「武器かぁ」
『武器創造』できたら遊んでみたいよd(-ω・。)ネッ!☆
「武器かぁ」
王都に行くのはよい。しかし、その手段が乗合馬車だとして、たとえば護衛や冒険者が他にいたとしても、魔物が増えているらしい昨今、手ぶらで同道するというのは、仮にも冒険者としてどうなのか。
ユーリは宿屋のベッドに腰かけて、かばんの中から懐かしの装備を引っ張り出した。
剣が数本、金属鎧にレザーアーマー、厚手のマントなどなど。
これらは魔王を倒したときの最終装備ではなく、その途中で使っていたものだ。ゆえに、装備の質はそれほどでもない。もちろん、駆け出し冒険者としては破格の代物だが。
試しに剣を一本持ち上げて振ってみる。
さすがに限界突破レベルのステータスであり、片手剣ではあるが、軽々と振れる。
技能も『剣術』があるため、なおさらだ。
「けど、なんか違うのよねー・・・・・・」
とはいえ、最終装備は当時魔王討伐に同行した王子に取り上げられてしまっている。どんな扱いになっているか知らないが、仮にも勇者装備だ。博物館があるかどうかわからないが、そういうところに展示されていてもおかしくはない。それを寄越せとは当然言えない。
どうしようかなー、とステータスを開いて気がついた。
「『武器創造』・・・・・・」
増えていた称号に気づいて、技能欄を見る。
『武器創造』想像した武器を創造する。
「・・・・・・どこのダジャレマニアなの」
力がどっと抜けた。
とりあえずやってみよう。以前の武器を想像して。
目の前の空間が眩しく光る。光が収まったあとには。
魔王討伐の旅の後半にはあまり使っていなかった『観察眼』を使う。
片手剣(Sランク)
銘『勇者の剣のレプリカ』
元勇者が使用していた剣の偽物。オリジナルとほとんど同じだが、威力は落ちる。
「・・・・・・偽物って」
泣きそうである。
「ああ、でもこれって、厨二っぽいことができたりする? エクスカリバーとか・・・・・・」
口にした瞬間、眼前が光る。出てきたのは。
両手剣(Aランク)
銘『エクスカリバー』
元勇者の世界にある聖剣っぽい何か。それなりに強い。
「・・・・・・むぅ」
想像した武器を創造するなら、想像できないと創れない、ということか。
ちなみに、武器にもランクがある。攻撃力と入手の困難さや追加効果の珍しさ(レア度)などから勝手に決まる。
ユーリは『観察眼』という特殊技能で武器性能を見ているが、商人や鍛治職人たちは『鑑定』という技能で見る。二つの技能の違いは、『鑑定』はアイテムに限定されるが『観察眼』は限定されないという一点だ。『観察眼』を使えば他人の能力から建物の耐久度まで見ることができる。
『観察眼』はユーリが勇者として召喚された当時から持っていた。当初は目新しく面白かったこともあり、またこの世界の能力の基準がわからなかったこともあり、出会ったほぼすべての人のステータスを覗いていたが、だんだんと覗き見に対する後ろめたさを感じるようになり、最後の頃には敵に対してのみ使っていた。今回もあまり使うつもりはなかったのだが、こんなチート技能をもらってしまっては、自分で確認するしかない。
「んーと、前使ってたのと同じくらいのって曖昧な想像したからレプリカってついたのかなー? それともこの世界の法則とかそういう何かが引っかかって全く同じものはできないのかなー? でもあれ伝説の剣とかじゃなくて、鍛治屋のおじさんが造ったものなんだけどなー。確かに凄腕で有名で剣匠とかって呼ばれてたおじさんだったけど・・・・・・」
まぁわかんないし一応使えるから予備にしよう、とSランク武器を予備扱いという何気にもったいないことを言いつつ、片手剣をかばんへ入れる。
「こっちはあたしが聖剣っぽいって知識しかなかったから、明らかに想像不足だろーねー。創った武器をキャンセルすることってできないのかなー」
と両手剣を見つめると、キラキラと光の粒子になり、一瞬後には何も残っていなかった。
「キャンセルもできる、と。じゃあ、いろいろ試してみよかー」
