作戦タイム
――劉備玄徳!
かの大英雄について、今更解説が必要であろうか?
言わずもがな、三国志演義の主人公であり、三国の一つ……蜀を建国した男。
中国は当然として、日本においても大人気!
三国志を題材とした様々な作品に登場していた。
その際、美少女になったりガンダムになったり大泉洋になったりと大忙しなことになっているが、それは我が国の国民性というやつだ。
で、目の前のアクション映画で主役やれそうなくらい強いおっさんが、その劉備玄徳を名乗っている。
映画の撮影か何かを疑いたい状況。
だが、彼の周囲に転がっている賊たちの死体が、これは現実の光景であると物語っていた。
かくのごとき状況に置かれ、俺が取るべき行動はただ一つしかない。
すなわち……。
「作戦ターイム!」
力強く作戦タイムを宣言し、背後にいた妹とがっしりスクラムを組んだのである。
「おいおいおいおいおい。
どうするよ?
なんか劉備玄徳名乗り始めたぞ?」
「でもさ、兄ィ。
なんか、さっきから現実感半端ないんだけど」
「だな。
明らか死んでるよな? 賊の人たち」
そこまで言って、ちらり。
らー子と共に、地面へ転がった首に視線を送る。
……向こうの方もちらりというかガン見してくれていたので、バッチリ目が合ってしまった。
「うん、オーケー、オーケー。
確実に死んでる。
ぜってートリックじゃない。百円賭けてもいい」
「兄ィ、賭け方がせこいよ。
とにかく、これは……アレだよね」
「……アレっぽいな。
せーので、答えを言い合ってみるか?」
「いいよ。
それじゃあ、せーの――」
「「――タイムスリップ!」」
らー子と声をハモらせる。
うん、やっぱ、それしかないよな。
「……だとすると、農場ごと転移ってことか?
お前、家の方から来たよな? 家も一緒?」
「そう……なのかな?
離れてから飛ばされた可能性もあるけど。
というか、あたしが言うのもなんだけど、兄ィ順応早いね?」
「まあな。自分でもびっくり。
ネット小説で、異世界転移直後に『ネット小説で見たやつだー!』って言う奴いるけど、こんな気分なのかもしれない。
それに、先方を待たせてるから、さっさと状況飲み込みたい気持ちがあるし」
ちらり。
先方こと、我らが劉備玄徳の方にらー子共々視線を送った。
さすがは、三国志の“仁”担当。
静かに腕組みし、優しい眼差しを俺たちに向けてくれている。
「……確かに、待たせすぎるのもどうかだよね。
もし、あたしたちが三国志時代にタイムスリップしたんだとしたら、劉備おじさまに頼る以外生き残る道がないし」
「何しろ、スリップ直後に賊とエンカウントだからな。
これ、劉備いなかったら俺らひどい目にあってたぞ。
それで、どうよ?」
「どうよって?」
「お前、三国志の知識どのくらいあるのかって話。
俺、無双シリーズに一時期ハマって得た程度の知識しかねーぞ?」
「あたしはそこそこ。
頼ってくれていーよ」
「じゃあ、頼りになるらー子さんよ。
とりあえず、今がどの辺のタイミングか確認しようぜ?」
「うん。
じゃあまた、せーので。
せーの――」
「「劉備さん。
漢中王やってらっしゃいますか?」」
ちらり。
兄妹で劉備の方を向き、異口同音に尋ねた。
「いかにも。
及ばずながら、漢中王を称している。
全ては、漢王朝復興のためよ」
きりりと表情を引き締めながら答える劉備。
多分、彼視点だと、名を名乗った時点でそこまで気づかれている想定だったのだろう。
ちらりをやめ、再び作戦タイムだ。
「……蜀、もう建国し終わってるな」
「そうなると、あと二年ちょいで死ぬってこと?
おじさま、すっごく元気そうだけど。
六十手前のはずなのに、あの若々しさだし」
「そりゃお前、老いっていうのはある境から急にくるっていうからな。
特に劉備の場合は、義弟たちが次々と死んで精神的に参っていたところで、あの大敗退だろう?
心も体も一気に限界を迎えたとして、何もおかしくはないぜ?」
「あ、そうだ! 義弟!
関羽どうなってるの?
関羽の死を境に色々とおかしくなっていくから、頼るにしても状況変わってくるよ!」
「確かに。
けど、聞くわけにもいかないしなあ……」
ちらり。
劉備は優しい眼差しを俺たちに向けている。
待たせてサーセン。
「……すごく落ち着いてるし、義弟の仇討ちで頭が一杯って感じじゃないな。
建国後にこんな所……つっても、どこだか知らんけど。
とにかく、一人でほっつき歩いてるんだから、まだ悲劇は起きてないんじゃないか?」
「となると、死人がいたとして黄忠が老衰死している場合くらいか。
これで、大体の状況は把握できたね」
「だな。
……把握できたところで、俺たちのやるべきことはただ一つか」
「うん。
じゃあまた、せーので。
せーの――」
「「媚を売りまくる!」」
さすがは血を分けた兄妹。息ぴったりだ。
ついさっき、妹の名前が思い出せなかったとは思えないほどである。
「兄ィのじゃがいも気に入ってくれてたみたいだしー。
これ、あれじゃない?
じゃがいもを兄ィが広めて、チート級の栽培しやすさで国力を高めて蜀の制覇エンド!」
「ばっか、お前、農薬も何もなしに、そうそう上手くはいかねえよ。
上手くはいかねえ、けど……その道しかねえよなあ。
あるいは、これが悪い夢でさっさと覚めるか」
「えい」
「――あふんっ!?
なんで俺の乳首つねったの!?」
「夢じゃなさそうだね」
「自分ので試せ!」
「えー?
兄ィ、あたしのことそんな目で見てたんだー?」
両手で胸を抑えながら、にやにや笑うらー子だ。
腹立つなこの愚妹。
「とにかく、方針はそれで決まりだな。
どうして1800年前の人間と言葉が通じるのかとか、色々と気になるところはあるが……」
「そこのところは、お約束通りおいおい検証していこうよ。
今はとにかく、劉備おじさまの機嫌を取らないと」
三国志武将の好感度上げて落とすゲームか。
俺がガキの頃発売したというアダルトゲームに、そんなのあったな。
武将たちが軒並み美少女化していた上に、第一作では劉備が未登場だったはずだが。
「そうだな……劉備の好感度上げていくか!」
「ときめき三国志だね! 兄ィ!」
「相手はアラシックスだけどな!」
ちらり……ではなく、断固として劉備の方へと向き直る。
「相談事は済んだようだな?」
それで、劉備も腕組みを解いた。
さーて、まず最初になんと言うべきか。
とりあえず、俺とらー子も名乗っておこうか。
そんな風に考えていたその時だ。
またいずこからか、馬の足音が響いてきたのである。
しかも、足音の規模は先と比べ物にならない。
これは……。
「新手?」
「いや、方向から考えてそれはない。
そして、足音を聞けば軍勢の練度は知れる。
抜群の統率を誇るこの部隊……おそらく率いしは」
思わせぶりに解説する劉備。
「誰だと思う? 兄ィ」
「本命趙雲。
対抗張飛、馬超、俺らの知らない誰か。
大穴孔明」
一方、俺たち兄妹はそんなことを言い合っていた。




