サンタがくれたもの
ミスったので再投稿します。今回はクリスマス回です。二日遅れのメリークリスマス!
今日は12月24日、クリスマスイブ。
「今日は布団に来たのが分かりやすいな……」
今日も今日とてツキネは俺の布団へ潜り込んでいた。
ただ、いつもと違うのは何故か俺の二の腕を枕にしていることだ。
これだと目を覚ましたら一瞬でツキネがいると分かる。
「おーい……起きてくれ」
「くぅ……くぅ……んー」
ツキネがもぞもぞと動く。なんか悔しいが……可愛い。
今日のツキネの格好は俺が中学時代に使っていた学校指定のジャージ。
ついこの前、キヌに二人の服のことを相談されたので二人にはネットショッピングのサイトを見て服を選んでもらった。経済的にも普通に余裕があるのでそこは気にしなくていいのだが、届くまで少しばかり時間がかかる。
それまでは家にある服を着てもらうことにしたのだが……。
ツキネはアニメや漫画などに出てくる巫女が着るような服をリアルで着ていたため、今まではどこか浮世離れした感じがした。しかし今は普通のジャージだ。
それ故に、ただの美少女にしか見えない。だから困る。
「千雪様、おはようございます」
「あ、あぁ。キヌ、おはよう」
キヌが隣の部屋から目を擦りつつ顔を出す。
今日の彼女には俺が高校で着ているジャージを貸している。
数日前に冬休みに入ったから問題ないといえば問題ないのだが、キヌが着るとただのジャージでさえも色気が出てくる。
学校にこんなのがいたら男子達は色んな意味で大変そうだ。女子も霞みざるを得ないだろうし。
「このジャージ、千雪様の匂いがしますね」
「そういうこと言わなくていいから」
「ところで、今日は一段と仲がよろしいようで……ふふっ」
「今日は何故か腕枕してやがった」
「……千雪様、うちは何も見てないし聞いてないのでどうぞ続きを」
「おい待てどういう意味だ」
てかどこからそんな知識を仕入れてくるんだこいつは。
「俺はそろそろ起きるよ……んしょっ」
なんとか腕を引き抜き、起き上がる。
長時間圧迫されてたせいで腕が痺れてるな……。
「さて、朝飯作るか」
「うちも手伝います」
そう言って立ち上がろうとした時。
「……私も……やる」
まだ眠そうなツキネが俺の服の袖を掴んでいた。
「ツキネ、眠いなら寝ててもいいんだぞ?」
「私もやるぅ…………くー……」
「キヌ、袖を掴みつつ眠るこの子をなんとかしてくれ」
「ツキネ、今日の朝ごはんは油揚げのお味噌汁にしてあげようか?」
「油揚げっ!」
「おぉ……」
ツキネは一瞬で目を覚まし正座をして目を輝かせている。よだれ垂れてんぞ。
「初めてお昼ご飯を作ってあげた時に、油揚げのお味噌汁を物凄く気に入ったみたいなんです」
「狐は油揚げが好きだって話は本当だったのか……」
キヌの話通り、今朝の食卓でツキネは物凄く美味しそうに油揚げの味噌汁を食べてくれた。
少し多めに作ったけど、それも全部食べきっていた。
しかし……知れば知るほどツキネは年齢の割に合わないくらい無邪気だな、と思う。
それから、俺達は各々で半日過ごす。
俺は剣術の稽古、キヌとツキネはどうやら家の掃除をしてくれていたようだ。
昼食の時間には昼食を食べに居間へ戻ったが、食べ終わると俺はすぐに道場へ戻った。
まだまだ体が鈍いので少しでも多く稽古をする必要がある。
数時間後、暇になったというツキネとキヌが道場へやってきた。
二人に見守られながらだと少し落ち着かないな……。
そして夕方になり、稽古を終えた頃だった。家のチャイムが鳴る。
「あ、うちが出ます」
「一応俺も行くよ」
「私は居間から見守ってる」
というわけで、俺とキヌは玄関へ向かう。
キヌが玄関を開けると大きな荷物を持った宅配便の配達員がいた。
「た、宅配便です」
配達員が震えた声で言う。
寒いのか、それとも……
「ふふっ、お疲れ様です」
突然、美人に出迎えられ緊張しているのか。
「ま、まだいくつか荷物があるんで運んできます」
「え?」
荷物を見ると、数日前にネットショッピングで買った物達だった。そりゃ量も多いはずだ。
こちらは田舎なので配達も結構遅れるが、とりあえず今日に間に合ってよかった。
荷物を全て家の中へ運び、判子を貰って帰ろうとする配達員にキヌが労いの言葉をかける。
これであの配達員はこれからも頑張れるだろう。
さて、これから開封だ。
「とりあえず開けるか」
と言い終える前にツキネが開け始めていたが、まぁいいか。
「おぉ……」
「なんか……お前っぽいというかなんというか」
ツキネが持っているのは、彼女が一番最初に選んだ服だ。
しかし、そのデザインがなぁ……。
「似合う?」
「似合うも何もお前と出会った時とほとんど一緒な気がするんだが」
それはまさに、巫女さんのコスプレで着るようなやつだった。
そしてツキネが最初に着ていた服と酷似している。
材質とかは知らないけど丈夫なのか……?
