聖女のパンティーは食べ物ではありません!~いいえ、食べ物です(魔物談)~
空は常に薄暗い紫色の瘴気に覆われ、大地は枯れ果てている。
魔王が復活して以来、この世界は絶望のどん底にあった。
各地で立ち上がった勇者パーティーは次々と戦場に散り、終わりの見えない戦争状態が続いている。
「はぁっ!」
とある辺境の村。血と泥に塗れた惨状の中、黒髪をなびかせた少女・ハイレの振るう剣が、巨大なオークの首を切り裂いた。
魔物に襲撃され死を覚悟した刹那、彼女の中に眠っていた伝説の勇者の血筋が覚醒したのだ。
「魔王を倒さないと……こんな悲しみはもうたくさんだ」
燃え盛る村を背に、ハイレは決意を胸に旅立った。
道中、彼女は2人の頼もしい仲間を得る。
王都イーオネアでは、知的な赤髪を揺らす冷静沈着な魔女サニタリーを。
商業都市ブロッサムでは、身の丈ほどの大剣を豪快に振るう青髪ショートの剣士ローライズを仲間に加えた。
目的を同じくする3人の少女は意気投合し、パーティーを結成。
魔王軍の猛攻を受けているという聖都市ジャストウエストへと急行した。
城壁を囲む無数の魔物たちを前に、3人は死闘を繰り広げた。
ハイレの聖なる剣閃、サニタリーの広範囲殲滅魔法、ローライズの豪快な斬撃が魔物たちを打ち払う。
満身創痍になりながらも防衛に成功した3人が、傷を癒やすために聖修道教会を訪れた時のことだった。
「勇者様! ありがとうございました。治癒なら任せてください!」
耳にするだけで荒ぶった心が落ち着く優しい声とともに、淡い光がハイレたちの身体を包み込んだ。
痛みが嘘のように引いていく。驚いて顔を上げると、そこには白百合のように清楚な修道女見習いの少女、ソングが微笑んでいた。
金髪のセミロングが揺れ、彼女の放つ圧倒的な癒やしの力と、ふんわりと漂う甘く良い匂いに3人は完全に心を撃ち抜かれた。
「私たちと一緒に、魔王を倒して世界を救わないか?」
「君の力が必要」
「君ならきっと聖女と呼ばれるようになるよ」
魔王復活で親を亡くし、修道女としてほそぼそと暮らしていたソングは、3人からの誘いにポッと頬を染めて頷いた。
「私でよければ……喜んで」
こうして、4人の少女たちの英雄譚が幕を開けた。
――はずだった。
***
ソングを加えてから、旅はスムーズすぎるほど順調に進んでいく。
「おかしいな……最近、全然戦闘にならないよ」
ハイレが首を傾げる。瘴気の濃い危険地帯を歩いているはずなのに、魔物の影すら見当たらない。
変わったことといえば、ただ一つ。
「あ、あの……みなさん。また、私の下着がなくなってしまって……」
もじもじと内股になりながら、顔を真っ赤にして報告してくるソング。
「えっ、また? 風で飛んでいったのかな」
「くそっ、どこの変態の仕業だ! 私がこの手で斬り捨ててやる!」
「クンカクンカ……ソングの匂いが残る貴重な布地が……」
怒るローライズの横で、サニタリーは残念そうに虚空の匂いを嗅いでいる。
謎は、とある日の夜の野営で解けた。
見張り当番をしていたハイレは、茂みの奥からカサカサと這い出てくる複数の影に気づいた。
凶悪な牙を持つヘルハウンドと、巨躯のゴブリンたちだ。
(まずい、奇襲――!)
