S197 4月8日(金)
天気の良い日が続き、やわらかい日差しが心地良い日。
太陽の下にいると、ボーっとして眠ってしまいそうだ。
学校生活も順調に進み、
放課後には、魔導大会のミーティングも行う。
しかし、不慮の事態により、
ラディアスの補欠案は虚しくも崩れ去る。
10:25宿題の約束----------------
早速の授業に、早速の宿題。
休み時間にラディアスの文句が始まる。
ラディ「いきなり宿題とは・・・せっかく受験勉強が終わったと思ったのに・・・」
フィル「うん。」
ラディ「内容も難しいしさ・・・」
フィル「うん。」
シフ「・・・え? こ、これ・・・これって、復習じゃない?」
ラディアスの愚痴に疑問を感じたシーフィアが聞き返す。
ラディ「え!? そ、そうなの?」
フィル「うん。」
ラディ「フィリア、どっちなんだよ?」
フィル「うん。」
ラディ「いや、うん、じゃないだろう。うん、じゃ・・・」
シフ「フィルリン、変わってないねー。」
困っているラディアスと、僅かに微笑むフィリアを面白がるシーフィア。
シフ「でも、確かに、結構な量だよね。」
ラディ「こんなにあったら、土日が潰れちゃうよなぁ・・・」
フィル「うん。」
めげるラディアスと、とりあえず頷いているフィリア。
シフ「! そうだ。」
ポン。
ラディ「ん?」
シフ「明日、みんなでウチに来ない?」
シーフィアの突然の誘いに、少し驚くラディアス。
ラディ「え・・・?」
シフ「宿題も分担すれば早く終わるし・・・」
一瞬間を空けてシーフィアが再び話を続ける。
シフ「それに、フィルリン達、新しい家に来たことないでしょ?」
フィル「うん。」
ラディ「そうだなぁ、そういえば。新しい家はまだ見たことないなぁ。」
シフ「じゃぁ、じゃぁ、おいでよー。」
10:35ガナートの忘れ物----------------
先生に荷物運びを任されたガナートが戻ってくる。
ガナチ「ふぅ・・・」
ラディ「ご苦労さんだな。」
ガナチ「全くだ。人使い荒いヤツだな。」
ラディ「先生に『ヤツ』、は違くないか?」
暴言を吐いているガナートに、ラディアスが突っ込む。
ガナチ「そもそも、何で俺が日直なのか、分からんぞっ!!」
フィル「うん。」
ラディ「きっと熱血だからだと思うぞ。」
ガナチ「それ、なんだよ!?」
フィル「うん。」
ラディアス達の謎の理由に、納得のいかないガナート。
ガナチ「で、でも、フィリアがそういうなら認めるぞ。」
フィル「うん。」
ラディ「なんだよ、それ?」
話の途切れを狙ってシーフィアがさっきの話を切り出す。
シフ「ガナート君、明日、フィルリン達、私のウチに来るんだけど・・・ガナート君もどうかな?」
ガナチ「なぬっ!? ぐはぁ!! だっ・・・だめだぁ!!」
1人で勝手に吹っ飛ぶガナート。
ドシャー!!
