S197 4月21日(木)
深く黒い雲と、降ったり止んだりする雨。
なんとなく戻りかけたラディアス達の日常は、あと僅か。
8:05昨日の続き----------------
ラディアスの家の門。
ラディアスとフィリアがプルミアを待っている。
ラディ「今日だけど、放課後、昨日の続きできるか?」
フィル「うん?」
ラディ「剣の練習。」
フィル「・・・う、うん。」
ラディ「なんか、ちょっと掴めそうな感じがするんだよな。」
フィル「お兄ちゃん、すごいね。」
ラディ「いや、掴めるって言っても、ちょっとしたコツみたいのだって。」
フィル「うん。」
ラディ「今まで何も考えずに剣とか振っていたけど、それじゃダメなんだよな。」
フィル「うん。」
………。
ラディ「剣、魔法、両方とも、地道に練習しないとな。」
フィル「うーん・・・」
ラディ「もっと、フィリアや姉さんに近づけるくらいに・・・」
フィル「そう・・・だね・・・ただ、あまり無理はしなくても・・・いいと思うよ。」
ラディ「あぁ、無理はしないけど、少しでも早く守れる力が欲しいからな・・・」
フィル「うーん・・・程々・・・」
バタンッ!!
プルミアが勢い良く入り口の扉を閉め、外へ出てくる。
プル「じゃ、行くわよ。」
ラディ「そんな力一杯閉めなくても・・・ドア、壊れるって・・・」
プル「何よ? 別に力入れてないわよ。音がでかいだけでしょ?」
ラディ「普通に閉めたら、あんな音しないし。」
プル「うるさいわねっ!!」
ゴッ!!
ラディ「いたたた・・・」
フィル「大丈夫?」
ラディ「あ、あぁ・・・」
プル「ほらほら! 遅刻するから行くわよっ!」
ラディ「分かってるって!」
14:15あの日のお礼----------------
エディスがテキパキとHRを終わらせる。
ラディ「ふわわぁ~・・・うぅー・・・」
ラディアスが欠伸をしながら、腕を伸ばす。
シフ「疲れたね~・・・」
シーフィアがラディアスの所に寄ってくる。
ラディ「ふわあ~・・・」
シフ「ラディは授業中も寝てて、まだ眠いの~?」
ラディ「なんだか、だるくて・・・涼しいからかも。」
フィリアがいつの間にかシーフィアの横にいる。
フィル「うん。」
シフ「あ、フィルリンは元気そうだね~。」
フィル「ボチボチ。」
シフ「あははは。」
ラディ「今日はこれで終わりか・・・」
フィル「あと一日。」
シフ「そうだね~・・・わ。」
エディスがシーフィアの背後から抱きつく。
エディ「よいしょ。」
シフ「ふわ・・・せ、先生?」
エディ「ラディアス君。」
ポンポン。
エディスがシーフィア越しから、ラディアスの肩を叩く。
ラディ「はい?」
エディ「まだお礼をしてなかったわね。」
ラディ「え?」
エディ「ティリアさんの時のよ。」
ラディ「・・・はぁ。」
エディ「行ってはダメって言ったのに・・・」
ラディ「す、すみません・・・」
エディ「施設のこと言ったの、最初は失敗かも・・・って思ったけど、結果は良かったみたいね。」
ラディ「はぁ。」
エディ「私だけの力じゃどうしようもなかったから・・・」
ラディ「先生の・・・すごい魔法を持っていても・・・?」
エディ「いくら力や、魔法を持っていても、人を助けることができるとは限らないわ。」
ラディ「・・・。」
エディ「扉を破壊するのは簡単。でも、奥にいるティリアさんを救うことはできなかった。」
ラディ「はあ。」
エディ「あの時、ラディアス君の力がどうしても必要だったのよ。」
ラディ「な、なるほど・・・」
シフ「ふわぁ・・・」
エディ「それでラディアス君、何か欲しいものある?」
ラディ「え? いや、急に言われても・・・お、思いつかないです・・・」
エディ「そうね・・・じゃぁ、私が考えておきます。」
ラディ「は、はい・・・」
エディ「ちょっと考えさせてね。何かあなたに必要な物、考えておくわ。」
ラディ「いえ、そんな、お礼なんていいですよ・・・」
