S197 4月9日(土)
学校始まって、初めての休日。
その休日にふさわしい、晴天の日。
シーフィアの家に招待されるラディアスとフィリア。
ラディアスは幾つもの思い出が蘇り、
シーフィアとの会話も自然になってくる。
9:45油断大敵の遅刻----------------
勢いよく家を飛び出すラディアス。
ラディ「やばいなぁ。間に合うか!?」
フィル「厳しいかもね。」
寝坊し、焦っているラディアスを冷静に対処するフィリア。
ラディ「シーフィアの家って、ほとんど学校の反対側だもんな。遠いよな。」
フィル「蒼の森まで歩いたら、30分くらいだよね。」
ラディ「は、走らないとダメだよな・・・」
足首を回し、準備運動を始めるラディアス。
フィル「私は食べ物と飲み物を買っていくから、お兄ちゃんは先に行っててね。」
ラディ「あぁ、頼むわ。」
そう言うと、駆け足で待ち合わせ場所に向かうラディアス。
ラディ「こんな時にテレポートでもあればいいのに・・・」
コッ!
ラディ「うぉぉ!」
足が絡まり、転びそうになるラディアス。
ラディ「あ、あぶなー。」
足首を回し、再び走り出そうとする。
フィル「私はこっちに行くね。」
後ろから来たフィリアがラディアスに声をかける。
ラディ「あ、あれ?」
別れを告げ、軽快に逆の道を行くフィリア。
ラディ「お、おぉ、頼むわ。」
10:05待ち合わせの森----------------
必死になって待ち合わせ場所まで走るラディアス。
蒼の森の入り口に到着するが、人影は見当たらない。
ラディ「ふ・・・はあぁ・・・ま、間に合った・・・のか・・・?」
………。
シフ「遅刻。」
ラディ「う、うわぁ!」
ラディアスの後ろから突然現れるシーフィア。
ラディ「ぅ・・・すんません。」
ラディアスは頭を下げると同時に、中腰になる。
シフ「あははは。」
ラディ「疲れた・・・あ、そうだ・・・フィリアなんだけど、今、買い物行って・・・」
シフ「フィルリンのほうが先に来てるし・・・」
ラディ「る・・・って・・・え? うそ?」
シーフィアの後ろから、フィリアが顔を出す。
ラディ「あれ!? オレ走ってきたのに・・・」
シフ「ラディ、本当に走ってきたの? 怪しいなぁ。」
ラディ「ほ、ほ、ホ、ホントだって!! つか、なんでフィリアがいるんだよ?」
フィル「私もシーフィアに呼ばれたよ。」
ラディ「ち、違うって。買い物してから・・・って、あっ!!」
フィル「買い物もしてきたよ。」
フィリアは両手に持った買い物袋をラディアスのほうに差し出す。
ズシッ・・・
ラディ「ぅお、重いな・・・」
フィル「ジュースをたくさん買ってきたよ。」
シフ「わーありがとーフィルリン。」
シーフィアが歩き出し、すぐ後ろを向いてラディアス達に声をかける。
シフ「行こっかー。」
フィル「うん。」
ラディ「あぁ。」
フィリアが歩き出し、ラディアスもその後ろをよろよろ歩き出す。
10:15蒼の森とシーフィア----------------
サワサワ・・・
風によって木々の擦れる音が微かに聞こえてくる。
ラディ「気味悪いな・・・」
蒼の森の中腹。
ラディアスは薄気味悪い森をキョロキョロしながら歩いている。
シフ「ラディ。こっちこっちー。」
先に歩いているシーフィアに催促される。
ラディアスが少し早歩きになってシーフィアに近づく。
ラディ「いつもここ通ってるの?」
シフ「そうだよー。」
ラディ「魔物とか出ない?」
シフ「出るよー。」
ラディ「大丈夫なの?」
シフ「それほどすごいのは、棲んでないよ。ほら、あれくらい。」
ラディ「ごっ!!」
ラディアスが後ろを向くと、体長2mくらいの獣が立ちはだかっている。
ラディ「で・・・でかっ!!」
次の瞬間、獣がラディアスに向けて突進してくる。
ラディアスの前にシーフィアが現れる。
シフ「えい!」
手を獣に向け、バリアを発生させる。そこに激しくぶつかる獣。
シフ「ええーい、ビリビリーッ!!」
