S197 4月17日(日)
美しい明け方だったが、昼間は雲で空が覆いつくされている。
気温はそこまで低くないが、肌寒い。
またもやプルミアの我がままに付き合わされるラディアス。
半日、連れ回され、疲れのとれないまま・・・
12:50プルミアの剣を買いに----------------
バタン。
ラディ「うぇ・・・なんか疲れが・・・はぁ・・・」
ラディアスが眠気眼で部屋から出ると、廊下でプルミアがぼやいている。
プル「あ~あ、もうコレ下取りしてくれないわよね・・・」
イライラぷるぷる震えるプルミア。
プル「あのクソバカロボっ!!」
ガスガスガスッ!!
ラディ「ね、姉さん! 床に傷がつくって!」
ボロボロのガードエッジを踏みつけているプルミアを止めるラディアス。
プル「・・・あ、ラディ、何よ?」
ラディ「物に当たるの、良くないって!」
ゴンッ!
ラディ「あたっ! な、なんだよっ!?」
プル「じゃー買ってー。」
ラディ「なんでそうなるんだよっ!!」
プル「・・・はぁ、連れないわねー。」
ラディアスがプルミアの我侭に呆れる。
プル「じゃぁ、買い物、付き合いなさいよ。」
ラディ「えー・・・って、イテテ。」
プルミアは逃げ出そうとするラディアスの襟元を掴み、引っ張る。
プル「まぁ、買い物に付き合ったらチャラにしてあげるわ。」
ラディ「いやいや、パジャマだから、パジャマ・・・」
プル「ん?」
ラディ「パジャマ。」
プル「・・・逃げたら死だからね!」
ラディ「わ、分かってるって!」
プルミアがラディアスを解放する。
ラディ「なんなんだよ、姉さんは・・・はあぁ・・・」
プル「10秒! 10秒で着替えなさいよねっ!」
ラディ「それは無理だって!」
プル「じゃ、12秒。」
ラディ「無理ー!!」
13:10プルミアの知るフィールド----------------
商店街に向けて歩くラディアスとプルミア。
プルミアが昨日のことをぼやきはじめる。
プル「あ~あ。」
ラディ「どしたの?」
プル「せっかく人があげた物を、ぐしゃぐしゃにしちゃってさー。」
ラディ「! ・・・しょ、しょうがないだろ? あれは・・・」
プル「しょうがない?」
ラディ「助けないと姉さんが・・・あたっ!」
すかさず肘打ちをいれるプルミア。
プル「私のせいにするんじゃないわよっ!」
ラディ「折角、助けてあげたのに・・・」
プル「ふ~ん・・・ラディの分際で『助けるぅ~』なんて・・・生意気な。」
ラディ「そこまで言うのはヒドすぎじゃない?」
プル「折角、買ってあげたのに・・・」
ラディ「う・・・」
………。
………。
ラディ「確かに・・・確かに、貰った剣をダメにしたのは・・・悪かったよ。」
プル「ふーん・・・」
ラディ「本当は持って帰りたかったけど・・・」
プル「ふー・・・まぁ、しょうがないでしょ?」
ラディ「そうなんだけどさ・・・」
プル「鋼鉄をあれだけグッシャグシャにしてんだし、あれじゃ剣も再起不能よ。」
ラディ「まぁ・・・ねぇ。」
ポン。
ラディアスが何か思い出したかのように手を叩く。
ラディ「そーいやさぁ、あの、なんだっけ? フィールド・・・だっけ?」
プル「ん? フィールド展開?」
ラディ「そうそう。それってさ・・・何?」
プル「あー・・・」
プルミアの足が止まり、それに気づいたラディアスが少し後戻りする。
ラディ「・・・姉さん?」
プル「確かに、きちんと教えておかないと、危ないかもね。」
ラディ「危ない?」
プル「あんな金属の塊をグッシャリやっちゃう、あんな力が出せるのよ?」
ラディ「あ・・・」
プル「・・・誤って人に使ったらどうなるか・・・想像つくでしょ?」
ラディ「う・・・確かに。」
プル「そういうこと。」
ぺち。
ラディアスの額に、でこピンをする。
ラディ「で・・・?」
プル「で・・・?」
ラディ「どういうものなの?」
………。
………。
………。
プル「想像力よ。」
ラディ「想像力・・・?」
プル「まぁ、ラディの場合は、妄想力。」
ラディ「なんでさ・・・」
プル「『こうしたい』って強く想うことで、それを実現化させる・・・そんな能力よ。」
ラディ「実現化・・・?」
プル「まぁ、私もあんまり良くは、分かってないけどねー。」
ラディ「そうなんだ。」
プル「だから、今日は一日中、剣見るんだからね!」
ラディ「ええっ!? 全然話と関係なくない!?」
プル「ラディ、必須よ。義務。命令。」
ラディ「な、なんでだよ~・・・はあぁ・・・」
15:15護身剣、ガーディアン----------------
プル「これもいいわ~・・・」
目を輝かせてあれもこれも剣を見て周るプルミア。
それを見て、呆れるラディアス。
ラディ「はぁ・・・」
プル「アルミ合金~」
ラディ「姉さん、子供みたいだよ。」
プル「モリブデン合金~・・・マグネシウム合金~・・・」
ラディ「聞いてないね。」
プル「はぁ~オリハルコンコーティング~」
・・・。
プル「これは・・・堪らない・・・」
ラディ「・・・姉さん、傍から見ると、かんな~りアヤシイよ。」
ス~リス~リ・・・
ラディ「品物に頬擦りすんなって!!」
プル「いいわ~・・・」
全く聞く耳持たないプルミア。
ラディ「人の話、ホント聞いてないね。」
プル「肌触りが重要なのよ~・・・」
ラディ「そんなバカな・・・」
プル「斬られた時、肌触り悪かったら、成仏できないでしょ?」
ラディ「えげつないこと、平気で言うね。」
プル「あ・・・ガーディアン・・・か。これにしようかな。」
プルミアが一本の剣を手に取る。
ラディ「・・・。」
プル「どお?」
ラディ「・・・へぇ、まぁ、デザインはいいんじゃん?」
プル「何か、名前は気に入らないけど。」
ラディ「・・・何で?」
プル「インパクトアブソーブ・・・ふ~ん・・・」
ラディ「う・・・やっぱり答えてくれないね。」
プル「ん、衝撃吸収してくれんだ、結構いいかも。モリブだし、強度も問題ないかな。」
ブンブンッ!