エディ「そんなこと言わない。素直に受け取る。いい?」
ラディ「は、はぁ・・・」
14:25あげるって言われてもなぁ----------------
シフ「良かったね~、ラディ。」
ラディ「え?」
シフ「先生から何かもらえて。」
ラディ「いや、別に良くはないけど・・・」
シフ「嬉しくないの?」
ラディ「あんまりさ、そういうの良くないと思うんだけど・・・」
シフ「う~ん、確かにそれもそうだよね~。贔屓みたいな感じかなぁ?」
ラディ「そうそう。お礼って言われても、そんな感じがしちゃうよね。」
フィリアがラディアスの肩を叩く。
ポンポン。
ラディ「ん?」
フィル「今日はどうするの?」
ラディ「あ、あぁ。帰るよ。」
シフ「? 今日は部活やらないの?」
ラディ「いや、教室には行くけど、すぐ帰ると思う。」
シフ「そっかぁ。」
ラディ「今、ちょっとフィリアに剣術を見てもらってるんだ。」
シフ「へえぇ・・・フィルリンがラディの剣術を・・・?」
ラディ「フィリアのほうが抜群に上手いからね・・・」
シフ「普通は逆だよねぇ・・・」
ラディ「だねぇ・・・」
フィル「うん。」
シフ「じゃぁ、あと、プルミーは?」
ラディ「今日は急いで帰るって言ってたよ。」
フィル「うん。」
シフ「何か用事なのかな?」
ラディ「さぁ? そこまでは聞いてないんだよね。」
フィル「買い物。」
ラディ「買い物か・・・また何を買うんだか・・・」
シフ「う~ん、じゃぁ、今日は部活はなしかなぁ・・・?」
シーフィアが伸びをしながらラディアスに尋ねる。
ラディ「ガナートはやってるんじゃない?」
シフ「ガナート君とシュライク君かなぁ・・・」
ちょうどシュライクがラディアスの所へやってくる。
シュリ「皆さんは今日、部活のほうは出られますか・・・?」
シフ「あ、シュライク君。みんな出なそうだよ・・・どうしよう?」
シュリ「シーフィアは出るのですか?」
シフ「うん、出ようと思ったんだけど・・・」
シュリ「僕も出るので、良ければ一緒に出ませんか?」
シフ「う、う~ん・・・そうだね~。シュライク君が出るなら、私も出よ・・・」
シュリ「僕も参加できる日は、なるべく参加したいので・・・」
シフ「うん。私もこの部活ならいいかも~って思うしね~。」
15:25小雨の中の練習----------------
ぱらぱら・・・
ラディアスとフィリアが庭に出ると、小雨が降り始める。
フィル「あ。」
ラディ「ん?」
フィル「雨、降ってるよ?」
ラディ「あ、あぁ、小雨だから、大したことないだろ?」
フィル「始める?」
ラディ「あぁ、オレは問題ない。」
フィル「うん。」
………。
ラディアスがフィリアに向けて剣を打ち込む。
ガギンッ!!
フィル「うーん・・・」
ラディ「ダメ?」
フィル「うーん・・・」
ラディ「うーんって・・・なんかダメだったか?」
フィル「うーん・・・お兄ちゃんに足りないのは・・・」
ラディ「足りないのは・・・?」
フィル「なんだろうね?」
ラディ「な、なんだ、分からないのか・・・」
フィル「攻撃力かな。」
ラディ「すごい根本だな。」
フィル「根本だね。」
………。
しばらくフィリアが悩む。
フィル「やるとしたら・・・」
ラディ「やるとしたら・・・?」
フィル「インパクト時の攻撃力を高める方法・・・かな?」
ラディ「攻撃力を高める?」
フィル「うん、腰を回して剣の振り下ろすスピードを上げる感じかな。」
ラディ「腰?」
フィル「うん、その時に体重も載せる。」
ラディ「体重を載せる?」
フィル「うん。」
ラディ「なんか色んな動作が出てきたな・・・」
フィル「全部が揃うと、インパクトが強くなるかな?」
ラディ「聞いただけでも、そんな気がするよ。」
フィル「ちょっとやってみるね。」
ラディ「分かった。」
フィル「構えてて・・・」
ラディ「お、おう・」
フィル「こんな感じかな・・・」
フィリアが前方にステップしながら、ラディアスの構える剣に打ち込む。
ガッ!!
