S197 4月15日(金)
紫を帯びた夕焼け。不気味なほど濃く、何か不安を呼び起こす。
落ち着かないラディアスの予感は的中したのか、リアナの姿が見当たらない。
焦るラディアス。
闇雲に捜す中、エディスと偶然遭遇し、有力な情報を手に入れる。
11:40外をボーっと眺め----------------
化学の授業中。
ラディアスが窓の外をボーっと眺めている。
ラディ「・・・。」
カツカツカツ・・・
黒板に書く音が教室に響く。
エディ「じゃぁ・・・これ、ラディアス君、分かる?」
ラディ「・・・。」
エディ「ラディアス君?」
ビクッ!
エディ「ラディアス君?」
ラディ「は、はい・・・」
エディ「窓の景色も綺麗だけど・・・」
ラディ「すみません・・・」
エディ「黒板も見てくださいね。」
ラディ「はい・・・」
エディ「確かに、ここから海が一望できるので、最高の眺めよね? シーフィアさん?」
シフ「え? は、はい・・・とっても・・・」
エディ「ん~、今日はいい天気だけど、なんだか夕方は曇りそうね。」
シフ「は、はい・・・?」
エディ「じゃぁ、シーフィアさん、黒板の四角を答えて。」
シフ「え? え、とぉ・・・2・・・COツー?」
エディ「う~・・・正解。なかなか間違えないわね・・・」
シフ「す、すみません・・・」
エディ「いえ、正解に越したことないけど、ちょっと悔しいのよ・・・」
シフ「は、はぁ・・・」
エディ「じゃ、ラディアス君っ! COツーって何?」
ラディアスを指差すエディス。
ラディ「・・・。」
………。
エディ「ラディアス君・・・はあぁ・・・」
シフ「ラ、ラディ~・・・先生怒っちゃうよ~・・・」
ラディ「!?」
ラディアスがはっとした表情でエディスを見る。
………。
ラディ「え・・・と・・・」
エディ「ラディアス君、しっかり。魂、戻ってきましたか?」
ラディ「はい・・・すみません・・・」
エディ「二酸化炭素の濃度が高いと、ちょっとボーっとしちゃうかもしれないですね。」
ラディ「はい・・・」
エディ「少し換気しましょうか。窓側の人、ちょっと窓を開けてもらえる?」
窓際の生徒達がエディスの指示を実行する。
ガラガラガラ・・・
窓を開けると生暖かい風が教室を通り抜ける。
エディ「あ~、むしろこの風のほうがボーっとしちゃうかも・・・」
シフ「ふわ~・・・いい風が入ってくるね~。」
ラディ「そ、そうだね。」
エディ「はい、じゃぁ、シーフィアさん! CH3OHって何?」
シフ「えっと・・・メ、メタノール・・・」
………。
ガクっと膝を付くエディス。
エディ「悔しい・・・こ、今度は学校で習わないやつを出しますね・・・」
シフ「え・・・? ええー!?」
15:10重力波を放つフェザー魔法----------------
ガーラルフェザーの石を増設し、その威力を試すプルミア。
プル「っ!」
プルミアがフェザー魔法を放つと、強い重力波がシュライクを襲う。
シュリ「・・・っくは・・・」
!
シュライクが膝を付くと、シュライクのバリアが消滅する。
プル「ごめん、大丈夫?」
プルミアがシュライクのほうに近づく。
シュリ「え、ええ・・・大丈夫です。さすがですね、プルミアさん。」
プル「うん。フェザー魔法でも随分、威力が上がってる。」
シュリ「かなり体が重くなって、潰れそうでした。」
プル「私のフェザー魔法は重力波を発生させるからねー。」
シュリ「そうなんですか・・・」
シフ「プルミーも厄介な魔法、使うんだねぇ~・・・」
プル「まぁ、後は上手く相手を重力場に引き込めればいいんだけど。」
シュリ「確かに有効ですね。当てなくても、相手の動きを鈍らせることができますし。」
シフ「へえぇ~。」
プル「そうね。よっぽど特殊なバリアでないと、これ、防げないしね。」
シフ「確かに~。」
シュリ「この威力の重力波を大会の時に使われていたら・・・勝ち目なかったです・・・」
プル「そう? そんなことないわよ。」
シュリ「いえ、本当に・・・」
プル「シュライク君もいい魔法持ってるんだから、なんとかなるでしょ。」
シュリ「あはは・・・そうであれば、良いのですが・・・」
シフ「みんな色々、特徴のある魔法を使うんだよね~。」
プル「シーフィアはスタンダードな魔法が多いけど、その分、個々の魔法が強力だから。」
シフ「そ、そんなことないよ~。」
シュリ「いえ、本当に洗練されていると思いますよ。」
そう言うと、シュライクがふと時計を見る。
!
