S197 4月6日(水)
入学式当日。
台風は夜の内に行ってしまい、今日は風もなく快晴。
しかし、道端には、至る所に木の枝やゴミが散乱している。
学校の帰り。
散乱した木の枝の間に見つけた、傷ついた鳥。
手当てをし、しばらく家で匿うことを決めるラディアス。
その鳥がコトドリであることを知り、ラディアスは運命を感じる。
7:50家内、嵐の如く----------------
あわただしい空気の中、フィリアがラディアスを起こしている。
フィル「お兄ちゃん。」
………。
フィル「お兄ちゃん、もう学校行くよ。」
ラディ「う・・・」
寝ぼけながら起き上がろうとするラディアス。
そして、一瞬動きが止まる。その視線の先には目覚し時計・・・
ラディ「ぅげっ!! もう時間じゃん!!」
フィル「だから・・・学校行くよ。」
ラディ「フィリア~、起こしてくれよ~。」
フィル「あ、うん。起きてよ、お兄ちゃん。」
フィリアがラディアスの体を揺する。
ラディ「ボケてる場合じゃないって!!」
フィル「うん。」
………。
フィル「下にご飯あるけど、食べる時間ないよね? ラップしてくるよ。」
ラディ「あ、あぁ。家に帰ってから食べる。」
フィル「うん。」
フィリアが部屋から出ると、急いで制服に着替え、階段を下りるラディアス。
その階段下には、母リューネの姿が・・・
リュン「あ。」
ラディ「か、かぁさん、行ってくるっ!!」
リュン「気楽に・・・やりなさいね・・・」
8:05お久しのガナート----------------
バタバタしながらも、ラディアスはなんとか仕度を終える。
フィリアが玄関を出ると、既にガナートが待っている。
フィル「行ってきます。」
ガチャ。
ガナチ「ぅいーっす。」
フィル「おはよう。」
フィリアに続いて、ラディアスが玄関から出てくる。
ラディ「お、久しぶり。元気そうだな。」
ガナチ「まぁな。」
プルミアも玄関から出てくる。
ガナチ「ういー。」
プル「あ、ガナチー、元気だった?」
ガナチ「その呼び方、やめろって!」
プル「リアナは良くて、私はダメなんだ?」
ガナチ「誰も呼ぶなー!」
フィリアがガナートに時間を聞く。
フィル「間に合う?」
ガナチ「! ん? ・・・結構ギリかもな。」
ラディ「入学式から遅刻なんて、嫌だな。」
プル「初日遅刻なんて、目立つから面白いかもよ。」
ラディ「オレは、そんなの嫌だよ。」
プル「いいじゃん、面白そうだし。ねー?」
プルミアは歩きながら後ろを向き、話をガナートにふる。
ガナチ「俺にふるなっ! 知らんっ!」
プル「つれないわね。寝起き悪いヤツって・・・」
ラディ「明らかに寝起きじゃないような・・・」
プルミアのつまらない冗談を流すと、再びフィリアがガナートに時間を聞く。
フィル「間に合う?」
ガナチ「ん? ・・・やっぱり、結構ギリかもな。」
8:10ガナートは何故、ラディアスの家に行けたのか?----------------
ガナチ「なかなか良さそうな家だったぞ。」
ラディ「ん? あ、あぁ。」
プル「まぁ、そりゃあそうよねー。」
ラディ「そういや、なんで家が分かったんだ?」
ガナチ「住所が分かれば、普通に行けるだろ?」
ラディ「・・・確かに住所は教えたな。」
ガナチ「だから来たんだよ。」
ラディ「でも、普通、住所だけで分かるか?」
ガナチ「気合で来れる範囲内だ。」
ラディ「気合かよ・・・」
プル「そんなんどうでもいいじゃない?」
ラディ「そうかー?」
プル「これから入学式だってのに、そんな非建設的な話したって、しょうがないでしょ?」
ラディ「そういうもんか・・・?」
フィル「うーん・・・」
ガナチ「住所が分かれば、辿り着けるってのは建設的だぞっ!!」
プル「んなわけないでしょうが・・・非建設的だし、反社会的っ!」
!?
