため、魔法具の発動つまりスイッチを入れるのに魔力が必要となる。幸いにして、すべての生き物が、大小の違いはあっても魔力を持っているので不自由はない。無論、生活品を使うのに必要な魔力は微々たるものである。でないと売れない。


「空間拡張!?」


 それしかないだろうに、驚く少年。


 何に驚いているのかわからないユーリ。


「あのな、50年ぐらい前の話だが、そういう特殊な魔法具に興味を持った王様がいてな、取り入ろうとした貴族連中が買い漁ったんだ」

 とゼンが口を出す。


「騙し討ちだとか脅して無理矢理奪うなんてこともあったようですよ。貴族に高く売れるからというので、盗賊も横行して、治安も酷かったらしいです」

 とローブの青年。


「だから、空間拡張のかかった魔法具なんて、お城か貴族の屋敷の宝物庫に眠ってるって話。今じゃほとんどお目にかかれないよ」

 とハンスが締めくくる。


「魔法具買い占めの話は知ってるけど、そんなにないとは思ってなかったなー。新しく作ったものとかもないんだ?」

 冒険者ギルドの書庫で読んで、知識としては知っていたが、実感は全くなかったユーリである。


「時空魔法の使い手がそうそうおらんのじゃよ。そんな魔法が使えれば出世できるからの。魔法具を作って商人に売る魔法使いは、ごく少数派じゃろう。数が出回らなければ当然高額になる。庶民の手に入る金額ではないはずじゃ」

 と老人が説明してくれた。


「そっかー」


 時空魔法と分類されている魔法は、魔力消費が大きいものばかりだ。つまり、使える人間は魔力が多いのである。魔力が多ければ使える魔法が増える。重用されるのは間違いない。


「それは貴重なものだから使わないように、とお母さんに言われなかったのかな?」


「んー、お母さんいないからー」


 老人の心配そうな声など、どこ吹く風で聞き流す。老人が彼女を子ども扱いしていることにも反論しない。彼女の答えにさらに心配そうになるのにも、気づかないふりでスルー。


 彼女はただ考えていた。困ったなー、目立つなー、どうしようかなーと。

 この一般的だと思い込んでいたかばんが目立つ要因になるとは想像だにしていなかった。

 しかし、これを使わないという選択肢はない。何しろ便利なのだ。


 結論。大きいものを出すときは、人前を避けよう。たくさんものを出すときも、人前を避けよう。これしかない。


 ユーリが結論を出した、そのとき。


「お嬢さん、よかったら、そのかばん売ってもらえないかな?」







ありがとうございました。

すぐに王都に着くはずだったのに・・・・・・

次は15日か16日あたりで・・・・・・たぶん

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