数メートル吹っ飛び、勢い良く地面に倒れる。
………。
………。
反応がないと分かると、ガナートは無言で戻ってくる。
ガナチ「明日はダメなんだよ。すまん。」
シフ「予定あるの?」
ガナチ「今日の夕方から、実家に戻るんだよ。」
シフ「あー、そうなんだー。残念。」
ガナチ「色々、まだ、荷物持ってこないといけないからな。」
ラディ「大変だな。あそこまで帰るのは。」
ガナチ「お前はいいよなーぁ。一家ごとこっちに引っ越してさ。」
ラディアスの肩を掴み、ラディアスを揺するガナート。
ラディ「あー、まぁ、5人中3人が同じ学校に通うんだから、可決だと思うぞ。」
ガナチ「羨ましいぞ!」
ラディ「そういや・・・荷物って、何を持ってくるんだ?」
ガナチ「布団。」
………。
シフ「布団・・・ないの?」
ガナチ「夜寒くて、かなりつらいぞ。」
ラディ「馬鹿だな。」
ガナチ「馬鹿だよ。」
お互い頭を叩きあうラディアスとガナート。
シフ「あはは。」
11:45剣の授業----------------
武技の授業を受けるため、ラディアスとフィリアは武道館へ向かう。
ラディ「今日は選択するんだよな。」
フィル「うん。」
ラディ「選択できる武技って、何があるんだ?」
武技の授業の項目が記載されたプリントを見るフィリア。
フィル「大剣技、小剣技、槍技、杖技、の4つ。」
プル「ラディ、大剣技、大剣技!」
プルミアが後ろから現れ、ラディアスの肩を掴んでくる。
ラディ「ぉ、姉さん。大剣技・・・って普通の剣のヤツだよね?」
プル「そ。小剣技はレイピアとかダガーとか、そーゆーのだし。」
フィル「・・・。」
無言でプルミアを引っ張り、ラディアスから引き離すフィリア。
プル「な、何よ?」
フィル「杖技とか・・・いいかも、お兄ちゃん。」
ラディ「杖・・・か・・・」
プル「ラディ、大剣技だって!」
ラディ「そうだなぁ。剣以外、あまり触れたことないしなぁ。」
プル「決まり決まりー。」
ラディ「大剣技に行ってみるかな・・・」
フィル「・・・。」
フィリアが珍しくプルミアを睨み付ける。
プル「フィリア、残念ねー。」
ラディ「フィリア、フィリアも大剣技だろ? でかい剣、持ってるんだし。」
………。
フィル「・・・うん。」
13:15不祥事・・・?----------------
放課後。
魔術大会に出場するメンバーが、エディスに連れられ、ある部屋に行く。
エディ「せっかく午前中に帰れるのに、悪いんだけど我慢してね。」
ティル「ぁ、ぁのー・・・」
ティリアをかき消す程の大声で、ガナートが話す。
ガナチ「うわっ! 理科室っ!?」
シフ「そんなにびっくりすること・・・?」
ガナチ「俺はあの解剖人形が死ぬほど嫌いなんだよっ!」
シフ「子供じゃないんだし~・・・」
ガナチ「今まで、何度夢で魘されたことか・・・うおおお!!」
シフ「あははは。」
エディ「安心して、ガナート君。解剖人形はないから。」
ガナチ「ほ・・・」
ラディ「全く、大げさなヤツだなぁ・・・」
シフ「でも、解剖人形って、正式名称なのかな~?」
シュリ「は、はい?」
ティル「ぁ、あのー・・・」
ティリアの声を今度はエディスが掻き消す。
エディ「そろそろ、いいかしら?」
ガナチ「・・・あ、はい。すんません。」
シフ「は~い。」
エディ「ここは、化学の実験室です。私は大抵、ここにいます。」
ラディ「住処・・・ですか・・・?」
エディ「メンバーなんだけど、どうしましょうか?」
ティル「あ、あのー・・・」
エディ「一応、皆さんの実力は、このノートに・・・」
ティル「あ、あのー!!!!」
意を決して、ティリア的最大音量で声を発する。
エディ「? は、はい?」
………。
ティル「あの、私・・・」
………。
ティル「攻撃魔法、持ってません。」
………。
13:35続・不祥事----------------
ティリアの事実に、呆気にとられるエディス。
エディ「これは、予想外の展開・・・」
頭を抱えて悩みはじめる。
エディ「もう・・・メンバー変更できないわよ。」
少し間を空けて、エディスがティリアに話しかける。