ラディ「!? そっ、それはないでしょ!?」
プル「良くも悪しくもストーカーと同じでしょうがっ!!」
ガナチ「が、がっはああああーーーーっ!!」
ガナートが1人で吹っ飛ぶ。
ラディ「は、派手に吹っ飛んだな・・・」
吹っ飛んだガナートがすぐさま起き上がり、フィリアのほうへ行く。
ガナチ「そ、そんなことないよなっ!? なっ?」
フィリアに同意を求めるガナート。
フィル「うーん・・・ニアミス?」
ガナチ「だっ、ダメかー!?」
ガナートが道端で膝をつく。
ラディ「いや、そんなことないと思うぞ。」
ガナチ「お前の同情などいらんっ!!」
ラディ「なっ!?」
8:25再会のシーフィア----------------
20分ほど歩き、学校に到着すると、溢れんばかりの新入生が騒いでいる。
プル「あ、あれ、シーフィアじゃない?」
ラディ「え?」
・・・プルミアが校門の前でシーフィアを発見する。
まだシーフィアと距離があるにもかかわらず、プルミアがシーフィアに大声をかける。
プル「シーフィアー!!」
遠くでシーフィアが振り向くと、プルミアが大きく手を振る。
それを見たシーフィアが走ってこっちに向かってくる。
シフ「あ~プルミィ~、ひっさしぶり~。」
プルミアと両手のひらを合わせ、再会を喜ぶシーフィア。
ラディ「え、え、えーっと・・・」
少し戸惑っているラディアスをよそに、プルミアがシーフィアと話しはじめる。
プル「元気そうだねー。」
シフ「プルミーとは、去年の夏以来だねー。」
プル「うん。」
シフ「それで・・・ラディとフィルリンは・・・4年ぶりかな?」
シーフィアがラディアスとフィリアのほうをちらちら見る。
プル「そんくらいだね。・・・そだ、シーフィア、友達とかは?」
シフ「あー・・・うん。今年、私の学校からここに来たのは、私だけなんだ・・・」
プル「ふーん、そうなんだ。」
シフ「でも、みんな来るって知ってたから、全然平気。」
なんとか話をしようと、ラディアスがシーフィアに話しかける。
ラディ「え、えーと、シーフィア・・・」
シフ「わー。ラディ~、元気してた?」
ラディ「あ、あぁ。シ、シーフィアも・・・」
シフ「あ、フィルリ~ン! 元気してた?」
フィル「うん。」
ラディ「あ、あれ・・・?」
9:10バンダナとガナート----------------
入学式が始まり、校長のつまらない話が続く。
そんな中、ガナートが隣席のラディアスに、ちょっかいを出しはじめる。
ガナートがラディアスの腰に突きを入れると、ラディアスの背筋がピンと張る。
ラディ「うぉ。」
ガナチ「な、あの子、誰だよ?」
ラディ「お、お、お・・・おぉ、忘れてた。」
ガナチ「忘れんなよ。」
ラディ「しょ、紹介しないとね。」
ラディアスが、ガナートとは反対の隣席に座っているシーフィアの肩を叩く。
シフ「?」
ラディ「え、と・・・まぁ、なんていうか・・・紹介・・・紹介ね。」
シフ「う、うん。」
緊張が解けないラディアスの、ぎこちない紹介が始まる。
ラディ「こいつは、ガナート。まぁ・・・あれ、親友みたいなヤツかな。」
ガナチ「親友みたいな、ってなんだよ? 親友じゃないのかよ?」
ラディ「う、うるさいなっ!」
シフ「あはは・・・ガナート君、よろしくね。」
