スフェライオス観測戦闘群・実況構造体・第2艦隊旗艦 《ヴァクスターズ》
◇◇黒羽 (ヴァクスターズ)視点
EMPと放射線が飛び交うこの空間は先ほど複数の戦術核砲弾の爆発を経験した。
静寂、音も、光も、星空もない。
ただ、遠方には、存在感を放つ大質量の物体。
スフェライオス第2艦隊が鎮座している。
「──さて、直撃したよな?」
一人、核爆発の残光を冷ややかに見つめる人影。
ヴァクスターズは核爆発に黒羽が巻き込まれたことを観測している。
◇◇
civil gazerの反応
《一個体に核砲弾(笑)》
《オーバーキルだぞ、ヴァクスターズ》
《つまんな。蒸発してんだろこれ。
もっとSレア文明の戦闘を見せてほしいね》
◇◇
「……。」
その反応を冷ややかに無視するヴァクスターズ。
──うるさい。死体も見ていないくせに。
彼は実況構造体として経験を積んでいる。
その経験が言っている。
「──手ごたえが無かった」
あの個体はまだ、生きている。
だろう?
その投げかけへの回答かのように、
放射能を含んだ、爆風が晴れ、複数の光が飛び出す。
「……。高エネルギー反応を確認!
光学兵器か!いいねえ!まだ立ちはだかるとは!」
その声を目安に、光の帯がヴァクスターズを両断せんと薙ぎ払われる。
それに対し、ヴァクスターズは反応できない。
極めて高速で飛翔するそれは、発射角度をわずかに変えるだけでも、遠距離では広範囲を薙ぎ払う。
だから、ヴァクスターズは認識するより先に、胴を両断され、
その熱量が全身を焼き焦がす。
ヴァクスターズの口角が上がる。
「熱量を垂れ流しちゃって。判断ミスだね?」
そんな声が聞こえた気がした。
◇◇黒羽視点
直後、ヴァクスターズを下した黒羽は宇宙戦艦の上部に注目していた。
発射炎。後部に光を宿して、それは艦隊から複数吐き出されていた。
──対空ミサイルが蜘蛛の巣のように、軌道を交錯させながら黒羽に接近してきていた。
飛行術式、急軌道。
ミサイルに対し、あえて向かってゆく。
接触する直前、《短距離転移》。
座標を飛び越え、ミサイルの群れを超え、転移先は旗艦上方。
《FTL粒子砲》!どてっぱらを狙う。
迎撃も、電磁バリアも間に合わず、旗艦は中央で真っ二つになり、
スパークが飛び散る。
断末魔か、差し違えるためか、主砲と銃座がこちらに旋回しようとしてくるが、
途中で力尽きたかのように沈黙する。
旗艦撃破。
次の目標を見定めようとする黒羽だったが、その足元で。
──重力が、空間が、歪んだ。
スフェライオス第2艦隊旗艦、ヴァクスターズがその機関部、ブラックホールを暴走させた。
彼の嘲笑が聞こえる。
「──甘いね。自爆の隙を与えるなんてさ」
◇◇
重力が、空間が、歪んで、圧縮されて、潰されて。
周囲の光が一定領域に閉じ込められ、無限に落ちていく。
さきほど撃たれていた対空ミサイルも、それに逆らえず、
領域に墜落していく。
足元の宇宙戦艦は内側から重力に食い荒らされた。
戦艦だった物は、粒子まで分解されて、ブラックホールの自転に伴うように周囲を公転し始める。
リング状となったそれは粒子同士の摩擦によりまばゆい光を放つ。
自身もまた、暗い穴へ落ちていくのを感じる。
《短距離転移》による空間転移。
すでに曲がった空間の上にいる。遠方との座標の繋げ方がわからない。
《超空間転移》。
このブラックホールを実数空間に、
──文明惑星のある恒星系に持ち込むわけにはいかない。
それでも、降着円盤と化したヴァクスターズと心中することになるまえに、
飛行術式を起動。
そんな黒羽に残党の敵艦隊が容赦なく戦術核砲弾を撃ってくる。
周囲で炸裂する熱線と放射線。
防御の余裕はなく、その遺伝子を傷つけるのを許す。
ついには砲弾が直撃、被弾する。
視界が、意識が明滅する。
核爆発とともに、ブラックホールに落ちていく。
光を失いつつある視界で残党が空間転移していくのを捉えた。
「逃がすか……」
それは、絶殺の覚悟。
「必ず戻る」
それは、生残欲求。
強い意志は、魔力となって、魔力はエネルギーとなる。
半ば無意識の黒羽の体をけん引する飛行術式の推力となった。