エディ「あと2日で攻撃魔法を覚える気はない?」
………。
ティル「あ、あまり・・・」
エディ「確かに、このためだけに覚えるのもね・・・すぐ覚えられるとは限らないし・・・」
ティル「はい・・・」
エディスが再び頭を抱えて悩み、しばらくして再び話し始める。
エディ「悪いけど、補欠でいいかしらん? ティリアさん?」
ティル「はい・・・すみません・・・」
ティリアの返事を聞くと、エディスはくるっと回り、他の生徒のほうを向く。
エディ「そういうことで、皆さん、がんばりましょうね。」
ラディ「えっ!?」
エディ「皆さんの実力は、これ見て分かってるつもり。」
ノートをペラペラっとめくり、あるページで止める。
ペラペラペラ・・・
エディ「あー・・・ティリアさんは、実技試験、補助系で通ってるのね。はーなるほどー。」
さらに隣のページを捲る。
エディ「属性が・・・水晶か・・・確かに攻撃魔法の少ない属性よねー。」
エディ「お隣りさんの帰水は、そうでもないのに。ね? シュライク君?」
シュリ「え? え、えぇ・・・」
そう言うと、ぶ厚いノートを机の上に放り投げる。
エディ「あ、ちなみにあれは極秘資料だから見ちゃダメよ。」
ガナチ「じゃぁ、そんな無用心に置かないでくださいよ・・・」
エディ「あれを見た限りでは、何気に、皆さん優秀みたいですから、問題ないわね。」
シフ「何気に・・・って・・・」
エディ「ただし、1人を除いて。」
ラディ「うぐっ。」
エディス先生がラディアスに視線を合わせる。
エディ「ねー?」
ラディ「先生・・・苛めですか・・・?」
エディ「ねー?」
ラディアスが凹みそうなのを確認すると、素早く話を切り替えるエディス。
エディ「じゃ、これから、皆さんに助言をしましょうね。・・・優勝するための。」
13:50それぞれの助言----------------
再び例のノートを手に取ると、エディス先生の助言が始まる。
エディ「じゃ、まず、シュライク君。」
シュリ「はい。」
分厚いノートを捲りながら、ボソッと話す。
エディ「バリアに頼りすぎ。」
シュリ「え?」
エディ「バリアの出力が・・・推定値で1900。いい線いってるわ。」
シュリ「はぁ。」
エディ「確かに、普通の14歳が使えるバリアじゃないし、頼れる魔法ね。」
そう言うと、エディスはくるっと回る。
エディ「でも、避けることも考えましょうね。バリアは完璧とは限らないから。」
シュリ「・・・は、はい。」
ポンと、シュライクの頭に軽く手をあてる。
エディ「じゃ次、シーフィアさん。」
シフ「はーい。」
エディ「魔法に関する能力は高いわねー。」
エディ「使える魔法も豊富ねー。」
エディ「優秀ねー。」
………。
シフ「あの・・・?」
エディスは自分の長い黒髪を手串して、話を続ける。
エディ「でも、実技の経験は薄いみたいね。・・・ね?」
シフ「え? はい・・・あまり得意ではありません。」
エディ「試合の時は、相手を良く見ましょうね。」
シフ「あ、はい。え、と・・・先生って魔法の先生ですか?」
エディ「化学よ。」
シフ「なんでそういうことが、分かるのですか?」
………。
エディ「極秘資料だから。」
シフ「はぁ・・・」
一瞬止まるエディスの反応に、疑問を抱くシーフィアだったが、流されてしまう。
エディ「で、次ね。次は、あ、フィリアさん。」
………。
エディ「フィリアさんは・・・」
フィル「はい。」
エディ「避けて当てれば、大抵、勝てますね。」
フィル「はい。」
エディ「がんばってくださいね。」
フィル「はい。」
ラディ「え? ・・・それだけでいいのか? フィリア?」
フィル「うん。」
エディ「じゃぁ次・・・あった。ガナート君。」
ガナチ「はいっ!!」
………。
エディ「なんかだるい。」
資料の本を閉じるエディス。
ガナチ「はいっ!! って・・・ぅえっ!?」
予想以上にがっかりするのを見て、仕方なく少し考えるエディス。
エディ「じゃあ・・・」
さらに考えるエディス。
エディ「・・・攻撃魔法だけじゃ・・・攻撃できないわよ。」
………?