剣の柄に手をかけたハイレだったが、彼女は自分の目を疑う光景を目撃する。
魔物たちの視線はハイレには向いていない。
一直線に、洗って木の枝に干してあるソングの小さな布切れ――パンティーに向かっていた。
『グルルル……』
『ギギャ!』
奪い合うようにソングのパンティーに群がった魔物たちは、パンティーを口にするなり、ビクンと身体を震わせた。
やがて、これ以上ないほど恍惚とした表情を浮かべると、身体が淡い光の粒子となって、フワァァ……と夜空へ昇っていったのである。
「…………」
ハイレは唖然とした。
(見なかったことにしよう)
けれど翌日以降も、ハイレは次から次へと森の中から魔物が現れ、ソングのパンティーを食べては天に召されていく光景を目にすることになる。
「ね、ねえ。あれ見て……」
耐えきれなくなったハイレは、みんなに打ち明けた。
「なっ……! わ、私のパンティーが⁉」
ソングが悲鳴を上げるが、時すでに遅し。
魔物たちの魂は、彼女の下着によって次々と天空へと旅立っていた。
「わけわかんないんだけど……ソングのパンティーだけ?」
「これは……非常に興味深い現象ね。ちょっと実験してみない?」
探求心に火がついたサニタリーの号令で、即座に大検証会が開催された。
検証その一。他のメンバーのパンティーではどうか。
ハイレやローライズの下着を干してみたところ、魔物たちは匂いを嗅いだ後、「ペッ」と吐き捨てるか、怒って噛みちぎるだけだった。
「ちょっと! なんでよ! 私たちのパンティーもソングと同じ店で購入したのに!」
「理不尽すぎる。食べ物も飲み物も夜のイチャラブもソングと同じなのに」
無駄に傷つく勇者と剣士ががっくりと項垂れる。
どうやらソングの持つ強大すぎる浄化の力が、最も肌に密着する下着に蓄積しているらしい。
検証その二。着用時間による違いはあるか。
「私のまだ使ってないパンティー履いて、すぐに脱いでみて」
「え? そ、その。使用済みのほうが嬉しいんですけど……」
「それはまた今度! もう、ソングったら。夜まで我慢できなくなるじゃないか」
結果、ハイレが顔を赤らめながら渡してきた新品のパンティーでは効果が薄く、ソングが長時間履いてオーラがたっぷり染み込んだものほど、より強力な魔物を即座に成仏させる効果があることが判明した。
サニタリーが鼻血を出しながらメモを取る。
「染み……これが重要なのかも」
「私! 染みをつけられるのはみなさんにだけです!」
検証その三。パンチラではどうか。
「ええっ⁉ そ、そんな恥ずかしいこと……」
涙目のソングに頼み込み、魔物の前でスカートの裾を少しだけ持ち上げてもらう。
「ハアハアハア……こんな感じですか?」
すると純白のパンティーから放たれる神々しい光に目を奪われた魔物たちは、完全に動きを止め、スタン状態に陥った。
「おおっ! これはすごい!」
「ソングの恥じらい顔、グッジョブ!」
「じゃあ私たちもやってみようぜ!」
調子に乗ったハイレ、サニタリー、ローライズが3人揃ってスカートを捲り上げた。
黒のレース、ピンクのスケスケ、スポーツタイプなど様々だ。
『ギャアアアアア!』
『ギュウウウウウ!』
『ギョオオオオオ!』
すると魔物たちは突如として興奮状態に陥り、腰を振りながら猛烈な勢いで襲いかかってきた。
「きゃあああ! なんで⁉ 殺意高くない⁉」
「違う! 別の意味で襲おうとしてる!」
「私たちは獣姦の趣味ないっつーの!」
慌ててソングの着用済みパンティーを投げつけ、魔物を成仏させて事なきを得た。
「でも、なんでソングにだけこんな効果があるんだろ?」
「まあ、ソングから出る液は汗でも美味しいもんね」
「味はみんなおんなじじゃない? でも、ソングのはたしかに疲労回復効果あるかも」
「もう……みなさんのも美味しいですよ」
ソングは顔を赤らめ、ふと何かを思い出したようにハッとした。
「……そういえば」
頬に手を当て、少し言い淀みながらソングは過去を振り返る。
「その……私、みなさんの仲間になって……えっと、その日にみなさんに開発されたじゃないですか?」
一緒にお風呂に入って隅から隅まで優しい手つきで洗いっこして、宿屋のベッドは全員同じ。
ハイレたち勇者パーティーがそういう関係だということに驚いたけど、嫌じゃなかった。
ハイレの指使い、サニタリーの舌使い、ローライズの腰使い。
どれも脳が蕩けるほどの歓びを初めて知った。
「その時に私、心の中で誓ったんです。もっとみなさんのお役に立ちたい。もっと私もみなさんを歓ばせたい、と」
すると夢だったのか、天啓だったのか。
女神の言葉がソングの脳裏に響いたのだ。
『あなたに相応しい能力を授けます。この力で、どうかこの世界を救ってください。コホン。……この淫乱百合メス豚め! 本当はもっと聖女らしい能力与えようと思ってたのに!』
女神の声はブチギレ気味だった。
「……なんか、罵倒されたみたいなので今まで黙ってました。ごめんなさい」
頭を下げるソングに、ちょっとした気まずい雰囲気が流れた。
これ、最初にそういう関係になったのってなんでだっけ?
