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幽影の旅路  作者: ysk
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十三陣 ー封じられた声の祈りー

透牙とうが

•陰陽師。依頼所に所属し、語られぬ記憶や祈りに触れ、式符や術を用いて記憶を結び直す。

•師は影澄。澄影との記憶を受け継ぎ、“継ぎ手”としての役割を果たす。

•静かで丁寧な性格だが、依頼に込められた祈りには深く寄り添う。


透哉とうや

•透牙の仲間で祈祷師。式符の補助や儀式の流れを読み取り、祈りを支える。

•祖母の祈祷術の知識を受け継ぎ、儀式における精神的支柱としても活躍。


ゆい

•鏡職人。鏡を通して依頼主の記憶や祈りを映し出し、影の名や形を探る。

•技は静かで繊細。祈りの輪郭を読み解き、影に名を与える儀式の要となる。

•語られなかった声や失われた記憶に触れることができる特異な才能を持つ。


灯影ひかげ

•今回の依頼で名を授けられた式神。

•かつて語られなかった存在で、依頼主の祈りの途中で手放された影。

•名を与えられることで、依頼主との関係が再構築され、静かな光として存在を定める。


依頼主(匿名)

•語られぬ祈りを抱えた人物。

•灯影の存在に深く関わり、過去の祈りの断絶や赦しを受け入れる契機となる。

第十三陣 あらすじ


澄影の記憶を還し、式符を再編した透牙は、陰陽師としての歩みを新たに踏み出す。

依頼所に届いた次なる依頼は、単なる封印ではなく、語られぬ声と祈りが絡み合う、より深い試練の兆しを孕んでいた。


依頼主の心に潜む忘れられた痛み、封じられた願い、そして過去と未来をつなぐ記憶――透牙はその声を聴き取り、静かに結び直す役割を担う。

陰陽師としての技と心が問われる新たな依頼の始まりは、彼の成長と、語られぬ祈りの解放の物語の次章へと続く。


第十三陣 第1章 依頼の気配


朝の光が依頼所の障子を透かしていた。

帳面は閉じられたまま、墨の香だけが静かに漂っている。


透牙は式符を巻き直し、深く息を吐いた。

澄影の記憶は還り、技は再編された。

だが、語られぬ声はまだ終わってはいなかった。


その時、依頼所の扉が静かに開き、結が姿を見せる。

手には小さな封筒。中からは、淡く光る紙片が覗いていた。


「透牙さん……これ、依頼です」


透牙はその声に頷き、懐に巻いた式符をそっと触れながら言った。

「……また、次の声が届いたようだな」


結の依頼は、単なる封印ではない。語られぬ祈り、忘れられた願い――

それらが絡み合う深い記憶の糸を、透牙は“継ぎ手”として紡ぎ直す。


静けさの中、依頼の気配は確かに息を潜めている。

透牙は仲間たちとともに、新たな声に向き合う覚悟を胸に刻み、歩みを進めた。


第十三陣 第2章 映らぬ声


朝の光が、障子の隙間から柔らかく差し込む。

結はまだ夢の余韻に包まれていたが、その夢は冷たく、遠くの誰かの背中を追いかける感触だけを残していた。


机の上に置かれた鏡は、まだ曇ったまま。光を反射せず、記憶の沈黙を映していた。

結は静かに手を添え、指先で鏡の縁をなぞる。

「……声、聞こえる?」


だが答えはない。鏡はただ微かに震えるのみで、沈黙を保ったままだった。


それでも結は焦らない。祈りの痕跡は確かにそこにある。

目には見えない記憶の粒子が、鏡の中でゆらゆらと揺れ、結の手のひらに微かな熱を伝える。


「少しずつ……浮かび上がってくるはず」


結は息を整え、鏡の中に沈む“語られぬ声”を呼び覚ます準備を始める。

その静かな覚悟の先に、未だ映らぬ祈りが、ほんの少しずつ姿を現そうとしていた。


第十三陣 第3章 祈りの輪郭


結は鏡の曇りを、息を整えながら丁寧に拭き取った。

煤のように濃く残る影は、完全には消えない。

それは、語られなかった祈りがまだ言葉にならず、鏡の奥に沈んでいる証だった。


指先で鏡の表面をなぞると、微かに光る粒子が手のひらに触れ、冷たくも温かい感触を伝える。

結はそっと息を吐いた。

「ここに……あったんだ」


鏡の中、輪郭はまだぼんやりとしている。声は届かないが、祈りの痕跡は確かに立ち上がろうとしていた。

結はその微かな揺らぎを見つめ、静かに記憶の粒子を呼び寄せる。


その瞬間、依頼主の過去の痕跡が、結の手に、そして鏡に宿るように、少しずつ形を取り始めた。


第十三陣 第4章 名の手前


鏡はまだ曇っていた。

だが、結が指先で刻んだ「在」の文字が、鏡面の縁に淡く光る。

それは、記憶がここに“在る”ことを示す小さな灯。名ではない。だが、名に近づくための確かな手がかりだった。


透牙は隣に座り、式符を軽く握りながら呟いた。

