甘さ
地上で起きたデモは、戦場の空気を変えた。
それを目撃した法術師たちは、民間人の巻き添えを恐れ、攻撃の手を鈍らせる。
術式の選択は慎重になり、判断は遅れ、隊列は散る。
その隙を、実況構造体が容赦なく突いた。
敗北――そう呼ぶしかない局面が、散発的に生まれ始める。
「……甘い」
神坂が一喝した。
「民間を守るのは“結果”だ。
まず自分が生き残れ。自分を優先しろ」
周知。
そして管理者らしく、指揮に移る。
「部隊を再編する。
射線を分離、交戦距離を固定。支援を前に出すな。
倒れる順番を間違えるな」
命令は冷たい。
だが、必要な温度だった。
◇◇
一方、大気圏外。
スフェライオス艦隊のさらに上――
戦場の“外側”。
プロトアーカは、その甘さを興味深そうに見下ろしていた。
スフェライオスと法術師。
どちらが勝つのか。
どちらを観測すべきか。
どちらに与するべきか。
どの未来が一番価値あるサンプルか。
演算は、孤独に続く。
◇◇
上空戦は最終局面に入っていた。
スフェライオス艦隊が、精神攻撃――物質弾頭を混ぜた干渉を叩き込む。
だが神坂は一度対処した。
同じ手は、通らない。
「……二度目はない」
神坂は遮断し、押し返し、殲滅へ移る。
敵艦隊の光が、ひとつ、またひとつと消えていった。
やがて上空戦は法術師側の勝利で決着する。
遅れて、報告が入る。
実況構造体撃破。
各戦域、順次制圧。
◇◇
神坂はセファル――穏健派を確保したまま、撤収を選ぶ。
宇宙環境からは結界で保護。
穏健派を盾にしない。
全面戦闘は避ける。
目的は達した。
ここで無駄に血を増やす理由はない。
「帰還する。胞構造空間群へ」
戦場は遠ざかり、
ワームホールの向こうに“帰るべき空間”が口を開ける。