ガナチ「・・・あ、えー、あの、それは・・・どういう意味ですか?」
エディ「自分で考える!」
ガナチ「は、はいっ!!」
エディ「返事は・・・いいんだけどねぇ・・・」
相変わらずテンションの高いガナートに、少々困り気味のエディス。
次のティリアに話を振る。
エディ「で、ティリアさんだけど、当日の回復役、お願いできるかしらん?」
ティル「はい。」
エディ「じゃぁ、今日はこれで解散ね。」
ラディ「あれ?」
14:20あとは当日----------------
ラディアス以外の助言が終わり、解散を言い放つエディス。
ラディアスは戸惑いを隠さずにはいられない。
ラディ「せ、先生・・・あ、あの、オ、オレ・・・は?」
エディ「あ、はいはい。ちょっと待ってね。」
例のノートを閉じて、エディス先生が皆のほうを向く。
エディ「あとは、当日に時間を設けて、アドバイスします。」
シフ「当日ですか?」
エディ「ええ。そうよ。」
ガナチ「それで平気なんですか? 優勝するとか・・・言ってましたけど・・・」
エディ「えぇ・・・大丈夫・・・よ・・・」
………。
エディ「つーかー、そん時しかー、魔法演習室を借りれないのよー!」
シフ「わ。」
エディ「昨日も、今日も、2年3年が独占なのよー!」
一瞬荒れるエディスだったが、すぐさま平常心を取り戻す。
エディ「そういうことなのです! なので、今日は解さーん。」
ガナチ「はい!」
………。
エディスがラディアスの腕を掴む。
エディ「勿論、ラディアス君以外。」
ラディ「え?」
14:50本気なんだか・・・----------------
化学実験室を出る5人は、エディスの助言に消化不良気味だ。
シフ「先生、本気なんだかジョークなんだか、良く分からないよね~。」
フィル「うん。」
シフ「本気の割には助言がいい加減?」
ガナチ「言ってることが良く分からないんだよなー。」
フィル「うん。」
シュリ「僕の助言は、なんとなくですが、分かりましたが・・・」
ガナチ「なっ、生意気なっ!!」
シュリ「すっ、すみません!」
シフ「あはは、確かにシュライク君の助言が一番マトモな気がするよ~。」
シュリ「え、えぇ。」
ガナチ「そういや、ティリアはどうして、攻撃魔法を覚えないんだ?」
!
皆がティリアに耳を傾ける。
ティル「はい、え~と・・・」
ガナチ「この学校は魔法で戦う技術を見につける学校だろ?」
シフ「そ、そ・・・それもちょっと違うような・・・」
ティル「えっと・・・」
………。
………。
………。
ティル「私は・・・魔法は、人を助ける物だと思っています。」
妙に長い時間が空いた後、はっきりとした答えが返ってくる。
ティル「な、なので・・・人を傷つける魔法は覚えたくないです。」
シフ「そ、そっかぁ~・・・」
ガナチ「じゃぁさ、魔物とかに、襲われた時は、どうするんだ?」
ティル「えと・・・」
………。
ティル「えと・・・」
………。
ティル「えと・・・」
………。
ティル「逃げます。」
シュリ「そ、それしかないですよね・・・」
シフ「後は、素直にやられるしかないよね~。」
ガナチ「確かに・・・って、それじゃダメくないかっ!?」
シフ「そうだね~、あははは。」
微妙に話が盛り上がっている時、突然フィリアが立ち止まる。
フィル「私は、お兄ちゃんを待ってるから。」
ガナチ「あ、そうだな。忘れてた。」
シフ「そっか・・・」
シュリ「ボクは予定がありますので、申し訳ありませんが、先に失礼します。」
シフ「はい。また、明日ね。」
ガナチ「じゃなー。」
シュリ「失礼します。」
律儀に別れを告げるシュライク。
………。
?
