S197 4月7日(木)
強い日差しが部屋に入り込んでくほど、晴れ渡っている。
朝から気温も高く、布団の中で汗をかいてしまうほどだ。
順調に学校生活に馴染んでいくも、ラディアスにはリアナに対する不安が付き纏う。
家では常に明るく振舞うリアナと、自分に課せられた兄としての重さを感じるラディアス。
何をすれば良いのか、考え悩む日々が続く。
7:40懐かしき髪を靡かせ----------------
まだ誰もいない通学路を歩くシュライクとジェフ。
ジェフ「護衛、必要なのか?」
シュリ「え、ええ。それが役目ですよ、ジェフの。」
ジェフ「そうだけどな、敵がいないとつまらんな。」
シュリ「いないに越したことはありませんよ。」
ジェフ「そうか・・・そうだな。」
坂を登りきり、校門の前で一息つくシュライク。
シュリ「ふぅ・・・」
ジェフ「ここか?」
シュリ「ここが学校の入り口です。」
ジェフ「ほう・・・」
辺りを見回すジェフ。
ジェフ「今日は早いのか? まだ誰も来てないじゃないか。」
シュリ「この時間に来れば、騒がれるのこともないと思いましたので。」
頭を掻きながら話すシュライク。
シュリ「昨日の朝は、多数の女子生徒に囲まれてしまい、危うく遅刻でしたから・・・」
ジェフ「ほう、モテモテだな、王子。」
シュリ「いえ・・・そのようなことではなく、珍しいのでしょうか・・・」
………。
シュリ「天然記念物でも見るような・・・そのような眼差しでした・・・」
ジェフ「ふ・・・所詮、平民だな。」
シュリ「ジェフ。」
ジェフ「あぁ・・・それは皇族に生まれた、王子の宿命だな。」
シュリ「! そ、そうですね・・・」
ジェフ「だが、どう思われようが、気にすることはない。王子は王子だろう。」
シュリ「・・・そうですね。」
校門の先にある大木に近づくシュライク達。
シュライクが大木の前にいるシーフィアに気づく。
シュリ「あ・・・」
風に靡くシーフィアの髪を見ると、何かを思い出すシュライク。
ポン。
シュリ「!」
ジェフがシュライクの肩を叩く。
ジェフ「そこら辺で時間潰してるから、なんかあったら呼べよ、王子。」
シュリ「あ、はい、お願いします。帰りに、また、お願いします。」
ジェフ「あぁ。」
そう言うと、一瞬にしてその場から消える。
7:45おぼろげ----------------
シュリ「あ・・・あの・・・」
近づきながらシュライクが声をかけると、シーフィアが振り向く。
シフ「あ、おはよ~。」
シュリ「!」
何かを思い出し、言葉が詰まるシュライク。
シフ「おはよー?」
シーフィアがシュライクの前で手を振る。
シュリ「~。」
シフ「あれ・・・?」
シュリ「あ、あの・・・」
シフ「え、と・・・?」
シュリ「す、すす・・・すみません・・・」
シフ「う、うん。おはよ~。」
シュリ「・・・おはようございます。」
シフ「同じクラスの人・・・だよね?」
シュリ「! あ、は、はい。」
シフ「えと・・・シュライク君・・・だったかなぁ?」
シュリ「はい。シーフィアさん・・・ですね。」
シフ「うん。」
………。
シュリ「シーフィアさんは・・・朝、早いのですね。」
シフ「あはははは・・・」
シュリ「?」
シフ「う~ん・・・実は・・・1時間、間違えちゃった・・・」
頬を掻きながら、恥ずかしそうに答えるシーフィア。
シュリ「え?」
シフ「時計の7時と8時って、見間違えやすいよねー。」
シュリ「は、はあ。」
シフ「見間違えない?」
シュリ「ぼ、僕は・・・それほど・・・」
シフ「そうだよね~、使ってる時計が違うからね~。」
シュリ「はい・・・?」
シフ「やっぱり、高い目覚まし時計のほうがいいのかなぁ・・・?」
シュリ「い、いえ・・・それはあまり・・・」
シフ「1時間遅いよりかは、いいんだけどね~。」
シュリ「そ、そうですよね・・・遅れてしまうのは・・・」
7:55姉の影----------------
下駄箱に行き、上履きに履き替える二人。
シュライクがシーフィアの下駄箱のネームプレートを眺める。