ラディ「あわっ! あ、危ないぞ!!」
ラディアスの至近距離で剣を振りはじめるプルミア。
プル「鞘に入ってんだから、大丈夫よ。」
ラディ「そーゆー問題じゃ・・・」
プル「あ・・・」
ラディ「?」
プル「値段も手ごろだし。」
値札を手に取り呟くプルミア。
ラディ「手ごろ!? これが!?」
プル「そりゃね。最先端の技術なんだから、これくらいでしょ?」
ラディ「うぅ・・・詐欺としか思えない値段。」
プル「まぁ、使う人間がしょぼいと、その値段は詐欺になるわね。」
ラディ「ぁのさ、もっとリーズナブルなのにしたらどう?」
プル「はあぁ?」
ラディ「ほら、あのワゴンセール・・・3本800TalG、あれとか・・・」
ゴン!
見ている剣の柄でラディアスの頭を叩くプルミア。
ラディ「痛いな!」
プル「下着じゃないのよ、剣は!」
ラディ「下着って・・・」
プル「いい!? 私達にとって剣は、命を守る大事なものなんだからねっ!!」
ラディ「下着も大事・・・」
ゴスッ!!
ラディ「ううぅ・・・」
剣の柄で鳩尾を突く。
プル「相応の物を買わなきゃ、いざって時に守れないでしょうが!!」
ラディ「ま・・・確かに・・・」
プルミアに殴られた所を押さえるラディアス。
プル「最近なんて、特に・・・」
ラディ「え?」
プル「なんでもないわよ。」
ラディ「姉さん、最近突っ込みキツいよね・・・」
プル「あんたのためよ。」
ラディ「はぁ?」
プル「あ、店員さん、これ、ちょっと試着させてくださーい。」
店員「はい、ありがとうございます。」
15:30試すこと----------------
ブンッ! ブンッ! ブンッ!
プルミアが剣を振り回す音を聞き、感心するラディアス。
ラディ「相変わらず・・・すごい剣圧・・・」
プル「うん。いい感じね。」
ラディ「こっちのほうまで、ビリビリくるんだけど・・・」
プル「なっさけないわねー。シャキっとしなさいよ。」
ラディ「つってもなー。」
同時に溜め息をつく二人。
………。
プル「ほら、ちょっと、そこの剣持って。」
ラディ「え?」
プル「ほらほら。」
ラディ「いいの? まだ買ったわけじゃないでしょ?」
プル「いいって、どうせ買うから。」
ラディ「なんだよ、それ・・・?」
プル「ほら、そこら辺にお試し用の剣があるでしょ? それで攻撃しなさいって!」
ラディ「あ、あぁ。」
ラディアスが剣を構え、プルミアのほうに剣を振る。
ガギンッ!
………。
プル「もっと強く打ち込めないの?」
ラディ「いや、そんなこと言われても・・・」
プル「はあぁ・・・」
プルミアが溜め息をつく。
プル「ラディの攻撃が下手なのか、ホントにショックを吸収してるのか、分かんないわねー。」
ラディ「じゃぁ、自分の持ってる剣で受けてみたらどう?」
プル「あ、そうね。じゃ、お願い。」
プルミアがギガオブシダンに持ち替え、構える。
ラディ「・・・うりゃ!」
ガギンッ!!