ガナチ「ティリアは? あれ? 帰ったのか?」
いつの間にか消えているティリアに戸惑うガナート達。
シフ「なんか不思議な感じの子だね。」
ガナチ「影の薄さは、他を圧倒的するな。」
シフ「そ、そうだね~・・・ガナート君は圧倒的に濃いよね。」
ガナチ「なっ、なんですとー!?」
シフ「わー!」
ガナートが叫ぶと、ビックリして離れるシーフィア。
ガナチ「濃い・・・」
シフ「え、えぇ~と・・・じょ、冗談だよ~・・・」
凹んでいるガナートを必死にフォローする。
ガナチ「そうだよな!」
シフ「う、うん。」
再び歩き始めるシーフィア。そして、すぐにフィリアのほうを向く。
シフ「じゃぁ、私も帰るね。部屋のお掃除しないと・・・明日のために。」
フィル「うん。」
シフ「じゃぁ、フィルリン、明日ねー。」
フィル「うん。」
シフ「ラディにも言っといてね。」
フィル「うん。」
………。
ガナチ「あ・・・」
2人きりで、いつもと違う雰囲気になり、言葉が詰まるガナート。
ガナチ「俺は・・・俺も待ってようかな・・・」
フィル「あ、ガナート君。」
ガナチ「うっ!! な、なんですとっ!? あ、いや、そういうわけじゃ・・・」
意味不明な返事とゼスチャーにも拘らず、フィリアは平然と話を続ける。
フィル「伝言。」
ガナチ「伝言?」
フィル「リアナに伝言、頼める?」
………?
ガナチ「あ、あー、なんだ・・・はは・・・は・・・」
いつもの感じを取り戻すガナートと、ガナートの反応を不思議に思うフィリア。
フィル「うん?」
ガナチ「伝言? 伝言な。いいぜ。」
フィル「あのね。・・・。」
ガナチ「お。嬉しいかも・・・」
フィリアがガナートの耳元まで近づく。
ごにょごにょごにょ。
………。
ガナチ「おぉ、分かった。でも、内緒話することなのか・・・?」
フィル「うん。お願い。」
ガナチ「おお! 任せとけっ!!」
15:00エディスの助言----------------
エディスが化学実験室の準備室に入ってくる。
エディ「ごめんなさいね、待ったでしょう?」
ラディ「はぁ・・・いえ・・・」
エディ「資料探すのに手間取っちゃって・・・」
ラディ「はぁ。」
エディ「うーん・・・時空・・・時空ねー・・・」
結構年季の入った資料をペラペラめくるエディス。
エディ「入試の資料、見たわよ。」
ラディ「は、はい!?」
エディスが溜め息をつく。
エディ「まず、魔法。・・・フェザー魔法しか使えないって?」
ラディ「はぁ・・・幾つか契約はしているみたいなんですけど・・・」
ラディ「どうすれば使えるのか、全く分からないんです。」
口ごもるラディアスに、エディスが添える。
エディ「そっか・・・せめて魔法の名前が分かればいいんだけど・・・覚えてないのかしら?」
ラディ「小さい頃に契約して・・・しかも、その時の本とかないみたいで・・・」
エディ「あなたの属性は、普通のと全く違うから、調べるにせよ、なんにせよ、非常に困難なのよ。」
ラディ「はあぁ・・・すみません・・・」
謝るラディアス。
エディ「ま、こっちはこっちで色々、聞きたいことあるんだけど。」
ラディ「え・・・あ、はい。」
戸惑い気味のラディアスに、エディスが質問を始める。
エディ「何故、『時空』なのか?」
エディ「何故、知らないで使っているのか?」
エディ「何故、他の属性にしないのか?」
エディスの質問攻めに、戸惑いながら答えるラディアス。
ラディ「それは・・・母さんに勝手に決められて・・・」
…………。
エディ「母親・・・か。そっか・・・分かったわ。」
手をクネクネさせるエディス。
エディ「時空、だけど、古の魔法であることは間違いないわ。」
ラディ「い、いにしえ?」
エディ「歴史で習ったでしょ?」
エディスの質問にピンと来ないラディアス。
ラディ「う・・・」
エディ「・・・しょうがないわねぇ。」
エディスが机の本棚に手を伸ばし、本を数冊とりだす。
エディ「これ、読んで。」
ラディアスの手に本を持たせる。
ラディ「な、なんか・・・難しい本・・・とか・・・?」
エディ「復習です。」
ラディ「はい・・・」