ガナートがラディアスの背中に乗るようにして、シーフィアのほうに顔を向ける。
ガナチ「あ、あぁ、よろしくな。」
前傾姿勢になったラディアスが、声を歪めながら、紹介を続ける。
ラディ「こ、この子はシーフィアって言って・・・オレの従兄妹なんだ。」
ガナチ「ほう、そういや、フィリアの面影があるな。髪形が違うだけで。」
ラディ「まぁ・・・従兄妹だからね。」
久々に会って緊張気味のラディアスだったが、なんとかガナートを紹介する。
紹介を無事に終えて、ほっとした感じのラディアス。
対照的に、ガナートはこなれた感じでシーフィアと話している。
ガナチ「・・・じゃぁ、普通の従兄妹よりも血が濃いってことか。」
シフ「そゆことだね。」
ラディ「・・・なんの話?」
シフ「うん、あれあれ、ほら、私達の両親て、お互い双子同士でしょ?」
ラディ「あぁ。」
シフ「だから、普通の従兄妹よりも、ずっと血が濃いんだよ、っていう話をね。」
ラディ「あ、あー。そっか、その話かー。」
シフ「血の濃さは、ほとんど兄妹と言ってもいいくらいだよ。」
ラディ「そ、そうだね。」
一瞬の間が空き、再びシーフィアが話し出す。
シフ「これ・・・バンダナ・・・?」
突然、シーフィアがガナートのバンダナを強く引っ張りはじめる。
ガナチ「あだ、あたたっ!! 髪の毛、引っぱってるってー!!」
シフ「あ~、ごめんなさい。」
ガナートは頭を押さえながら、ラディアスのほうを向く。
ガナチ「な、なんか行動もフィリアに似てないか!?」
ラディ「え? ・・・そ、そうか?」
ガナチ「突然、予想外の行動を実行するとこが、そっくりだぞっ!!」
シフ「フィルリンに? そうかな~?」
ラディ「うーん、そうかな・・・?」
10:10クラス分け----------------
・・・入学式も終わり、クラス分けが発表される。
校舎の入り口に、クラス分けの貼り紙が、貼り出されている。
その中の2組の貼り紙に、シーフィア、フィリア、ラディアスの名が、続いて記述されている。
ラディ「2組かー。シーフィアもフィリアも2組かー。」
3人の数行下に、ガナートの名も書かれている。
ガナチ「おしっ!! 俺も2組だぜぃ!!」
ガッツポーズのガナートが、フィリアに話しかける。
ガナチ「やったなっ!! フィリア、一緒だぞっ!!」
フィル「うん。」
シフ「よかった~。みんながいて・・・」
喜んでいる人達の中で、一人だけ不機嫌そうにしているプルミア。
プル「なんか納得いかないんだけど。」
シフ「プルミーは、何組?」
プル「・・・1。」
クラス分けに納得いっていないプルミアに、口を挟むラディアス。
ラディ「しょうがないんじゃん? 運だよ、運。」
ドゴッ!
ラディ「あだだだっ!!」
すかさず、プルミアの拳がラディアスの脇腹に入る。
プル「そういう問題じゃないっ!!」
シフ「プルミー・・・教室は近いから、大丈夫じゃないかな?」
プル「だからー、そういう問題じゃないんだってばー!!」
今にも暴れだしそうなプルミアを、必死に説得する皆。
シフ「きっと、体育とか、魔法実習とか・・・一緒にやるだろうし・・・」
ラディ「そ、そうだね。そう。きっとそう。」
ガナチ「俺はフィリアと一緒のクラスで満足だぞ。」
ゴキッ!!
