現状把握
「ふむ……。
確かに、一也殿はわしと出会った当初、色々と反応がおかしかった。
やれ、コスプレがどうの……とな。
が、今の話を聞けば、ある程度は納得できるというものよ」
腕組みした劉備が、そう言いながら深く頷いて見せた。
「もっとも、その割に漢中王のことなどを知っておったし、そもそもわしらの名も知っているようだがな」
「劉備玄徳の名と、その下に集いしきら星のごとき将士らについては、噂話として聞いていました。
同時に、漢王朝を巡る混乱に関しても……。
それに加え、最初益州の名を聞きましたからね。
諸々の事実を符合させれば、ついにあの劉備玄徳が漢中王を名乗り、漢王朝復興のため本格的な動きを見せたのだと推測するのは、難しくありません」
自分でも驚くくらい、すらすらと言葉が湧き出てくる。
嘘はつかないという方針をさっき決めたばかりだが、こればかりは嘘。
他二人はともかく、果たして孔明に通るかどうかが心配でならなかったが、あえて様子を伺うような真似はしない。
それよりは、さっさと真実を話すことで乗り切れるパートに移りたかった。
「それで、話はこちらの都合に戻りますが……。
本当に、どうしてこんなことになったのか、俺も妹も全く検討がつかないのです。
実際、賊が現れたり、陛下に名乗られたり、あるいは名高き趙雲様や孔明様が現れるまで、転移していることへ気付いてませんでしたから」
ちなみにだが、それとなく口調を丁寧なものへ改めている。
伝え聞く通り劉備は懐の深い人物であるが、失礼な口の利き方して、周囲を怒らせても仕方ないし。
「はっはっは……!
急に言葉遣いを改めれてはこそばゆいが、それが一也殿の心遣いということならば、受け止めよう。
そして、協力の件に関しても、あい分かった。
安請け合いではないぞ?
漢中王劉備玄徳の名にかけて請け負うのだ。
それが、あれほど美味なる芋を振る舞われたことに対する返礼よ」
よっしゃあ!
言質取ったぞおらあ!
心の中で、ぐっとガッツポーズを取る俺である。
「陛下、そのようなことを気軽に……」
「いや、趙雲殿。
この件に関しては、陛下なりの理由がおありの様子。
我らは臣下として、一也殿をお助けすることに尽力しましょうぞ」
静止しようとした趙雲は、孔明が制してくれた。
……うん、ありがたいけど、何せ孔明がやっているから、泳がされているんじゃないかという不安でイッパイ!
孔明パワーやべえな。すげえな。そりゃ、仲達もびびって走り回るわ。
「ありがとうございまーす!
ね、兄ィ。
劉備おじさまたちの協力が得られることになったんだし、まずはうちの農場がどんな状態になっているか、確認してみない?」
「ちょ、おま……おじさまて」
横から俺の顔を覗き込みつつ、とんでもなく失礼なことを言い放った愚妹に慌てさせられる。
お前、今が後漢時代だって分かってるのか?
権力者の気まぐれ次第で、たやすく処される時代なんだぞ?
「はっはっは! おじさまか!
これはよいな!」
だが、さすがは劉備玄徳……! 徳という字が名前に入ってる人……!
笑ってスルーしてくれた。
腹心二名は……?
孔明は……?
「ふっふ。
さすが、陛下は万人に慕われますな」
オッケーイ! 孔明スルー!
では、趙雲は……?
「うむ……。
可憐な女子ならばよし!」
全員まん丸お目々となって趙雲子龍を見やった。
……あんた、そういうキャラだったの?
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ざっくりと、うちの農場がどんな状態でタイムスリップしてきたのか説明しよう。
まず、農場。
じゃがいもを育てている俺の農場約二ヘクタールは、丸々と転移してきている。
ちなみに二ヘクタールは、サッカーコート三面分くらいな。
その脇にある個人用田んぼも、健在。
こっちは片手間だからな。テニスコートの三分の二くらい。俺たち兄妹のエネルギー供給源だ。
すでに水は抜いた状態であり、黄金の穂を垂れ下げさせた稲がひび割れた土に根付く様は、いつ見てもいいもんである。
他には……そう、なんでか忘れそうになっていたが、らー子の実験畑も忘れてはならない。
これはもう、本当に小さな畑。大きめの家庭菜園レベル。
元々は、祖父が伝統的な野菜を残すためにやっていた畑で、妹はそれを受け継ぎ、現在主に流通しているF1野菜とは異なる品種の野菜を育て、種子も保管しているのだ。
畑関連は、それで全てだな。
で、ここからはそれ以外だが……まず、軽トラと農器具及び農機具を保管している倉庫は無事だった。
重要なのは、届け出出して保管していたガソリンと軽油も存在するということ。
無限に保管できる代物ではないが、切り札とはなりそうだ。
さらに、被災対策で購入していた小型のソーラーパネルと、大型のポータブルバッテリーも無事。
これ、満充電ならキッチンカーの営業にも仕えるという逸品だからな。
使う機会はきっとあるだろう。
そして、母屋。
これもまるっと転移してきていた。
造りは、昔ながらの二階建て。
ここで薪を使った竈とかが存在すれば、よっしゃあ後漢時代でも活用できるぜとなるのだが、あいにくそこまで都合よくはない。
親父の代で建て直したからな。俺よりは年上だが、普通に現代基準の建築。トイレだって洋式だよ。
強いて言うなら、書籍収集趣味のあった親父による個人書庫があるので、活用できるかもしれない。
以上! 終わり! 閉廷!
その他には、何も引き連れてきてない。
俺の暮らしてた一帯は、農家一軒一軒で距離があり、そこそこ離れたお隣さんが一緒に転移してきているとは思い難い状態であった。
んで、もう一つ引き連れてこれてないものがある。
ずばり……インフラ。
「兄ィ。
当たり前だけど、電気もガスも水道も使えないね。
この井戸は、どういうわけか使えるけど」
『となりのトトロ』に登場したようなポンプ井戸をキコキコとやりながら、らー子が小首をかしげる。
うん……確かに冷たい水が出てるし、味見したが水質に問題はなさそうだ。
「転移した際、たまたま地下水脈と井戸が接続された……?
いや、深く考えるのはよそう。
使えるうちは、ありがたく使うべきだな」
「だね。
で、早晩に使えなくなっちゃうものはどうしようか?
使えなくなっちゃうというか、食べれなくなっちゃうもの」
「だなー。
冷凍庫の中身、電源切った状態でどのくらいもつかね?」
言いながら台所に戻り、冷蔵庫と冷凍庫の中身をあらためた。
うちの場合、商業施設までもいちいち軽トラを走らせる必要があるので、大型の家庭用冷凍庫へ食べ物を溜め込んでいるのだ。
「餃子に焼売、唐揚げにジンギスカンにジンギスカンにジンギスカン……兄ィも好きだね。
他には、肉ある魚ある野菜ある……あ、お餅発掘した」
「高岩さん、毎年自分でついた伸し餅くれるのはありがたいんだけど、正直、ちょっと持て余すよな」
らー子と顔を見合わせ、苦笑いし合う。
ちなみに、高岩さんは三軒離れたご近所(遠方)だ。
「らー子……。
こうなったら、やることは一つだな?」
「うん。
媚を売りまくる方針にも則り……」
「「冷食パーリィナイト!」」
兄妹二人、声をハモらせた。