ずぅーん・・・
獣の突進が止まった瞬間、シーフィアが電撃を発生させる。
電気ショックを受け、地に倒れる獣。
シフ「今のうちに逃げるっ!! フィルリンもー!」
フィル「うん。」
ラディ「え? え? えっ!?」
走り出すシーフィアとフィリア。
その後から買い物袋を揺らしながら、よろよろ走り出すラディアス。
ラディ「ち、ちょ、ちょっと・・・無理かも・・・」
………。
………。
………。
森の中の少し拓けた場所に出ると、シーフィアがその足を止める。
シフ「このくらい離れれば大丈夫・・・かな・・・」
少し息が切れているシーフィアに、ゼエゼエ言っているラディアスが話し出す。
ラディ「あっ、あんなのと毎日・・・遭遇してるんデスカ? はあぁー・・・」
中腰になって歩きを止めるラディアス。
シフ「そうだよー。」
ガシッ。
突然ラディアスの持つ買い物袋を掴むシーフィア。
シフ「半分持てば良かったね。ごめんね。」
ラディ「あ、あぁ・・・だ、大丈夫、大丈夫・・・」
シーフィアが買い物袋を受け取ると、手ぶらになった片腕を回すラディアス。
シフ「お父さんが・・・不便な所に家買っちゃったからね・・・」
再び歩き出す。
シフ「しょうがないお父さんだよね・・・」
10:40白き麗しき家----------------
シフ「ただいまー。」
シーフィアの声が家に響き渡ると、すぐさまティナが玄関に出てくる。
ティナ「あらあらラディ君にフィリアちゃん。しばらくぶりね~。」
ラディ「あ、どうも・・・です・・・」
フィル「お久しぶりです。」
約4年ぶりに叔母と会い、少し緊張気味のラディアスと、無難に挨拶するフィリア。
ティナ「みんな元気? 姉さんも、プルちゃんも、リンちゃんも。」
フィル「はい。」
ティナ「そう、なによりだわ~。近いうちに行こうと思ってたんだけど~。」
シフ「お母さん、これ、フィルリンが買ってきてくれたの。」
ジュースの入った袋をティナに渡す。
ティナ「はい。フィリアちゃん、ありがとねー。あとで持って行くわね~。」
そう言うとティナは袋を持ちながら、パタパタと台所のほうへ行ってしまう。
シフ「どうぞどうぞ~。」
フィル「お邪魔します。」
ラディ「あ、お、お邪魔・・・します。」
シフ「はい、スリッパ~。」
シーフィアが2束のスリッパを手から落とす。
ラディ「うわ・・・なんだか・・・やたら広いね。」
シフ「うん。不便な所だから~。でも、その分広いよー。」
シーフィアが階段を登り、その後を2人がついていく。
シフ「こっちだよー。」
シーフィアが奥の部屋を指差す。
ラディ「おぉー、なんか階段の幅もすごい。広いし。」
フィル「うん。」
シーフィアが部屋のドアを開けると、光が射し込む。
ラディ「わぁ・・・」
シフ「さぁさぁ、入って入ってー。」
11:05あの日の想い----------------
徐々に射し込んでくる太陽の光。
ラディアスが窓際の棚に目を向けると、輝くペンダントに気づく。
ラディ「あ、あれって・・・」
シフ「ん?」
ラディ「あれって、昔・・・」
シフ「あー。ペンダント? 覚えてる?」
棚のほうに行き、ペンダントを手にとって見るラディアス。
ラディ「へぇ、まだ持ってたんだ。」
シフ「だって、せっかく貰ったんだもん。捨てられないよー。」
ラディ「懐かしいなぁ。」
シフ「あの時は大変だったよねー。」
両手を上にあげ、伸びをしながら話すシーフィア。
ラディ「フィリアは覚えてる?」
フィル「うん?」
ラディ「ほら、オレとシーフィアが井戸に落ちたとき。覚えてない?」
フィル「うーん・・・覚えてるよ。」
書く手を止めず、返事をするフィリア。
ラディ「もう8年くらい前か・・・」
シフ「早いねー。」
ラディ「早いなー。」
………。
ラディ「そういや、足は大丈夫なの?」
シフ「うん、傷は・・・残ってるけど・・・普通に動くよー。」
ラディ「そっか・・・」
シフ「ほらほらー。」