シュリ「あ、すみません! 僕はそろそろ失礼します。」
プル「そっか。ごめんね、付き合わせちゃって。」
シュリ「いえ、とんでもないです。」
シフ「そっかぁ、シュライク君、また・・・来週だね~。」
シュリ「シーフィアも、また。」
シフ「うん。またね~。」
15:40ラディアスの不安な放課後----------------
化学実験室。
ボーっと窓を見ているラディアスに、シーフィアが声をかける。
シフ「ラディ。」
………。
シフ「ラディ?」
ラディ「あ。」
シフ「どうしたの?」
ラディ「あ、あぁ・・・いや、ボーっとしてただけ。」
シフ「ふ~ん、なんだ・・・あ、それでね・・・」
ラディ「・・・。」
シフ「おーい・・・ラディ~?」
ラディ「・・・。」
ラディアスの目の前で手を振るが、反応しない。
シフ「ラディ・・・なんかボーっとしてて、ダメダメだね・・・う~ん・・・」
………。
ラディ「!」
シフ「ふわ。」
突然、はっとした顔をしてフィリアのほうへ向かうラディアス。
ラディ「フィリア!」
フィル「うん?」
紫炎を出してる最中のフィリアに声をかける。
ラディ「今日は早く帰るぞ。」
フィル「うん。いいよ。」
手を軽く振って紫炎を消すフィリア。
プル「どしたの?」
騒いでるラディアスに気づき、寄ってきたプルミアがラディアスの首に腕をかける。
ラディ「いや・・・早く帰ろうと思ったんだけど。」
プル「部活?」
ラディ「あぁ。」
プル「ま、いいけどねー。」
ラディ「なんか・・・落ち着かないんだよ。」
プル「今、そこでボーっとしてたんじゃないの?」
ラディ「いや・・・なんか落ち着かないから、ボーっとしてたんだけど。」
プル「はああ? ヘンなこと、考え過ぎなんじゃないの?」
ラディ「そんなことないって・・・」
エディ「じゃ、今日は切り上げましょうか?」
ちょうど話を聞いていたエディスが添える。
ラディ「先生?」
エディ「今日は・・・あとシーフィアさんだけだけど・・・シーフィアさん、どうする?」
シフ「う~ん・・・じゃぁ、私も帰ろかな・・・」
エディ「ごめんなさいね~、実は私も用事あるのよ~。」
シフ「はぃ・・・誰もいないと、寂しいですからー・・・」
18:30リアナが帰ってこないよ----------------
落ち着かなかったラディアス。
やっと落ち着き布団でウトウトしはじめると、フィリアが部屋に入ってくる。
フィル「お兄ちゃん。」
ゆすゆす・・・
ラディ「・・・ん?」
フィル「お兄ちゃん。」
眠そうに起き上がるラディアス。
ラディ「・・・何?」
フィル「リアナが帰ってこないよ。」
ラディ「え? ・・・!」
寝起き顔のラディアスが急に真剣な顔に変わる。
ラディ「い、いつから!?」
フィル「たぶん、学校から帰ってきてないよ。」
ラディ「鞄とか、ないのか?」
フィリアが首を横に振る。
フィル「ううん。・・・あと、はは・・・ぁ、お母さんも見てないって。」
ラディ「な、なんか、嫌な予感がする。」
プル「縁起でもないこと、言うもんじゃないわよ。」
いつの間にか部屋に入ってきたプルミアが、ラディアスを頭を軽く叩く。
ペチチ。
ラディ「あた。」
プル「言ってる間に動けるでしょ?」
ラディ「分かってる! 捜してくる!!」
ラディアスが飛び出そうとすると、リューネが入り口で呼び止める。
リュン「ラディアス。」
リューネが部屋の入り口の壁に凭れかかって、話し始める。
ラディ「か、母さん・・・」
倒れそうになるリューネをフィリアが支える。
リュン「みんなで・・・リアナを見てきてもらえる?」
ラディ「分かった。」
プル「分かってるわよ、行ってくる。」
リュン「お願い。」
勢い良く出て行く二人を見送るリューネ。
リュン「あなたも行きなさい、私は大丈夫だから。」
フィル「・・・はい。」
19:25どうしても見つからない----------------
息を切らせながら戻ってくるラディアス。
玄関の前には、既にフィリアとプルミアが戻ってきている。