「千雪様、ツキネのために可愛いパジャマも買っておいたんですね」
「こいつに選ばせるとまともなの選ばない気がしたからこっそり注文しておいた」
普通のパジャマも普通に似合いそうだし無問題だろう。
ツキネは少し童顔で小柄なのでデザインは少々子供向けになったが。
「あっ」
「どうした?」
キヌが突然声を上げる。
振り向くと、キヌは別の箱を開封していた。
「千雪様には少々刺激的かと……」
「なんでだよ? ……っ!」
「ふふっ、やっぱり」
俺はその箱の中を見て慌てて顔を逸らす。
箱の中には女性物の下着がたくさん……やたら際どいものもあれば大人向けではないものも……。
「おぉ、でっかい」
「それはうちのかな」
ツキネがその箱からやたら大きなブラを取り出して感慨深げに呟く。
……そりゃキヌの体が豊満なのはなんとなく分かるが。
「これは私の?」
「うん。デザインはシンプルで可愛いのにしといたからね」
「千雪! 見て! 可愛いぱんつ!」
「わっ! 見せんな馬鹿!」
どうやら彼女達は恥じらいがないようだ……人間の恥じらいはちゃんと教えなければ。
「あれ? これは何?」
「あ、それは千雪様とうちで相談したやつなんよ。出してみて」
ここでツキネは少しだけ小さい箱に気がつく。
他の物を注文していた時に、もうすぐクリスマスだということに気づき、ちょっとだけ遊び心が働いてしまったのだ。
「可愛いと思わん? ミニスカートのサンタクロースの衣装なんよ」
「さんたくろーす?」
「ほら、昔教えたでしょ。子供の保護者がなりすまして眠る子供の枕元にプレゼントを置くっていう話に出てくる登場人物」
「おー……」
キヌ、いきなり現実を突きつけるのはどうかと思うぞ。
「二着あるからあっちで着替えよ、ツキネ」
「う、うん」
ツキネは物珍しそうにサンタ服を見つめつつ、キヌと共に隣の部屋へ消える。
数分後、隣の部屋から二人が出てきた。
「ち、千雪。似合う……?」
「……」
ちょっと待て……なんだこの可愛すぎる生き物は。
ツキネはミニスカートから覗く白い太ももを隠すように、頬を赤らめてもじもじしている。
狐のふさふさした耳の間にサンタの帽子を被り、ちらちらと彼女の後ろにふさふさの尻尾が見える。
正直破壊力が尋常じゃない。
「か、可愛いと思う……ぞ」
「ほ、本当に? えへへ……」
ツキネはしおらしく照れ笑いをする。
あれ、ツキネってこんなに可愛かったっけ……。
「千雪様、ツキネが可愛過ぎて今すぐにでも抱きしめたいんですが……」
「そういうキヌも……すげぇ似合ってるのが怖い」
大人の女性であり、男にとっては理想でありそうなスタイルを持つキヌのミニスカサンタ姿は十分に刺激的だ。
ツキネとはベクトルが違うけど……こちらもかなり破壊力がある。
「千雪様、今日はこれで過ごしてもよろしいですか?」
「いいけど普通にしててくれよ」
こんなのと何時間も一緒ってだけでだいぶ悶々としてしまいそうなのに。
「さて、そろそろ夕飯の準備をしましょうか」
「そういえば、昼過ぎに買出し行ってくれてたんだよな。ありがとう」
キヌはクリスマスのことをよく知っているようで、せっかくだから……ということで今日はクリスマスイブを楽しむらしい。
色んなごちそうを作りたい、と言っていたので昼頃に買出しに行ってもらったことを思い出す。
それと、もう少ししたら和尚が大きなケーキを持ってくるらしい。
和尚は毎年、両親を失って以来一人でクリスマスを過ごしている俺を楽しませようと、何かしらサプライズを考えてくれていた。時にはサンタの格好をしてやってきたりもした。
今年はこんなサンタが二人いるが……どんな反応をするかな。
夜の七時頃。
ごちそうを作り終え、テーブルの上に並べ終えるとほぼ同時にチャイムが鳴った。
三人で出迎えると、和尚が大きな紙袋を持って玄関に立っていた。
キヌがすかさず頭を下げて言う。
「いらっしゃいませ、和尚様。うちは狸穴キヌと申します。千雪様のお家で一緒に暮らさせていただいてます」
そんなキヌの出迎えと自己紹介を受けた和尚はしばらく硬直する。
そして……。
「おーい、千雪……お前さん、なかなかのやり手だな。あんな美人なサンタがいたんじゃ悶々として仕方ないだろう?」
「言葉を選べ、一応僧でしょあんた」
俺をからかってきた。
和尚はたまに僧らしからぬ発言をするからなー……。
「しかし、お前さん……なんでこんなに妖怪と関わってしまうんだね?」
「俺が知りたいよ。多分全部氷河のせいだけど」
和尚はどうやらキヌも妖怪だと一瞬で気づいたらしい。
「いやー、でも毎年寂しくクリスマスを過ごしてる千雪にこんなに美人な同居人が出来るとはなぁ」
「一応ツキネも同居してるんだけど忘れてないか?」
「おぉ、そうだったそうだった。ツキネちゃんはどこにいるんだ?」
「居間。おーい、ツキネー」
俺はツキネを呼ぶ。
しばらくして、居間からツキネが顔を覗かせる。
「あ……和尚さん」
「おぉ、こっちは可愛いサンタさんだな。元気だったか?」
「うん……」
「そうかそうか。それは良かった」
和尚がにかっと笑う。
この二人が会うのは初めて会った時以来だったかな?