ラディ「っ!!」
ラディアスの持つ剣が地に落ちる。
ラディ「いてて・・・」
フィル「大丈夫?」
ラディ「あ、あぁ、大丈夫。」
フィル「うん。」
ラディアスが剣を拾い上げる。
ラディ「そんな小さい剣でも、それだけの力が出るのか・・・」
フィル「うーん・・・そういうことになるかな・・・?」
ラディ「なんとなく分かった。」
フィル「うん。」
16:10回わればいいんだけどね。----------------
ガギンッ!!
フィリアとラディアスの剣が交わる。
ラディ「・・・っと。」
くるっと回転して、素早く2発目を入れる。
ラディ「でやぁ!!」
フィル「!!」
ガギーーーーーーィン!!
ラディ「ぐ・・・」
フィリアがネオディムソードで受ける。
ギギギギ・・・
フィル「うん。今のが一番いいよ。」
・・・キンッ!
フィリアの切り返し、反動で離れるラディアス。
ラディ「ふぅ・・・」
フィル「腰を使っている攻撃は、いい攻撃だよ。」
ラディ「そうなのか・・・」
フィル「うん。」
ラディ「こう?」
再び構え、剣を振り下ろす。
・・・ギンッ。
フィル「ううん。」
顔を横に振るフィリア。
ラディ「じゃ、こうかな?」
・・・ギンッ。
フィル「ううん。」
………。
ラディ「じゃ、これで!! クルっとなー!!」
クルっ!
ガギーーーーーーィン!!
フィル「うん。」
首を縦に振るフィリア。
ラディ「う~ん・・・回ればOKなのか・・・」
フィル「そのほうが、いいと思うよ。」
ラディ「う~ん・・・なんでだぁ・・・?」
何回か素振りをするラディアス。
ラディ「まぁ・・・回ればいいか・・・」
フィル「でも、回っちゃうと隙があるから、気をつけて。」
ラディ「あぁ。」
ブンブン・・・ブンッ!!
………。
ラディ「回旋二段撃・・・ってとこかな。」
フィル「うん。」
20:20プルミアの服----------------
ラディアスが台所に入ると、ひらひらドレスのプルミアがくるくる回っている。
プル「じゃーん!」
ラディ「はあぁ?」
全く状況の読めないラディアス。
プル「どう? この服?」
ラディ「・・・何それ?」
プル「明日着ていくドレスに決まってるじゃない!」
ラディ「はぁ? ・・・つか、買ったの!?」
プル「何よ? 悪い?」
ラディアスの愚痴に、ムッとするプルミア。
ラディ「いや、だって、私服でいいって話じゃなかったっけ?」
プルミアが頭をポリポリ掻き、呆れた感じで返事をする。
プル「あのさ~、あれは建前よ、た~て~ま~え~。」
ラディ「そ、そうなのか?」
プル「あったり前でしょうが! 相手は皇族でしょ?」
ラディ「う、う~ん・・・」
納得いかないラディアスが生返事をする。
プル「分かった?」
ラディ「まぁ、分かったけど、そもそもそれ、いくら?」
プル「50万くらいだったかな? 詳しい値段は忘れたわよ。」
ラディ「うえぇ!? どこにあるんだよ!? そんなお金!?」
プル「母さんに買ってもらったのよ。」
ラディ「な、なんちゅう甲斐性なしな・・・あだっ!」
言い切る前にラディアスの頭を殴るプルミア。
プル「普段から無駄遣いしちゃいないでしょ!? だからこれくらい、いいじゃないっ!!」
ラディ「イテテテ・・・」
再びくるっと回る。
プル「やっぱり私には、こういうのが似合うわよね~。」
ラディ「・・・。」
ゴンッ!!
無言でラディアスの頭を殴るプルミア。
ラディ「何も言ってないのに・・・」
プル「その顔が言ってるっ!!」
ラディ「そんな言いがかり・・・」
プル「バーカ。」
21:00水浴びるとき----------------
頭にタオルを乗せ、鼻歌混じりで湯船に浸かるラディアス。
ラディ「~♪」
………。
ラディ「~♪ ・・・~♪」
………。
リアナ「ぉ・・・」
バタバタタ・・・
ラディ「?」
洗面所からの騒がしい音に気がつくラディアス。
リアナ「ほらぁ・・・ことぴぃ~・・・」
エック「・・・グェ?」
リアナ「は、は、は、入るですよぉ~!」
エック「グ、グ、グエッ! グエエッ!」
リアナ「わふっ!」
外から聞こえる声。
ラディ「な、なんなんだよ・・・」
リアナ「えいっ!!」
エック「グエ~!」
エックを胸に抱え、勢い良く扉を開けるリアナ。
ガラガラガラッ!!
