侵入、プロトアーカの干渉
ワームホールを抜けた瞬間、
空間の質が変わった。
恒星の光は遠く、
星々は引き延ばされた残像のように散らばっている。
重力も、距離も、方向すらも曖昧だ。
――外宇宙。
スフェライオス拠点空間。
「侵入を確認」
法術師たちが布陣を整える、その刹那だった。
空間が、鳴いた。
星の一部が瞬いた。
感覚が裂け、圧力が走る。
攻撃――しかも、迷いがない。
「来るぞ!」
超遠方から襲い掛かる可視光線外の光線。
加速された素粒子。
──放射線。
その光線は周期的にこちらの陣形を直撃してきている。
──マグネター。
超新星爆発の果てに残る、高密度・強磁場の恒星核。
その両極から噴き出す放射線が、
今この瞬間、照準をこちらに合わせている。
次の瞬間、法術師たちは理解する。
攻撃してきたのは、スフェライオス艦隊ではない。
「……プロトアーカか!」
神坂が歯噛みする。
ワームホールの向こう、
この空間そのものを掌握する存在。
端末ではない――本体。
スフェライオス艦隊も、同時に攻撃を受けていた。
二勢力まとめて排除するような、冷徹な干渉。
「敵味方の区別もないのか……!」
違う。
区別する必要がないのだ。
◇◇
「耐えろ!」
神坂の号令で、防御陣形が展開される。
黒羽が前に出て、過剰な干渉を力任せにねじ伏せる。
その間、
プロトアーカの端末が沈黙を破った。
「……本体の行動は、想定内だ」
通信は静かだ。
だが、わずかに遅延が混じる。
「この空間に侵入した時点で、
君たちは“観測対象”から“干渉要因”に昇格した」
「だから排除する、と?」
「いいや。
正確には――評価する」
その直後、
端末が本体に対して逆向きの干渉を開始した。
「……何をしている?」
「逆ハックだ。
成功率は低い。
だが、無力化できれば――」
空間が軋む。
本体の干渉が、わずかに鈍った。
「今だ!」
法術師たちは、ただ耐える。
反撃ではない。
時間を稼ぐ。
極めて強い磁束はEPMとして無機生物、宇宙戦艦も妨害する。
スフェライオス艦隊も混乱に陥り、
三つの勢力が同時に衝突する、異様な戦場が生まれていた。
◇◇
やがて、
本体の干渉が止まる。
完全な沈黙。
だが、消えたわけではない。
「……興味深い」
空間全体に、声が落ちる。
「端末が、ここまで介入するとは思わなかった。
そして――法術師が、それを支え切るとは」
勝敗を告げる言葉ではない。
評価だ。
「私は、しばらく静観する。
無干渉を宣言する」
その言葉とともに、
本体の圧力は後退した。
◇◇
戦場に残ったのは、
法術師たちと――スフェライオス。
「……終わったのか?」
誰かが呟く。
「いや」
神坂は首を振る。
「やっと、始まっただけだ」
この星には、まだ目的がある。




