「もう大丈夫なのかい?」
勢いで投稿しているので変なところあったらゴメンナサイ。。。
「もう大丈夫なのかい?」
階段を下りると40代ぐらいのおばさんが声をかけてきた。やはり宿屋のようである。女将さんといったところか。
事情がわからないユーリは愛想笑いを返した。
「はい。すっかりお世話になりまして」
「まったくだよ。店の前で倒れてるあんたを見たときは焦ったよ。部屋が余ってたからとりあえず寝かせたんだけど、良かったみたいだね」
聞く前に喋ってくれるのは助かるなーと思いながら、そういう状況だったのかと頷いて。
宿屋の女将さんが善人で良かったと内心でホッとする。下手をすれば身包み剥がされていても文句が言えないところである。
「疲れで倒れちゃったみたいですね。ご迷惑おかけしてすみませんでした。えと、宿代払います」
「そうかい。それじゃ銀貨5枚もらおうか」
ユーリはかばんの中に手を入れて銀貨5枚と念じた。すると手の中に銀貨5枚が現れる。
「これでいいですか?」
「うんうん。たしかに。ごはんも食べていくかい?」
「あ、いいですね。ぜひ」
「日替わり定食で銅貨5枚だよ」
「じゃあ、それで」
同じようにして払い、貨幣も貨幣価値も変わってないことにホッとする。
貨幣はこの世界では全国共通で、半銅貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚となる。だいたい銅貨1枚が100円、銀貨1枚が1000円ぐらいの価値だ。ただし、場所によって物価が違いすぎるので、一概には言えないのだが。
食堂には冒険者風の男が数人いるだけだった。
ユーリは空いている席に座り、食事を運んできた女将さんに問いかける。
「最近変わった話題ってないですか?」
「変わった話題ねぇ。最近はもう勇者様の話題一色だからねぇ」
「勇者様……」
思わずぎょっとしたユーリに気づかず、女将さんは楽しそうに続けた。
「そうだよ。この間王都で100年ぶりの勇者召喚があっただろ? 今度は勇者様のお供を選ぶからって武道大会があるらしいよ」
「へー」
「有名な話なのに知らないのかい?」
怪訝そうな顔。
「あたし、ずっと辺境に引きこもってて、勇者様が召喚されたのは途中で噂で聞いたんですけど、武道大会の話までは……」
慌てて誤魔化す。ごまかすのは得意だ。何しろ界渡り直後はたいてい適当な言い訳から始まるのだから経験値が違う。
女将さんはあっさり誤魔化されてくれたようだった。
「そうかいそうかい」
商売人としてどうなのかと思わなくはないが、都合がいいのは確かだ。
客の一人が席を立ったため、女将さんもフロントへ向かっていった。
100年ぶりの勇者召喚ということは、100年前がユーリだったのだろうか。
だとすればここはサニエスタ王国のどこかだろうか。以前彼女を召喚したのはサニエスタ王国だったが。
問題はこれからどうするかだよね、と心の中で呟いた。旅をするのもいいが、とりあえずの目的地は決めるべきだろう。
100年経っていると仮定すると人間の知り合いはまず死んでいる。ドワーフや獣人も微妙だ。生きているとすればエルフか魔族か。
勇者が召喚されたってことは魔王が復活したのかなー、復活したなら魔族はまずいかなーと他人が聞けばドン引きなことを考えながら食事を終える。
どこに行くにしてもまずは定番の冒険者ギルドかなーと考えながら立ち上がった。もう勇者手形はないのだから身分証明書は必要だろう。
冒険者ギルドは国境なしの独立組織で、組織員の犯罪には容赦がないことで有名だと聞いたことがある。ゆえに、ギルドカードは犯罪者でない証明になるらしく、そのカードを持っていればどこの国も街もフリーパスらしい。創立者は初代の召喚勇者だそうだが、ひょっとしたらひょっとするのかもしれない。
「女将さん、今夜も一泊いいですか?」
「うん。空いてるから大丈夫だよ」
「じゃあ、お願いします」
「気をつけて行っておいでね」
微妙に子ども扱いされているような気がしないでもないが、不都合はないので大通りまでの道を聞いて宿を出る。
大通りに出た途端、喧騒が大きくなった。
宿屋の窓から見たときにも思ったが、比較的大きな街のようだ。
キョロキョロと田舎者丸出しで歩く。すれ違う人々が微笑ましそうに見ているのに気づいているが、気にしない。きっと子どものお使いか何かと思われているのだろうが、そんなことにムッとするほど子どもではないのだ。主に精神年齢が。
街の人は金髪の人間が多い。カラフルな色彩の獣人もときどき見かけるが、他はほとんど見ない。やはり人族が治めるサニエスタ王国か。
遠くに見える高台の大きな建物は領主の館だろう。
領主の館から離れるように歩けば、右手に目的地が見えた。
『冒険者ギルド サニエスタ王国スヴェリ支部』
日本語ではない言葉で書かれた看板。言語チートはお約束なので困ったことはない。
スヴェリかぁ、と街の情報と地図を思い出す。