ラディ「ふはぁ・・・はぁ・・・はぁ~・・・」
プル「どうだった?」
フィル「いなかったよ。」
ラディ「う・・・」
ラディアスが膝をつく。
プル「ラディは?」
ラディ「ダメ・・・」
プル「まったく・・・リアナ、何やってんのよー。」
戻ってくるが、手がかりは得られず、不安になるラディアス達。
ラディ「なんでだろう・・・?」
そわそわし始める。
ラディ「家出・・・じゃないよな。」
プル「まさかね。」
ラディ「じゃぁ、誰かに連れてかれたのか!?」
ラディアスがどんどん落ち着かない状態になっていく。
プル「ちょっと、落ち着きなさいよ!」
ラディ「やっぱり、なんか嫌な予感がする!」
プル「だから、落ち着きなさいって!」
フィル「・・・。」
ラディ「もう一回捜してくる!」
プル「ま・・・待ちなさいってっ!!」
ラディアスの腕をつかむプルミア。
ぐ・・・ぐい・・・!
プル「闇雲に捜したって、見つかるわけないじゃない!」
ラディ「で、でも、リアナが・・・リアナがっ!!」
フィル「私が駐屯所に行ってくるよ。」
興奮するラディアスに口を挟むフィリア。
プル「騎士の助けも必要かもね。頼んだわよ、フィリア。」
フィル「・・・うん。」
プル「さ、私達は・・・」
ラディ「でも・・・オレはオレで、も一回捜してくる!!」
プル「あっ!! 待ちなさいってばっ!!」
プルミアの制止を振り切って、ラディアスが走り去る。
………。
プル「・・・ったく・・・何考えてんだか。」
19:50ガナートの協力----------------
ラディ「リアナ、リアナ、リアナー!!!!」
住宅街にラディアスの声が虚しく反響する。
ラディ「はぁ・・・はぁ・・・リ、リアナーッ!!!!」
ガナチ「おい!」
ラディ「!!」
ガナチ「ラディアス!」
ラディ「・・・ぁ・・・ガナ・・・ガナート・・・!」
ガナチ「どうしたんだよ?」
ラディ「ふは・・・リ、リアナ・・・リアナが・・・」
完全に息を切らし、言葉が出ないラディアス。
ガナチ「いいから、落ち着けって! リアナちゃんがどうかしたのか?」
こくこく。
言葉の出ないラディアスが頷く。
ガナチ「怪我か? 病気か? それとも、いなくなったとか?」
こくこくこく。
ラディ「あ、あれ・・・ゆ、行方不明なんだよ!」
ガナチ「・・・分かった。捜すの手伝うぞ。」
こくこく!
ガナチ「じゃ、手分けして捜すか。」
こくこく!
ガナチ「とりあえず、これ飲め。」
ガナートから缶ジュースを受け取り、勢い良く飲みはじめるラディアス。
………。
………。
ラディ「はぁ・・・」
ガナチ「落ち着いたか?」
ラディ「すまん・・・」
やっと落ち着いたラディアスが頭を下げる。
ガナチ「あ、あぁ。気にすんな。」
ラディ「ほ、本当に・・・すまない。」
ガナチ「んなこと言ってる場合じゃないだろ? 捜すぞ。」
ラディ「あぁ。」
21:45夜ふける頃----------------
ガナチ「この辺には、いなそうだな。」
ラディ「・・・。」
合流した二人がゆっくり歩く。
エディ「夜もそろそろ更けてくるのに、お二人とも元気ね。」
ガナチ「先生・・・?」
ラディ「リ、リアナが!」
ガナチ「だあぁ! 落ち着けって!! 俺が説明する!」
ガナートがラディアスを取り押さえ、状況を説明し始めるガナート。
その横でラディアスがそわそわしている。
………。
エディ「妹さんも・・・ね。」
ガナチ「も・・・?」
エディ「・・・そう。それなら恐らく。」
ラディ「どこですかっ!?」
エディ「とある研究を行っている地下施設があるわ。恐らくそこ。」
ラディ「どこですかっ!?」
ガナチ「おい、だから、落ち着けって!!」
エディ「ここからだと学校の裏側のほうだけど・・・」
ラディ「・・・行かないと。」
エディ「ちょっと、待ちなさい。」
ラディアスの腕を掴むエディス。
ラディ「せ、先生・・・」
エディ「あなた達は待ってればいいわ。」
ラディ「ど、どうして・・・」
エディ「私が行くから。」
!