………。
プル「なるほどね。なんとなく判ったわ。」
ラディ「本当?」
プル「ほんとっ!」
………。
………。
………。
プル「3割引3割引♪」
ラディ「3割引いても、そんなに高いんだもんな・・・すごい世界だよ。」
レシートを見てぼやくラディアス。
プル「まぁ、これが生きる資本だからねー。」
ラディ「でも、姉さんは一本持ってるじゃん、なんかすごそうなの。」
プル「はぁ?」
ラディ「一本あれば充分じゃないの?」
プル「はあぁ・・・分かってないわねー。」
ラディ「分からないから、聞いてんだけど・・・」
プル「手は二本あるでしょ?」
ラディ「は?」
プル「だから剣も二本持つのよ。当たり前でしょ?」
ラディ「は? んなバカなー・・・」
プルミアの強引な回答に呆れるラディアス。
17:50戻ったから----------------
買い物の帰り、プルミアが突然ラディアスの顔を覗き込む。
プル「なんか、普段どおりに戻ってるわね。」
ラディ「え?」
プル「リアナがいなくなった時は、随分、気が立ってたみたいだけど。」
ラディ「そんなことないよ。」
プル「あるある。」
ラディ「いたって普通・・・」
ベシ!
ラディ「いたた・・・」
プル「分かってないわねー。」
ラディ「な、なんでさ・・・?」
プル「自分にウトい。」
ラディ「そ、そうか?」
プル「まぁいいわよ、ラディらしいっちゃ、ラディらしいから。」
ラディ「良く分かんないなぁ。」
プルミアの言動に、イマイチ鈍い反応をするラディアス。
………。
プル「ラディって、バカ?」
ラディ「うぅるさいなっ!」
プル「アンタ、暴走癖があるのよ。」
ラディ「え?」
プル「暴走癖!」
ラディ「まさか。」
プル「あんた本気ぃ?」
ラディ「え?」
プル「少しは自覚しなさいよ。」
ラディ「・・・そう言われてもなぁ。」
プル「はあぁ・・・リアナとかフィリアに何かあると、すぐムキになんのよ。」
ラディ「そ・・・そうかな?」
プル「昔からそうっ!」
ラディ「そうか・・・」
プル「そう。ま、私の時は、なんともないだろうケドさ・・・」
ラディ「・・・。」
ゴスッ!
プル「早く帰るわよ。」
ラディ「いたたた・・・」
ラディアスを殴り、とっとと先に歩き出すプルミア。
23:45眠れない夜----------------
時計の針の音が大きく鳴り響く。
カチャ・・・
リアナ「はぅ・・・」
………。
リアナ「はうぅぅ・・・」
………?
ごぞごぞ・・・
リアナ「はうぅ・・・おにーちゃぁん・・・」
ラディアスが布団に入ってくるリアナに気づく。
ラディ「? ・・・リアナ?」
リアナ「おにーちゃん・・・眠れない・・・よ・・・」
ラディ「どうした?」
リアナ「怖いよ・・・」
リアナの震える声にドキッとするラディアス。
リアナ「あんな怖いの嫌だよぉ・・・」
ラディ「リアナ・・・」
リアナ「ふ、ふえぇ・・・」
泣き始めるリアナに声をかける。
ラディ「もう、大丈夫だから。」
リアナ「ふ、ふえええぇ・・・」
リアナの頭を撫で続ける。
………。
ラディ「怖い思いさせちゃったね。」
………。
ラディ「オレが・・・もっと強くならないとな・・・」
リアナ「ふえぇ・・・」
………。
ラディ「じゃぁ・・・じゃあなぁ・・・こんなお話をしよう。」
リアナ「?・・・う、うん・・・」
ラディ「澄み渡る空、暖かいそよ風、流れる白い雲・・・」
ラディ「草むらの斜面、その先に牧場が見えるよ。」
ラディ「その先には、小屋が何軒か並んでいる。」
ラディ「オレとリアナは、草むらに寝っ転がって空を見るんだ。」
ラディ「すると、ほら・・・」
リアナ「ほら?」
ラディ「雲からポンポンって、羊の顔と足がでてくるんだ。」
リアナ「ふわぁ・・・」
ラディ「そしたらその羊は空から地面に降りてくるんだ。」
ラディ「それで牧場の小屋のほうに走っていくんだ。」
リアナ「うん・・・」
ラディ「で、1匹。」
………?
ラディ「また空を見上げると・・・」
リアナ「はううぅ・・・」
………。
………。
………。
ラディ「で、2匹。」
ラディ「また・・・」
リアナ「おにぃちゃん・・・意味不明ですぅ・・・」
ラディ「そうか?」
リアナ「えへへへ・・・分かんない・・・」
ラディアスの腕をギュッと抱きしめる。
リアナ「にゅぅ。」
ラディ「落ち着いたか?」
リアナ「うん・・・」
ラディ「なんだっていいんだよ、話してれば楽しくなるもんだよね。」
リアナ「うん。」
ラディ「オレは強くなる。まだまだ姉さん達には足元にも及ばないけど・・・」
リアナ「うん!」
ラディ「リアナを守れる力を・・・強さを手に入れるから。」
リアナ「うにぃ・・・」
ラディ「必ず・・・」