「ほら、ケーキだ。三人で食べてくれ」
和尚は持っていた紙袋を俺に渡し玄関を出ようとする。
「あれ? 和尚は帰るのか?」
「これでも忙しいんだ。それに、今年はツキネちゃんと二人きりで過ごしてもらおうと思ってたからな。こんな美人さんまでいるとは知らなかったけどなぁ、ははは」
「そっか。悪いな、忙しい中」
「いやいや。正直、嬉しいんだがな」
「え? 嬉しいって?」
俺が聞き返すと、和尚は少し遠い目をする。
「千雪、両親を失ってから毎日退屈そうだったし寂しそうだっただろ。季節のイベントにも興味を示さなかったし……でも、最近のお前さんは毎日楽しそうだ。今だっていい顔してるじゃないか」
「……そうか?」
俺は自分の顔を触る。
そんなに楽しそうにしてたのか。
「あぁ、きっとこの二人と暮らせてるからそんな顔になるんだな」
「……どうなんだろうな」
「相変わらず素直じゃないのう……まぁいい、これからも三人で仲良くな。年が明けたらうちの寺に来るんだぞ、ははは」
和尚は楽しそうに、そして嬉しそうに笑って帰っていった。
「千雪様のことを本当によく見てらっしゃるんですね、あの方」
「まぁ、な」
そりゃそうだ。
何故なら、和尚は俺が高校生になってこの家で一人暮らしを始めるまで、ずっと俺のことを育ててくれた人だ。
「俺、両親が死んでから親戚に引き取られそうになったんだけど、この家や里を離れたくなくてさ。そんな時に和尚が俺を引き取ってくれたんだ」
「へぇ……そうだったんですね」
「あぁ。でも毎日寂しかったりつまらなかったりで……全然笑えない、笑おうとしない俺に、和尚は随分と困ってたっけなぁ」
でも、見放さないでいてくれたのだから感謝してもしきれない。
和尚がいなければ俺はどうなっていたんだろうか。
「でも、ツキネと出会ってから誰かと一緒に過ごすことは楽しいって思い出したよ。今思えば、和尚との生活も結構楽しかったし」
いつも笑顔で接してくれてたな、和尚。
なんで笑顔を返すことが出来なかったんだ、昔の俺。
「千雪……」
「だから、今はツキネやキヌと暮らせて……毎日楽しい」
俺はぼそっと呟くように言った。
するとキヌが穏やかな笑顔で言う。
「うち達はもしかしたら、サンタさんがくれたクリスマスプレゼントかもしれませんね」
「……かもなぁ」
その発想は無かったが面白い考え方だと思う。
クリスマス前の数日間で色々とあったが、そのお陰で今の時間がある。
だから、もしもこの二人がそうなのだとしたら……。
「千雪っ……」
「おっと……どうしたんだよ?」
「もう……千雪は一人じゃないもん……だから、寂しくないからね?」
ツキネが抱きついてきて小さな声で言った。
でも、その小さな声は俺の心に響く。
彼女なりの励ましなのかは分からないけど……そう言ってくれる相手がいるのは嬉しいものだ。
「あぁ……俺はもう……一人じゃない。ツキネやキヌがいてくれるんだよな」
俺も軽くツキネを抱きしめる。その体は小さくて華奢で、羽毛のように軽い。
でもこいつ、意外と暖かい……。
そんな癒し系のくせに俺のことを励ますなんて生意気だよ……可愛いやつめ。
「千雪様。一人で過ごすクリスマスはもうおしまいです、これからはうち達と一緒ですからね」
「ん……そうだな」
キヌの言葉にしみじみとした気持ちになりつつ頷く。
和尚、確かにこの二人と一緒なら暖かい気持ちになって、笑顔になれる気がする。
もしもこの二人との出会いをサンタがくれたのだとしたら……今年はハッピーホワイトクリスマスだ。
僕のとこにも何か来てください(血涙)。誤字・脱字・矛盾点の指摘よろしくお願いします。