ガナチ「うおおおぉーーーーいったぁーーーー!!!!」
プル「死んでろっ!!」
ガナートの意味不明な説得? に対し、実力行使するプルミア。
シフ「首・・・ありえない方向に曲がったけど、大丈夫?」
ガナチ「ぜんっぜん、大丈夫じゃないっ!!」
10:25囲まれた少年----------------
ラディアス達が自分達の教室に入る。
教室の一ヶ所に女子生徒達が集まり、キャアキャア騒いでいる。
シフ「す、すごいね~・・・」
ラディ「あ、あ、あぁ・・・」
集団の真ん中に小さな男子生徒が、戸惑った様子で下を向いている。
シフ「なんか、真ん中にいる子、困っているように見えるけど・・・」
ラディ「ん・・・え・・・?」
シフ「なんだろうね? 何かやっちゃったのかな?」
ラディ「え? ・・・え?」
シーフィアの言葉に、対応できないラディアス。
シフ「ほら、あそこだよ。」
何故か焦っているラディアスが、シーフィアの疑問に意外な答えを返す。
ラディ「じゃ、じゃぁ、調べてくる。」
シフ「え?」
女子生徒達の反感を買いつつも、ラディアスは中に割り込む。
ラディ「はいはーい、ちょっとすみませーん。」
ガナチ「うわっ! ア、アイツ何やってんだよ・・・」
シフ「あらら・・・」
ラディアスの行動に、ガナートはあきれ、シーフィアはちょっとびっくりしている。
フィル「お兄ちゃん、がんばれ。」
フィリアはそう言って、ニコニコしている。
周りの女子生徒に冷たい視線を浴びながらも、なんとか輪の中心へ行くラディアス。
ラディ「おーい、大丈夫?」
シュリ「あ、は、はい?」
ラディ「どうしたの?」
突然、現れたラディアスに、戸惑い気味の少年。
少し間を空けて、返事をする。
シュリ「え? い、いえ・・・特に何も・・・」
ラディ「名前は?」
シュリ「・・・シュライクです。」
ラディ「シュライク君か・・・どこかで聞いたような・・・」
少し考えたラディアスだったが、結論には至らず、自己紹介に切り替える。
ラディ「オレは、ラディアス。よろしく。」
シュリ「ラディアスさん・・・ですね。」
ラディアスは自己紹介すると、すかさず手を差し出す。
ラディ「はい、握手、握手。」
シュリ「あ、は、はい・・・?」
戸惑うシュライクの手を、半ば無理やり掴んで握手するラディアス。
ラディ「うん。これでもう友達。よろしく。」
シュリ「は、はい・・・」
ラディ「歳は?」
シュリ「え・・・14です。」
ラディ「え? わ、わかっ! 飛び級?」
シュリ「いえ・・・あの、今まで学校行ったことないので・・・」
ラディ「?? ど、独学?」
シュリ「え、ええ・・・そのようなものでしょうか・・・」
ラディ「へぇ・・・すごいんだなぁ。オレなんか、まぐれなのに・・・」
シュリ「は、はぁ・・・」
ラディ「そういや・・・シュライクって名前・・・」
ラディアスが新たな話を始めようとしたとき、先生らしき人が教室に入ってくる。
エディ「席についてー。」
ラディ「・・・あ、じゃ、また。」
シュリ「は、はい。」
周りの女子生徒も、ぞろぞろと自分のクラスへ帰っていく。
ラディアスも自分の席に戻り、前の席にいるフィリアに小声で話し始める。
ラディ「オレ、今なんか変なノリじゃなかった?」
フィル「うん。」
ラディ「だよなぁ・・・」
ラディアスのシーフィアに対する、緊張は取れていないようだ。
ラディ「はぁ・・・なんか、変なヤツやっちゃったよなぁ?」
フィル「うん。」
11:00波乱指名、魔術大会----------------
担任はエディス先生。化学専攻の先生で、白衣を身に着けている。
エディスは軽く自己紹介を終えると、すぐさま黒板に何かを書き始める。
カッカッカッカ・・・カツカツ、カツッ!!
『4/11 魔術大会! (クラス対抗)』
エディ「早速ですが、ここの学校では、こういう大会があります。」
突然で、唖然とする生徒達の前で、話を続けるエディス。
エディ「1対1を順番に5人がやります。3勝以上すれば勝ち。」
エディ「それで、今ここで、その選手、5人プラス補欠1人、計6人を決めます。」
エディスが一息つき、皆を見渡す。
エディ「わかったかしら?」
生徒達の反応はないが、エディスは理解したと判断し、話を続ける。
エディ「普通は、入学早々だから、1年生は、お遊びみたいなものなの。」
エディ「だいたい、魔法の専門校で、魔法の競技、ってなると・・・」
エディ「上級生が優勝をかっさらうのは、当たり前のことだから。」
………。
エディ「でも・・・」
バンッ!!