シュリ「・・・。」
『Ceifia=Knyflle』
『Filiah=Knyflle』
『Roadiath=Knyflle』
シフ「? シュライク君?」
シュリ「あ、す、すみません・・・」
シフ「ラブレターは入ってなかったよ~・・・」
シュリ「え?」
シフ「冗談だよ~。」
シュリ「あ、そ、そうでしたか・・・あはは・・・」
………。
シュリ「あの・・・シーフィアさんは、ラディアスさんと兄妹なのですか?」
シフ「え? ううん、違うよ~。ラディとは従兄妹なんだよ~。」
シュリ「従兄妹・・・ですか。」
シフ「フィルリンともそうだよ。ラディとフィルリンが兄妹なんだよ。」
シュリ「そ、そうなのですか・・・ニフル・・・は、珍しい姓ですよね。」
シフ「そうかなー? あ、でも・・・私達以外に見たことないかも・・・」
シュリ「かつては・・・ブレシアンの分家の者がニフルという姓を使っていました。」
シフ「え? そ、それって・・・滅んだ国の・・・?」
シュリ「ええ。僕の記憶ですので、確かかどうか分かりませんが・・・」
シフ「そうなんだー。詳しいんだね~。」
シュリ「い、いえ、そんなことないです・・・」
コト。
シーフィアとシュライクが上履きを廊下に落とし、履き替える。
シフ「シュライク君、女子に騒がれて大変だよねー。」
シュリ「え、あ、はぁ。」
シフ「カワイイからー。」
なでなで。
シュリ「あ、あの・・・」
困り気味のシュライク。
シフ「でも、シュライク君は、きっと普通の学生として扱って欲しいんだろうね。」
シュリ「!? え・・・?」
シフ「なんとなくだよー。そんな気がした・・・というか・・・」
シュリ「シーフィアさん、鋭いです・・・」
シフ「そうなんだー。」
シュリ「しかし、そう願っていても、なかなか上手くいきません・・・」
シフ「だって、まだ、2日目だよー。これからだよ。」
シュリ「え、えぇ。」
シフ「シュライク君なら、きっと上手く行くと思うよ。」
シュリ「あ、ありがとうございます。」
シフ「あははは。」
階段を登り始めるシーフィアを、その場で見つめるシュライク。
シュリ「姉さんが生きていれば・・・きっと・・・」
8:10シーフィア、目覚まし時計考察----------------
まだ誰もいない教室にシュライクとシーフィアが入る。
シフ「わー、さすがに誰もいないね~。」
シュリ「ええ。」
シュライクが自分の席に荷物を置くと、窓際に行き、窓から校庭を見回す。
シュリ「校庭にも誰もないですね・・・」
シフ「部活とかもやってないんだねー・・・」
シュリ「そう・・・みたいです。」
シュライクがシーフィアの隣の席に座ると、シーフィアが唐突に話し始める。
シフ「シュライク君の目覚まし時計って、デジタル?」
シュリ「え? あ、は、はい・・・そうです。」
シフ「そうだよね~、デジタルだと7時と8時は全然違うよね~。」
シュリ「? は、はい、確かに・・・」
シフ「じゃぁ、間違えないかぁ・・・」
シュリ「え、ええ・・・」
………。
!
シフ「でも、8時と9時が間違いやすい気がしてきたよー。」
シュリ「はい・・・?」
シフ「デジタルだと、8時と9時が似てるし、ちょっと危険かなー?」
シュリ「確かに似て・・・ますね。」
シフ「8時だと思って9時だと、それこそ大遅刻だよぉ~・・・」
シュリ「は、はぁ・・・」
シフ「8時と9時は、7時と8時より致命的だよね。」
シュリ「?」
シフ「ダメダメ、やっぱりアナログだよ~。アナログじゃないと私はダメだなぁ~。」
9:30部活動説明会。----------------
部活説明会のため、体育館に向かうラディアス達。
シフ「部活かぁー。部活ねー。」
シーフィアが歩きながら部活動一覧の冊子を開く。
ラディ「オレは別にいいんだよね。特にやりたいものないし。」
そう言って冊子を丸めるラディアス。
シフ「私も本格的に部活をやろうって気はないなぁ・・・」
フィル「うん。」
ガナチ「かあああああっつ!!!!」
!?