エディ「第3章の冒頭だけでいいから、読む!」
ラディ「は、はい!」
15:20ラディアスのフェザー----------------
黙々とラディアスが本を読み、その間にエディスが他の資料に目を通す。
ラディ「あ、あの・・・」
エディ「終わった?」
ラディ「は、はぁ、一応・・・」
エディ「一応・・・」
ラディ「すみません。」
エディ「なんとなく分かってもらえばいいわ。」
ラディ「はい。」
エディ「未知の属性の研究も、進んできている部分もあるんだけど・・・」
エディ「まだまだ、知らないことも多くあるのよ。」
ラディ「は、はい。」
エディ「ちょっとフェザー見せてもらえるかしら?」
ラディ「は、はい!」
ラディアスがエディスにフェザーを手渡す。
エディ「フェザー・・・ん? これが属性石? な、なんだか金属みたいね。」
ラディ「え、えぇ。」
コツコツ。
エディ「普通は、宝石なんだけどなぁ・・・」
エディスは、フェザーについている宝石らしき部分をコツコツ叩きながら考える。
エディ「どんな鉱石か知ってる?」
ラディ「い、いえ、さっぱり・・・」
エディ「ダメかぁ・・・」
ラディ「すみません・・・」
エディ「しょうがないわね。これが属性石としたら、簡単には手に入らなそうだし。」
ラディ「は、はぁ・・・」
………。
エディ「ふ~ん・・・はい。」
ラディアスにフェザーを返すエディス。
エディ「使える魔法も分からず、属性石も分からず・・・か。」
ラディ「はぁ・・・」
エディ「今回は、現状でどうにかする練習しましょうか。」
ラディ「あ、はい。」
15:25フィリアの伝言----------------
呼び出しを待つガナートを出迎えたのは、当人のリアナ。
リアナ「ほわーい。だれ~?」
ガナチ「俺です。俺。」
リアナ「あー、ガナチーだー。ガナチー。」
そう言うと、間髪いれず、ガナートの服を掴んで引っぱる。
ガナチ「その呼び方、やめろって!」
リアナ「え~? なんで~? ガナチィガナちぃ~。」
そう言ってガナートの服をさらに引っぱるリアナ。
ガナチ「ややや、や、やめれー!!」
リアナの攻めに勝てないガナートは、とっとと用件を済ませようとする。
ガナチ「だー!!」
リアナ「うあぁぁぁん・・・」
服を引っぱり戻すガナートと、リアナが悔しそうにしている。
ガナチ「フィリアからの伝言だっ!」
リアナ「ふぇ?」
ガナチ「だから、フィリアからの伝言だって。」
リアナ「ふぇー? おねーちゃんからー?」
ガナチ「あぁ。夕食、作っといてだってさ、フィリアが。」
にへらあぁ~。
ガナートの伝言を聞くと、リアナの顔が緩み、にやけ顔になる。
ガナチ「な、なんだ・・・?」
リアナ「ほ、ほ、ほ、ほ、ホントですかぁー!?」
ガナチ「・・・うおっ!?」
再びガナートの服を上下に引っぱるリアナ。
リアナ「ホントホントホントー!?」
ガナチ「ほ、本当だっ! だあぁー! やめれー!!」
リアナから、やっとのことで服を引っぱり戻すガナート。
リアナ「おねーちゃんは、あたしを信頼してくれてるですっ! 今度は失敗しないですっ!」
燃え気味のリアナから、一歩離れてガナートが呟く。
ガナチ「あー、まー、そういうことだから、がんばれ。」
リアナ「がんばるですっ!!」
ガナチ「じゃなー。」
スタスタスタ・・・
ガナートはリアナに一言告げると、逃げるように去っていく。
リアナ「がんばるですーっ!! おおーっ!!」
15:35唯一の練習----------------
エディスとラディアスが化学実験室に戻る。
エディ「じゃぁ、練習してみましょうか。」
ラディ「あ、はい。」
エディ「ちょっとフェザー魔法、放ってもらえる?」
ラディ「え? どこにですか?」
エディ「私に。」
ラディ「え?」
エディ「壁とか壊すわけにはいかないでしょう? ここはフツーの部屋なんだから。」
ラディ「は、はぁ・・・大丈夫なんですか?」
エディ「大丈夫よ。」
ラディ「わ、分かりました・・・」
サササ・・・
乗り気でないラディアスが、仕方なく魔法を刻みはじめる。
ラディ「てやぁ。」
パァーン!