エディ「今年は、違うわ!」
エディ「今年は、勝てるわっ!! な、ぜ、な、ら・・・」
エディ「このクラスには、特待生が2人、しかも男女トップのおまけつき。」
一瞬止まり、再び話し出すエディス。
エディ「シュライク君とシーフィアさん、立ってください。」
シュリ「え?」
シフ「え、ええ~!?」
戸惑いながらも、席を立つ2人。
エディ「この2人には出場決定でいいわね? 意義は・・・ないわね??」
生徒全員にガンを飛ばし、半ば強引に決めるエディス。
エディ「まぁ、でも・・・」
エディ「全員を一方的に決めるのもアレですし・・・あとは、決めてね、お二人さん。」
突然、立った2人に話を振り、戸惑うシーフィアとシュライク。
シフ「え、ええ~!?」
困った様子を見せるシーフィア。
シフ「と言われても・・・知っているのはフィルリンだけだし・・・」
………。
シフ「フィルリン、お願~い。」
フィル「うん。」
シーフィアは、自分の後席にいるフィリアに頼み、フィリアがすんなりOKする。
エディ「後ろの彼女かしら? じゃぁ、立ってもらえるかしら?」
エディスの言葉に、無言でフィリアが席を立つ。
エディ「あ・・・名前は、フィリアさんね。」
座席表を見て、名前を確認するエディスに、無言で頷くフィリア。
そして、周りの視線がシュライクに向けられると、シュライクがラディアスのほうを向く。
シュリ「僕も・・・ラディアスさんしか、知りません・・・」
ラディ「オ、オレ??」
シュリ「は、はい。」
ラディ「・・・弱いよ、オレ。」
ラディアスが席を立つと、エディスが2人に、他の人を指名するよう指示を出す。
エディ「じゃぁ、そのお二人さんが、また指名してね。」
ラディ「ぬー・・・」
ラディアスがふと、ガナートを見ると、ガナートがラディアスにジェスチャーを送っている。
ガナチ「フィリアガ、デルナラ、オレモ、デル。」
・・・っぽいジェスチャーらしい。
ラディ「うぅ・・・じゃ、ガナート君で。」
何故か解読できたラディアスは、ガナートを指名する。
エディ「誰~?」
ガナチ「はい! はいっ!! 俺です!! 絶対勝ちます!!」
そう言って、勢いよく立ち上がるガナート。
エディ「気合だけは充分ね。」
ガナチ「はいっ!!」
エディ「じゃ、もう1人をフィリアさん、決めてくださいね。」
フィル「はい。」
………。
………。
………。
………。
エディ「あ、あの、フィリアさん・・・?」
フィル「4+6で10番の人。」
エディ「え?」
フィル「4+6で10番の人。」
無言が続いた後の突然の発言に戸惑ったエディスだったが、すぐに対応する。
エディ「・・・10番の人ね。出席番号10番の人は誰かしら?」
そう言うと、大人しそうな少女が、ゆっくり立ち上がる。
ティル「ぁ、ぁのー・・・」
エディ「え・・・ティリアさんかしら? ティリアさん?」
ティル「は、はい・・・ぁ、あのー・・・」
エディ「では、この6人さんに、がんばってもらいましょう。」
パチパチパチ・・・
疎らな拍手をすると、エディスが次の話題をはじめる。
そのタイミングで、ラディアスが前の席にいる、フィリアの背中を突付く。
ラディ「なぁ・・・補欠1人なんだよな、あれって。」
フィル「うん。」
ラディ「どっちにしてもオレは補欠にしかならないし、大丈夫かな?」
フィル「うん。」
12:35鳥の隣のその隣----------------
・・・放課後。
学校前の下り坂を4人で帰るラディアス達。
ガナチ「昨日の台風は、すごかったな。」
シフ「すごかったよね~・・・」
シーフィアの返事に続いて、ラディアスも辺りを見回しながら呟く。
ラディ「ホントすごいな・・・かなりでっかい木の枝とか、道の真中に落ちてるし。」
シフ「ね~。」
ガサガサ・・・!!
でっかい木の枝の中に、動く物体を発見する。
ラディ「な、何・・・? あれ・・・ と・・・鳥?」
フィル「うん。珍しい鳥だね。」
シフ「かぁわい~♪」
その鳥は、人の気配に気づくと、必死に逃げようとする。
しかし、思うように飛べないらしく、その場でバタバタしている。
ラディ「怪我・・・してるのか?」
ガナチ「おー、あの分じゃ、羽が折れてるかもな。」
ラディ「ま、マジで・・・?」
シフ「ちょっとそれは・・・可哀想だよぉ・・・」
!