ガナチ「情けないっ!! もっと熱くなれよなっ!! 青年達っ!!」
フィル「うん。」
ガナチ「あぁ・・・やっぱりフィリアは良く分かってるな!」
フィル「うん。」
やる気無しの雰囲気に対し、1人で盛り上がっているガナート。
ラディ「うわぁ、合わせにくいノリだな・・・」
シフ「ガナート君は・・・どの部活に入るか、決めてるの?」
ガナチ「いや、全く。」
………。
ガナチ「でも、必ず熱くなれる部活に入るぞ。」
ラディ「ガナートにはお似合いだな。」
シフ「私は・・・面白そうな部活があったら、やる、って感じかなー。」
ラディアスとガナートを交互に見て、シーフィアも意見を述べる。
ガナチ「ほう。」
シフ「多分、ないだろうけど。」
ラディ「そうだね。」
フィル「うん。」
3人の意見が一致する。
ガナチ「3人そろって・・・血は争そえないな! 悲しいぞ、俺は! っはあ・・・」
ラディ「なんだよ? それ・・・」
首を振って溜め息をつくガナートに、ラディアスが呆れた返事を返す。
シフ「それよりも・・・問題は来週の魔導大会だよー。」
フィル「うん。」
ラディ「確かに。オレもそう思う・・・」
14:30鳥篭----------------
クレセント島、最大の商店街、パテンティナ通り商店街。
その一角のペットショップに向かうラディアスとリアナ。
リアナ「はううぅ~・・・人がいっぱいいるですぅ~・・・」
ラディ「そうだなー。」
ラディアスの背中に張り付いて歩くリアナは、商店街の雰囲気に少々戸惑い気味。
ラディ「あ、ここだな。」
リアナ「ふぇえぇ~。」
ペットショップらしき店に入ると、若い男性店員が気前良く迎える。
店員「いらっしゃいませ~」
ラディアス達は軽く会釈すると、店の奥に入っていく。
店の中は、珍しい動物が多く、ガラス越しの至る所で奇獣、珍獣が蠢いている。
リアナ「あ、これカワイぃ~!」
リスのような生き物を見て、歓喜をあげるリアナにラディアスが突っ込む。
ラディ「口開けると、キモいぞ、それ・・・」
リアナ「ふぇ? そ、そうなの・・・?」
リスらしき生き物がリアナを見つめる。
リアナ「カ、カワィ・・・」
がぱっ。
………。
リアナ「!#〃$†@※</д\~〆」
リスが口を開くと、先程の可愛らしさとは思えない形相になる。
そのあまりの光景に、呆気にとられるリアナ。
ラディ「檻を探すぞー。」
先に行くラディアスに数秒経って気づき、追いかける。
リアナ「はううぅー、あれはインチキですぅーひきょーですぅー。」
ラディ「言っただろ。」
辺りをキョロキョロしながらリアナに言い聞かせるラディアス。
ラディ「この辺ぽいな・・・」
リアナ「色んな入れ物がたくさんあるです・・・」
さらに辺りを見回すラディアス。
………。
リアナ「あのー、あのー、鳥をー、飼うんですけどぉ・・・鳥小屋って・・・」
ラディ「う、うわああーーー!!!!」
慌ててリアナの口を押さえるラディアス。
リアナ「ん、んー!! んんんんー!!」
ラディ「い、いや、と、とー・・・じゃなくて、犬、犬を飼うんです!!」
店員「はぁ。」
………。
リアナ「ぷ・・・ふはぁ・・・ひどぃですぅ~」
ラディアスからよろよろ逃げだすリアナ。
店員「犬小屋ですか? 犬小屋ならあちらにございますよ。」
