山吹秘巻 ― 風ノ章 ― 外伝
山吹秘巻 ― 風ノ章 ― 登場人物紹介(透哉関係)
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◆ 透哉
山吹一族に連なる若き民間祈祷師。
風を媒介に記憶を読み、祈りで癒す“山吹の術”の継承者。
しかし、幼き日に母が禁を破り「風返し」に呑まれたことで、記憶の一部を失っている。
そのため、術を使うたびに微かに自身の記憶も削がれていくという代償を抱える。
山吹三戒:
•私的な感情で記憶を操作してはならない
•封じた記憶を他者に渡してはならない
•風を止めてはならない(記憶の流れを断つこと)
母を救えなかった後悔と、禁忌に触れた一族の宿命に苦しみながらも、
“風を止めぬ祈り”の意味を探すため、透牙たちと旅を続けている。
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◆ 山吹真澄
透哉の母であり、かつて「山吹の祈祷師」と呼ばれた女性。
村を襲った疫病の際、愛する息子――透哉の記憶を守るために禁を破り、
“風返し”を受けた。
その魂は風の流れの中に散り、いまもどこかで“祈り”として息づいている。
彼女の声は時折、透哉の術の中に現れ、
「風を止めるな」と囁く。
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◆ 祈村の長老
山吹の祈祷師たちを束ねてきた最後の番人。
真澄の師であり、透哉を幼少期から見守ってきた人物。
禁を破った真澄を封じた責任を背負いながら、
長年、風返しの伝承を守り続けている。
透哉に真実を告げる日を恐れつつも、
その宿命を引き継がせることが己の務めと信じている。
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◆ 黒影
「風返し」から生まれた“記憶を喰う影”。
透哉の母・真澄が封じたはずの禁術の残滓であり、
透哉自身の“忘れたくない記憶”の象徴でもある。
彼に近づくほど、封じた記憶の扉が軋む。
透哉が自らの記憶と向き合う時、黒影の正体が明らかになる。
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◆ 風の記録
風返しによって記憶の流れに溶けた祈りの断片。
姿を持たぬ存在でありながら、透哉の術の中に時折、古の声として響く。
それは母の記憶か、山吹一族の残した想念か――誰にもわからない。
ただひとつ確かなのは、その声が常にこう告げること。
「風を止めるな。記憶は流すものなり。」
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この章は、透哉自身の過去と向き合う“原点”の物語であり、
風に宿る祈りと、記憶に生きる者たちの想いが交錯する。
山吹の術、その本質が明らかになる時――
透哉は、己の記憶を祈る者となる。
― 記憶を祈る者たち ―
一、風返しの伝承
山吹の祈祷師は、風を読み、記憶を祈る者なり。
その術、深くして危うし。
古き時、ある祈祷師、愛する者の記憶を失うことを恐れ、禁を犯せり。
彼、記憶を風に封じ、時を止めんと欲す。
されど、その行い、風の理に背きしものなり。
風は止められるを拒み、反転して彼を襲う。
これを「風返し」と呼ぶ。
風返しを受けし者、己の記憶の牢に囚われる。
忘れようとすればするほど、過去の囁きが魂を蝕む。
故に山吹の者は語る。
「風を止めるな。記憶は流すものなり」
これ、山吹の第一の戒めなり。
二、透哉の失われし記憶
透哉、山吹の末葉にして、祈村の祈祷師なり。
幼き日、母が禁を破りし夜を覚ゆる。
母は村の子を救わんとし、その恐怖の記憶を己の身に封じた。
だが、封印の瞬間、風返しが起こり、母は己の記憶と共に崩れ落ちぬ。
その夜以来、透哉は母の顔を思い出すことができず。
ただ、夜風が頬を撫でるたび、かすかな声を聞くという。
「風は止めないで。あなたの祈りが、誰かの灯になりますように。」
それが母の声か、或いは風の記憶か。
透哉にも分からぬ。
されど、その囁きこそ、彼を祈祷の道へと導いた。
彼、心に誓う。
「私的な感情で記憶を操らず、流れを断たず、ただ祈りの風を受け継ぐ」と。
三、風の継承
山吹の祈祷は、風を繋ぐ祈りの術。
一人の祈祷師の声が、次の祈祷師の息へと渡り、時を超えて響く。
風は記憶を運び、想いを結ぶ。
流れを絶やさぬ限り、祈りは途切れぬ。
透哉もまた、己の祈りを継ぐために旅に出た。
透牙、結、そして白狐のシロと共に。
風は新たな地を示す。
その名は――沈む森。
そこには、風返しの根源たる古き祈祷の残響が眠るという。
透哉の過去と、母の祈りの真実が交わる場所。
やがて彼は知るだろう。
母の声は、いまも風の中に息づいていることを。
四、終ノ記
山吹の祈祷師は、風と共に在る。
風は記憶を運び、祈りを繋ぐ。
風を止めるな。
記憶を封じるな。
ただ流れを信じ、祈りを継ぐ。
これを、山吹の秘巻に刻む。
――風は、すべてを還す。
次回予告
次章「第七陣・沈む森」
忘れられた祈祷の地に、再び影が満ちる。
風を喰らう古き術が目を覚まし、透哉の記憶が揺らぐ。
透牙たちは、風返しの真実と“祈りの代償”に迫る――。
あとがき
本巻「山吹秘巻 ― 風ノ章 ―」では、透哉という新たな祈祷師を迎え、風と記憶の関係、山吹の禁忌、そして“風返し”の恐ろしさを描きました。透哉の失われた記憶と向き合う姿、そして黒影との対峙は、祈りと過去の重みを改めて示す物語となりました。
今回の冒険では、透牙たちと透哉の連携、シロの妖狐としての活躍、そして結の鏡を用いた情報支援が光りました。特に、透哉の術の本質――“風を止めず、記憶の流れを守る”こと――が試される場面は、彼の成長のきっかけとなりました。
次回予告として――
透牙たちのもとに、新たな伝書の式神が舞い降ります。
その行き先は、風に乗って奇妙な夢を運ぶ“雲影の谷”。
谷には、古より封じられた“夢に潜む影”が眠り、透哉の術の新たな試練が待っています。
読者の皆様には、透牙たちの新たな旅と、透哉の記憶を巡る試練をどうぞお楽しみいただければ幸いです。
次回も、風と祈りが交錯する冒険にご期待ください。