光の塊が勢い良く飛ぶが、エディスの目の前で弾け、消滅する。
ラディ「あ・・・」
エディ「・・・もう少し離れて、もう一回。」
ラディ「もう一回ですか?」
エディ「そうよ。今度はもっと離れて。」
とっとっとっ・・・と離れると、再びリューアフェザーを放つ。
パシュゥ!
再びエディスの目の前で消滅する。
………。
エディ「ん・・・見た限りでは、減衰力がかなり高いわね。」
ラディ「減衰・・・」
エディ「遠くに行けば行くほど攻撃力がなくなっていくってこと。」
やっと理解したのか、無言で頷くラディアス。
エディ「だけど、至近距離なら結構高い攻撃力がありそうね。」
………。
エディ「ということは?」
ラディ「わ?」
エディ「どうするの?」
ラディ「え?」
エディ「どうするの?」
ラディ「えー・・・っと・・・」
答えに戸惑うラディアス。
エディ「至近距離で当てる。絶対条件よ。」
ラディ「はい・・・」
エディ「それでも厳しいけど、それができないと、全く他の生徒に太刀打ちできないわ。」
ラディ「は、はい・・・」
………。
エディ「ふぅ・・・」
一息つき再び話し出すエディス。
エディ「フェザー魔法のみで魔法学校に入学するなんて・・・有り得ないわよ、普通・・・」
エディ「でも、それでも入学できたってことは、あなたにそれだけの力を秘めてるということ。」
エディ「そして、誰かが、その能力を認めたということなのよ。」
エディスがラディアスの肩を掴む。
エディ「だから、もっと、自信を持っていいのよ。」
ラディ「じ、自信・・・ですか・・・」
エディ「そうよ、自信。」
少し腰の引けているラディアスだったが、エディスの助言を納得しようとしている。
ラディ「は、はい・・・」
エディ「じゃぁ、当日もお願いしますね。」
ラディ「はい・・・」
18:00暗がりの中の帰り----------------
いつの間にか日はすっかり落ち、校内もほとんど灯かりついていない。
すっかり明かりの消えた玄関に、人影が見える。
フィル「お兄ちゃん。」
ラディ「フィリア?」
フィル「うん。」
ラディ「あれ? 帰ってなかったのか?」
フィル「うん。」
ラディ「帰らないで大丈夫か? 夕飯の準備とか、いいのか?」
フィル「うん。ガナート君に伝言頼んでおいたよ。」
ラディ「? なんの伝言?」
フィル「『リアナに、夕飯作っといて』って。」
靴を履き替えようとするラディアスが止まり、嫌な顔をする。
ラディ「えー・・・」
フィル「うん?」
ラディ「そ・・・それは、無理があるだろ。」
フィル「そうかな・・・? でも、その時は、その時で、なんとかするよ。」
ラディ「なんとかするしか選択肢ないぞ。」
フィル「うん。」
ラディ「リアナには、まだまだ無理だと思うが・・・」
フィル「でも、少しずつ、できるようにしないと。」
ラディ「まぁ・・・そうなんだけどさ・・・」
………。
気を取り直して、歩き出す二人。
ラディ「なんだろうなー。材料は間違ってないと思うぞ。」
フィル「うん。」
ラディ「舌が鈍いのかもしれないなー、あいつ。」
フィル「うん。」
………。
黙々と歩く二人。
………。
………。