サニエスタ王国の王都サニエから西へ馬車で3日ほどの場所にある、王国で五指に入る大都市だ。ここを超えて西へ行くと広大な砂漠が広がっていたはずだ。その向こうには風の部族が住んでいる。ちなみに砂漠地帯はどこの国の領土でもないので、サニエスタ王国の領土の西端は実質この街である。
砂漠の中にはダンジョンがある。通称風の塔と呼ばれており、宝箱の中身に掘り出し物があるとかで冒険者の人気の場所なので、この街には冒険者が多く訪れる。
ダンジョンというのは定期的にモンスターと宝箱が復活する迷宮のことで、ごく稀にマップも変わるのだとか。ボスモンスターもいて、倒せば一攫千金の代物を手に入れることができる。まさしくゲームそのものだと当時は呆れたものだ。もちろんユーリは攻略済である。
「嬢ちゃん、そんなところに突っ立ってると邪魔だぜ」
看板を見ながら、ぽやーっと考えていると、背後から男の声がした。
「あ、ごめんなさい」
ユーリは慌てて謝って場所を譲る。
30歳には届かないぐらいの人間の男が呆れたように立っていた。くすんだ金髪に、目の色はスカイブルー。体格はいかにも冒険者といった感じで、日本人女性平均身長のユーリより30センチほど背が高い。背中に大剣を背負っている。腕も太く、筋肉も相応で、ユーリぐらいなら二人でも持ち上がりそうである。自然に立っているだけなのに、隙がない。
もっともユーリ自身もそれがわかるぐらいには熟練者なのだが。
「ギルドに用か? 依頼か?」
「いえ、登録に来ました」
「登録?」
正直に用事を告げると、男はまじまじとユーリを見てきた。
きっと子どものくせにと思ってるんだろうなー、と苦笑する。
「15歳から登録可能でしたよね?」
「あ、ああ」
この世界、成人が15歳なのである。
15歳にも見えないのかなー、とがっかりするも、すっぴんじゃ仕方ないかもー、と思い直す。
男はユーリを見つめたまま動かない。
「入らないなら、先行きますね」
困ったユーリは男との会話を諦めて、ギルドの扉へと足早に進んだ。
その動きで彼は我に帰ったらしいが、彼女は待つこともなくギルドに入り、カウンターに向かった。
ギルドは以前にも入ったことがあるが、酒場というよりは役所みたいな雰囲気である。2階が食堂兼酒場となっているが、昼前のこの時間は利用者も少ないようで、人もまばらだ。
カウンターはいくつかのブースに区切られており、ブースごとに綺麗なまたはかわいい女性が座っている。美人女性が窓口にいるほうが、冒険者の男連中のモチベーションが上がるという理由らしい。冒険者の8割近くが男性なのだからそれも仕方がないことかもしれない。また窓口の女性のほうも、いい男と知り合いになれるので満更でもないらしい。花形の職場だとか。
ユーリはカウンターを一通り眺めて、右端のブースに向かった。銀髪の長いストレートヘアに、目の色はアイスブルー。一見冷たそうな外見だが果たして、という好奇心によるものだ。
「いらっしゃいませ。ご依頼ですか?」
冷ややかな色の瞳は、予想以上に優しく微笑んだ。
うわー、ギャップ萌えだー、と驚きながら、首を横に振る。
「いいえ。登録です」
女性は驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔に戻った。
「それではこちらに記入してください。名前と年齢は必須です」
出された用紙に、ユーリ、19歳と記入する。出身地は記入できないので空欄にして、得意武器には剣としておく。一応勇者として活動した2年間は剣を使っていたので嘘ではない。
提出すると女性は明らかに驚いたが、すぐに水晶っぽいものでできた板を出してきた。
「こちらに手を載せてください」
言われたとおりにすると、一瞬板が光った。
「はい。虚偽の申告はないようですね。これで登録は終わりです。カードができるまでに簡単に説明しますね」
要約すると、冒険者にはランクがあり、Fから始まってSランクまであり、仕事の内容や回数によってランクアップしていくとのこと。ランクは先ほどの水晶板が判断するが、Bランク以上は試験もある。
依頼にもランクがあり、自分の冒険者ランクの上下1ランクまでしか受けられない。依頼によってはランク指定のものもある。
依頼が失敗した場合は罰金があるが、自分にはできないと判断したときには早めにギルドに申告すること。依頼を失敗したまま報告なしに逃亡した場合、指名手配される。また犯罪を犯した場合にも同様に指名手配される。
3ヶ月依頼を受けない場合は登録が抹消される。
説明を聞いているうちにカードができたらしく手渡される。
『ユーリ 19歳 Fランク』
記載内容はシンプルだ。レベルだのステータスだの称号だの記載されたらどうしようかと思っていた。
「ギルドメンバーは書庫は無料で使用できますが、貸し出しはしておりません。何かご質問はございますか?」
「いいえ、ありません。早速書庫を見てもいいですか?」
「はい、あちらの扉からどうぞ」
「ありがとうございます」
ギルドカードを握り締め、ホクホク顔で書庫へ向かう。狙い目は歴史書あたりか。
その瞬間だった。
背後から叩きつけるような殺気がユーリを襲った。
ありがとうございました。