ガナチ「先生が行くんですか?」
エディ「ええ。」
………。
エディ「私だって、頻繁に発生する誘拐事件を、見て見ぬふりなんでできないわよ。」
ガナチ「だからって、先生が行って・・・」
エディ「ティリアさん、お休みしているでしょう?」
ガナチ「え?」
エディ「それも同じ原因。」
ガナチ「先生・・・詳しくないですか? やたら。」
エディ「ちょっとね、治安が悪いのも困るしね。」
ガナチ「はぁ。」
エディ「ま、他にも色々複雑な事情があるんだけどね。」
ガナチ「複雑な事情・・・ですか・・・?」
エディ「大人の事情。」
ガナチ「良く分からん事情ですね・・・」
エディ「大人しく家で待っててね。おやすみなさい。」
トトトト・・・
軽快に走り去っていくエディス。
………。
ガナチ「家で待つのか?」
ラディ「準備してから、そこに行く。」
ガナチ「マジで行くのかよ・・・?」
22:10その施設へ----------------
プルミアが玄関の前で待っていると、フィリアが帰ってくる。
フィル「捜索届、出してきたよ。」
プル「それにしては、やけに長いじゃないの?」
フィル「なんか色々書いてきたよ。」
プル「書類?」
フィル「うん。はい、控え。」
プルミアがフィリアの差し出した書類を受け取る。」
プル「所詮、お役所仕事か・・・そんなのじゃ、確実に遅いわよね。」
フィル「うん。」
プル「さて・・・と・・・どうする・・・?」
遠くからラディアス達が走ってくる。
ラディ「ね、姉さん!」
プル「! ラディ。」
ラディ「はぁ、はぁ・・・」
プルミアの肩を掴み、焦りながら話すラディアス。
ラディ「リア・・・リアナ・・・の居場所・・・」
ガナチ「おい、落ち着けって。」
フィル「ガナート君。」
プル「何? あんたも捜してくれたんだ?」
ガナチ「あぁ、まあな。んで、確定じゃないが、そんな情報、先生が教えてくれてな。」
プル「先生って? エディス先生?」
ガナチ「そう。」
ラディ「とにかくオレは、これから・・・そこに行く。」
プル「えぇ!?」
フィル「・・・。」
プル「だって、そんなのホントかどうか、分かんないじゃない!?」
ラディ「でもオレは行く。」
………。
ベシッ!
ラディ「あたた。」
プルミアがラディアスの頭を軽く叩く。
プル「あーしょうがないわねっ! 私も行くから!」
フィル「は・・・ぁ、私は、お母さんに行ってくるって言ってくるよ。」
ガナチ「おう。」
プル「私はさっきので汗かいちゃったから・・・もう1回シャワー浴びてこよかなぁ?」
ガナチ「おいおい、悠長なこと言ってられる程、時間ねぇんじゃねぇか?」
プル「冗談だって分かりなさいよねっ!」
パッシーン!
ガナチ「がはぁ!」
プルミアの平手打ちがガナートの顔にヒットする。
プル「でも・・・その先生の話が正しかったら・・・」
………。
プル「・・・無事で帰れるとは限らないわよ。」
ラディ「あぁ、分かってる。」
プル「絶対、分かってないわね。」
ラディ「そんなことない。」
プル「・・・まぁ、いいけど。行けば分かるし。ガナチーも帰るなら今のうち。」
ガナチ「いや、俺も手伝うぞ。」
ラディ「すまない、ガナート。」
プル「足、引っ張ったら、死なすから、よろしく。」
ガナチ「安心しろ! ラディアスよりかは、引っ張らない。」
ラディ「おいおい・・・」