………。
ラディ「いや、あの・・・」
店員の反応を窺いながらも、良い言葉が見当たらなく、戸惑いながら言葉を返す。
ラディ「あの・・・と・・・ぃや、え・・・お、おり、檻みたいなの、ないですか?」
店員「檻? はぁ。」
店員は5mほど進み、それにラディアスがついてく。
ラディアスが近づくと、店員が棚の奥を指差す。
店員「こういうので宜しければ、ありますが・・・」
即行で覗き込むリアナに、ラディアスがゆっくり近づく。
リアナ「う~・・・ちーっと牢屋みたいですぅ・・・」
ラディ「これ、鳥篭・・・ですか?」
店員「元々は、そうですね。ですが、ウサギなどを飼う場合にも使用できますよ。」
ラディ「はあ・・・」
ラディアスはリアナのほうを向き、リアナに相談する。
ラディ「これにするか? なかなか良さそうだと思うけど。」
リアナ「うんっ!」
ラディ「大きさも丁度良さそうだし、値段も・・・予算以内だし。」
店員「こちら宜しいですか?」
ラディ「あ、はい。」
14:55鳥篭のあと----------------
なんとか買い物を済ませたラディアスとリアナ。
その帰り道でラディアスは、昨日の自分は棚にあげ、リアナに説教する。
ラディ「鳥を飼うのは、法律で禁止されているんだ。学校で習ったろ?」
リアナ「・・・う~ん・・・忘れちゃったれすぅ・・・」
ラディ「はあぁ・・・いいや、じゃ今覚えるんだぞ。」
リアナ「ほ、ほわぁ~い。」
ラディ「なんかどっと疲れた感じだよ・・・はあぁ・・・」
溜め息をつくラディアス。
リアナ「はぅ。」
小屋を持つ手に、リアナが纏わりつく。
リアナ「それ、あたしが持つですぅ。」
ラディ「え? ・・・あぁ。結構、重いぞ。しっかり持てよ。」
リアナ「ほわぁ~い。」
ズシリ・・・
リアナ「お、おも~い・・・」
ドスッ。
檻を地面に降ろすリアナ。
ラディ「言ったろ? 重いって・・・ほら。」
リアナの手から檻の取っ手を取り返す。
リアナ「あうぅ・・・」
………。
リアナ「あうぅ・・・」
ラディ「なんだよ?」
リアナ「やっぱりあたしが持つですぅ・・・」
リアナの発言に呆れるラディアス。
ラディ「重いって言ってるだろ?」
リアナ「あうぅ・・・」
………。
ラディ「はぁ・・・じゃぁ、一緒に持つか?」
リアナ「! は、はぅですぅ!!」
ラディアスの持つ取っ手を、一緒に握るリアナ。
リアナ「鳥さんに、早くおーちをあげないとねー。」
ラディ「そうだな。ダンボールじゃ、簡単に出られちゃうしな。」
17:20コトドリ、ネーミング----------------
時間外れにリアナがテーブルにあるお菓子を、夢中になって食べている。
それを見たリューネが注意する。
リュン「こら、そんなにお菓子食べたら、夕飯食べれなくなるでしょう?」
リアナ「ふぇ・・・ごめんなさぁぃ・・・」
一緒にいるプルミアも追い討ちをかける。
プル「あんた、お菓子ばっか食ってたら、ぶくぶく太るわよ~。」
リアナ「ふえぇ~・・・それは嫌ですぅ・・・」
・・・ラディアスが台所に、コトドリを入れた檻を持って入ってくる。
ドン!
コト「グゥエ。」
ラディ「今集まってもらったのは、他でもない。」
プル「はぁ? アンタが勝手に来ただけじゃないの?」
バンッ!!