ラディ「なんかさ、回復魔法でも・・・かけられないか?」
フィル「・・・。」
シーフィアが鳥のいる倒木に近づく。
シフ「わわ・・・す、すごい・・・たくさん羽が抜けてるよ・・・」
しゃがみこんで、鳥を触ろうとするが、戸惑っているシーフィア。
シフ「ど、ど、ど、どうしよう・・・このままじゃ・・・」
その瞬間、すかさずフィリアが鳥を捕まえる。
シフ「あっ!!」
フィリアの手から、ほのかな光が発せられ、その鳥の傷を治す。
フィル「傷は治したけど、羽が折れてるのは、治せないよ。」
シフ「フィルリン・・・回復魔法・・・?」
フィル「うん。」
バタバタッ!?
鳥が逃げようとするが、フィリアがしっかり捕まえて放さないでいる。
シフ「よ、よ、良かった~。」
安心したのか、地べたに座り込むシーフィア。
ラディ「あとは自然治癒に、任せるしかないのか・・・」
ラディアスがフィリアの抱えている鳥に手を触れる。
ラディ「でもこれじゃぁ、ここに置いていくわけにはいかないよなぁ。」
フィル「うん。」
ラディ「どうしよう? ウチに持っていく?」
ガナチ「お、おい、大丈夫か? 鳥類の飼育って、禁止されてるんだぞ?」
何も考えていなそうなラディアスに、ガナートが突っ込む。
ラディ「怪我が、治るまでだし。大丈夫じゃないかな。」
フィル「うん。」
ガナチ「まー確かに、元々、ファシドーラ独自の、勝手な法律っちゃぁ法律だしなぁ。」
ラディ「ほ、法律なのか・・・?」
ガナチ「あぁ・・・つか、入試に出ただろ?」
ラディ「うっ、そ、そうだったっけ?」
シフ「でたよね、鳥類保護法の施行年月日。」
フィル「うん。」
ラディ「あ、あれか~・・・って・・・記憶にない・・・」
沈みそうなラディアスが、話を切り替えようとする。
ラディ「まぁ・・・その鳥、ウチに連れて行くか。大丈夫だよな・・・?」
フィル「うん。」
そう言うと、フィリアがラディアスに鳥を渡す。
ラディ「頼むから、家に着くまで、大人しくしていてくれよ・・・」
13:05とりあぇず、ダンボール----------------
ラディアスとフィリアが家に着く。
緊張して少し挙動不審のラディアスがフィリアに話しかける。
ラディ「コ、コイツ・・・どうしようか?」
フィル「うん?」
ラディ「即席で小屋を作らないとな・・・と、とりあえず、ダンボールが必要だな。」
フィル「うん。持ってくるね。」
素早くダンボールをとりに行くフィリア。
その間にラディアスは自分の部屋に行き、さっきの鳥を降ろす。
ラディ「ふ、ふぅ・・・なんか・・・すごく疲れたぞ・・・」
コト「グエ?」
ラディ「ぐえ、じゃないよ、ぐえじゃー。」
コンコン。
ラディ「あいてるよ。」
フィル「持ってきたよ。ダンボール。」
フィリアが大きいダンボールを抱えて部屋に入ってくる。
ラディ「あ、あと、いらないシーツとか、ある?」
フィル「うん。持ってくる。」
フィリアが部屋から出る。
ラディ「うー、これで大丈夫かな・・・」
ラディアスの心配とは無縁に、ダンボールを突付くコトドリ。
ラディ「だ、だあぁ! や、やめやめー!」
コンコン!
