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ツキネの恩返し!  作者: ヨハン
狐の少女と狸の美女
3/15

ツキネの恩返し 後編

戦闘回です。戦闘描写が拙いですが……。

「まさか本当に来るとはな」


「当たり前だろ、クソ野郎……」


 北の山のふもとにある雪原に行くと、ちょうど雪原の中央辺りに氷河は立っていた。

 それよりもツキネはどこだ……?


「狐火はここだ」


「ツキネ!」


 氷河が自身の真後ろに倒れていたと思われるツキネの首根っこを掴み、自分の目の放った。

 どさっ、と雪の上に彼女が横たわる。


「……千雪……なんで来たの……」


 ツキネは力の無い声で言った。


「あのまま放っておけるか馬鹿!」


「でも……もしも氷河に殺されたら……どうするの……」


「っ……」


 確かに、俺がここで殺される確率は生存出来る確率より高い。

 だが、あのまま逃げたところでいずれ氷河はやってくるだろう……だったら、俺はこの選択をする。

 それに、俺はまだ殺されていない。

 殺されてたまるか……。


「行くぞ……降矢千雪!」


「っ!!」


 氷河の振るった刀が俺の持つ刀とぶつかり合い、金属音が響く。

 鈍い衝撃が刀越しに伝わってくる。

 刀を押し合い、次の攻撃のタイミングをお互いに計る。


「はぁ!!」


「うわっ!」


 氷河が力ずくで刀ごと俺を吹き飛ばす。

 体が宙を舞い、雪の上に叩きつけられる。

 俺はすぐに起き上がり、再び氷河に斬りかかる。


「あぁぁぁぁ!!」


「ふんっ、隙だらけだ!」


「くっ!」


 かろうじて相手の攻撃を受け止める。

 しかし、完全に押されていることは明らかだ。


「こっちだ!」


「なっ!?」


 瞬時に背後へ回りこまれ、一瞬反応が遅れる。

 間に合えッ!


「っ……はぁ……はぁ」


 必死に体を反転させ、なんとか次の攻撃も受け止める。


「……よく止めたな」


「まだまだッ!」


 何度も何度も刀を振るう。上から下へ、左から右へ、刀の持ち手を替えて。

 しかし、全て防がれ全く相手に届かない。


「くっそぉぉぉ!!」


「ふん……弱者め!」


「ぐっ……あ……っ!」


 力任せに薙いだ俺の刀を氷河は軽く受け止め、腹に蹴りを入れてくる。

 蹴られた衝撃によって一瞬息が出来なくなり、体が宙を舞ってまた雪の上に叩きつけられる。


「……ふん」


 ――ぶしゅっ。

 そんな音と共に左の腕から血が噴き出す。

 どうやら蹴られ際に斬られていたらしい。


「っあぁぁぁあ!!」

 

 雪が鮮血で染められていく。

 時間差で斬れて痛みがやってくるなんて……チートもいい加減にしとけよ……。


「所詮一般人。我に敵うはずもないな」


「くそっ……」


 どうすりゃいいんだ……こんな化け物。

 余裕の態度を見せ付けられてムカつくけど、明らかに力の差がありすぎる……こんなことなら、毎日剣術の修行でもしておけば良かったか……?

 そういや……昔は父さんに向かって行っては返り討ちにされてたっけなぁ……。

 さすがに斬られはしなかったけど……。


「ちくしょう……なんで、来ちまったんだ……俺」


 無力で、全く相手に歯が立たない自分を嘲笑う。

 勝機が無いことなど少し考えれば分かったはずなのに。

 

「八年前、我の力でも乗っ取れない貴様には驚いたが……見込み違いだったようだ。もう貴様の体などいらん。ここで殺してやる」


「……」


 乗っ取れない、か。

 こいつは父さんの魂も乗っ取ったんだ。そんな奴が昔の俺を乗っ取れなかったというなら、昔の自分を少しだけ誇らしく思ってもバチは当たらないだろう。

 ただ……。

 

「ちくしょう……斬りたかった……お前を……この手で……」


 これが現実だ。

 どれだけ意気込もうと、敵わないものは敵わないのだ……。

 

『諦めるのか?』


「……え?」


『力の入れ方も、刀の使い方もばらばらだ。そんなのは父さんの教えた剣術じゃないぞ』


「……」


 幻聴だろうか。

 懐かしい父さんの声が頭の中に響く。

 そうだ、俺が父さんに剣術を教えてもらって失敗した時……父さんはこうしてアドバイスをくれた。


『相手を見極め、最高のタイミングで一撃をかましてやれ。』


「……」


 でも、氷河の動きは速い。そして剣も重い。

 見極めるなんて出来るのか……。

 俺は体をなんとか起こし、氷河を見据える。

 その後ろにはツキネが倒れている。


「ツキネ……」


 あいつは人間の生活に憧れて里まで来た。

 それなのに、よりにもよって人間の生活に対してつまらないというレッテルを貼り付けてる俺のところに来てしまった。

 そして俺なんかを守ったためにあんな傷を……。

 俺は自分が死のうがどうでもいい。ただ、あいつの恩返しに応えることが出来ればそれでいい。

 そのために……今度は俺が恩返しをする番だ。

 