台所のテーブルに両手を叩きつけるラディアス。
ラディ「コイツの名前の決めるためだ。」
コト「グエ。」
ラディ「それで・・・だ。何かいいのない?」
………。
リアナ「えへへへぇ~。」
コト「グエ。」
檻越しから指を入れるリアナ。
リアナの声に合わせるように、コトドリが鳴く。
プル「高いよ。」
ラディ「姉さん、無料でつける気はないの?」
プル「しょうがないわね。」
リアナ「はいはいは~い!!」
ラディ「はい。リアナ。」
先生のように、リアナを指すラディアス。
リアナ「コトピー。」
ラディ「却下。」
リアナ「え~? なんで~?」
ラディ「無難すぎる。」
リアナ「え~? え~? なんで~?」
納得いかないリアナを他所に、ラディアスは話題をフィリアに振ってみる。
ラディ「フィリアはなんかいい名前ない?」
ラディアスの問いに全く動じず、黙々と夕飯の支度をするフィリア。
トントントントン・・・
………。
………。
………。
………。
ラディ「え、と・・・」
フィル「コトドリー。」
………。
トントントントン・・・
ラディ「? そのまま?」
トントントントン・・・
包丁の切る音が無常に響く。
プル「なんか、強そうな名前がいいんじゃない?」
ラディ「例えば?」
プル「・・・デンジャリャー、とか。」
ラディ「呼んでるうちに舌、噛み切るよ? それ・・・」
プル「もしかして、気に入らないの?」
ラディ「い、いや・・・そんなことないけど・・・」
プルミアの一撃に備えるラディアス。
プル「・・・んなこと言って、アンタはどうなの? 何か言いなさいよ。」
ラディ「お。・・・そ、そうだなぁ。」
………。
ラディ「エクスカリバー・・・とか。」
プル「へぇー。」
ラディ「略してエック。いいじゃん、これ。」
リアナ「はぅあ~・・・?」
1人で勝手に盛り上がっているラディアスに、冷めてるプルミアとリアナ。
ラディ「これで決定だな。」
プル「ラディ、初めから決めてたんじゃないの??」
ラディ「い、いや、そんなこと・・・」
プルミアの突っ込みに、妙に焦るラディアス。
リアナ「コトピーがいいなー。ねー? コトぴぃ~?」
コト「グエェー。」
20:45リアナの通信簿----------------
廊下に紙きれが落ちている。
少し厚手の、しっかりした紙だ。
ラディ「通信簿・・・ん、リアナのだな。」
名前を確認すると、中をペラペラっとめくってみるラディアス。
『まじめで素直ですが、もっとクラスの輪に入りましょう。』
ラディ「・・・ん?」
『もっとクラスメイトと、話をするように心がけましょう。』
………。
ラディ「・・・んなバカなー。」
ちょうどその時、リアナが辺りをキョロキョロしながら、階段を登ってくる。
リアナ「あぅあぅ~」
ラディ「リアナ、通信簿・・・」
リアナ「あ、あーっ!! さ、探してたんですぅ~!!」
ラディ「ほれ。」
リアナ「おかーさんにハンコー貰ってきてー・・・そのあと台所に置いちゃったまま・・・」
ラディ「ここに落ちてたぞ。」
リアナ「え? あ、あ、あー、あれー? ・・・なんでだろ??」
不思議そうにしているリアナに、ラディアスが学校のことを聞いてみる。
ラディ「前の学校、楽しかったか?」
リアナ「え、え、えー、・・・うーん・・・」
少し間を空けて、リアナが返事をする。
リアナ「た、楽しいよ・・・えへへ・・・」
ラディ「明日から新しい学校になるけど、大丈夫か?」
リアナ「う、う~ん・・・だっ・・・だ、ダイジョブだよ・・・」
ラディ「最初は大変かもしれないど、がんばるんだぞ。」
リアナ「う、うん・・・」
ラディ「自信ない返事だなぁ・・・大丈夫か?」
リアナ「う、うん・・・だ、ダイジョプだよぉ・・・。
そう言うと、そそくさと行ってしまうリアナ。
22:30生ハムとプルミア----------------
部屋でエックに餌をあげるラディアス。
ラディ「美味いかー? ほれ。」
エック「くぇ、ぐえぇー!!」
プルミアがノックもしないで、ラディアスの部屋に入ってくる。
プル「お風呂、あいたわよー。」
ラディ「ん? あ、あぁ。分かった、入るよ。」
エック「くえぇ、ぐええぇぇー!!」
ラディアスが餌を近づけると、エックは嘴より大きい餌を、無理矢理飲み込む。
ラディ「おおー、良く食べるな、ホントに・・・」
プル「育ち盛りって、やつじゃ・・・」
プルミアが一言添えようとして、エックのほうに近づく。
プル「あっ!! それ、生ハムじゃない!」
ラディ「そ、そうだけど。」
プル「そんな贅沢なもの、食べさせるんじゃないわよ!」
ラディ「コイツが食いそうなもん、これくらいしかなかったんだよ。」
生ハムの袋を、さっと取り上げる。
ラディ「あっ!」
プル「なんか他のもん、あげなさいよ。」
ラディ「他にないんだって。」
もぐもぐ・・・
ラディ「食うなっって!!」
プル「ん・・・おいしい。」
ラディ「夜に食うと太るよ。」
ゴンッ!!