ユーリはワクワクしながら、しかしこの世界においては常識はずれの武器を創りはじめた。
「オリハルコン製の、切れ味の鋭い皮剥ぎ用ナイフ、とか」
ナイフ(Sランク)
オリハルコンでできた皮剥ぎ用ナイフ。
「おー! 攻撃力もなかなか? つか、皮剥ぎ用じゃなくて攻撃用としてでも使えそう。・・・・・・Sランクだもんね」
苦笑いを浮かべる。
だがしかし。
材質や形状、特徴なども指定できるのなら。
「レーザーブレードとレーザーガンは創ってみたいよね」
のほほん少女に似合わないマニアックさだった。
そうして5時間ほど、ああでもないこうでもないと試行錯誤したのちに、できたのが以下の2つ。
片手剣(Sランク)
銘『レーザーブレード』
平常時は柄のみだが、使用者の魔力により光の粒子(魔法)が刀身を形作る。
切れ味は異常。
魔弾銃(Sランク)
元勇者の世界にある銃という武器。銃身はオリハルコン製。弾丸の代わりに魔力を放出する。
こめた魔力の量により威力が変わる。
「レーザーブレードは観賞用ね。とても人前には出せないわー。もとの世界のレーザーの原理とは違うけど、こっちの世界の魔法って便利すぎるでしょ!」
あまりにも規格外すぎるものができたせいで、レーザーガンを創るのをやめたわけなのだが。
この世界の魔法は、想像を具現化する力であり、正確にイメージさえできれば基本的には何でもできる。ただし、ものによっては世界に干渉するため、個人の魔力では使えないこともある。無理に使おうとすれば最悪死に至る。たとえば転移の魔法や天候を変える魔法などは相当魔力量が多く、なおかつ正確にイメージできないと使えないのである。
ちなみに、ゲームによくある呪文は、魔法の効果を正確にイメージできるならば必要ない。イメージするための補助として使う人が多いため、一から魔法を教える場合は決まった呪文を教えるが、熟練者であればキーワードだけで発動させる短縮詠唱や、一言も喋らない無詠唱でも、魔法を使うことはできる。
ユーリは無詠唱派だった。呪文が厨二病っぽくて恥ずかしかったのである。知り合いは誰もいない異世界であっても。
「こっちの銃は使おうかなー。銃もこの世界にはない武器だけど、魔法武器ってことにすれば、まぁ許容範囲ででしょ。派手じゃないし」
知らない人が使ったら危ないから使用者を限定して、腰のホルスターをつけて、そこに収める。何度か出し入れしてみて「これなら大丈夫かなー」と納得する。
彼女が界渡りする異世界は、剣と魔法の世界ばかりではない。近未来SFちっくな世界もあれば、宇宙空間で戦争をしている世界もあった。ゆえに、銃を使うのも初めてではない。実践で鍛えた腕は、剣よりも性に合っていたようで、某凄腕スナイパー並みの精度を誇る。
もっとも、銃と魔法を比べるなら、この世界では魔法のほうが便利である。当たり前だが、銃の技能も持っていない。技能自体が存在しないだろう。
「剣も悪くないけど、銃があるならこっちよねー。剣は予備にして、銃とさっきのナイフをメインにするかなー。うん、そうしよ」
彼女は銃の不利には全く気づかず、好みで使用武器を決め、充実した時間だったと満足したあとで、はたと思い出す。
「あ、防具・・・・・・」
しかし、すでに窓の外は暗い。
「・・・・・・めんどくさいから、前のレザーアーマーにしよ。当たらなければどうということはないから布の服でもいいけど、貧弱装備過ぎると目立つからなー」
ただの服で旅なんて舐めてるのか!と憤慨する人は少なくない。特に冒険者にその傾向が強い。
少しばかり腕に自信があるからといって、護衛を依頼しているわけでもない他人のことに口出しするのはどうなのか。
ユーリにしてみれば、服のせいで死んだとしても、その報いは本人が受けるのだから、本人責任で好きにさせたらいいと思うのだが。
「武器もメインはナイフにしとこ」
目立つことはトラブルの素と言わんばかりに旅の準備をし、この街での最後の晩餐のために部屋を出た。
ありがとうございました。次回は7/10更新を目指します。。。