ラディ「あいてるって。」
ドアをあけるフィリア。
フィル「いらないシーツ、持ってきたよ。」
ラディ「おぉ。これを下に敷いて・・・」
フィリアからシーツを受け取ると、ラディアスはダンボールの中にシーツを敷く。
ラディ「おし。できた。」
そう言うと、ラディアスはコトドリをダンボールの中に入れる。
コト「グエ。」
ラディ「・・・これでしばらくは大丈夫かな。」
フィル「うん。」
13:40燃えプルミー----------------
ラディアスが台所に入ると、プルミアがイスに座ってごねている。
プル「ラディ~、お腹すいた~。」
ラディ「自分で作ればいいじゃん。」
プル「めんどい。」
だるそうなプルミアの答えに、呆れ顔のラディアス。
ラディ「そういや、姉さんは魔術大会のこと、聞いた?」
プル「出るわよ。」
ラディ「さすが姉さんだ・・・」
プル「魔法だけ、ってのが、あんまり好かないけどさ。面白そうだしね。」
先のだるさはどこに行ったのか、かなりはりきっているプルミア。
ラディアスも自分の参加を伝える。
ラディ「オレもフィリアも出ることになったんだよね・・・」
プル「ラディぃ、大丈夫なの~?」
ラディ「ダメだと思うぞ。補欠希望。」
プル「ほけつぅ~? なっさけないこと言わないでよねー。」
その時、ちょうどフィリアが台所に入ってくる。
プル「あっ! フィリア、魔術大会、あんたには絶対負けないわよっ!!」
フィル「うん。」
プル「その余裕面、変えてやるからねっ!」
フィル「うん。」
ライバル心剥き出しのプルミアと、それを受け流すフィリア。
その光景に戸惑うラディアス。
ラディ「そんなにライバル心燃やさなくてもいいと思うけど・・・」
プル「フィリアには負けらんないのよっ!!」
フィル「うん。」
プルミアの言葉を受け流し、黙々と昼食の準備を始めるフィリア。
プル「フィリアー、早く昼御飯。」
フィル「うん。」
一瞬で態度の変わるプルミアに、呆れ顔のラディアス。
ラディ「姉さん・・・都合良すぎ。」
プル「それとこれとは、話が別でしょ?」
ラディ「そ、そうか・・・?」
フィル「うん。」
19:10時翼の霊鳥 -コトドリ-----------------
少し辺りが暗くなった頃、病院からリューネとフィリアが戻ってくる。
リュン「ただいま。」
フィル「ただいま。」
ラディ「あ、お帰り。大丈夫?」
玄関から廊下に上がるリューネの支えになるラディアス。
リュン「しょ・・・」
ラディ「新しい病院、どうだった?」
フィル「新しい先生だったよ。」
ラディ「・・・そりゃそうだ。」
リュン「雰囲気は良かったわ。」
ラディ「じゃぁ、良かったじゃん。」
ゆっくり歩くリューネの後をついていくラディアス。
………。
ラディ「母さん、あの・・・頼みがあるんだけど・・・」
リュン「何?」
部屋に入ろうとするリューネを止め、頼みごとを言おうとするラディアス。
ラディ「ちょ、ちょっと待って。持ってくる!」
急いで階段を駆け上がり、コトドリの入ったダンボールを抱えて降りてくる。
ドンッ!
コト「ぐぇ。」
ラディ「か、母さん、あのさ、この鳥飼いたいんだけど・・・」
リューネの動きが止まる。
ラディ「あ、あれなんだよ、怪我しててさ。それが治るまで・・・」
………。
リュン「琴鳥・・・」
ラディ「え?」
リュン「ええ。」
ラディ「コ、コ、ト、ドリ?」
リュン「そう、コトドリ。」
ラディ「コトドリ・・・」
リュン「琴鳥は、あなたの属性・・・時空の属性鳥。」
ラディ「そ、そうなの?」
………。
リュン「運命・・・かもしれないわね・・・」
落ち着いた様子で話すリューネと、驚きを隠せないラディアス。
ラディ「属性鳥・・・」
………。
リュン「飼うのは、構わないわ。」
ラディ「ほ・・・良かった・・・」
リュン「学校行っている間は、私の部屋につれてくればいいわ。」
ラディ「あぁ、分かったよ。」
そういうと、再びダンボールを抱え、リューネの部屋を出る。
ラディ「属性鳥・・・運命・・・か。」
コト「ぐえ?」
ラディ「良かったなーって思ったんだよ。」
コト「ぐえ。」