まあ、みんな可愛いのが悪いということで。
「ともかく……武器よりソングのパンティー代だね」
ハイレが遠い目をしながら呟いた。
こうして勇者ハイレ一行は軍資金のすべてをパンティーに注ぎ込み、ソングに履かせ、魔物と遭遇したら脱がせて投げ、食わせ、成仏させていく。
彼女たちは一滴の血も流すことなく、魔王軍の精鋭たちを次々と昇天させていった。
やがて一行は、禍々しい瘴気が渦巻く魔王城の最深部へと到達した。
玉座に鎮座する大魔王と、周りを固める最強の近衛兵たち。
「もうここまで来たらやるしかない。行くよ、みんな!」
ハイレの号令が玉座の間に響き渡る。
「はぁぁぁっ!」
「喰らいなさい!」
「そらよっ!」
3人の少女の手から、あらかじめサニタリーの魔法で格納ストックしておいた、ソングの着用済みパンティーが無数に放たれた。
神々しい純白の布地が顔面に張り付いた瞬間、近衛兵たちは恍惚の表情を浮かべ、かつてないほど眩い浄化の光に包まれて一瞬で天に召されていった。
「よくぞここまで来たな、勇者一行よ。って! なんでパンティーを見せてくる! ええい、我は生身を直接触るほうが好きだ! 全員、我の子を孕ませてくれるわ!」
魔王城玉座の間に突入するや否や、ソングは履いていたパンティーを羞恥心全開の表情で脱ぎ、顔見している大魔王に投げつける。
この日のために、1週間履き続けた至高の一品だ。
「な、なんだこの光は……! ぐおおおおお……!」
大魔王ですらソングのパンティー攻撃の例外ではない。
顔面に直撃した聖女のパンティーのあまりの尊さと芳醇な香りに、魔王はポロポロと涙を流し始めた。
「おお……素晴らしい匂いだ……我の心から憎しみが消えてゆく……これがあればもう何もいらぬ……ゴックン」
魔王は恍惚の笑みを浮かべ、塵一つ残さず天へと召されていった。
こうして、世界を絶望に陥れた魔王軍はあっけなく滅びたのである。
***
魔王軍を滅ぼしたハイレたちは王都イーオネアへ凱旋した。
沿道は人々の大歓声に包まれ、花吹雪が舞う。
国王との謁見も無事に終わり、宿屋のスイートルームに集まった4人は密談を交わしていく。
「みんな、王様は私たちを英雄として国家の重職に迎え入れる気満々らしい。でも……ソングのパンティーで魔王軍を滅ぼしましたなんて、絶対に知られたらマズい」
ハイレの言葉に、サニタリーとローライズも深く頷く。
「そうよね。てか、パンティー投げてただけでレベルだけ上がっちゃって、圧倒的に実戦経験が不足してるし」
「武勇伝語れと言われても、パンティー投げ上手くなりましたくらいしか言えねえよ……」
話し合いの結果、彼女たちは重職を辞退し、莫大な賞金だけを貰うことに決めた。
「あ、あの!」
ソングが控えめに手を挙げてくる。
「どうせなら頂いた賞金で、みなさん一緒に商売をしませんか?」
「商売? たしかに、平和な世の中で賞金だけでのんびり過ごすのも暇かもしれないな」
「でも、何をするの? パンティー屋?」
サニタリーがニヤリと笑う。
「パンチラ屋も需要あるんじゃない?」
「風俗か! ソングのパンティーとパンチラを見ていいのは私たちだけだっての!」
ローライズのからかいに、ハイレが激しくツッコミを入れた。