足を上げ、足首を動かすシーフィア。
ラディ「お、おぉ。」
13:10解けるでしょ?----------------
雑談を終え、ラディアスとシーフィアが宿題に取り掛かる。
一方、フィリアは話に乗りつつも宿題を続ける。
始めて間もなく、問題に詰まりだすラディアス。
ラディ「わ、解らんー・・・」
シフ「ラディ、早いよ。」
ラディ「ん? な、何・・・?」
シフ「問題に詰まるの。」
ラディ「ごめん・・・」
シフ「あはは・・・しょうがないよね・・・どこー?」
シーフィアがラディアスの横に座る。
ラディ「ここ、ここ。最初の。」
『x^2 - 18x -144 = 0』
シフ「んー・・・」
ちょっと考えるシーフィア。
シフ「因数分解、できるよ。」
ラディ「できる? 幾つで?」
シフ「xのついてないとこ、144でしょ? 結構色々な掛け算で出てくるよー。」
ラディ「うん。」
シフ「組み合わせが見つからない時は・・・こうやって割り算、割り算・・・って・・・」
フィル「素因数分解。」
フィリアが突然、一言呟く。
シフ「ん、そうそう。」
シーフィアが書き出す。
シフ「ほら、2かけ2かけ2かけ2かけ3かけ3。」
ラディ「おぉ。」
シフ「ここから2つの数の・・・掛け算の組み合わせを考えるんだよ。」
ラディ「そ、そうかー・・・そーいえば、そーだった・・・ような・・・」
シフ「解の公式使っちゃってもいいんだけどねぇ~。」
ラディ「な、なるほど・・・」
シフ「もう大丈夫だよね?」
コンコン。
シフ「! ぁ、はーい。」
シーフィアの返事と同時に、ティナがドア越しから顔を出す。
ティナ「遅くなっちゃったけど、お昼御飯できたから、降りてきてね~。」
シフ「はーい。」
フィル「ふぅ・・・」
全く休まずにやっていたフィリアが一息つく。
ラディ「うぅ・・・このペースじゃ終わらないかも・・・」
シフ「早く終われば、その分遊べるし・・・がんばろーよー。」
フィル「私の分、できたよ。」
シフ「フィルリン、もうできたの?」
ノートをシーフィアに見せる。
シフ「早いね、フィルリン。すごい集中力・・・」
ラディ「フィリア・・・ってそんな頭良かったっけ?」
………。
フィル「謎。」
シフ「あはは。」
ラディ「こっちが謎だって!」
18:15蒼の森とフィリア----------------
暗くなった蒼の森を、とぼとぼ歩くラディアス達。
ラディ「今日は朝から疲れっぱなしだったな・・・」
フィル「うん。」
ラディ「ま、奇跡的に宿題終わったことだし。」
フィル「うん。」
ラディ「でも、もっと集中してやれば、もっと早く終わったかもなぁ。」
フィル「うん。」
ザワ・・・
ラディ「暗くなると、やたら気味悪いな・・・魔物出ないか?」
フィル「うーん・・・」
ラディ「魔物出たら大丈夫か・・・?」
フィル「どちらかと言うと・・・お兄ちゃん、後ろかな?」
ラディ「?」
ドッ!
ラディアスが振り返ると、昼間に見たような大きな魔物が後ろに現れる。
ラディ「大丈夫・・・じゃなかったかも・・・」
フィル「うん。」
ラディ「に、逃げるぞ。」
逃げようとするが、正面にも魔物が現れ、囲まれてしまう。
ラディ「ぎょええぇぇ~!!」
フィル「・・・。」
魔物達はラディアス達の隙を窺おうと、その場でラディアス達を凝視している。
ラディ「し、至近距離で使えば・・・いけるか・・・?」
ラディアスがフェザー魔法を使おうとする。
ベシッ!
敵のものすごく長いリーチで攻撃され、転がるラディアス。
ラディ「無理ー!!」
フィル「・・・お兄ちゃん、大丈夫?」
倒れているラディアスに近づくフィリア。
そして、囲まれているうちに、魔物達はさらに集まってくる。
ラディ「こ、これはマズい・・・よな?」
フィル「うーん・・・そうでもないかな・・・?」
ラディ「に、逃げれるか・・・どうする?」
フィル「お兄ちゃんは、動かないでね。」
ラディ「え?」
フィリアが剣に手をかける。
………!!