ラディ「あだぁ!!」
プル「太んないわよっ!」
バタンッ!!
プルミアはラディアスの頭をグーで殴ると、力強くドアを閉めて出ていく。
ラディ「あ、生ハム持ってくなって!」
エック「ぐえぇ・・・」
23:30兄の自覚----------------
フィリアの部屋をノックするラディアス。
フィル「あ、お兄ちゃん。」
パジャマ姿のフィリアがドアから顔を出す。
ラディ「フィリア、ごめん、ちょっといいか?」
フィル「うん。長い?」
ラディ「ちょっと長いかも。」
フィル「うん。ちょっと待って。お兄ちゃんの部屋に行くから。」
ラディ「あ、あぁ。」
パタン。
ドアが閉まると、自分の部屋に戻るラディアス。
………。
………。
コンコン。
ラディ「あいてる。」
上着を羽織ってきたフィリアが部屋に入り、テーブルの横に座る。
フィル「お兄ちゃん、いいよ。」
ラディ「あぁ。」
………。
言い出しにくそうにしているラディアスが、なんとか言い始める。
ラディ「ん、ぁのさ・・・ちょっとリアナの通信簿を見たんだけど・・・」
フィル「うん。」
ラディ「リアナは、学年ひとつ遅れてるから、上手く友達作れないのかな・・・?」
フィル「うん。そうかもしれないね。」
ラディ「はあぁ・・・どうすればいいんだろう?」
ラディアスが深い溜め息をつく。
フィル「うん?」
ラディ「あぁ、どうすれば・・・オレはどうしてあげればいいんだろう?」
フィル「うーん・・・」
………。
ラディ「リアナには、『がんばれ』なんて気軽に言っちゃってるけど・・・」
フィル「うん。」
ラディ「それってなんか、押しつけみたいで、良くないのかな?」
フィル「うん?」
ラディ「なんかさ・・・すごく一方的な気がするんだよな・・・」
そう言うとラディアスは、布団の上に寝転がる。
ラディ「しかもオレは・・・オレ自身は・・・がんばっているのか・・・?」
ラディアスは、腕を上に伸ばし、拳の握り締める。
ラディ「オレががんばって初めて、リアナに『がんばれ』って言えるような気がする。」
フィル「お兄ちゃんは、良くやってると思うよ。」
ラディ「フィリアに比べたら、オレのやっていることなんてなぁ・・・」
フィル「私は、何もしてないよ。」
ラディ「そうか? 家のことやって、しかもきちんと学校も行ってる。」
フィル「私は・・・あまり、がんばるとか、がんばらないとか、考えたことないかな。」
………。
フィル「やることがあるから、やっているだけ。」
ラディ「そうか・・・」
フィル「お兄ちゃんは、今まで通りのお兄ちゃんで、いいと思うよ。」
ラディ「今のままで・・・?」
フィル「うん。」
ラディ「いいのかなぁ・・・?」
フィル「うん。今まで、なんとかなってるから、これからも、なんとかなると思うよ。」
ラディ「そっか・・・」
………。
フィル「じゃ、私はもう寝るよ。」
ラディ「あ、あぁ。」
フィル「おやすみ。」
フィリアは立ち上がると、軽快にドアのほうにステップする。
フィル「・・・。」
一瞬、フィリアがラディアスのほうを振り返り、部屋を出る。
・・・バタン。
ラディ「オレが・・・父親代わり・・・なんだよな。」
………。
ラディ「もっと、しっかりしないとな。」
………。
ラディ「もっと・・・」