ハイレの独占欲丸出しの叫びに、ソングは顔を真っ赤にして両手で頬を押さえた。
「そ、それも忘れてください! あっ、でも……お風呂やベッドの中では今まで通り……その、お願いします!」
上目遣いで放たれた破壊力抜群の言葉に、ハイレたち3人はボフンと顔から火を出して硬直した。
「えっと、商売……私たちができること。パンティー……パンとティー。美味しいパンとティーを出す、パン屋さんはどうでしょうか!」
ソングの提案に3人は顔を見合わせ、頷く。
「「「異議なし!」」」
「店の場所はどうする? 一応私たち、顔の知られた有名人になっちゃったし」
「いい場所があります! 魔王城です!」
「えっ? あんな禍々しい場所に人が来るかなあ?」
「浄化されておとなしくなった魔物さんたちを、お客様にすればいいんです!」
ソングの言葉に、サニタリーが顎に手を当てる。
「なるほど。いい案じゃない? 人々は私たちをあえて魔王城に住まう神秘的な英雄としてますます崇めるだろうし、おとなしくなった魔物たちを悪者にして襲ってくる人々への牽制にもなるわ」
「それに……」
と、ローライズがニヤニヤしながら続ける。
「人目を気にせず、ソングにあんなことやこんなこともできるしな」
「そうだね。ソングとイチャラブするのは勇者パーティーの特権だ。他の人……特に男に、ソングのエロい顔を見られたくない」
ハイレも真剣な顔で賛同した。
「もう……みなさん。えっと、私も……同じ気持ちです!」
4人の想いは見事に一つになり、一つのベッドの上でも4人は一つになった。
数ヶ月の時が流れた。
かつて世界の脅威であった旧魔王城は淡いピンク色に塗り替えられ、こんな看板が掲げられていた。
『焼きたてパンと紅茶の店 パン・ティー』
門を開ければ、すぐに黄色い声が飛んでくる。
「いらっしゃいませー!」
エプロン姿の勇者パーティーたちのお出迎えだ。
店内は焼きたてのパンの香ばしい匂いと、紅茶の芳醇な香りに包まれている。
カウンターに、かつて人間を恐怖に陥れたオークやゴブリンたちが、お行儀よく列を作って並んでいる。
ソングが捏ねて聖なる力が込められたパンは、「食べると昇天しそうになるくらい美味しい」と魔物たちの間で大評判になり、連日大繁盛。
時折、店の裏に干してあるソングのパンティーがなくなって、間違えて食べてしまったお客様がガチで成仏しているのも、今ではご愛嬌である。
味の評判はまたたく間に人間の街にも広まった。
今では、かつて殺し合っていた人間と魔物が同じテーブルで仲良くパンをちぎり合い、紅茶を飲み交わしている。
勇者パーティーの開いたパン屋が、種族の壁を越えた平和をもたらしたのだ。
「ソングー、そろそろ休憩にしなよ。奥の部屋でちょっと……ね?」
「はいっ、ハイレさん。すぐ行きます!」
「ズルい! 私も!」
「そんじゃ、私も!」
世界を救った英雄たちは、今日も人目を忍んで愛しい聖女とイチャラブしながら、甘く幸せなスローライフを送っているのだった。
お読みいただき感謝します。
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