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次の街
町を出てから、三年が経った。
最初の一年は、何も起こらなかった。
傘を失くせば、そのまま失くなった。
財布を落とせば、警察から連絡が来るか、二度と戻らないかのどちらかだった。
普通だ、と私は思った。
これが普通の世界だ。
それでも、ときどき、癖のように確認してしまう。
帰宅して玄関を開けた瞬間、
机の上、靴箱の中、引き出しの奥――
「戻ってきていないか」を。
当然、何もない。
この町では、忘れ物は戻ってこない。
それが当たり前になった頃、私はようやく安心した。
忘れたままでいられる。
思い出さなくていい。
向き合わなくていい。
それが、どれほど楽なことかを、
あの町を出て初めて知った。