次の瞬間、強い光が発すると、魔物達が一斉に倒れる。
………?
ラディ「フィリア・・・?」
フィル「早く帰らないと、本当に真っ暗になっちゃうかもね。」
ラディ「い、いま・・・何かした・・・のか?」
フィル「・・・ミネウチ。」
ラディ「は?」
事態の分かっていないラディアスの質問に、フィリアは全く相手にせず歩き出す。
ラディ「ちょ、ちょっと・・・」
20:20プルミアの宿題頼み----------------
夕食も終わり、台所が静かになる。
台所のテーブルでボーっとしているラディアスに、プルミアが声をかける。
プル「ラディ。」
ラディ「・・・。」
プル「ラディ!」
ラディ「・・・!」
眠そうな顔をしながらラディアスが返事をする。
ラディ「ん・・・?」
プル「ラディ、宿題終わった?」
ラディ「あ、あぁ。なんとかね。」
プル「じゃぁ、あとでノート持ってきて。」
ラディ「はぁ? クラス違うし。」
プル「センセ、一緒でしょ? 宿題の場所は同じよ。」
ラディ「そうなのか?」
プル「そうよ。」
ラディ「じゃぁ、フィリアに言ってくれよ。オレのはほとんどフィリアの写しだし。」
プル「自力でできなかったの?」
ラディ「い、いや・・・集中してれば、できるけど・・・」
プル「なっさけないわねー。」
ラディ「それがノートを借りようとしている人の言葉とは思えな・・・」
ゴッ!
ラディ「あた、あたた・・・」
プルミアの肘打ちが胸にヒットする。
プル「じゃ、頼んだわよ。」
そう言って、さっと廊下のほうへ行くプルミア。
ラディ「な、なんなんだよ・・・」
22:15戯れる1人、1羽----------------
リアナが廊下でエックと遊んでいる。
それを廊下の端で見ているラディアス。
リアナ「ことぴぃ~、こっちれすよぉ~♪」
エック「クエ、グエエ~。」
エックが羽を羽ばたかせながら廊下を走る。
ぱたたたた~・・・
リアナ「こっち、こっちぃ~。」
ぱたぱたた・・・ぽふ。
エックがジャンプをしてリアナの胸に飛び込む。
リアナ「はう!」
エック「ぐえ。」
エックの嘴がリアナの前髪を咥える。
リアナ「はわ~・・・ことぴー、おりこーさ~んだよ~。」
リアナがエックの頭を撫でる。
ラディ「へえぇ・・・リアナにもかなり懐いてきたな。」
リアナ「えへへ・・・」
ラディ「でも、懐き過ぎると、野生に返せなくなるからなぁ・・・」
リアナ「!」
ラディ「まぁ、大丈夫か・・・」
リアナ「やっぱり、ことぴー、返しちゃうですか・・・?」
ラディ「あ、あぁ。ちゃんと飛べるようになったらな。」
リアナ「はうぅ・・・」
ぴょいっとエックがリアナから抜け出し、廊下を走っていく。
リアナ「はう!? こっ、ことぴー、待つですよ~!」
だたたたぁ~・・・
ボフッ!?
リアナ「ふぁうあ!?」
リアナが階段を上がってきたリューネの懐に飛び込む。
リュン「いたた・・・」
よろめくリューネをラディアスが駆けつけて支える。
ラディ「・・・っと。」
リュン「ありがとう。」
ラディ「リアナ、気を付けないと!」
リアナ「は、はぅ、ごめんなさい・・・」
リュン「えぇ。」
リューネがリアナの頭を撫でる。
リュン「あと、リアナ、もう寝る時間。」
リアナ「は、はぅです・・・」
ラディ「じゃ、エックはオレが閉まっとくからな。」
リアナ「う~、う、うん・・・」
ラディ「また明日。」
リアナ「はう・・・ことぴー、おやすみれすよぉ~。」
リアナが手を振ると、それに答えるようにエックが鳴く。
エック「ぐええ~。」