「この記憶、確かに存在している。だが、まだ触れられない……」


結は静かに頷き、鏡に手をかざす。微かに揺れる光の粒子が、指先の感覚を通じて二人に届く。

「声はまだ届かない。でも……ここに、影はいる」


二人は鏡を前に、沈黙の中で呼吸を合わせる。

技と鏡、記録と祈りが交差するその静かな瞬間、語られなかった名の輪郭が、わずかに姿を現し始める。


第十三陣 第5章 祈りの断片


鏡は、静かに揺らいでいた。

結が磨いた鏡面には、依頼主の背中が淡く映る。

その背には、名もなく、声も持たない影が寄り添っていた。しかし、距離があった。まるで、呼ばれることを拒まれたかのように。


結はそっと息をつき、透牙に囁いた。

「透牙……この影、名前を持てなかったのね。途中で、手放されてしまったみたい」


透牙は式符を握りしめ、鏡の揺らぎを見つめる。

「そうか……祈りの途中で断ち切られた。だから名を与えられなかった……」


結の指が鏡の表面をなぞる。光が指先に伝わり、影がわずかにこちらを向く。

「でも、ここにまだいる。諦めてはいない……」


透牙は低く呟く。

「呼ばれることを、待っていたんだな……」


影は小さく揺れ、呼ばれることへの覚悟を示すように光を宿す。

結はそっと手を重ね、静かに言った。

「もうすぐ、名前を返してあげられる……。信じて待とう」


空気は張り詰めていたが、微かに温かさが混じる。

祈りの断絶と、赦しの兆しが、静かに、しかし確かにそこにあった。


第十三陣 第6章 名を結ぶ


鏡は、静かに光を帯びていた。

結の指先が鏡面に触れるたび、淡い光が縁を揺らす。その揺らぎは、影の気配と静かに重なり合った。


結は小さく息をつき、透牙に囁く。

「透牙……今なら、呼べそう」


透牙は式符を握りしめ、影の名を静かに唱える。

「灯影……」


その瞬間、影はふわりと姿を変え、名の光を帯びた粒子となって空間に漂う。

依頼主の胸の奥でも、熱く、けれど柔らかな変化が生まれていた。長く手放されていた祈りが、少しずつ自分の中で結び直される。


結は鏡を見つめ、静かに微笑む。

「灯影……やっと、名前が届いた」


透牙もまた、穏やかに頷く。

「これで、祈りも少しずつ、解け始めるはずだ」


空気は静かに震え、依頼所の中に柔らかな光が満ちる。

影に名が与えられ、依頼主の祈りが再編される――その瞬間、語られなかった声は、ようやく世界に届いた。


第十三陣 第7章 余白に残す


依頼所の朝は静かで、霧が障子の隙間から差し込み、机の上の墨の香が柔らかく漂っていた。

結は巻き直した鏡を前に、筆を取り、静かに帳面を開く。


「この記憶……灯影のことを、少しだけ残しておこう」


透牙は式符を懐に収め、影の名が刻まれた紙をそっと置く。

「誰かのために、触れた記憶は消さずに残す――それが技の余白だ」


結は穏やかに筆を走らせ、帳面に静かな言葉を刻む。

語られなかった声、届いた祈り、そして名を授けられた灯影――

そのすべてが、依頼所の空気に、柔らかな余韻として漂う。


透牙は結を見て、静かに微笑んだ。

「次の依頼でも、この余白を守ることになるだろう」


窓の外では、朝の光が少しずつ依頼所を満たしていく。

灯影の記憶は閉じられたが、その余白に残された祈りは、次の巡りを静かに待っていた。


結文

透牙と結は、依頼所の静寂の中で、それぞれの手で祈りと記憶を余白に刻み込んだ。


灯影の名は授けられ、語られなかった声は光となり、帳面や式符にそっと残された。

静かに息をつき、互いに見つめ合う二人。巡礼のように続く依頼の道は、まだ終わらない。

だが、この日、祈りは確かに形を取り、次の巡りへと繋がったのだった。

第十三陣「封じられた声の祈り」をお読みいただき、ありがとうございました。


今回の物語では、透牙が“継ぎ手”としての役割を初めて依頼の現場で果たし、結とともに影に名を与える過程を描きました。語られなかった祈り、手放された記憶、そして依頼主の静かな赦し――それらすべてが、静かに光となり、技と祈りの重なりとして結実する瞬間を丁寧に紡ぎました。


透牙の歩みは、ただ技を行使するだけではなく、記憶を受け取り、結び直し、誰かの心を照らす灯としての意味を持っています。影澄と澄影の記憶を継ぐことで、彼の陰陽師としての軌跡はより深く、そして静かに確かなものとなりました。


次なる第十四陣では、透牙と結が、より複雑な祈りの絡まりに挑みます。語られぬ記憶と、再構築を待つ祈りの声が交錯する、新たな依頼の地での試練が待ち受けています。


読者の皆さまに、祈りの余韻と、静かに灯る記憶の光が届きますように。

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