「ツキネ! ……帰ったら、人間の生活ってもんを教えてやる!」


「……千雪……っ」


「一人で過ごす生活はつまらない……けど、常に誰かと一緒なら楽しいんだ。人間の生活は」


 そうだ。

 父さんや母さんがいた頃は毎日が充実していたと思う。

 一人になってからだ、つまらないと感じ始めたのは。

 きっとツキネが一緒なら……楽しいかもしれない。


「うん……っ」


 ツキネも体を起こし、笑顔で応えてくれる。


「氷河……さっきまでのは準備運動だ……今から本物の……父さんが教えてくれた剣の流儀を見せてやる」


「ほう……面白い」


 立ち上がり、右手だけで刀を握る。そして刀身を氷河へ向ける。

 そうだな。今の状態なら、あの型が適している……。


「っ……!」


「むっ!?」


 父さんの剣術は常に冷静でいることが大事だ。

 今までの俺は頭に血が上っていたのだろう……今は落ち着けていることが分かる。

 一瞬で距離を詰め、刀身の先を氷河の顔目掛けて突き出す。

 繰り出した突きは氷河の刀を弾き、氷河の右頬に傷を付ける。


「はっ!!」


 そしてそのまま刀を落とし、次は氷河の肩に傷を付けた。


「くっ……急に動きが良くなったな……俺に傷を付けるなど……っ。屈辱だ……屈辱だっ!」


 氷河は俺から距離をとり肩を押さえる。

 しかし、まだ浅い。

 もっと深い一撃じゃないと、こいつを刀に封印することは出来ない。


「これで終わりじゃない……」


「ならば見せてみろ! 青二才が!!」


 父さんが教えてくれた剣術はいくつにも型が分かれ、状況に応じて使い分ける必要がある。

 片手しか使えない状態ではまともな一撃は使えない。

 ならば……やることはカウンターだけだ。

 幸い、今の相手はさっきまでの俺のように頭に血が上っている。

 きっと傷つけられたことでプライドも傷つけられたのだろう。

 氷河の刀が右から飛んでくる。

 

「ふっ!」


 その刀を刀で受け、受けた衝撃を利用して相手の刀身の下を滑らせる。

 自然と相手の横へ移動する体を回転させ、勢いを利用して力一杯に脇腹を斬る。


「ぐあぁ!!」


「……まだ浅いか」


「くっ……おのれ……死ねぇ!」


「隙だらけだな、お前も!」


「がぁぁ!!」


 刀を上へ振り上げた瞬間に空いた相手の胴体を薙ぐ。


「これが父さんの教えてくれた剣術……返しの型だ」


「小童あぁぁ!!」


 改めて振り上げられ、振り下ろされた氷河の刀は空を斬る。

 そして、俺の刀は……相手の喉を捕らえていた。

 これが父さんの教えてくれた返しの型のうちの一つ……『氷柱(つらら)』。


「がっ……あっ……」


「体が青い割りにキレやすいんだな……お前は」


「お、おのれぇぇぇぇえ!!」


 氷河の喉が深く根元まで刺さる刀が、黒い塵のようなものに包まれ始める。


「ちっ……」


 体が痺れ始めてくる。

 ここからは第二ラウンド、精神勝負ってところか……。


「うぐっ……」


 体中を何かが駆け巡るような感触。きっと俺の体の中で氷河が暴れているのだろう。

 やべぇ……今にも意識が飛びそうだ。


「千雪!」


「ツキネっ……」


 ツキネが倒れ込むようにして俺へ飛びついてくる。

 直後、暖かい光のようなものが俺達を包み込む。

 これは道場で触れたのと同じ、邪を焼くツキネの炎だ。


「氷河を一人で抑え込むのはまだ無理……だから、これから私が傍にいて一緒に抑えてあげる」


「……それって、契約みたいなもんか?」


「そうかもしれない……これが助けてもらった私に出来る恩返し……だから」 


 そのツキネの恩返しによって、体の中で蠢いていた感覚が止まる。

 きっと氷河は彼女の力によって抑えつけられているのだろう。


「……じゃあ、ウチにいろよ……ツキネ」


「いいの?」


「あぁ……その方が都合がいいだろ。……それに、お前と一緒なら、何かが変わりそうだから」


「ありがとう! 千雪!」


「わっ!」


「……強いんだね、千雪……カッコよかった」


 しっとりした声でそんなことを言うな、恥ずかしい。

 そう思いつつもぎゅっと密着してくるツキネの背中に手を回すと、もう血は出ていないことに気がつく。


「あれ……怪我は?」


「ずっと治癒に集中してたから……傷口は塞がった」


「でも、まだ痛いんだろ?」


「……うん」


「じゃあ、早く家に戻ろう。手当てしないと」


 ツキネの頭を軽く撫でる。

 耳が凄くふさふさしている……。


「んっ……千雪も腕が……」


「っ……そうだな」


 痛みを忘れるくらいに戦いに夢中になってたけど、気がつけば痛みが戻ってくる。


「ところで千雪……氷河どうするの? 多分、今も千雪の体の中にいる……私の力もいつまで通用するか分からない」


「……今はこれでいい。また悪さをするようなら、その時にまた考えよう」


 おそらく、だけど……氷河は完全に俺達を殺しにかかっているようには思えなかった。

 いくらでも隙はあったはずなのにな……。


「千雪? どうかした?」


「いや、なんでもない。……早く帰ろう」


「……うん」


 こうして、俺とツキネ。人間と妖怪の奇妙な生活が始まったわけだ。

誤字・脱字や矛盾点などがありましたら感想にて教えていただけると幸いです。

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