ラディ「おわっ!!」
………。
ラディ「・・・。」
リアナ「・・・。」
リアナとラディアスの目が合い、沈黙する2人と1羽。
エック「・・・。」
ベショ。
………。
リアナ「・・・?」
前に抱えたエックを持ち上げるリアナ。
………。
リアナ「あうあ~!!」
ラディ「何やってんだよ・・・」
エック「グエエ~・・・」
その隙をついて、リアナの胸から飛び去るエック。
リアナ「はぅぅ・・・」
リアナのお腹についたエックの排泄物が流れ落ちる。
リアナ「なんか生温かいよぉ・・・」
ラディ「説明しなくていいっ!!」
リアナ「はうぅぅ~・・・」
21:15糞流すとき----------------
ザザー・・・
ラディアスがリアナの頭にお湯をかける。
リアナ「ことぴぃをー・・・お風呂に入れたかったですよぉ。」
ラディ「わ、分かったから。」
リアナ「だって・・・だってぇ・・・」
ラディ「うん。分かった、分かった。よしよし。」
ペチペチ。
リアナ「はうぅ・・・」
ラディ「でも、エックを風呂に入れる必要ないんじゃないか?」
リアナ「でも、ちっと汚れてたんですよぉ。」
ラディ「それでもお湯は良くないんじゃない? 水浴びだろ?」
リアナ「それでも一緒にお風呂に入りたいですぅ。」
ラディ「う~ん・・・そう言ってもなぁ・・・」
リアナ「ことぴぃと一緒にぃ・・・おでこにタオルを置くんだよぉ。」
ラディ「そんなシチュエーションを良く考えるな・・・」
プル「・・ぁ!」
扉の向こうから声がする。
プル「うわっ! な、何よっ!! なんでここにいるのよっ!?」
エック「ぐえぇ~・・・」
パタパタパタ・・・
ラディ「あっちでなんか声がするぞ。」
風呂場の外のほうに、耳を傾ける2人。
プル「成敗っ!!」
エック「ぐえぇっ!?」
ザッパアー!!
リアナ「はう! ことぴぃを置きっぱなしだったです!」
リアナが慌てて風呂から上がる。
ラディ「ちゃんと小屋に入れるんだぞ。」
リアナ「はうです!」
ペタペタペタ・・・
………。
リアナ「あぅ~・・・そこから降りるですよぉ~・・・」
エック「ぐ、ぐえっ!?」
バタバタッ・・・バタバタッ・・・
………。
ラディ「何やってんだか・・・」
23:40夜更けの素振り----------------
夜更け、ラディアスが庭で剣の素振りをしている。
それに気づいたフィリアが庭に出てくる。
ラディ「おおおお!」
ブンッ!
ラディアスが剣を振ると、一瞬だけ剣の軌跡となった風景が歪む。
フィル「!!」
ラディ「とりゃああああ!!」
ブンブンブンッ!
フィル「・・・。」
ラディ「!」
ラディアスがフィリアに気づく。
ラディ「あ、フィリア?」
フィル「・・・。」
ラディ「悪い、うるさかったか?」
フィル「・・・。」
ラディ「ん・・・? どうした?」
フィル「・・・あ。」
ラディ「あ? って言われてもなぁ・・・」
フィル「・・・もう遅いよ、時間。」
ラディ「あぁ、分かってる。」
フィル「明日、ちゃんと起きてね。」
ラディ「あぁ。」
………。
ラディ「さすがに疲れたな・・・」
フィル「あ、お兄ちゃん。」
ラディ「ん?」
フィル「あと・・・叫ぶのはちょとアレだと思うよ。」
ラディ「う! やっぱ、ちょっと叫び過ぎ・・・?」
フィル「隣の家もあるしね。」
ラディ「そ、そっか・・・前の家とは違うもんな。」
フィル「すぐお隣さんがいるから。」
ラディ「わ、分かった、気を付ける。」
フィル「あと、お風呂はもう一度入る?」
ラディ「あ、そうだな。また結構、汗かいちゃったしな。入るよ。」
フィル「うん。」